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isc(裏)生徒会
守る力
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【千星 那由多】
「巽!!晴生!!」
二人にリングが噛みつくようにはめられた途端、二人の身体が電流で波打った。
俺はそれを両腕を掲げながら見ていることしかできない。
巽たちはどうにかしてそれに耐えたようだったが、その顔は酷く苦痛に歪んでいた。
「ダレがホイホイ離すカヨ。
オレは釣った魚には餌をヤル主義なんでネ」
そう言ったディータは、俺の腰部分にピアノ線を投げつけた。
それがぐるりと絡むと、次は腰が軽く浮いた状態で巽と晴生に剣を構えるような体勢になる。
俺はその行動に血の気が引いていくのがわかった。
ディータが足を振り降ろすと、俺もそれと同じように剣を振り降ろすように両腕が動く。
「…おい…!や…」
言葉を続けようとした瞬間、操られ自由が無くなった身体は、巽と晴生に斬りかかるように飛びつく。
晴生にはめられたリングは両腕で足の自由がまだきいたのか、それをうまく避け俺から少し距離を取った。
しかし巽は足にはめられたリングの電流に身体をふらつかせながらそれをなんとか避けるだけの形になる。
攻撃しているのが仲間だなんて考えたくなかった。
避けている巽の顔は歪みを増していき、顔や足をばたつかせて抵抗することしかできない俺は、
目の前で意思無く振られていく剣から目を逸らすことができない。
こいつはどこまで人を玩具にすれば気が済むんだ。
「やめろ!!!!…俺の…腕章取ったらおしまいだろーが!!なんでこんなことすんだよ!!」
もちろん腕章が取られてしまえばこの闘いは負けだ。
それは絶対に嫌だったけれど、巽や晴生を狙うぐらいなら、腕章が取られて負けてしまった方が数万倍よかった。
「ただ腕章奪うダケナンテおもしろくネーダロ?
人形は自分の意思ナンテ持たなくてイーンダよ。
何もカンガエずにオレに操られてろ、バーカ」
ディータの声は酷く冷たかった。
どうにかしてこの状況を変えなければと焦りと困惑で崩れた表情で奥歯を噛みしめた。
-----------------------------------------------------------------------
【三木 柚子由】
「やはり、まずい展開になりましたね。…考えなかった訳では無いのですが。」
千星君が敵に操られ、日当瀬君達を攻撃し始めたときに左千夫様が小さく呟いた。
私達は観客席の一角で立って彼らの試合を見ている。
ここからだと、実物はかなり小さく見えにくいが、他方から映し出された映像がプロジェクターから
仮想スクリーンに映されているので手に取る様に戦況は分かる。
どうやら、イデアアプリと同じようにこの空間では色々なことが出来る様で、左千夫さまは手元にノート位の大きさのスクリーンを作り出していた。
「ナユタの腕章を取らレテこちらが負け、では、無いノカ?」
イデアちゃんが、左千夫様に話しかける。
実は私もそう思ったけど、まだ、戦闘は続いている。
「それが、このプランダーバッチのいいところでもあり、やっかいなところでもあるんですよ。
晴生君達は、基本リーダと言われたメンバーのバッチ、即ち腕章を取りに行く作戦でしょう。
僕達は巽君を除くと回復を出来る仲間が居ませんからね、一戦一戦を長引かせると不利になる。
何戦も行っても怪我が少ない方がいい。
そして、……僕のチームは僕以外はこれは単純な腕章の奪い合いだと思っている。」
「違うノカ?」
「全く違いますよ。
今、この場面を見て確信しました。
そもそも、九鬼がそんな、生易しいルールを考える筈が有りませんしね。」
左千夫様は少し難しそうな顔で眉を顰めていた。
「腕章さえ奪わなければ何をしてもいいんですよ、嬲っても、殺しても…。
そういうゲームです、これは。
既に、もう、那由多君は自分の意思で敵に腕章を渡すことはできません。
プライドが高い巽君や晴生君が自分から腕章を渡すとも思い難い…。」
左千夫さまの言葉を聞いて、はっとした。
私も、本当にただ敵の腕章を奪えばいいのだと思っていた。
でも、その中には色々駆け引きがある様だ。
そういう意味では私達は甘い、と、左千夫さまは続けた。
「しかし、まだ、負けた訳では有りませんからね、一応晴生君に指示は出しておきますが。」
「腕章を捨てて、負けを認めロと、カ?ナユタが捕まっている状態で聞くと思うカ?」
「まぁ、無理でしょうね。」
左千夫様はいつもの笑みを零していたけど、私はちょっと冷静ではいられなかった。
そういって、左千夫様は日当瀬君の視界が入るときに自分の喉元を三度撫でた。
勝利よりも身の安全を優先してほしいということ。
目の前では千星君が操られた状態で巽君や晴生君に攻撃を繰り返している。
操られている千星君も体力を消耗するのか息が上がり、制止の言葉を繰り返している。
日当瀬君や天夜君も何とか避けては居るけれど、徐々に体力は削られていっているようだ。
これが、プランダーバッチ。
この試合が終われば次は私もきっと戦うことになるだろう。
急に不安に襲われた私はぎゅっと、胸の前でロザリオを握り締める。
そうすると、左千夫様が直ぐに頭を数度撫でてくれた。
「柚子由は無理をする必要は有りませんからね。」
優しく告げられて、初めて自分の弱さが情けなくなった。
でも、決めたんだ、私は左千夫様を守りたいって。
「大丈夫です………。」
そう告げたときに、どうやら、日当瀬君からも、返答と、言うかこっちに向かって空気砲が飛んできた。
左千夫様はアプリを展開させ槍で弾くように私達を守ると同時に苦笑を零した。
‘ふざけんなバカヤロウ’と、でも、言いたそうな日当瀬君の表情がいつも通り過ぎて少し肩の力が抜けてしまった。
そうだよね、今までだって皆で頑張ってきたんだ、今回だって何か打開策が有るはず、私は静かに見守ることにした。
けれど、これは思わぬ、結末になることになった……。
-----------------------------------------------------------------------
【九鬼】
「またディータはめんどくさい事するネ」
ボクが独り言のように呟いても隣にいるエイドスは頷きもしなかった。
相変わらず闘いよりもあちらのヒューマノイドが気になっているようだ。
それを見てため息を吐いた後、ローレンツがボクを見てどうしてですか、と問いかける。
「んーボクならもうアイツ…千星那由多だっけ?殺っちゃってるヨ」
そう言って笑いかけるとローレンツも控えめに笑った。
それにしても、千星那由多はなぜ(裏)生徒会に入ったのかというようなめちゃくちゃな人材だ。
あの三人になれば何故かわからないが少しはまともに動けるようだが、結局足を引っ張っているのが彼なのは明白だった。
それに、彼が操られているのを見るとまるでお遊戯会のようだ。
そう考えてしまうと笑えてきてしまってボクは口元を抑えながら喉元で笑った。
ふいに日当瀬が左千夫クンの方へと空気砲を撃ったのが見えた。
何か彼にアドバイスでもしたのだろうか。
ま、この状況から見てそれをアイツは断ったという感じか。
それをチラリと目で追った後、ボクはプロジェクターへと再び目を戻した。
数十分は続いただろうか。
相手側はだいぶ体力を削られているようで、画面からも疲労感が伝わってきた。
天夜と日当瀬はフィデリオのリングの威力であれだけ動けているのは見直してやったが、それももう時間の問題か。
寧ろそれよりも千星那由多の方が、操られる体力も限界で無気力と言った表情で二人よりもかなり疲れている様子だった。
『あーなんだよツマンネー』
ふいにディータの声がプロジェクターから響く。
ディータはその言葉の後、よろよろの千星那由多をピアノ線から離し、少し遠い場所へと放り投げた。
-----------------------------------------------------------------------
【日当瀬 晴生】
駄目だ、全く近寄れねぇ!!
本体のディータを狙おうとしても、千星さんを盾にしやがってうまくいかねぇ。
しかも、フィデリオのリングで右手が痺れてうまく狙いも定まらねぇ。
天夜の方は厄介なことに足だ。
これでは、持ち前の起動力がかなり削られることになる。
俺達は千星さんの攻撃を避けながら策を考える。
ディータは人を動かし慣れているのか、隙の無い変則的な動きで俺達を攻めたてるのでパターンも掴めない。
同志討ちをさせられている千星さんの体力も、精神力も限界だろう。
俺達も、先ほどから完全に避けるのが難しくなってきて、掠り傷が増えてきた。
そんな時、会長か指示が来た。
‘ゲームを捨てろ’と。
腕章を俺達が剥がして捨てることは可能だ。
しかし、そんなことをしても千星さんは助からない。
きっと、糸に繋がれたまま嬲られるのが目に見えていた。
それを実行しろと言う、会長に俺が従えるはずもない。
つーか、むかつくこと言いやがって…!!
俺は会長に向かって空気砲を放つ。
勿論ヤツなら、これくらいなんともおもわねぇだろうが。
落ち付け、なにか。何か無いのか…。
しかし、そのまま無情にも時間は過ぎた。
「あーなんだよツマンネー」
しかし、ディータのその一言で、この同志討ちに終止符が打たれた。
それも、悪い方向に。
奴は、もう、一歩も動けない千星さんを放り投げたのだ。
「千星さん!!」
俺と、天夜は急いで千星さんの元に走った。
そこにしゃがみこみ、うつ伏せになっている彼を天夜が起き上がらせた。
どうやら、体力は消耗しているが命には別状なさそうだ。
その時後ろから不穏なオーラが発せられた。
-----------------------------------------------------------------------
【千星 那由多】
ピアノ線から投げ捨てられるように地面へ落ちた俺は、そのまま蹲るように身を縮めた。
力なく握られた剣に纏っていた炎は、俺の体力を象徴するかのように消えてなくなっていた。
咳き込むように息をしていると、二人が駆け寄ってくるのがわかった。
解放されたはいいが、今すぐ立て直せる状態でもない。
巽に身体を起こされ、薄らと目を開いた瞬間に、晴生の向こう側で何か大きなものが見えた。
それは馬鹿でかい岩だった。
どうやらディータは闘技場に所々突出している大きな岩をピアノ線で抉り取ってきたようだった。
それに気づいた巽と晴生は、俺を再び地面へと寝かせるとその岩へと立ち向かう様に走って行ってしまう。
「っ…はぁっ…いく、な…!」
俺を守るために引きつけに行ったんだろう。
あんなデカイ岩、リングを付けられた二人にどうにかできるのだろうか。
引き止める言葉は二人に届くことはなかった。
「何アンタら!二人一緒に仲良く潰れるたいナラ、そうしてヤルヨ!」
ディータは勢いを付けるために岩を後ろへ振り切った。
「っ…やめろ…」
必死で身体を起こすが、極度の疲労で身体が震え、立ち上がることができない。
剣を握った手が酷く重い。
あの岩は崩せなかったとしても、なんとか、なんとかあの二人を守りたい。
ディータが振り切った岩を二人へと思い切り投げつける。
瞬間、二人に電気が走ったのが分かった。
青白い閃光が二人の身体を包みこんだが、それでも二人は引かずに立ち向かう。
「……やめろ……」
俺は震える声を吐き、眉を顰める。
なんで、自分はこんなところで寝転んでんだ。
那由多、しっかりしろ。
このまま見てるだけなんて、そんなの嫌だろ。
二人を、守りたいんだろ…!!
ふいに身体が軽くなった気がした。
身体の血液が高速で巡って、熱くなっていく、この感じ。
自分の中でもうそれは当たり前のことのように感じとられた。
いつも、力を願う時に降りてくる、違う自分のような意識。
特殊能力。
力が入らないはずの身体は立ち上がり、手はしっかりと剣を掲げていた。
そのまま二人の背中に向かってピタリと止まる。
二人を守る力。
即ち防御、今はそれしか方法がない。
防御するなら…盾。
………何物も突き破れない、盾が欲しい!!
掲げた剣は巽と晴生の背中に向かって字を綴っている。
紫に光る線が三本、それは「土」という文字だった。
それが砂のようなものになり地面へと落ちると、二人の元へ地面を抉る様に何かが高速で這って行く。
ふいに剣を握っていた力が無くなり、再び腕が脱力すると剣も音を立てて手から離れ落ちた。
そして、俺が脱力したまま見た光景は、巽と晴生を包みこむように地面から突出した壁の盾。
俺が求めた二人を守る力だった。
-----------------------------------------------------------------------
【日当瀬 晴生】
ディータが岩を持ち上げていた、正直今の状況であれをどうにか出来る自信は無い。
それは、天夜も同じだったようで俺と同じく、走り出す。
こんな時だけ気が合うなんて、ほんといけすかねぇ奴だ。
せめて、千星さんだけは守りたい。
これさえ凌げば、ギブアップを宣告する余裕が出来るかもしれない。
腕章は取られてしまうが、これ以上傷つくことは無いだろう。
情けねぇが、実力不足だったな。
それでも、勝負を捨てる気はさらさらない。
ディータの岩に向かって走る途中、リングの電圧が上がった。
「「ぐぅうう―――――!!!!!」」
痛みと一緒に声にならない声が上がる。
天夜も、俺と同じで一瞬手足が怯み、嫌な汗が出て、直ぐにでも地面に平伏したくなるがそれを寸でのところで耐える。
そして、この一撃に全てを掛けるようにと俺は震える手で岩に向かって銃を構えた。
勿論、一発で壊せるなんて思っちゃいねぇ。
壊れるまで、何発でも撃ち込んでやる覚悟だ。
トリガーに指を掛けたその時だった。
俺達の下の地中をものすごい速さで何かが移動した。
それは、俺達からの攻撃をも遮る様に前から突出したが、そのまま俺達を包み込むような形で覆いかぶさってきた。
ディータが勢いよく投げた岩がこの防御壁に当たって砕けていく。
こんな、器用なことが出来るのは千星さんしかいない。
そう思って彼の方を振り向くと、今まで横になっていた彼が立ちあがっていた。
「せんぼ――――」
矢張り彼は凄い。
俺達が死に物狂いで止めようとした一撃を、彼は一つの動作で止めてしまったのだ。
嬉しさの余り彼の名前を呼ぼうとしたその時。
俺のすぐ横を飛んでもないスピードで槍のように細く尖ったものが飛んで行った。
真っ直ぐに千星さんに向かって。
-----------------------------------------------------------------------
【千星 那由多】
うまく二人を守り切れたようだった。
俺は安堵と疲労で倒れてしまいそうになる身体を持ち直したその時だった。
何かがこちらへ飛んでくるのがぼやけた視界に映る。
それと共にディータの声が響いた。
「オマエほんとにウゼェよ!!その甘さ…身をもって後悔シナ!!」
尖った岩は俺が瞬きをする間にすでに目の前にあった。
避けることなんて今の俺には無理だ。
そのまま尖った岩が俺の右の腹を抉るように貫通したのを冷静に目で追っていた。
痛い、というよりも驚きで声さえ上がらないまま、視界が真っ赤に染まる。
全てがスローモーションだった。
ゆっくりと地面へと正面から倒れ、重い瞬きを数度繰り返す。
震える手で岩が貫通した部分に触れて、初めて痛覚を感じとった。
「―――――っ…ぐぁぁあああァァ!!!!」
今までの人生の中でこんな悲痛な叫びをあげたことがあっただろうか。
呼吸は引き攣り、肉、骨、内臓が抉られる感覚に身体が痙攣する。
岩は貫通していったが、生暖かい血は留まることなく一気に流れ出していく。
一気に思考が薄れていき、寒気が押し寄せてくる。
ああ、俺、死ぬかも。
「巽!!晴生!!」
二人にリングが噛みつくようにはめられた途端、二人の身体が電流で波打った。
俺はそれを両腕を掲げながら見ていることしかできない。
巽たちはどうにかしてそれに耐えたようだったが、その顔は酷く苦痛に歪んでいた。
「ダレがホイホイ離すカヨ。
オレは釣った魚には餌をヤル主義なんでネ」
そう言ったディータは、俺の腰部分にピアノ線を投げつけた。
それがぐるりと絡むと、次は腰が軽く浮いた状態で巽と晴生に剣を構えるような体勢になる。
俺はその行動に血の気が引いていくのがわかった。
ディータが足を振り降ろすと、俺もそれと同じように剣を振り降ろすように両腕が動く。
「…おい…!や…」
言葉を続けようとした瞬間、操られ自由が無くなった身体は、巽と晴生に斬りかかるように飛びつく。
晴生にはめられたリングは両腕で足の自由がまだきいたのか、それをうまく避け俺から少し距離を取った。
しかし巽は足にはめられたリングの電流に身体をふらつかせながらそれをなんとか避けるだけの形になる。
攻撃しているのが仲間だなんて考えたくなかった。
避けている巽の顔は歪みを増していき、顔や足をばたつかせて抵抗することしかできない俺は、
目の前で意思無く振られていく剣から目を逸らすことができない。
こいつはどこまで人を玩具にすれば気が済むんだ。
「やめろ!!!!…俺の…腕章取ったらおしまいだろーが!!なんでこんなことすんだよ!!」
もちろん腕章が取られてしまえばこの闘いは負けだ。
それは絶対に嫌だったけれど、巽や晴生を狙うぐらいなら、腕章が取られて負けてしまった方が数万倍よかった。
「ただ腕章奪うダケナンテおもしろくネーダロ?
人形は自分の意思ナンテ持たなくてイーンダよ。
何もカンガエずにオレに操られてろ、バーカ」
ディータの声は酷く冷たかった。
どうにかしてこの状況を変えなければと焦りと困惑で崩れた表情で奥歯を噛みしめた。
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【三木 柚子由】
「やはり、まずい展開になりましたね。…考えなかった訳では無いのですが。」
千星君が敵に操られ、日当瀬君達を攻撃し始めたときに左千夫様が小さく呟いた。
私達は観客席の一角で立って彼らの試合を見ている。
ここからだと、実物はかなり小さく見えにくいが、他方から映し出された映像がプロジェクターから
仮想スクリーンに映されているので手に取る様に戦況は分かる。
どうやら、イデアアプリと同じようにこの空間では色々なことが出来る様で、左千夫さまは手元にノート位の大きさのスクリーンを作り出していた。
「ナユタの腕章を取らレテこちらが負け、では、無いノカ?」
イデアちゃんが、左千夫様に話しかける。
実は私もそう思ったけど、まだ、戦闘は続いている。
「それが、このプランダーバッチのいいところでもあり、やっかいなところでもあるんですよ。
晴生君達は、基本リーダと言われたメンバーのバッチ、即ち腕章を取りに行く作戦でしょう。
僕達は巽君を除くと回復を出来る仲間が居ませんからね、一戦一戦を長引かせると不利になる。
何戦も行っても怪我が少ない方がいい。
そして、……僕のチームは僕以外はこれは単純な腕章の奪い合いだと思っている。」
「違うノカ?」
「全く違いますよ。
今、この場面を見て確信しました。
そもそも、九鬼がそんな、生易しいルールを考える筈が有りませんしね。」
左千夫様は少し難しそうな顔で眉を顰めていた。
「腕章さえ奪わなければ何をしてもいいんですよ、嬲っても、殺しても…。
そういうゲームです、これは。
既に、もう、那由多君は自分の意思で敵に腕章を渡すことはできません。
プライドが高い巽君や晴生君が自分から腕章を渡すとも思い難い…。」
左千夫さまの言葉を聞いて、はっとした。
私も、本当にただ敵の腕章を奪えばいいのだと思っていた。
でも、その中には色々駆け引きがある様だ。
そういう意味では私達は甘い、と、左千夫さまは続けた。
「しかし、まだ、負けた訳では有りませんからね、一応晴生君に指示は出しておきますが。」
「腕章を捨てて、負けを認めロと、カ?ナユタが捕まっている状態で聞くと思うカ?」
「まぁ、無理でしょうね。」
左千夫様はいつもの笑みを零していたけど、私はちょっと冷静ではいられなかった。
そういって、左千夫様は日当瀬君の視界が入るときに自分の喉元を三度撫でた。
勝利よりも身の安全を優先してほしいということ。
目の前では千星君が操られた状態で巽君や晴生君に攻撃を繰り返している。
操られている千星君も体力を消耗するのか息が上がり、制止の言葉を繰り返している。
日当瀬君や天夜君も何とか避けては居るけれど、徐々に体力は削られていっているようだ。
これが、プランダーバッチ。
この試合が終われば次は私もきっと戦うことになるだろう。
急に不安に襲われた私はぎゅっと、胸の前でロザリオを握り締める。
そうすると、左千夫様が直ぐに頭を数度撫でてくれた。
「柚子由は無理をする必要は有りませんからね。」
優しく告げられて、初めて自分の弱さが情けなくなった。
でも、決めたんだ、私は左千夫様を守りたいって。
「大丈夫です………。」
そう告げたときに、どうやら、日当瀬君からも、返答と、言うかこっちに向かって空気砲が飛んできた。
左千夫様はアプリを展開させ槍で弾くように私達を守ると同時に苦笑を零した。
‘ふざけんなバカヤロウ’と、でも、言いたそうな日当瀬君の表情がいつも通り過ぎて少し肩の力が抜けてしまった。
そうだよね、今までだって皆で頑張ってきたんだ、今回だって何か打開策が有るはず、私は静かに見守ることにした。
けれど、これは思わぬ、結末になることになった……。
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【九鬼】
「またディータはめんどくさい事するネ」
ボクが独り言のように呟いても隣にいるエイドスは頷きもしなかった。
相変わらず闘いよりもあちらのヒューマノイドが気になっているようだ。
それを見てため息を吐いた後、ローレンツがボクを見てどうしてですか、と問いかける。
「んーボクならもうアイツ…千星那由多だっけ?殺っちゃってるヨ」
そう言って笑いかけるとローレンツも控えめに笑った。
それにしても、千星那由多はなぜ(裏)生徒会に入ったのかというようなめちゃくちゃな人材だ。
あの三人になれば何故かわからないが少しはまともに動けるようだが、結局足を引っ張っているのが彼なのは明白だった。
それに、彼が操られているのを見るとまるでお遊戯会のようだ。
そう考えてしまうと笑えてきてしまってボクは口元を抑えながら喉元で笑った。
ふいに日当瀬が左千夫クンの方へと空気砲を撃ったのが見えた。
何か彼にアドバイスでもしたのだろうか。
ま、この状況から見てそれをアイツは断ったという感じか。
それをチラリと目で追った後、ボクはプロジェクターへと再び目を戻した。
数十分は続いただろうか。
相手側はだいぶ体力を削られているようで、画面からも疲労感が伝わってきた。
天夜と日当瀬はフィデリオのリングの威力であれだけ動けているのは見直してやったが、それももう時間の問題か。
寧ろそれよりも千星那由多の方が、操られる体力も限界で無気力と言った表情で二人よりもかなり疲れている様子だった。
『あーなんだよツマンネー』
ふいにディータの声がプロジェクターから響く。
ディータはその言葉の後、よろよろの千星那由多をピアノ線から離し、少し遠い場所へと放り投げた。
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【日当瀬 晴生】
駄目だ、全く近寄れねぇ!!
本体のディータを狙おうとしても、千星さんを盾にしやがってうまくいかねぇ。
しかも、フィデリオのリングで右手が痺れてうまく狙いも定まらねぇ。
天夜の方は厄介なことに足だ。
これでは、持ち前の起動力がかなり削られることになる。
俺達は千星さんの攻撃を避けながら策を考える。
ディータは人を動かし慣れているのか、隙の無い変則的な動きで俺達を攻めたてるのでパターンも掴めない。
同志討ちをさせられている千星さんの体力も、精神力も限界だろう。
俺達も、先ほどから完全に避けるのが難しくなってきて、掠り傷が増えてきた。
そんな時、会長か指示が来た。
‘ゲームを捨てろ’と。
腕章を俺達が剥がして捨てることは可能だ。
しかし、そんなことをしても千星さんは助からない。
きっと、糸に繋がれたまま嬲られるのが目に見えていた。
それを実行しろと言う、会長に俺が従えるはずもない。
つーか、むかつくこと言いやがって…!!
俺は会長に向かって空気砲を放つ。
勿論ヤツなら、これくらいなんともおもわねぇだろうが。
落ち付け、なにか。何か無いのか…。
しかし、そのまま無情にも時間は過ぎた。
「あーなんだよツマンネー」
しかし、ディータのその一言で、この同志討ちに終止符が打たれた。
それも、悪い方向に。
奴は、もう、一歩も動けない千星さんを放り投げたのだ。
「千星さん!!」
俺と、天夜は急いで千星さんの元に走った。
そこにしゃがみこみ、うつ伏せになっている彼を天夜が起き上がらせた。
どうやら、体力は消耗しているが命には別状なさそうだ。
その時後ろから不穏なオーラが発せられた。
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【千星 那由多】
ピアノ線から投げ捨てられるように地面へ落ちた俺は、そのまま蹲るように身を縮めた。
力なく握られた剣に纏っていた炎は、俺の体力を象徴するかのように消えてなくなっていた。
咳き込むように息をしていると、二人が駆け寄ってくるのがわかった。
解放されたはいいが、今すぐ立て直せる状態でもない。
巽に身体を起こされ、薄らと目を開いた瞬間に、晴生の向こう側で何か大きなものが見えた。
それは馬鹿でかい岩だった。
どうやらディータは闘技場に所々突出している大きな岩をピアノ線で抉り取ってきたようだった。
それに気づいた巽と晴生は、俺を再び地面へと寝かせるとその岩へと立ち向かう様に走って行ってしまう。
「っ…はぁっ…いく、な…!」
俺を守るために引きつけに行ったんだろう。
あんなデカイ岩、リングを付けられた二人にどうにかできるのだろうか。
引き止める言葉は二人に届くことはなかった。
「何アンタら!二人一緒に仲良く潰れるたいナラ、そうしてヤルヨ!」
ディータは勢いを付けるために岩を後ろへ振り切った。
「っ…やめろ…」
必死で身体を起こすが、極度の疲労で身体が震え、立ち上がることができない。
剣を握った手が酷く重い。
あの岩は崩せなかったとしても、なんとか、なんとかあの二人を守りたい。
ディータが振り切った岩を二人へと思い切り投げつける。
瞬間、二人に電気が走ったのが分かった。
青白い閃光が二人の身体を包みこんだが、それでも二人は引かずに立ち向かう。
「……やめろ……」
俺は震える声を吐き、眉を顰める。
なんで、自分はこんなところで寝転んでんだ。
那由多、しっかりしろ。
このまま見てるだけなんて、そんなの嫌だろ。
二人を、守りたいんだろ…!!
ふいに身体が軽くなった気がした。
身体の血液が高速で巡って、熱くなっていく、この感じ。
自分の中でもうそれは当たり前のことのように感じとられた。
いつも、力を願う時に降りてくる、違う自分のような意識。
特殊能力。
力が入らないはずの身体は立ち上がり、手はしっかりと剣を掲げていた。
そのまま二人の背中に向かってピタリと止まる。
二人を守る力。
即ち防御、今はそれしか方法がない。
防御するなら…盾。
………何物も突き破れない、盾が欲しい!!
掲げた剣は巽と晴生の背中に向かって字を綴っている。
紫に光る線が三本、それは「土」という文字だった。
それが砂のようなものになり地面へと落ちると、二人の元へ地面を抉る様に何かが高速で這って行く。
ふいに剣を握っていた力が無くなり、再び腕が脱力すると剣も音を立てて手から離れ落ちた。
そして、俺が脱力したまま見た光景は、巽と晴生を包みこむように地面から突出した壁の盾。
俺が求めた二人を守る力だった。
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【日当瀬 晴生】
ディータが岩を持ち上げていた、正直今の状況であれをどうにか出来る自信は無い。
それは、天夜も同じだったようで俺と同じく、走り出す。
こんな時だけ気が合うなんて、ほんといけすかねぇ奴だ。
せめて、千星さんだけは守りたい。
これさえ凌げば、ギブアップを宣告する余裕が出来るかもしれない。
腕章は取られてしまうが、これ以上傷つくことは無いだろう。
情けねぇが、実力不足だったな。
それでも、勝負を捨てる気はさらさらない。
ディータの岩に向かって走る途中、リングの電圧が上がった。
「「ぐぅうう―――――!!!!!」」
痛みと一緒に声にならない声が上がる。
天夜も、俺と同じで一瞬手足が怯み、嫌な汗が出て、直ぐにでも地面に平伏したくなるがそれを寸でのところで耐える。
そして、この一撃に全てを掛けるようにと俺は震える手で岩に向かって銃を構えた。
勿論、一発で壊せるなんて思っちゃいねぇ。
壊れるまで、何発でも撃ち込んでやる覚悟だ。
トリガーに指を掛けたその時だった。
俺達の下の地中をものすごい速さで何かが移動した。
それは、俺達からの攻撃をも遮る様に前から突出したが、そのまま俺達を包み込むような形で覆いかぶさってきた。
ディータが勢いよく投げた岩がこの防御壁に当たって砕けていく。
こんな、器用なことが出来るのは千星さんしかいない。
そう思って彼の方を振り向くと、今まで横になっていた彼が立ちあがっていた。
「せんぼ――――」
矢張り彼は凄い。
俺達が死に物狂いで止めようとした一撃を、彼は一つの動作で止めてしまったのだ。
嬉しさの余り彼の名前を呼ぼうとしたその時。
俺のすぐ横を飛んでもないスピードで槍のように細く尖ったものが飛んで行った。
真っ直ぐに千星さんに向かって。
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【千星 那由多】
うまく二人を守り切れたようだった。
俺は安堵と疲労で倒れてしまいそうになる身体を持ち直したその時だった。
何かがこちらへ飛んでくるのがぼやけた視界に映る。
それと共にディータの声が響いた。
「オマエほんとにウゼェよ!!その甘さ…身をもって後悔シナ!!」
尖った岩は俺が瞬きをする間にすでに目の前にあった。
避けることなんて今の俺には無理だ。
そのまま尖った岩が俺の右の腹を抉るように貫通したのを冷静に目で追っていた。
痛い、というよりも驚きで声さえ上がらないまま、視界が真っ赤に染まる。
全てがスローモーションだった。
ゆっくりと地面へと正面から倒れ、重い瞬きを数度繰り返す。
震える手で岩が貫通した部分に触れて、初めて痛覚を感じとった。
「―――――っ…ぐぁぁあああァァ!!!!」
今までの人生の中でこんな悲痛な叫びをあげたことがあっただろうか。
呼吸は引き攣り、肉、骨、内臓が抉られる感覚に身体が痙攣する。
岩は貫通していったが、生暖かい血は留まることなく一気に流れ出していく。
一気に思考が薄れていき、寒気が押し寄せてくる。
ああ、俺、死ぬかも。
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