あなたのタマシイいただきます!

さくらんこ

文字の大きさ
上 下
53 / 113
isc(裏)生徒会

特訓開始

しおりを挟む
【神功 左千夫】


ここは…。



ローレンツと言う幻術師のせいだろう。
移動中の記憶は無いもない。
僕は今本体の中に居る。

どうやって、本体をレゲネから連れ出したかは分からないが、きっと何か交渉したのだろう。

あれからどれくらい経ったのか分からないが僕の意識は覚醒していく。


「ぐ!!―――――――ぅぅうううッ!!!!」


貫かれた胸に激痛が走る。
常人ならきっとこの痛みでショック死するだろう、心臓と瞳が直接焼かれているかのように萎縮する。 

ベッドの上で裸体を丸めるように胸元に爪を立てる。
脈拍等を測っていた機械が僕から剥がれ堕ちていく。
自分の爪が体を傷つけるほど強く抉らないと正気を保てない。
嫌な汗が吹き出て、体も青ざめていく。
同時に四肢に填まっているリング状の物体に気付くが今は構ってられない。 


数十分、その痛みと格闘し、やっと収まり始めると室内にもう一つの気配を感じる。
どうやら彼は初めからそこに居たようだった。


「悪趣味ですね…九鬼。」


既に抜けかけていた点滴の針を睨んだ後、力任せに引き抜き。
僕はベッドから立ち上がる。 


----------------------------------------------------------------------- 


【九鬼】


「悪趣味なんてとんでもナイ」


左千夫クンが起きるのを待ち構えていたかのようにボクは壁に身体をもたれかけさせたまま、眉を下げながら笑った。

「逃げる気カナ?ダメだヨ、折角本体も貰ってきたっていうのに」

彼に近づいて行っても彼は構えさえもしない。
そういう気の強いトコロがまた好きだ。

「君を拷問して首を縦に振らせようかと思ったケド…。絶対会長を譲ってなんかくれないでしょ?
その前にその身体に働いてもらおうと思って色々試させてもらっちゃった」

口の中の飴玉を転がしながらピースサインを彼に送る。
けれど彼の表情は変わらない。
そのまま踵を返してボクと反対側に行こうとしたので、ボクは指を打ち鳴らした。
すると、彼の両手首に巻かれているリングから電流が流れ、彼は床に脱力するように跪いた。
心臓を抉られた痛みや、薬の実験で彼の身体は相当弱っている。
そこにフィデリオのあのリングから電流を流せば、身体はおのずと言うことを効かなくなるはずだ。
普通の人間ならここで気を失うトコロなんだけど。

彼は脱力したまま、鋭い淡紅色の瞳で睨みつけた。

「キレイな瞳…コンタクトなんかで隠さなくていいのに」

ボクは彼の前に回り込み、そっと彼の頬に手を伸ばす。
きめ細かな白い肌が指先に触れ、いつまでも触っていたい感覚に陥る。 

「君が会長でなかったら、もっと違う形で再会できたのかナ」

彼の頬をぐっと掴みながら更に顔を近づけ口を開けさせる。
その手を掴まれたが、痺れて力が入らないのかまったく抵抗になっていない。
両の口端を吊り上げ笑った後、舌先に載せた僕の好きな辛い飴玉を彼の口の中へと放り込む。 


「お腹減ってるでショ?それ、あげるヨ」 





----------------------------------------------------------------------- 





【天夜 巽】


特訓施設に逃げて、そこから登校をした次の日。
夏岡先輩の言う通りに俺達は授業中以外休む暇は無かった。
小休憩は流石に人目もあるからか、戦闘にはならなかったが、昼休みも集団で行動することを余儀なくさせた。 

放課後他の生徒たちが居なくなった瞬間、例のやつらが襲いかかってきたので夏岡先輩達の誘導のもと手筈通りに秘密通路を抜け、特訓施設へと向かった。


昨日はこれからの事や、自分達の親を説得するのに時間を費やしてしまった。
特に那由多の親が難しく、俺達全員で説得して、なんとか許しを貰えた。

今は宿泊施設の中にある会議室のような場所でこれからの訓練の事を話すようだ。 


「そう言えば、イデアに似たヒューマノイドが九鬼と一緒にいた。金髪で長髪、顔付きはお前と瓜二つだったが…、知り合いか?」 


弟月先輩がイデアに尋ねている。
遅れて夏岡先輩が入ってきた、彼は足を引きずっているようにも見えた。
弟月先輩は右腕を仕切りに気にしている。

何か、あったのかな。 


----------------------------------------------------------------------- 


【千星 那由多】


「…アア、知り合いというよりも、人間のコトバではキョウダイ…イヤ、双子とイウのダロウか」 


イデアの言葉に俺は驚いたが、イデアはヒューマノイドだ。
誰かの手でに作られて、産まれてきた。
だから、同じようなヒューマノイドがたくさんいてもなんてことはないんだろう。 


「アイツのハナシはあまりシタクナイ。さっさと会議をハジメロ」


いつも通り無表情で起伏のない声のトーンだったが、イデアが「したくない」と言ったのは初めてな気がする。
どうやらいい関係ではなさそうだったので、俺達もそれ以上は介入しなかった。

そして会議を始めるために、夏岡先輩と弟月先輩が並んで椅子に腰を掛けた。
「こうやって訓練会議すんのも久々でなんかワクワクするなー」

「お前全然やってなかっただろ」

この二人のやり取りを見ているとなんだかほっこりしてしまう。
本当に仲がいいんだろうなというのがにじみ出ている気がした。
夏岡先輩が会長だった時も、こんな感じの(裏)生徒会だったんだろうか。 

俺達も椅子へと腰かけると、訓練の内容について夏岡先輩が喋り始めた。 


「今回はほぼ実践訓練かな。
晴生は別として、天夜君は能力値高くても実践になれてないし、千星君も…同じく。
とりあえず俺と太一コンビと晴生と天夜君コンビで最初に実践訓練に移る。
千星くんは別でイデアに特訓してもらって、終わってからこっちの実践訓練に入ってほしい」 


同じく、という言葉に多分能力値が高いというものは含まれていないんだろうな、と夏岡先輩を見ながら思った。
そして、俺だけイデアと別訓練…ということはかなりのスパルタになるんだろう。
大きくため息をつきそうになったが、とにかくやるしかなかった。 


会議が終了して、俺はイデアと、巽と晴生は夏岡先輩達について地下にある訓練施設へと向かった。
部屋が違うので、また後で、と言って別々に別れる。

三木さんにはイデアに聞こえないように「何かあったら怖いから」と俺が頼み込んで、こちら側について来てもらうことにした。 


----------------------------------------------------------------------- 


【弟月 太一】


「……お前ら……もうちょっと…お互いを…」

「そうだぞ!協力しないと。奴は絶対倒せない。」


全く、どう言うことだ。
天夜と日当瀬は相性が悪すぎるのか。
陣ですら協力しろと、言う様だ。


個々の能力が高いのは一対一で組手をして分かった。
しかし、いざと実践の為にチームを組んでみると全く連携できていない。
いや、最早マイナスだ。


「すいません!夏岡さん!!
天夜が力に頼りすぎるからだろ?」

「ええ!日当瀬が僕の動きについてこれないだけだろ?」

また、言い合いが始まった。
俺は額に手を遣り、長い溜め息を吐く。

天夜は近距離も出来るし、中距離も可能だ。
戦術でいったら、日当瀬との相性は悪くない。 

しかし、…なにぶん仲が悪すぎる。
いや、ライバル視し過ぎてるのか?

何度目かわからない言い合いを仲裁するために銃を二人に向けてぶっぱなす。


「いい加減にしろよ!!お前ら…。」


俺の銃の弾を避けながら二人は凍りつく。
多分俺がイデアと同じ表情をしているからだろう。 

「もういい。連携するな…。
取り敢えず、俺達の攻撃を受けろ。死ぬなよ。」 


そういって俺は二人に走り始めた。

陣と俺は今フィデリオが放ったリングを嵌められたままだ、そこから流れる電流により、その部分に力が入らない。
その、俺達に敵わないようじゃ九鬼を倒すなんて無理だ。

陣も俺の行動に賛成したようで、マントを翻した。 


----------------------------------------------------------------------- 


【千星 那由多】


部屋の中へと入ると、イデアが中程まで歩いて行く。
俺はポケットの中の携帯を探りながらそれについて行った。
その途中、イデアは振り向き様に黒い筒から鞭を引き抜き、俺の方へと振りあげてきた。 

「っうわ!!!」 

咄嗟に避けた鞭は壁に当たり、部屋になんとも言えない痛そうな音が反響する。 


「ヨケタカ」

「…急になにすんだよ!!!」

「この部屋に入ったトキカラ訓練ハ始まってイル。早く武器をダセ」 


そう言ったイデアは容赦なく鞭を俺へと振り回してくる。
時々身体に当たって声無き声があがったが、なんとかそれから逃げながらもポケットから携帯を取り出し、イデアアプリを開いた。 



「えー…と中学2年時の担任の先生の名前を……はあ!?」

「カンタンにしてヤッタんだ、カンシャしろ」


簡単っつーかマニアックすぎんだよ!!
つーかどこで俺の情報仕入れてきたんだコイツ!!

とにかく、今はそれどころではない。
早くアプリを解除しなくては。


「担任の名前は…佐々木!!!!」


入力すると、イデアアプリが解除され、携帯が光を纏った剣へと変わる。
それを掴むと、俺の後ろを狙ってきていた鞭の先を跳ね返した。

「ナカナカヤルようにナッタな」

「当たったら痛いからな!」

必死な瞬間ってのは結構すごいんだぞ!!
俺は肩で息をしながら剣を身構え、イデアの方へと向きなおす。 


「ヨシ…デハ先ニお前に言ってオクコトガアル」 

てっきりすぐに攻撃が始まるかと思ったが、イデアは何か言いたいことがあるらしく、赤い瞳がじっと俺を見据えた。 

「オマエのあの字を書くチカラダガ、アレはワタシが作った武器の能力ナドデハナイ。
オマエの特殊能力ダ」


俺はイデアの言葉に目を見開いた。
正直特殊能力じゃないかと少し思っていたが、確信は持てなかったからだ。
しかしどうやら本当に俺の特殊能力だったらしい。
俺にもそういった類の素質があったことに、少し胸が高鳴った。

「正直オマエが開花スルとは思ってイナカった。
それにアレはワタシも見たコトがナイ能力だ。
それ故に可能性は無限大…ダガ、使い方を誤るナ」

使い方を誤るな…?
どういうことだ? 

「ワタシからは以上ダ」

それだけ言うとイデアはもう一本黒い筒を取り出し、それを振ったかと思うとそこから鞭が出てきた。
に、二刀流ですか…。 

俺が考える暇も無く、イデアは攻撃を繰り出してくる。


俺は生きてこの部屋から出られるのだろうか…。 


----------------------------------------------------------------------- 


【三木 柚子由】


千星くんに言われて、イデアちゃんとの特訓にお邪魔した。
今、調度、イデアちゃんに扱かれているところだ。

私は実際に見たことはなかったのでイデアちゃんが言っていることは分からなかったけど、
左千夫さまから戦闘がどうであったかは聞いている。


左千夫さま……。
胸にかけている携帯をぎゅっと握りしめる。
あれから、連絡はない。
いつもなら頭に響くように話しかけてきてくれる優しい声も聞こえない。 
私は(裏)生徒会の副会長だけど武器も能力ももっていない。
それは、左千夫さまが必要ないといったからだけど…。


私の前、夏岡先輩たちの時の副会長も能力や、武器を持ってなかったようだ。
でも、彼女は私とは違い勝利の女神と呼ばれている。


それに、比べて私は…

皆の足を引っ張るのに左千夫さまの役にすら立てない。


目の前でイデアちゃんと千星くんが組み手をしている。
千星くんは私より後に入ったのにどんどん強くなっていく。


何もできない自分が嫌でぐっと手を握りしめた。 


----------------------------------------------------------------------- 


【千星 那由多】


暫く攻防戦が続く。
と、言っても俺が不利な状況がずっと続いていた。 

何度もイデアの鞭に打たれながらも、俺はどうにかして攻撃を防いではいる。
ただ、鞭と剣じゃ間合い的に辛いものがあった。
特殊能力の火を繰り出そうと集中する暇もなく、字を書こうとする度にイデアの鞭で邪魔をされる。 

そして、体力が落ちてきた俺の隙を狙い、手へと打ち付けられた鞭で剣を下へと落としてしまった。 


「…!!」

イデアは鞭の先をこちらに向け、赤い瞳を光らせる。

「死ンダナ」

その言葉に俺は肩で息をしながら地面へと崩れるように座り込んだ。
イデアは鞭を降ろし、俺から目を逸らさずに続ける。

「火を繰り出シテそれを打つラシイが、そんなコトをしている間にオマエハ殺さレル。
特にオマエは接近戦タイプダ。余計に辛いモノがアルだろう」

その言葉に耳を傾けながら俺はその場から動かなかった。


「逐一打つなんて面倒なコトより、火自体を剣にマトウ。というノハドウダ」

「…火を纏う?」

「デキルかは知らナイがな。
ただ、可能性は無限大と言ったロウ。ありえないハナシではナイのデハナイカ?」 


俺は地面に落ちた剣を見つめる。
可能性…か。
そう言えば火を初めて出した時も、できないと思うよりも、もしかしたらできるかもしれない、という希望にかけた。
それが結果的に特殊能力というものを生み出して、俺の力になった。 


「アドバイスはココまでダ。そろそろナツオカ達の所へ行くゾ」

イデアが鞭を終い、部屋を出て行く。
三木さんが俺を起こしに来てくれたが、大丈夫と言って差し出してくれた手を断る。 


…火を纏う…か。


その可能性に、俺はかけてみようと決意を固め、ぐっと剣を握りしめた。 


----------------------------------------------------------------------- 


【日当瀬 晴生】


駄目だ、全然歯がたたねぇ。
何度か天夜と連携を取ろうとしてみたがやっぱり、息が合わない。 

あっちも、何度か合わせようとはしてるみたいだが、なんたって邪魔だ。
たぶんもう、十回は死んでる。
俺と天夜は肩で呼吸を繰り返しながら地下訓練所の地面へと座り込んでいる。
そうしていると弟月は水をもってきて俺たちの頭からかける。


「つめて!!!」

「当たり前だ、ちょっと頭を冷やしとくんだな。」

そう言って弟月は夏岡さんの方へと歩いていく。
俺と日当瀬は視線を絡めてから二人でため息を吐いた。 


全く歯が立たない。
でも、二人とも本調子ではない気がする。

俺は床に寝ころび、壊れないように舗装してある蛍光灯が並ぶ天井を見つめた。
たぶん、俺たちでは連携は無理だ。


何かが足りない。


そう思った瞬間に千星さんが入ってきて、俺は慌てて立ち上がった。 


----------------------------------------------------------------------- 


【千星 那由多】


ふらつく身体をなんとかこらえながら巽たちが特訓している部屋へと入った。
今は休憩中だったのか、寝転んでた晴生が慌てて立ち上がったのが見えた。 

「おっそっち終わった?」

「終わったというか…死にました」

その言葉に夏岡先輩が笑う。

「こっちも何度も死んでるよー。入れそうか?」


実際結構もうバテバテだったが、折角訓練の計画を立ててくれたんだ。
無理だなんて言えるはずもなかった。

「なんとか…」


そう言うと俺は巽と晴生の元へと歩いて行く。
二人も結構バテているようだったが、巽は相変わらずニコニコしていて、晴生もキラキラしてる。
この三人で戦闘での連携取るのって初めてだよな、と不安が駆け巡った。
そもそも弱い俺が足を引っ張らないかが一番心配なのだが。


「じゃ、始めるか!!」


そんな考えを余所に、夏岡先輩はマントを翻し、弟月先輩が銃を構え戦闘態勢に入った。
それを合図に俺達は彼らに立ち向かっていった。 


----------------------------------------------------------------------- 


【天夜 巽】


別修行だった那由多が戻ってきた、俺達もボロボロだが那由多も同じくらい、いや、それ以上にボロボロだ。 

でも、何でだろ。
那由多が来ると元気が出る。


俺達は戦闘体制へと、入る。
武器の特性に加えて、後那由多はそんなに器用なことができないので前衛になる。
日当瀬は後衛なので、自然と俺はその間に入ることになる。
取り敢えず那由多を守ってあげないと、そう考えながら地を蹴った。 




あれ?
さっきまでの違和感がない。
と、言うかスムーズだ。
俺も日当瀬も那由多中心になるからか、無駄にぶつかることが無くなった。
日当瀬も俺の動きまで手に取るように分かるようだ。 

俺と那由多がクロスするように弟月先輩に走っていく、
でも、それはフェイントで、そのクロスに駆け抜けた合間から日当瀬が撃ち込んだ弾が姿を現す。 

今日は弟月先輩は左手しか使ってなかったが俺達の攻撃が読めなかったのだろう慌てて右手を使おうとした。
しかし、その手は動くことなく、夏岡先輩の投げたらマントにより日当瀬の攻撃は防がれた。

でも、俺達の狙いはこの次で那由多と一緒に低飛行になっている夏岡先輩に斬りかかる。 


俺の攻撃は手首に手首をぶつけるように、那由多の剣は親指と人差し指で挟むように受けられてしまったが、
先輩はそのまま勢いを殺せず、後ろにぶっ飛んでいった。 


「っ!!!」

「陣!!」


すかさず、弟月先輩がフォローに入り夏岡先輩を受け止める。
こう言うところは流石だ。 


----------------------------------------------------------------------- 


【千星 那由多】


初めての連携の不安は打ち消された。
何故か三人で闘うとうまく連携がとれることに自分でも驚いた。
俺は俺でやるだけのことをやったまでだったけど、巽や晴生の動きが何故か…わかる。
そして俺の動きも巽と晴生はわかってくれていた。
いつも一緒にいるからか、パターンというか「こう動くのではないか」という意思疎通が無意識にできているような気がした。 



「っぶね~…」

弟月先輩に受け止められている夏岡先輩がそう言いながら笑った。

「なんだよ二人とも!千星くんが入ったら全然違うじゃんか!いい感じだよ!」 

俺は二人と顔を見合わせた。
巽と晴生もなんでだろうという顔をしている。 

「んじゃ、連携はこの感じで行くか!次は俺も本気出して……―――いッ」 

そう言ったところで、夏岡先輩が痛がるような仕草をし、左足に手を伸ばした。
さっきからずっと気になっていたけど、夏岡先輩は左足、弟月先輩は右手に太いリングがずっとついたままだった。 

「だ、大丈夫ですか?」

俺が夏岡先輩に声をかけると、痛そうに顔を歪めたまま笑う。

「いやあ…なんかドイツの奴の一人にこれつけられちゃってさあ…。
あんま言いたくなかったんだけど、ずっと痺れて痛いんだよね、しかも取ろうとしたら余計に締め付けられるし」 

「……」

「ま、さっき本気出すって言ったけど正直これじゃ出せないんだけどね!でも大丈夫!なんてことなーい!」

そう言った夏岡先輩の額には汗がにじんでいた。 

あのリングは付けた本人でないと取り外せないとかなんだろうか。
だとしたら、夏岡先輩と弟月先輩はいつまであれに苦しめられるんだ?
20日間ずっと?いや、もしかしたらそれ以降もずっと苦しめられるかもしれない。 

本当に逃げ続けるだけでいいんだろうか。
状況は悪化していく一方かもしれない。
俺の中でたくさんの疑問が沸いたが、それを打ち消すような明るい声で夏岡先輩が喋る。 

「俺達がこんなだからって手加減したら太一にぶっ殺されるぞ!
さ、もっかい!今の感じ忘れんなよ!」

そう言って夏岡先輩は宙に舞った。 


----------------------------------------------------------------------- 


【弟月 太一】


そうだ、俺と陣は今はこの腕輪のせいで対した戦力にならないだろう。
今は痺れる程度しか電流が流れていない。
これでも結構つらいがこれ以上に電圧を上げれるとするなら、俺たちは使い物にならなくなってしまう。 

だから、少しでも動ける間に教えられることを後輩へと教える。
それは、先輩の務めだと俺は思っている。


そこから、イデアが晩飯の時間だと呼びに来るまで実践訓練は続けられた。
後20日。逃げ切れるのが一番なのだがきっと敵もそこまで馬鹿じゃない。

なにか仕掛けてくるのは目に見えている。
来る日のために俺は訓練メニューをこなしていく。
イデアが俺たちに教えてくれたように。 


どうやら、俺たちは現(裏)生徒会メンバーではないし、この腕輪が付いているからか。
放課後などに襲われることはないようだ。
なので、訓練所で夢原と三木の作った飯を食ってから三人で帰ることにした。

夢原はイデアに聞いてここに来たようだ。
陣が怒っている。

この二人が話し始めると特に話すことはないので二人の様子を後ろから見ながら歩いていく。

「それくらいにしとけ、陣。」

「な!太一だって、今回の敵がやばいのわかってんだろ?」

「わかってるが…、言っても聞かないのが夢原だろ?」

一方的に怒っていた陣に言い返すわけでもなく只聞いていた夢原がにっこりと微笑んだ。
結局陣は負けたと言わんばかりに頭を掻いている。


「危ないとおもったらぜってーにげろよ?無理すんな、約束な?」

ここの会長と副会長の絆は深い。
問題は三木だ。
思わず訓練所がある山を見つめる。

彼女は今回の件でも自分のことを責めているだろう。
神功は彼女を人形のようにしか扱っていないからな。 

とても、大切な人形のように。


それが悪いとは言わないが、守るだけでは駄目なこともある、と、俺は思う。
夢原が俺の名前を呼んだので足を急がせた。 


----------------------------------------------------------------------- 


【千星 那由多】


正直ご飯も喉に通らないぐらいに疲れていたけど、三木さんと夢原先輩が作ってくれたご飯を食べないわけにはいかなかった。
とにかくめちゃくちゃうまかったので、箸が進んだからよかったけど。 

夢原先輩と会うのは今日が初めてになる。
どうやら少しの間、前(裏)生徒会の副会長をやっていたみたいだった。
三木さんとはまた違った意味でのかわいらしい人で、俺からしてみるとかなり大人の雰囲気が漂っていた。
明るい髪色のパーマヘアからいい匂いがするし…。

そんなことを考えてたら巽がにこにこと言うか、にやにやしだしたので、マジマジと見つめるのはやめておいた。 



夏岡先輩達も家へと帰り、夜もすっかり更けた。
ご飯を食べた後、疲れた体を癒すために三人で浴場へと向かう準備をする。 

そこで俺はある重大な事実に気づいた。 



「…パンツが…ない…!!!」 



着替えは今日夏岡先輩に家に寄ってもらい持ってきてもらったので、何着かあったものの、何故かパンツだけなかった。
鞄から服を取り出して中身全体を見てみたが見当たらない。 


----------------------------------------------------------------------- 


【日当瀬 晴生】


久々に実のある訓練だった。
千星さんは字を書いて炎を確実に出せるようになっていた。
発動までに時間がかかるから本人は使い物にならないと言っていたが、自然の力を使えるなんて正直すごいと思う。
あれは武器の能力かと思っていたのだが、どうやらあれが千星さんの特殊能力だそうだ。
後、特殊能力が目覚めてないのは俺だけになる。

やっぱり、俺にはその素質がないのかもしれない。

そんなことを思いながら風呂に行く準備をしていたら千星さんが叫んだ。 



「…パンツが…ない…!!!」


俺と千星さんはほぼ同時に天夜に視線を向ける。
しかし、今回は犯人ではないようで両手を顔の前で振っていた。

「入れ忘れ…ですかね…。よかったら俺の履きます?」

「あー。だめだめ!!那由多はトランクス派なんだ!俺の貸してあげるよ!!」

俺のまだ使い古していないきれいなボクサーパンツを貸そうとすると天夜が横から入ってきた。 

つーか、なんでお前が千星さんが何のパンツ履いてるか知ってんだよ! 

「ああ?!サイズ的にはこっちの方が絶対合いますから一回履いてみてください!ボクサーもトランクスと違う良さがあるんで!!」 

天夜をにらんでから更に千星さんに自分のパンツを押し付ける。
天夜も負けずとパンツを押し付けてきた。
そうやって悶着している間にどこからともなくイデアさんが姿を現した。 


----------------------------------------------------------------------- 


【千星 那由多】


「ちょっやめろって!」


男のパンツを押し付けられるほど不快なものはない。
それにどう言われようが俺はこいつらのパンツを履く気はなかった。
仕方ないから今日履いてるやつを裏返して履くか…と思った瞬間、イデアが急に現れた。
二人は反射的に自分のパンツを後ろへと隠す。

「な、なんだよ?イデア…」

イデアは赤い瞳でこちらを見つめた後、後ろに回していた手を差し出した。
一瞬鞭を出されるのかと思って身体がビクリと反応したが、イデアの手には白いブリーフが握られていた。 


「…は?」 


三人同時に固まる。
それを見てもイデアはもちろん顔色ひとつ変えない。


「コレを履け」


もしかして、気を使ってくれているのだろうか。
俺は顔をひきつらせながらそのブリーフを見つめる。

「いやいや…さすがに俺もうブリーフは履かないお年頃だぞ…?」

「左千夫のパンツなのにカ?」


その言葉に俺達は目を見開いた。
会長は………ブリーフ派だったというのか!?
身体に電流のような衝撃が走る。

確かにこいつらにパンツを借りるよりも、会長のパンツの方が100倍はマシな気がする。
それに今日はだいぶ汗もかいたし、正直自分のパンツも裏返して履くのはかなり不快だった。 

暫く押し黙った後、俺は口を開く。



「わかった、それを…俺は履く!!!」



まるで重大決心をしたような表情で。 


----------------------------------------------------------------------- 


【天夜 巽】


折角那由多に僕のパンツを貸して上げれるチャンスだったのに。
それはイデアちゃんによって阻まれてしまった。

新しい下着とかなら貸したことはある。
勿論服も。でも、着たことのある下着だけはなかった。

新たな、那由多との思い出が、と、思ったんだけど。
さすがにヒューマノイドと言え、女の子の前でパンツのやり取りをする趣味は俺にはないので、咄嗟に隠してしまった。
日当瀬はシャイなので余計だろう。


イデアちゃんが取り出したものはブリーフだった。
それは、それで久々にブリーフ姿の那由多が見れるからいいかと思っていたが、
なんとそれは会長のものであった。



ぇぇええええ!!!!?



想像できない、あの会長がブリーフだなんて。
俺は想像して思わず心の中で笑ってしまった。

だって、あり得ない。
あの、容姿端麗で頭脳明晰な会長がブリーフだなんて。 

そればかりに気を取られていたら、更に那由多から上がった言葉に俺は驚いた。



―――ぇぇぇぇえええええええ!!!!!!



履くの?那由多、それ履くの?
会長のだよ?
俺たちのは嫌がってたくせに!!

正直俺はすごい表情をしていたと思う。
ブリーフ姿の那由多は見たいが、そのブリーフは会長のものだその葛藤に俺は何も言うことができずに頭を抱えた。 


----------------------------------------------------------------------- 


【千星 那由多】


「…まぁ…会長のだなんて嘘だガナ」


イデアが何かつぶやいた気がしたが、良く聞こえなかった。

結局その後、俺は会長のブリーフを履くことで満場一致…になった。
さすがに二人の前でその姿を見られるのはめちゃくちゃ恥ずかしかったから、着替える時は隠れて着替えたけど。 



全員寝静まったのを確認した後、俺は一人携帯を持ちこっそりと布団から抜け出した。

そのまま誰にもバレないように外へ出て、イデアアプリを解除する。
剣を握りゆっくり目を瞑り精神を集中させ、俺は火という文字をゆるやかに宙へと描いた。 

赤い線が火の塊になる。

「…違うんだ、これを纏いたいんだよ…」
そう言って剣を振って火の塊を霧散させる。

今日の連携で三人での闘い方はなんとなく掴めたけど、やはり自分の力がまだまだ足りない。
イデアに言われたことを思い出しながら、精神を集中させ何度も何度も字を書いた。

どうにかしてこれを完成させなければ、多分俺の実力じゃこれから先やっていける気がしない。
相変わらず火の塊しか生み出せないことに、大きくため息をつき項垂れる。

すると、聞き覚えのある声が俺の名前を呼んだ。
声の方へ振り向くと、そこにはパジャマ姿の三木さんが立っていた。 


----------------------------------------------------------------------- 


【三木 柚子由】


部屋にいても全く寝付けないために外に出ると人影を目にした。
ここには私たちは居ないはず…。
日当瀬君たちはもう寝てるはずだし。
不審者かどうか確かめないと、と、近づいていくとその姿は千星くんだった。



「千星くん?」



どうやら、彼は一人で自主練習をしていたようだ。
邪魔かな…とも、思ったんだけど。
私もやりたいことがあったので、うまくいかないのか項垂れている千星くんに声をかけてすぐ近くまで歩いていく。 

「あの。……私も一緒に………して、いいかな?」

携帯を握りしめながら下から見上げるようにお願いする。
どうしても、萎縮するくせは抜けず、もじもじとしてしまった。

そう告げてから私は自分の胸元に手を入れていった。 


----------------------------------------------------------------------- 


【千星 那由多】


パジャマ姿の三木さんを見るのは初めてだったので、それだけでも無駄に緊張した。
それにこんなところで二人きりなんてのが妙に変なムードを誘う。

「ど、どうしたの?」

若干声が裏返ってしまったことを後悔した。
俺は近づいて来た三木さんから視線を軽く外す。
そして、三木さんの口から出てきた言葉に心臓が飛び跳ねた。 



いっしょにしていい?



「えっ…いっいっしょに…って…えっ?」

戸惑ってしまったがよく考えると、多分「一緒に練習してもいいかな」の意味だったんだと思う。
一番最初に彼女に会った時もそうだったが、肝心な主語が抜けて話を進めるため、俺は変に誤解をしてしまうことが多い。 

テンパっている思考を落ち着かせようとしていると、三木さんが自分の胸元に手を突っ込んだ。 



うええええええええ!!!!!



ちょっもっもしかしてっ俺が間違ってる!?

俺の捉え方が間違ってる!!!???

顔が真っ赤になり変な汗が吹き出し始めた。

「ダッダメですよ!三木さん!こんなところ………で」


しかし、次の瞬間三木さんが取り出したのは、会長の携帯だった。 


「…え?」 


----------------------------------------------------------------------- 


【三木 柚子由】


「……?こんなところで?」

千星くんも練習してたのになんでだろ?
千星くんまで、私は練習する必要がないって言うのかな。 

そう思ったけどどうやら違う様子で顔を真っ赤にしながら何もないと首を振っていた。
自主練習で疲れたのかな。


左千夫さまのアプリはすごく難しい。
彼は一瞬で解いてしまうけど、私には一分程度は掛ってしまう。

勿論私に解きにくいようにとアプリの難易度を上げていることを私は知らない。 


「か、かいじょ……。」


黒い淡い光に包まれるようにして片方が三又、もう片方が二又の槍が姿を現す。
その状態では重たいので三又の方は取り外し、二又だけにする。
こんな重いものを彼は片手で簡単に振り回している。 


やっぱ、私には何も協力できないのかな。
千星くんが横に居るのも忘れて肩を下げた。 


----------------------------------------------------------------------- 


【千星 那由多】


三木さんは取り出した会長の携帯を解除させ、武器にした。
どうやら一緒に練習しよう、で合っているみたいだ。
俺は期待の入り混じったため息を吐いて捨てた。

三木さんに視線を向けると、肩を落として落ち込んだそぶりをみせていたことに、ハッとする。
どうやら三木さんも色々と悩んでいるようだった。


それにしても…この会長の槍の似合わなさと言ったら…。
またそのギャップがいいのかもしれないが。


再び違う方向へ飛ぼうとしている思考を頭を振って紛らわす。

「いいですよ!やりましょう!俺も一人で煮詰まってましたし…俺なんかでよければ」

そう言って慌てて笑顔を返した。

三木さんも俺達の力になりたいとずっと思ってきたはずだ。
今ここで彼女を女性として扱い、「危ないからやめよう」なんて言えるわけもなかった。
俺だって強くなりたい、それは三木さんもきっと同じだ。 

「こういうの俺やったことないんで、よろしくお願いしますね」 

三木さんに軽く頭を下げた後、剣を構えた。 




軽く息があがるくらいの組手を終えると、時間も12時を回っていたため、三木さんを部屋へと送る。
部屋の前まで来ると、言うか言うまいか迷ったが、とりあえず…と三木さんに声をかけた。

「あの……俺も強くなりたいです!だから…三木さんも一緒に強くなりましょう!!
またいつでも付き合います!じゃあ、おやすみなさい」

そう言ってから三木さんの返答を待たずに俺はそそくさとその場を後にした。


また明日から、九鬼達との攻防戦が始まることに正直息が詰まる思いがしたが、やるしかないのだと自分に言い聞かせ、俺は部屋へと戻った。 





   
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

兄になった姉

廣瀬純一
大衆娯楽
催眠術で自分の事を男だと思っている姉の話

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

奇妙な日常

廣瀬純一
大衆娯楽
新婚夫婦の体が入れ替わる話

処理中です...