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isc(裏)生徒会
甘さという凶器
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【ディータ(回想)】
「地区聖戦には参加しない」
シッターが開口一番にそう言い放った。
「はぁ!?」
イスの上にあぐらをかいて座っていたオレは、思わずその言葉にイスから転げ落ちそうになった。
もうすぐこの地域では地区聖戦がある。
そのために(裏)生徒会に引き抜かれてからずっとしごかれてきたのに、参加しないなんてたまったもんじゃなかった。
「どういうコトだ…?」
ローレンツが眉を顰めながらシッターへと呟くように問いかけた。
相変わらずコイツはボソボソと喋るのでイライラする。
「メリットがないからだ。もうすでに他校には連絡も取っているし容認もしてもらっている」
「何故そんな勝手な真似をするのですか…」
「それは謝る。けど、相談した所でローレンツ、君は承諾してくれるか?」
二人の間に不穏な空気が流れた。
オレとローレンツも仲が悪いが、この二人もあまり仲がいいとは言えない関係だった。
どちらかと言うとシッターの方がオレは好きだ。
優しいし、気がきくし、一緒にいて楽しい。
シッターが陽ならローレンツは陰、という雰囲気だろう。
どうせ茶々いれるとローレンツにキレられるからと、オレは机の上に顎を乗せて、二人のことを眺めていた。
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【フリーデル(回想)】
「私もシッターに賛成かな。
ほら、まだ、フィデリオもディータも入ったばっかだし。
そんなのに参加しなくても、ここの学校進学率も、就職率も高いしね。
多数決でもきっと、ローレンツの負けだよ?」
ディータはなんて言うか分からなかったけど、きっとフィデリオは賛成してくれる。
そう思って私は不穏な空気を取りはらうようにシッターの腕に抱きついた。
「……わかりました。その代わり今後一切私はこの生徒会に関与しませんので。ご了承願います。」
「ああ、構わないよ。(裏)生徒会の会長、副会長は元から相容れぬ存在だ。
悪かったな、地区聖戦でせっかく出てきてもらったのに。」
シッターがそう告げると、早々にローレンツが立ち去った。
この二人はほんと相容れない。
会長と副会長だから仕方ないんだろうけど、もうちょっと仲良くてもいいと思う。
地区聖戦は参加しないと言っても強制参加なので、私達は他校と同盟を結ぶことにした。
お互いにお互いを干渉しないと言う内容の同盟で、それをシッターが地区内全ての学校と結んできたみたい。
たまにこの人の行動力には度肝を抜かれてしまう。
地区聖戦は各自持ち点があり、その合計ポイントで争う競技だ。
なので、全く戦闘に参加しなければプラスマイナスゼロで最下位になることもないし、多分平均の順位くらいにはいることが出来る。
そして、地区聖戦が始まった。
私たちは参加していることになっていたが他校との抗争は無く、毎日(裏)生徒会の通常業務をこなしていた。
しかし、それは長くは続かなかった。
それは地区聖戦が終盤に差し迫ったある日、同盟を結んだうちの一番仲が良かった一校から連絡があった。
『仲間が地区聖戦で重傷を負ったから助けてほしい』と。
シッターの特殊能力は回復。私もその力を分けて貰ってるんだけど、彼には及ばない。
そして、彼は助けを求める相手を見離したりしない。
その甘さが間違いだった。
私とシッター、ディータ、フィデリオは大至急その学校に向かった。
けれど、それは罠だった。
待ち構えていたのは同盟を結んだはずの全学校。
私たちは全ての学校に囲まれてしまった。
「どういうつもりだ……。」
「は!どういうつもりもねーよ。
お前らの点が欲しくて呼んだんだ。
なに平和主義押し通そうとしてんだよ!そんなの通るわけねぇだろ!!」
シッターの同盟はなんの効力も持たなかった。
当たり前だ、守る信念が無ければあんなもの只の紙切れに過ぎない。
そこからは酷い有様だった。
逃げることも出来ずに戦闘を申し込まれる。
私達が有していたポイントは減っていく一方だった。
私は元から戦う力は無い、フィデリオもディータもまだ今ほどは強くなかった。
何とか私達はそこから脱出することが出来たがその時に既に、私と、ディータ、フィデリオはポイントをすべて奪われていた。
「二手に分かれるぞ。お前たちはもう、ポイントが無い、深追いしてくることは無いだろう。」
「そんな!!それじゃあ、シッター、貴方が!!」
「俺は強い。大丈夫だ、ヤバかったらポイントなんてくれてやって早々に逃げるさ。ディータ、フィデリオ、後は頼んだぞ。」
シッターはいつもの笑顔でそう言って、私をフィデリオの方へと押しやった。
不安は有ったけど、地区聖戦の戦闘は敗北を宣言すればそこで終わることが出来る、それに加えて彼は強いきっと帰ってくる。
そう思いなおした私は、フィデリオとディータと逃げた。
直ぐに彼も帰ってくる。いつもの笑顔で、私達の会長は帰ってくると誰も信じて疑わなかった。
しかし、彼はそのまま帰らぬ人となった。
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【ディータ(回想)】
シッター、いや、俺達は甘かった。
その甘さが全てを狂わせた。
最初から、シッターに抗ってでも無理に地区聖戦に参加しておけばよかったんだ。
その後オレ達のポイントは全て無くなり、持ち点は0。もちろん地区聖戦は最下位。
不思議とシッターが死んだことも同盟を結んだ他校の奴らに裏切られたことも、悲しくも腹が立つとも思わなかった。
空虚。
それがぴったりの言葉だった。
「甘すぎたんですよ、シッターは」
ローレンツはこう言った。
いつもなら飛びついてでも張り倒していただろうが、できなかった。
オレも、そうだと思っていたから。
甘さが招いた死。そして、そのせいで裏切られ、みんなが傷ついた。
それから(裏)生徒会はガタガタになっていく。
政府からの恩恵もなくなり、オースタラ高校の治安も悪くなる一方で、オレ達はただ(裏)生徒会という名前だけの薄っぺらい存在になった。
でも誰も立て直そうと動き出す奴は一人もいなかった。
フリーデルとフィデリオもずっと元気がない。
ローレンツはシッターのことなんかまったく気にも止めていない。
そしてオレも、そんなみんなや今のオースタラ高校の現状を見ても、何もすることができなかった。
だけど、そんな時に彼が現れたんだ。
「(裏)生徒会、立ち直らせたい?」
銀色の髪、後ろで結んだ細い三つ編み、両の口端を上げて笑った彼の目は透き通った銀色。
彼の名は……九鬼。
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【フリーデル(回想)】
「(裏)生徒会、立ち直らせたい?」
それはこの学校の生徒ではなかった。
銀色の髪を後ろで結った男は愛輝凪からの留学生であった。
それは表上の名目で有ったが、彼はどうやってか知らないが、私達(裏)生徒会の存在を探し当て、今私達の目の前にいる。
立ち直せる?
政府からの恩恵も切れ、地区聖戦も最下位。
しかも、過去最悪のゼロ点と言う成績で。
立ち直る筈が無い。
その時は私達は誰も何も言わなかった。
彼に(裏)生徒会が見つかったことすらどうでもよかったんだ。
何も喋らず俯く私達を余所に、彼は私達のヒューマノイドであるエイドスと何か話し合っていた。
それから数日経ったある日。
一つの変革が訪れた。
私達の地区で暴れていた他校の不良が大人しくなった。
そして、その次の日から地区内の各校から(裏)生徒会の会長たちが次々に謝罪に訪れた。
しかも、その容姿はそろってボッコボコだった。
私達は目を瞠るばかりで、謝罪をされるまま受け入れる。
資金援助や破った場合の罰則がある友好条約を結んで帰る学校も居た。
どうなってるのか分からずに三人顔を見合わせる日々が続いたところで、また、彼が現れた。
私達を罠にはめた学校の生徒会長の頭を掴み、ボロボロのその男を無残にも引きずって。
「これで、全員カナ?」
そう言って、私達と初めて出会った時の様に彼は微笑んだ。
その笑顔はあまりにも、無邪気で、そして残酷だった。
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【ディータ(回想)】
そうしてオレ達、オースタラ高校の(裏)生徒会は立ち直っていった。
高校の治安も元に戻り、他校の侵入も無くなっていくと、オレ達の士気も自ずと上がっていった。
(裏)生徒会自体に愛着が無さそうなローレンツでさえ、九鬼のことを尊敬し始め彼の言うことならなんでも聞いた。
フィデリオとフリーデルも次第に元気になっていった。
ただ、フリーデルは、シッターがいなくなったことで少し変わってしまったけれど。
シッターと九鬼はどこか似ているけど全然違う。
九鬼には甘さがなかった。
無邪気さ故の残酷、容赦という言葉など彼にはないんだろう。
「なんで、俺達の高校を助けたんだ?」
オレは九鬼にそう聞いたことがあった。
「んー?叔父さんに頼まれただけだヨ?それ以外に理由なんてナイ」
彼はイタズラっぽく笑い、そう答えただけだった。
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【千星 那由多】
「と、まぁ正直そういう部分でクキはイケスカネーけど…。
って、それはマァイイな」
ディータは右腕の傷が完治したのか、服が破れているだけの腕を擦っている。
そして、ゆっくりと立ち上がるとグッと拳を握りそれを見つめた。
「それからオレは甘さなんてモンは捨てた。
よくワカッタだろ?甘さなんか持ってちゃ誰もスクエナイ。
寧ろそれで誰かが傷つき、死ヌ。
オマエのそれは、優しさでもナンデもネェ!ただの凶器だってコトをナ!!!」
ディータがキッと俺を睨みつけると、フリーデルの身体が動きだす。
ポーチから取り出されたメスが俺を目がけて飛んでくる。
急に飛んできたそれをギリギリ炎の剣で薙ぎ払うことが出来たが、薙ぎ払った瞬間にフリーデルは俺の真上から操り人形のごとくハサミで斬りかかってくる。
剣を構えて防ごうと咄嗟に自分の前に炎の剣をかざそうとしたが、躊躇った俺はそのまま横へ転がるように攻撃を避けることしかできなかった。
フリーデルのハサミが地面へと突き刺さる。
甘さはただの凶器、か。
そうなのかもしれない。
俺がそのせいでここで死んだり、負けたりしたら、きっと色んな人が悲しむ。
結果それが(裏)生徒会の負け、というものを生み出してしまうかもしれない。
頭の中でディータの言った言葉が反響し、俺は唇を噛みしめた。
「マァお前がそのままアマッチョロでいてクレルと助かるんだケドナ」
ディータがフリーデルに繋がったピアノ線をピンと張る仕草をしながら小さく笑った。
落ち着け那由多。
とにかく、二対一では劣勢。
先にフリーデルに繋がっているピアノ線を焼切るしか方法はないだろう。
だけど、彼女を傷つけないまま、その行動に移ることはできそうにない。
どうする…!
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【フリーデル】
そう、甘さなんていらない。
甘かったからこそ私はシッターを失った。
私がもっと副会長として確りしていればこんなことにはならなかった。
九鬼サマのお陰で学校を立て直すことができた。
感謝してもしきれない。
そんな九鬼サマが私達に、自分の愛輝凪高校も同じようなことになりそうだから手伝ってほしいと言われた。
彼の望みならなんでも聞くつもりだ。
ディータは九鬼サマの事を嫌ってるようだが感謝しているのは間違いないだろう。
そして、私はここに来てみて確信した。
九鬼サマの言っていることを、この目の前の男の甘さを。
こんな奴が(裏)生徒会に居る限りいい結果は望めない。
それどころか、九鬼サマの母校が私達のオースタラのようになってしまうことは目に見えていた。
そんなことは、私が許さない。
だいぶ息が上がってきた。
私の体力は人より劣る。
ディータが動かしているからといっても体への負担はかなりのものだ。
それでも、私は彼らとともに戦いたかった、副会長として。
「千星那由多。お前に恨みは無いが、消えて貰う……。
オマエは裏生徒会に居る資格などナイ!!!!
愛輝凪高校の全生徒を不幸にしたくなければ、サッサと消えろ!!」
私は無数のメスを投げつける、同時にディータが私を前進させる。
その間にピアノ線で一緒に引っ張られたハサミを手にし、メスのすぐ後を追うようにして千星那由多に襲いかかる。
タイムラグが少ないこの波状攻撃を防ぐすべは彼にはないだろう。
私を殴れるなら別だがな。
その時だった、横から風を巻き込み大きくなった、空気の塊、衝撃はが飛んできた。
「な……!!」
私は顔を青ざめさせたがディータにはそれが見えていたようで、宙に浮かせるようにして回避する。
すると、蹴り飛ばされたのであろう、フィデリオがディータの方へ飛んでいくのが見えた。
「千星さん!!お待たせしました!!!」
「那由多。今行く、そこで待ってて!」
彼らの仲間の声が少し離れたところから聞こえた。
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【日当瀬 晴生】
彼らの母校で起こったことはプロジェクターが有ったためこっちまで筒抜けだった。
「ったく、結局はあの、白髪頭に踊らされてるだけだろうが、人の生徒会にまで突っ込んでくんナよな。」
「うん。それ。同感」
珍しく天夜に同感されても腹が立たなかった。
そして、今日は厄日かと思うほど戦いの息が合う。
あの、ややこしいリングの武器を目の前にしても優勢に動いていた。
「次、決めるぜ。」
「うん、分かった。」
俺はフィデリオがこちらに放ってきたリングを六つ、全て軌道を読んで撃ち落としてやった。
それには流石に死んだようなあの目も驚いたように見開いていた。
それに乗じる様に天夜がクナイを投げつける。
しかし、これは陽動、奴はそれを鎖の部分で全て薙ぎ払うだろう。
それと同時に走り出した俺はフィデリオに銃を構える。
しかし、それは、この男では無く、狙いはフリーデルだった。
俺は銃口の形を一瞬にして変更させ、フィデリオを避け、半円を描くように飛んでいく風の弾を作りあげる。
俺の思惑通り、奴は一瞬それに気を取られた。
その瞬間、俺の陰に潜んでいた巽がフィデリオに蹴りを食らわす。
まともにくらった奴は、ディータの方へとぶっ飛んだ。
天夜は俺の横をすり抜ける様に、千星さんの元に向かう。
ったく、俺も駆けつけたいんだけどな。
仕方なく、俺は飛んで行ったフィデリオにまた、銃の先を向けた。
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【千星 那由多】
フリーデルの攻撃にたじろいだ瞬間だった。
横からすごい勢いの空気の塊が撃ち込まれて来たのが分かった。
それとディータのピアノ線に操られるように避けたフリーデルは宙に浮いたが、すぐに横へと滑る様に移動する。
何があったのかとディータへと視線を向けると、飛んできたフィデリオを受け止め、少し体勢が崩れたようだった。
すぐ後に巽と晴生の声が聞こえる。
俺はその声に小さく安堵の笑顔を零し、大きく頷いた。
「チッ…フィデリオ!!!何してんダヨ!!!」
「ごめん…」
「アイツら抑えとけヨ!折角コッチはな…!」
その後フィデリオを受け止めた手を突き放し、軽く揉めている、いや、ディータが一方的にフィデリオにブチ切れていた。
そこまでしなくていいのに…と戦闘中にも関わらず少しフィデリオが可愛そうになったが、
間もなく浮いていたフリーデルからメスが飛んできたのが分かった。
それを炎の剣を横へ振り、燃え溶かすとフリーデルは二人の方にもメスを投げて一喝した。
「何を揉めテイル!戦闘中ダゾ!」
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【フィデリオ】
どうやらディータはオースタラ高校であったできごとを話したようだった。
シッターのことで愛輝凪の人たちに同情でもかうつもりだったんだろうか。
敵に過去のこと話しても無意味なのに。
それに、そんなことを話したって、シッターは戻ってこない。
そもそもボクは無駄な話が苦手だ。
喋ったところで、本当の気持ちなんて伝わらないから。
闘いの中ではなおさらだ。
ここはおしゃべりの場なんじゃない。
ディータは少し先走りすぎる。
ボクより強いとは思うけど、そういった冷静さが欠けているのがずっと心配だった。
そんなことに気を逸らしていたせいか、ボクはアマヤに蹴りを食らわされディータの元へと吹っ飛んでしまう。
痛かったけど、ディータに受け止められて少しほっとした。
でも、彼はボクを怒った。
そうだよね、ボクが悪いんだ。
「ごめん…」
そんな言葉しか出てこなかったボクに、ますますディータは怒りの言葉を垂れ流していた。
悲しい言葉の次に、怒りの言葉がキライだ。
そうしているとフリーデルからメスが飛んできた、それがボクとディータを割り入るように突き刺さるとディータはハッとしたようだった。
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【天夜 巽】
どうやら敵はもめてくれているようだ。
俺達にとっては願っても無いチャンスだった。
あのフリーデルという女は厄介だ彼女が居たら何度傷を負わせばいいか分からなくなる。
とりあえず彼女を先に仕留めるべきだと、俺は彼女に向かって走りこんで行く。
調度、彼女の足が地に付くその瞬間を狙って俺はクナイを数度にわたり投げつけた。
「那由多!灯して!!!」
これで伝わるかは分からなかったけど、余り細かく言う余裕は無い。
那由多に視線を向ける。
ディータが俺のクナイに素早く反応したみたいだけど、きっとこれは止まらない。
フィデリオは日当瀬に任せておけば大丈夫そうだったので。
そのまま、俺はフリーデルに向かって疾走した。
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【千星 那由多】
三人が揉めている隙を狙って、巽がクナイを数本フリーデルへ投げつけたのが見えた。
「那由多!灯して!!!」
そう言われて俺は目を丸くする。
灯、す……!?
そのクナイはフリーデルに繋がれているピアノ線を目がけて飛んでいる。
灯すとは多分、炎の剣の火をクナイに灯せということだった。
そんなことできんのか!?
そう思っている間にディータは片方のピアノ線でクナイを弾こうと動いたのが見えた。
考えている暇はなさそうだ。……やるしかない…!
俺は通り過ぎようとするクナイへと向かって走り込んだ。
「させねーヨ!!!」
ディータのピアノ線がクナイを狙い、打ち落とす。
けれどその打ち落としたクナイのこちら側、つまりディータに見えにくい位置で潜んで飛んでいた一本はそのまま打ち落とされずに飛んで行く。
「…性根がワリーナ!!」
ディータは再びピアノ線をそのクナイへと向けた。
が、俺はそれよりも先に躊躇わずに残った一本めがけて炎の剣を振った。
業火がクナイを包み込み姿を消す。
やっぱり…無理か…!?
そう思った瞬間、小さな火の塊のようなものが業火の中から飛び出したのが見えた。
それは炎を灯した巽のクナイであった。
「よっしゃ!!」
そのクナイはフリーデルのピアノ線へと一直線に飛んで行く。
炎を纏っていれば、ディータのピアノ線ではどう足掻いても止めることはできない。
寧ろ下手に手を出すと再びピアノ線を焼き切ってしまうだろう。
「チッ!」
ディータはそのクナイを見て舌打ちをし、フリーデルの身体を操っているピアノ線をグッと自分の方へと引き寄せようとした。
しかし、それよりも素早いスピードでクナイはフリーデルの右足のピアノ線へと到達し、燃やす様に線を切り裂く。
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【天夜 巽】
思った通り那由多は俺のクナイにも炎を灯すことが出来た。
修業で得た新しいクナイの投げ方。
よく忍者アニメで出てくる、クナイの影にもう一本忍ばせる投げ方は功を奏したようだ。
那由多の炎がともった俺のクナイが一本のピアノ線を切り裂いた。
その部分がどこを操っているのか瞬時に判断する。
俺がフリーデルにそのまま斬りかかろうとするとすかさずディータがピアノ線を引っ張りフリーデルを逃がそうとする。
しかし、ピアノ線が切れている、右足が一歩遅れる。
逃げ遅れた足をクナイで引き裂く。
調度太ももの部分がバッサリと切れ、鮮血が滴り落ちた。
「っあああああああ!!!!」
女性の悲鳴を聞くのは趣味じゃないがこれも仕方がない。
那由多が攻撃できない以上俺がやるしかない。
余り傷つけたくなかったので、次は腕章をつけている腕を狙うことにしたがディータが引っ張って行ってしまった。
「逃がさない。那由多ッ!!」
俺はまた、クナイを構える。
連携攻撃ならディータのピアノ線を燃やすことは可能なはずだ。
しかし、俺の思惑は外れ、ディータはフリーデルを闘技場ギリギリへと放り投げてしまった。
「ああっ!!」
太ももの痛みに苦しむ彼女を見ながら僕と那由多は目を見開く。
「やっぱ、ジャマ。そこで、見てろよ、フリーデル。」
ディータは仲間に向かってそう冷たく言い放ち、フリーデルから糸を解いてしまった。
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【千星 那由多】
巽がフリーデルの足を切り裂いた。
場内に響く叫び声に耳をふさぎたくなったが、俺が彼女を抑えることができないから巽がこの行動をとったまでだった。
胸は痛んだが、その感情はその後の光景で全てかき消される。
ディータはフリーデルを放り投げた。
「!!!」
倒れたまま地面を滑っていくフリーデルは壁へとぶつかると、太ももを抑え痛みに顔を歪めていた。
そして、ディータの冷たく言い放った言葉に、俺は怒りを覚え、ディータに向けて叫んだ。
「お前……仲間になにしてんだよ!!」
ディータは俺の言葉に片眉をあげ、怪訝な顔を向けた。
「ハ?なに勘違いしてンノ?
あの女なんているだけ邪魔ナンダヨ。お前らの相手はオレ達で十分」
そう言った彼の目は酷く冷たかった。
一度どん底に突き落とされて、一緒に立ち上がって来た仲間なんじゃないのか?
どうしてそんなことが言えるんだ?
「それにアイツは回復できるシナ。別に心配する必要もネーヨ」
「おまえ…」
「つーか敵の心配なんてしてるバアイか?」
俺の視界の端で何かが光る。 そちらへ目を向けると、ピアノ線が俺の真横にまできているのがわかった。
「!!!」
俺は急いでそれを振り払うように剣を振うと、ピアノ線は再びディータの元へと戻った。
「ハッ、甘いコト言ってるからダヨ」
「……っ…」
ディータが臨戦態勢に入り、俺と巽も体勢を整えなおす。
するとその瞬間、今の空気を割り裂く様に、横からフリーデルの声が飛んできた。
「私はまだ…闘える…!」
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【日当瀬 晴生】
どうやら、敵が揉めている。
それをチラッと横目で見た瞬間、フィデリオが俺と距離を取る様にディータの元に戻った。
「フリーデル。今はセンネン。
ディータは人形がコワレルのすきじゃない。」
覇気のない表情のままフィデリオはフリーデルに言い放った。
人形?
自分の仲間に向かって良く言うぜ、んと、いけすかねぇ奴らだ。
フリーデルとか言う女はそれで納得したのか、苦虫を噛み潰したような表情で自分の怪我を治療し始めた。
…ん?さっきディータを治療していた時よりも光は儚く、傷の治りは遅いようだ。
俺も、そのまま千星さんの元に跳躍する。
「どうやら、あの女、自分の傷は治しにくいみたいですね。
でも、これで、三対二。一気に片付けましょう。」
そう告げると千星さんと天夜は深く頷いた。
千星さんを先頭にするフォーメーションに変形した時敵も動いた。
今まで後衛だった、ディータがフィデリオの前に出てきたのだ。
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【千星 那由多】
邪魔だの人形だの…仲間に向かって言うこととは思えない。
オースタラ高校での話を聞いて、少し同情してしまった気持ちを抑え込んだ。
晴生がこちらに合流する。
見た感じフリーデルの傷の治りは遅そうだ。
回復するまでにディータ…いや、フィデリオの腕章だけでも取ってしまいたい。
修行で身に付けたフォーメーションへと陣形を立て直す。
三対二、夏岡先輩達と練習してきた一緒のパターン。
だが、これは本当の実践。でも大丈夫だろう、今まで死ぬ気で訓練してきた。二人のことも信じれる。
後はどれだけ身に付けたものが出せるかだ。
俺が先頭に立つと、あちらはフィデリオが前に立つ形を取った。
何か策があるのかはわからないけどあいつのリングは厄介だから、余り前衛で対峙したくなかった。
炎の剣で薙ぎ払っても、あれは二つに割れ拘束される可能性がある。
「いくヨ」
フィデリオは死んだ魚の目でじっと見据えた後、いきなりリングを真正面から俺に投げつけた。
俺はそれから逃げるように横へと走り、巽は逆側へと走った。
だが、どちらの方向にも再びリングを投げつけてくる。
それは追いかけるように俺と巽についてきたが、どちらも晴生に撃ち落とされた。
フィデリオはそれでも諦めずに淡々と駆け回る俺達にリングを投げつけてくる。
なにか、妙な感じがした。
不意にディータの方へと視線を向けると、彼は動く気配がなかった。
それどころかピアノ線も手に持っている様子はない。
何を考えているんだ?
そのまま俺は奴らの後ろへと回る。
ディータは俺を目だけで追っていた。
何か、嫌な予感、それが的中したのはその瞬間だった。
彼が足を上へと蹴り上げる行動を取った途端に、俺の身体は上へと急上昇した。
晴生や巽達の姿が上から見下ろせる状態になり、剣を上に掲げ、ぶら下がるような体制で、俺は宙に浮いていた。
「ハーイ釣れたー」
ディータがこどもの様な笑い声で片足をあげ、膝を曲げながら足先をくるくる回す。
その行動と一緒に俺は振り回されるように横へぐるぐると旋回した。
どういうことだ?
ピアノ線を投げつけた仕草もなく、ましてや手に持ってもいない。
俺は剣を離せないように両手に絡みついているピアノ線の先を追った。
細く見えにくいそれが彼がクルクルとまわしている足元で微かに光ったのが見えた。
「ダレも手だけでしか使えナイとは言ってねーダロ?
オマエが水のカタマリの隠し技がアッタように、俺にだってそういうモンあると思わなかったワケ?
あーコッケイ、って言うの?こういうの」
そう言って宙に浮いた俺を見上げながら笑った。
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【天夜 巽】
おかしい。
戦いが単調過ぎる。
しかし、何かを仕掛ける隙も無かった。
那由多が前、日当瀬が後ろ。俺はその間に居る。
と、言っても俺は那由多の事だけを考えて動けば基本的にうまく行く。
フィデリオのリングの軌道は日当瀬が把握しているようだったので彼に任せる。
撃ち落とすことではなく、避けることに重点を置きながら逃げているその時だった。
那由多が急に宙へと舞った。
「な、那由多!!!」
「千星さん!!!」
俺と日当瀬の声がコロシアムに響き渡る。
すかさず、俺も日当瀬もピアノ線を切るためにクナイ、空気砲をピアノ線へと向けたが、切れた感触は無かった。
そのまま、ディータは俺と、日当瀬に対峙するような場所へと千星を下ろした。
ディータはどうやら、足でもピアノ線を操れたようだ。
こんな、手練れだとは思いもしなかった。
俺と日当瀬は横並びになるように陣形を立て直す。
まずい、俺たちのリーダは那由多だ。
これで腕章を取られたら終わりになる。
俺も日当瀬も焦って那由多に駆け寄ろうとした瞬間後方からあり得ない勢いでリングが飛んできた。
よく目を凝らしてみるとそれにもピアノ線が巻きついていた、いや、巻き付くと言う寄りはひっついていたと言う表現の方が近いかもしれない。
油断していた俺達はそのリングの餌食となった。
体中に走る電流に思わず、悲鳴を上げる。
「「うわああああああああああ!!!!!!!!」」
絡みつかれた時は頭の中で焼け切れるような衝撃が走った。
夏岡先輩や弟月先輩はこれをつけたまま俺達の相手をしていた凄さが改めて分かった。
でも、まだ、立てる。
日当瀬も同じようだ。
俺達は倒れた体を、両足を無理矢理地面に突き立てる。
そして、睨みつけるような瞳で敵を見据え、クナイを構えた。
「那由多を返せ」
「地区聖戦には参加しない」
シッターが開口一番にそう言い放った。
「はぁ!?」
イスの上にあぐらをかいて座っていたオレは、思わずその言葉にイスから転げ落ちそうになった。
もうすぐこの地域では地区聖戦がある。
そのために(裏)生徒会に引き抜かれてからずっとしごかれてきたのに、参加しないなんてたまったもんじゃなかった。
「どういうコトだ…?」
ローレンツが眉を顰めながらシッターへと呟くように問いかけた。
相変わらずコイツはボソボソと喋るのでイライラする。
「メリットがないからだ。もうすでに他校には連絡も取っているし容認もしてもらっている」
「何故そんな勝手な真似をするのですか…」
「それは謝る。けど、相談した所でローレンツ、君は承諾してくれるか?」
二人の間に不穏な空気が流れた。
オレとローレンツも仲が悪いが、この二人もあまり仲がいいとは言えない関係だった。
どちらかと言うとシッターの方がオレは好きだ。
優しいし、気がきくし、一緒にいて楽しい。
シッターが陽ならローレンツは陰、という雰囲気だろう。
どうせ茶々いれるとローレンツにキレられるからと、オレは机の上に顎を乗せて、二人のことを眺めていた。
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【フリーデル(回想)】
「私もシッターに賛成かな。
ほら、まだ、フィデリオもディータも入ったばっかだし。
そんなのに参加しなくても、ここの学校進学率も、就職率も高いしね。
多数決でもきっと、ローレンツの負けだよ?」
ディータはなんて言うか分からなかったけど、きっとフィデリオは賛成してくれる。
そう思って私は不穏な空気を取りはらうようにシッターの腕に抱きついた。
「……わかりました。その代わり今後一切私はこの生徒会に関与しませんので。ご了承願います。」
「ああ、構わないよ。(裏)生徒会の会長、副会長は元から相容れぬ存在だ。
悪かったな、地区聖戦でせっかく出てきてもらったのに。」
シッターがそう告げると、早々にローレンツが立ち去った。
この二人はほんと相容れない。
会長と副会長だから仕方ないんだろうけど、もうちょっと仲良くてもいいと思う。
地区聖戦は参加しないと言っても強制参加なので、私達は他校と同盟を結ぶことにした。
お互いにお互いを干渉しないと言う内容の同盟で、それをシッターが地区内全ての学校と結んできたみたい。
たまにこの人の行動力には度肝を抜かれてしまう。
地区聖戦は各自持ち点があり、その合計ポイントで争う競技だ。
なので、全く戦闘に参加しなければプラスマイナスゼロで最下位になることもないし、多分平均の順位くらいにはいることが出来る。
そして、地区聖戦が始まった。
私たちは参加していることになっていたが他校との抗争は無く、毎日(裏)生徒会の通常業務をこなしていた。
しかし、それは長くは続かなかった。
それは地区聖戦が終盤に差し迫ったある日、同盟を結んだうちの一番仲が良かった一校から連絡があった。
『仲間が地区聖戦で重傷を負ったから助けてほしい』と。
シッターの特殊能力は回復。私もその力を分けて貰ってるんだけど、彼には及ばない。
そして、彼は助けを求める相手を見離したりしない。
その甘さが間違いだった。
私とシッター、ディータ、フィデリオは大至急その学校に向かった。
けれど、それは罠だった。
待ち構えていたのは同盟を結んだはずの全学校。
私たちは全ての学校に囲まれてしまった。
「どういうつもりだ……。」
「は!どういうつもりもねーよ。
お前らの点が欲しくて呼んだんだ。
なに平和主義押し通そうとしてんだよ!そんなの通るわけねぇだろ!!」
シッターの同盟はなんの効力も持たなかった。
当たり前だ、守る信念が無ければあんなもの只の紙切れに過ぎない。
そこからは酷い有様だった。
逃げることも出来ずに戦闘を申し込まれる。
私達が有していたポイントは減っていく一方だった。
私は元から戦う力は無い、フィデリオもディータもまだ今ほどは強くなかった。
何とか私達はそこから脱出することが出来たがその時に既に、私と、ディータ、フィデリオはポイントをすべて奪われていた。
「二手に分かれるぞ。お前たちはもう、ポイントが無い、深追いしてくることは無いだろう。」
「そんな!!それじゃあ、シッター、貴方が!!」
「俺は強い。大丈夫だ、ヤバかったらポイントなんてくれてやって早々に逃げるさ。ディータ、フィデリオ、後は頼んだぞ。」
シッターはいつもの笑顔でそう言って、私をフィデリオの方へと押しやった。
不安は有ったけど、地区聖戦の戦闘は敗北を宣言すればそこで終わることが出来る、それに加えて彼は強いきっと帰ってくる。
そう思いなおした私は、フィデリオとディータと逃げた。
直ぐに彼も帰ってくる。いつもの笑顔で、私達の会長は帰ってくると誰も信じて疑わなかった。
しかし、彼はそのまま帰らぬ人となった。
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【ディータ(回想)】
シッター、いや、俺達は甘かった。
その甘さが全てを狂わせた。
最初から、シッターに抗ってでも無理に地区聖戦に参加しておけばよかったんだ。
その後オレ達のポイントは全て無くなり、持ち点は0。もちろん地区聖戦は最下位。
不思議とシッターが死んだことも同盟を結んだ他校の奴らに裏切られたことも、悲しくも腹が立つとも思わなかった。
空虚。
それがぴったりの言葉だった。
「甘すぎたんですよ、シッターは」
ローレンツはこう言った。
いつもなら飛びついてでも張り倒していただろうが、できなかった。
オレも、そうだと思っていたから。
甘さが招いた死。そして、そのせいで裏切られ、みんなが傷ついた。
それから(裏)生徒会はガタガタになっていく。
政府からの恩恵もなくなり、オースタラ高校の治安も悪くなる一方で、オレ達はただ(裏)生徒会という名前だけの薄っぺらい存在になった。
でも誰も立て直そうと動き出す奴は一人もいなかった。
フリーデルとフィデリオもずっと元気がない。
ローレンツはシッターのことなんかまったく気にも止めていない。
そしてオレも、そんなみんなや今のオースタラ高校の現状を見ても、何もすることができなかった。
だけど、そんな時に彼が現れたんだ。
「(裏)生徒会、立ち直らせたい?」
銀色の髪、後ろで結んだ細い三つ編み、両の口端を上げて笑った彼の目は透き通った銀色。
彼の名は……九鬼。
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【フリーデル(回想)】
「(裏)生徒会、立ち直らせたい?」
それはこの学校の生徒ではなかった。
銀色の髪を後ろで結った男は愛輝凪からの留学生であった。
それは表上の名目で有ったが、彼はどうやってか知らないが、私達(裏)生徒会の存在を探し当て、今私達の目の前にいる。
立ち直せる?
政府からの恩恵も切れ、地区聖戦も最下位。
しかも、過去最悪のゼロ点と言う成績で。
立ち直る筈が無い。
その時は私達は誰も何も言わなかった。
彼に(裏)生徒会が見つかったことすらどうでもよかったんだ。
何も喋らず俯く私達を余所に、彼は私達のヒューマノイドであるエイドスと何か話し合っていた。
それから数日経ったある日。
一つの変革が訪れた。
私達の地区で暴れていた他校の不良が大人しくなった。
そして、その次の日から地区内の各校から(裏)生徒会の会長たちが次々に謝罪に訪れた。
しかも、その容姿はそろってボッコボコだった。
私達は目を瞠るばかりで、謝罪をされるまま受け入れる。
資金援助や破った場合の罰則がある友好条約を結んで帰る学校も居た。
どうなってるのか分からずに三人顔を見合わせる日々が続いたところで、また、彼が現れた。
私達を罠にはめた学校の生徒会長の頭を掴み、ボロボロのその男を無残にも引きずって。
「これで、全員カナ?」
そう言って、私達と初めて出会った時の様に彼は微笑んだ。
その笑顔はあまりにも、無邪気で、そして残酷だった。
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【ディータ(回想)】
そうしてオレ達、オースタラ高校の(裏)生徒会は立ち直っていった。
高校の治安も元に戻り、他校の侵入も無くなっていくと、オレ達の士気も自ずと上がっていった。
(裏)生徒会自体に愛着が無さそうなローレンツでさえ、九鬼のことを尊敬し始め彼の言うことならなんでも聞いた。
フィデリオとフリーデルも次第に元気になっていった。
ただ、フリーデルは、シッターがいなくなったことで少し変わってしまったけれど。
シッターと九鬼はどこか似ているけど全然違う。
九鬼には甘さがなかった。
無邪気さ故の残酷、容赦という言葉など彼にはないんだろう。
「なんで、俺達の高校を助けたんだ?」
オレは九鬼にそう聞いたことがあった。
「んー?叔父さんに頼まれただけだヨ?それ以外に理由なんてナイ」
彼はイタズラっぽく笑い、そう答えただけだった。
-----------------------------------------------------------------------
【千星 那由多】
「と、まぁ正直そういう部分でクキはイケスカネーけど…。
って、それはマァイイな」
ディータは右腕の傷が完治したのか、服が破れているだけの腕を擦っている。
そして、ゆっくりと立ち上がるとグッと拳を握りそれを見つめた。
「それからオレは甘さなんてモンは捨てた。
よくワカッタだろ?甘さなんか持ってちゃ誰もスクエナイ。
寧ろそれで誰かが傷つき、死ヌ。
オマエのそれは、優しさでもナンデもネェ!ただの凶器だってコトをナ!!!」
ディータがキッと俺を睨みつけると、フリーデルの身体が動きだす。
ポーチから取り出されたメスが俺を目がけて飛んでくる。
急に飛んできたそれをギリギリ炎の剣で薙ぎ払うことが出来たが、薙ぎ払った瞬間にフリーデルは俺の真上から操り人形のごとくハサミで斬りかかってくる。
剣を構えて防ごうと咄嗟に自分の前に炎の剣をかざそうとしたが、躊躇った俺はそのまま横へ転がるように攻撃を避けることしかできなかった。
フリーデルのハサミが地面へと突き刺さる。
甘さはただの凶器、か。
そうなのかもしれない。
俺がそのせいでここで死んだり、負けたりしたら、きっと色んな人が悲しむ。
結果それが(裏)生徒会の負け、というものを生み出してしまうかもしれない。
頭の中でディータの言った言葉が反響し、俺は唇を噛みしめた。
「マァお前がそのままアマッチョロでいてクレルと助かるんだケドナ」
ディータがフリーデルに繋がったピアノ線をピンと張る仕草をしながら小さく笑った。
落ち着け那由多。
とにかく、二対一では劣勢。
先にフリーデルに繋がっているピアノ線を焼切るしか方法はないだろう。
だけど、彼女を傷つけないまま、その行動に移ることはできそうにない。
どうする…!
-----------------------------------------------------------------------
【フリーデル】
そう、甘さなんていらない。
甘かったからこそ私はシッターを失った。
私がもっと副会長として確りしていればこんなことにはならなかった。
九鬼サマのお陰で学校を立て直すことができた。
感謝してもしきれない。
そんな九鬼サマが私達に、自分の愛輝凪高校も同じようなことになりそうだから手伝ってほしいと言われた。
彼の望みならなんでも聞くつもりだ。
ディータは九鬼サマの事を嫌ってるようだが感謝しているのは間違いないだろう。
そして、私はここに来てみて確信した。
九鬼サマの言っていることを、この目の前の男の甘さを。
こんな奴が(裏)生徒会に居る限りいい結果は望めない。
それどころか、九鬼サマの母校が私達のオースタラのようになってしまうことは目に見えていた。
そんなことは、私が許さない。
だいぶ息が上がってきた。
私の体力は人より劣る。
ディータが動かしているからといっても体への負担はかなりのものだ。
それでも、私は彼らとともに戦いたかった、副会長として。
「千星那由多。お前に恨みは無いが、消えて貰う……。
オマエは裏生徒会に居る資格などナイ!!!!
愛輝凪高校の全生徒を不幸にしたくなければ、サッサと消えろ!!」
私は無数のメスを投げつける、同時にディータが私を前進させる。
その間にピアノ線で一緒に引っ張られたハサミを手にし、メスのすぐ後を追うようにして千星那由多に襲いかかる。
タイムラグが少ないこの波状攻撃を防ぐすべは彼にはないだろう。
私を殴れるなら別だがな。
その時だった、横から風を巻き込み大きくなった、空気の塊、衝撃はが飛んできた。
「な……!!」
私は顔を青ざめさせたがディータにはそれが見えていたようで、宙に浮かせるようにして回避する。
すると、蹴り飛ばされたのであろう、フィデリオがディータの方へ飛んでいくのが見えた。
「千星さん!!お待たせしました!!!」
「那由多。今行く、そこで待ってて!」
彼らの仲間の声が少し離れたところから聞こえた。
-----------------------------------------------------------------------
【日当瀬 晴生】
彼らの母校で起こったことはプロジェクターが有ったためこっちまで筒抜けだった。
「ったく、結局はあの、白髪頭に踊らされてるだけだろうが、人の生徒会にまで突っ込んでくんナよな。」
「うん。それ。同感」
珍しく天夜に同感されても腹が立たなかった。
そして、今日は厄日かと思うほど戦いの息が合う。
あの、ややこしいリングの武器を目の前にしても優勢に動いていた。
「次、決めるぜ。」
「うん、分かった。」
俺はフィデリオがこちらに放ってきたリングを六つ、全て軌道を読んで撃ち落としてやった。
それには流石に死んだようなあの目も驚いたように見開いていた。
それに乗じる様に天夜がクナイを投げつける。
しかし、これは陽動、奴はそれを鎖の部分で全て薙ぎ払うだろう。
それと同時に走り出した俺はフィデリオに銃を構える。
しかし、それは、この男では無く、狙いはフリーデルだった。
俺は銃口の形を一瞬にして変更させ、フィデリオを避け、半円を描くように飛んでいく風の弾を作りあげる。
俺の思惑通り、奴は一瞬それに気を取られた。
その瞬間、俺の陰に潜んでいた巽がフィデリオに蹴りを食らわす。
まともにくらった奴は、ディータの方へとぶっ飛んだ。
天夜は俺の横をすり抜ける様に、千星さんの元に向かう。
ったく、俺も駆けつけたいんだけどな。
仕方なく、俺は飛んで行ったフィデリオにまた、銃の先を向けた。
-----------------------------------------------------------------------
【千星 那由多】
フリーデルの攻撃にたじろいだ瞬間だった。
横からすごい勢いの空気の塊が撃ち込まれて来たのが分かった。
それとディータのピアノ線に操られるように避けたフリーデルは宙に浮いたが、すぐに横へと滑る様に移動する。
何があったのかとディータへと視線を向けると、飛んできたフィデリオを受け止め、少し体勢が崩れたようだった。
すぐ後に巽と晴生の声が聞こえる。
俺はその声に小さく安堵の笑顔を零し、大きく頷いた。
「チッ…フィデリオ!!!何してんダヨ!!!」
「ごめん…」
「アイツら抑えとけヨ!折角コッチはな…!」
その後フィデリオを受け止めた手を突き放し、軽く揉めている、いや、ディータが一方的にフィデリオにブチ切れていた。
そこまでしなくていいのに…と戦闘中にも関わらず少しフィデリオが可愛そうになったが、
間もなく浮いていたフリーデルからメスが飛んできたのが分かった。
それを炎の剣を横へ振り、燃え溶かすとフリーデルは二人の方にもメスを投げて一喝した。
「何を揉めテイル!戦闘中ダゾ!」
-----------------------------------------------------------------------
【フィデリオ】
どうやらディータはオースタラ高校であったできごとを話したようだった。
シッターのことで愛輝凪の人たちに同情でもかうつもりだったんだろうか。
敵に過去のこと話しても無意味なのに。
それに、そんなことを話したって、シッターは戻ってこない。
そもそもボクは無駄な話が苦手だ。
喋ったところで、本当の気持ちなんて伝わらないから。
闘いの中ではなおさらだ。
ここはおしゃべりの場なんじゃない。
ディータは少し先走りすぎる。
ボクより強いとは思うけど、そういった冷静さが欠けているのがずっと心配だった。
そんなことに気を逸らしていたせいか、ボクはアマヤに蹴りを食らわされディータの元へと吹っ飛んでしまう。
痛かったけど、ディータに受け止められて少しほっとした。
でも、彼はボクを怒った。
そうだよね、ボクが悪いんだ。
「ごめん…」
そんな言葉しか出てこなかったボクに、ますますディータは怒りの言葉を垂れ流していた。
悲しい言葉の次に、怒りの言葉がキライだ。
そうしているとフリーデルからメスが飛んできた、それがボクとディータを割り入るように突き刺さるとディータはハッとしたようだった。
-----------------------------------------------------------------------
【天夜 巽】
どうやら敵はもめてくれているようだ。
俺達にとっては願っても無いチャンスだった。
あのフリーデルという女は厄介だ彼女が居たら何度傷を負わせばいいか分からなくなる。
とりあえず彼女を先に仕留めるべきだと、俺は彼女に向かって走りこんで行く。
調度、彼女の足が地に付くその瞬間を狙って俺はクナイを数度にわたり投げつけた。
「那由多!灯して!!!」
これで伝わるかは分からなかったけど、余り細かく言う余裕は無い。
那由多に視線を向ける。
ディータが俺のクナイに素早く反応したみたいだけど、きっとこれは止まらない。
フィデリオは日当瀬に任せておけば大丈夫そうだったので。
そのまま、俺はフリーデルに向かって疾走した。
-----------------------------------------------------------------------
【千星 那由多】
三人が揉めている隙を狙って、巽がクナイを数本フリーデルへ投げつけたのが見えた。
「那由多!灯して!!!」
そう言われて俺は目を丸くする。
灯、す……!?
そのクナイはフリーデルに繋がれているピアノ線を目がけて飛んでいる。
灯すとは多分、炎の剣の火をクナイに灯せということだった。
そんなことできんのか!?
そう思っている間にディータは片方のピアノ線でクナイを弾こうと動いたのが見えた。
考えている暇はなさそうだ。……やるしかない…!
俺は通り過ぎようとするクナイへと向かって走り込んだ。
「させねーヨ!!!」
ディータのピアノ線がクナイを狙い、打ち落とす。
けれどその打ち落としたクナイのこちら側、つまりディータに見えにくい位置で潜んで飛んでいた一本はそのまま打ち落とされずに飛んで行く。
「…性根がワリーナ!!」
ディータは再びピアノ線をそのクナイへと向けた。
が、俺はそれよりも先に躊躇わずに残った一本めがけて炎の剣を振った。
業火がクナイを包み込み姿を消す。
やっぱり…無理か…!?
そう思った瞬間、小さな火の塊のようなものが業火の中から飛び出したのが見えた。
それは炎を灯した巽のクナイであった。
「よっしゃ!!」
そのクナイはフリーデルのピアノ線へと一直線に飛んで行く。
炎を纏っていれば、ディータのピアノ線ではどう足掻いても止めることはできない。
寧ろ下手に手を出すと再びピアノ線を焼き切ってしまうだろう。
「チッ!」
ディータはそのクナイを見て舌打ちをし、フリーデルの身体を操っているピアノ線をグッと自分の方へと引き寄せようとした。
しかし、それよりも素早いスピードでクナイはフリーデルの右足のピアノ線へと到達し、燃やす様に線を切り裂く。
-----------------------------------------------------------------------
【天夜 巽】
思った通り那由多は俺のクナイにも炎を灯すことが出来た。
修業で得た新しいクナイの投げ方。
よく忍者アニメで出てくる、クナイの影にもう一本忍ばせる投げ方は功を奏したようだ。
那由多の炎がともった俺のクナイが一本のピアノ線を切り裂いた。
その部分がどこを操っているのか瞬時に判断する。
俺がフリーデルにそのまま斬りかかろうとするとすかさずディータがピアノ線を引っ張りフリーデルを逃がそうとする。
しかし、ピアノ線が切れている、右足が一歩遅れる。
逃げ遅れた足をクナイで引き裂く。
調度太ももの部分がバッサリと切れ、鮮血が滴り落ちた。
「っあああああああ!!!!」
女性の悲鳴を聞くのは趣味じゃないがこれも仕方がない。
那由多が攻撃できない以上俺がやるしかない。
余り傷つけたくなかったので、次は腕章をつけている腕を狙うことにしたがディータが引っ張って行ってしまった。
「逃がさない。那由多ッ!!」
俺はまた、クナイを構える。
連携攻撃ならディータのピアノ線を燃やすことは可能なはずだ。
しかし、俺の思惑は外れ、ディータはフリーデルを闘技場ギリギリへと放り投げてしまった。
「ああっ!!」
太ももの痛みに苦しむ彼女を見ながら僕と那由多は目を見開く。
「やっぱ、ジャマ。そこで、見てろよ、フリーデル。」
ディータは仲間に向かってそう冷たく言い放ち、フリーデルから糸を解いてしまった。
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【千星 那由多】
巽がフリーデルの足を切り裂いた。
場内に響く叫び声に耳をふさぎたくなったが、俺が彼女を抑えることができないから巽がこの行動をとったまでだった。
胸は痛んだが、その感情はその後の光景で全てかき消される。
ディータはフリーデルを放り投げた。
「!!!」
倒れたまま地面を滑っていくフリーデルは壁へとぶつかると、太ももを抑え痛みに顔を歪めていた。
そして、ディータの冷たく言い放った言葉に、俺は怒りを覚え、ディータに向けて叫んだ。
「お前……仲間になにしてんだよ!!」
ディータは俺の言葉に片眉をあげ、怪訝な顔を向けた。
「ハ?なに勘違いしてンノ?
あの女なんているだけ邪魔ナンダヨ。お前らの相手はオレ達で十分」
そう言った彼の目は酷く冷たかった。
一度どん底に突き落とされて、一緒に立ち上がって来た仲間なんじゃないのか?
どうしてそんなことが言えるんだ?
「それにアイツは回復できるシナ。別に心配する必要もネーヨ」
「おまえ…」
「つーか敵の心配なんてしてるバアイか?」
俺の視界の端で何かが光る。 そちらへ目を向けると、ピアノ線が俺の真横にまできているのがわかった。
「!!!」
俺は急いでそれを振り払うように剣を振うと、ピアノ線は再びディータの元へと戻った。
「ハッ、甘いコト言ってるからダヨ」
「……っ…」
ディータが臨戦態勢に入り、俺と巽も体勢を整えなおす。
するとその瞬間、今の空気を割り裂く様に、横からフリーデルの声が飛んできた。
「私はまだ…闘える…!」
-----------------------------------------------------------------------
【日当瀬 晴生】
どうやら、敵が揉めている。
それをチラッと横目で見た瞬間、フィデリオが俺と距離を取る様にディータの元に戻った。
「フリーデル。今はセンネン。
ディータは人形がコワレルのすきじゃない。」
覇気のない表情のままフィデリオはフリーデルに言い放った。
人形?
自分の仲間に向かって良く言うぜ、んと、いけすかねぇ奴らだ。
フリーデルとか言う女はそれで納得したのか、苦虫を噛み潰したような表情で自分の怪我を治療し始めた。
…ん?さっきディータを治療していた時よりも光は儚く、傷の治りは遅いようだ。
俺も、そのまま千星さんの元に跳躍する。
「どうやら、あの女、自分の傷は治しにくいみたいですね。
でも、これで、三対二。一気に片付けましょう。」
そう告げると千星さんと天夜は深く頷いた。
千星さんを先頭にするフォーメーションに変形した時敵も動いた。
今まで後衛だった、ディータがフィデリオの前に出てきたのだ。
-----------------------------------------------------------------------
【千星 那由多】
邪魔だの人形だの…仲間に向かって言うこととは思えない。
オースタラ高校での話を聞いて、少し同情してしまった気持ちを抑え込んだ。
晴生がこちらに合流する。
見た感じフリーデルの傷の治りは遅そうだ。
回復するまでにディータ…いや、フィデリオの腕章だけでも取ってしまいたい。
修行で身に付けたフォーメーションへと陣形を立て直す。
三対二、夏岡先輩達と練習してきた一緒のパターン。
だが、これは本当の実践。でも大丈夫だろう、今まで死ぬ気で訓練してきた。二人のことも信じれる。
後はどれだけ身に付けたものが出せるかだ。
俺が先頭に立つと、あちらはフィデリオが前に立つ形を取った。
何か策があるのかはわからないけどあいつのリングは厄介だから、余り前衛で対峙したくなかった。
炎の剣で薙ぎ払っても、あれは二つに割れ拘束される可能性がある。
「いくヨ」
フィデリオは死んだ魚の目でじっと見据えた後、いきなりリングを真正面から俺に投げつけた。
俺はそれから逃げるように横へと走り、巽は逆側へと走った。
だが、どちらの方向にも再びリングを投げつけてくる。
それは追いかけるように俺と巽についてきたが、どちらも晴生に撃ち落とされた。
フィデリオはそれでも諦めずに淡々と駆け回る俺達にリングを投げつけてくる。
なにか、妙な感じがした。
不意にディータの方へと視線を向けると、彼は動く気配がなかった。
それどころかピアノ線も手に持っている様子はない。
何を考えているんだ?
そのまま俺は奴らの後ろへと回る。
ディータは俺を目だけで追っていた。
何か、嫌な予感、それが的中したのはその瞬間だった。
彼が足を上へと蹴り上げる行動を取った途端に、俺の身体は上へと急上昇した。
晴生や巽達の姿が上から見下ろせる状態になり、剣を上に掲げ、ぶら下がるような体制で、俺は宙に浮いていた。
「ハーイ釣れたー」
ディータがこどもの様な笑い声で片足をあげ、膝を曲げながら足先をくるくる回す。
その行動と一緒に俺は振り回されるように横へぐるぐると旋回した。
どういうことだ?
ピアノ線を投げつけた仕草もなく、ましてや手に持ってもいない。
俺は剣を離せないように両手に絡みついているピアノ線の先を追った。
細く見えにくいそれが彼がクルクルとまわしている足元で微かに光ったのが見えた。
「ダレも手だけでしか使えナイとは言ってねーダロ?
オマエが水のカタマリの隠し技がアッタように、俺にだってそういうモンあると思わなかったワケ?
あーコッケイ、って言うの?こういうの」
そう言って宙に浮いた俺を見上げながら笑った。
-----------------------------------------------------------------------
【天夜 巽】
おかしい。
戦いが単調過ぎる。
しかし、何かを仕掛ける隙も無かった。
那由多が前、日当瀬が後ろ。俺はその間に居る。
と、言っても俺は那由多の事だけを考えて動けば基本的にうまく行く。
フィデリオのリングの軌道は日当瀬が把握しているようだったので彼に任せる。
撃ち落とすことではなく、避けることに重点を置きながら逃げているその時だった。
那由多が急に宙へと舞った。
「な、那由多!!!」
「千星さん!!!」
俺と日当瀬の声がコロシアムに響き渡る。
すかさず、俺も日当瀬もピアノ線を切るためにクナイ、空気砲をピアノ線へと向けたが、切れた感触は無かった。
そのまま、ディータは俺と、日当瀬に対峙するような場所へと千星を下ろした。
ディータはどうやら、足でもピアノ線を操れたようだ。
こんな、手練れだとは思いもしなかった。
俺と日当瀬は横並びになるように陣形を立て直す。
まずい、俺たちのリーダは那由多だ。
これで腕章を取られたら終わりになる。
俺も日当瀬も焦って那由多に駆け寄ろうとした瞬間後方からあり得ない勢いでリングが飛んできた。
よく目を凝らしてみるとそれにもピアノ線が巻きついていた、いや、巻き付くと言う寄りはひっついていたと言う表現の方が近いかもしれない。
油断していた俺達はそのリングの餌食となった。
体中に走る電流に思わず、悲鳴を上げる。
「「うわああああああああああ!!!!!!!!」」
絡みつかれた時は頭の中で焼け切れるような衝撃が走った。
夏岡先輩や弟月先輩はこれをつけたまま俺達の相手をしていた凄さが改めて分かった。
でも、まだ、立てる。
日当瀬も同じようだ。
俺達は倒れた体を、両足を無理矢理地面に突き立てる。
そして、睨みつけるような瞳で敵を見据え、クナイを構えた。
「那由多を返せ」
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