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isc(裏)生徒会
逃亡
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【ローレンツ】
名前だと?
なんだこいつは、ウザいにも程があル。
人を馬鹿にしたようなオーラを纏いやがっテ。
私は盲目で姿形は見えナイが、その人物のオーラのようなものがワカル。
ナツオカと言った人物はワタシがキライな部類のクソ明るいオーラを纏っていル。
ディータ以上にウザい。
「キサマに名乗る名などナイ…」
ワタシがぼそぼそとそう言うと、ナツオカという人物は聞き取りにくかったのか大きい声で聞き返してキタ。
「えっ!?なんて!?
…つーかあんた俺のクラスの留学生じゃん!名前知ってるし!ロー…ロー…ローレンツ!だろ?」
ワタシが怒りで青筋を立てたのが隣のフィデリオに伝わったのか、肩に手を置いてきたのが肌に感じられた。
落ち着けってコトか!?…コイツもコイツで口数が少ないカラうざい!!!
「ボクはフィデリオ…お話はあとにシテ…戦ってもイイかな…?」
「ああ、いーよ!そのつもりだったし!!あんたら礼儀しらなさそーだったからな!
名前言ってくれてサンキュー……じゃあ…行くか」
ナツオカとオトヅキのオーラが一気に変わる。
臨戦態勢というヤツか。
空気がピンと張りつめ、ワタシも手に持っていた本を開いた。
ナツオカが飛んだ気配がシタ。
どうやらこいつは自在に飛べるようだ。
気配のする方へ本の1ページを切って幻術とトモにナツオカの方角へと放り投げた。
その紙は無数のナイフに変わり、いつまでも追いかけてくるといった幻術をかけてイル。
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【弟月 太一】
あー…敵さんが陣のことをうざがってる。
見ただけでわかる。
つか、正直俺もウザいと思う。
まぁ、名前を言ってくれるほうが時間が稼げていいけどな。
陣の臨戦態勢を見届けるとすぐに俺もそれを追いかける。
陣は特殊能力で空を飛べる。
マントを付けているのでさながら正義のヒーローのようだ。
それが彼の理想であり、彼が強い理由でもある。
ローレンツという男から放たれた紙はナイフへと姿を変える。
信じなければ幻術というのはどうってことない代物なのだが、この男の繰り出す魔の空間は神功と同じで一目見ただけでナイフだと知覚させられる。
―――ならば、撃ち落とせばいい話だ。
俺は二丁拳銃を構え直し、陣に向かって飛んでいくナイフをひとつ残らず撃ち落とす。
「……、相棒を攻撃したくば、先に俺を倒してからにしてもらえるか」
銃を持ったまま親指の関節で眼鏡を外し捨てる。
俺はアプリを解除した際、コンタクトも一緒に装着してもらうようにしてあるので戦闘中は眼鏡は必要ない。
そして、もう一つの能力もそれにより使えるようになる。
その、能力は戦闘に全く関係ないのだが。
俺は一度神功に対峙している三人を見てから、目の前の二人に瞳の焦点を合わせた。
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【ローレンツ】
俺の放った幻術のナイフの気配が全て消える。
どうやらオトヅキに消されてしまったようダ。
音やオーラからして、彼の武器は二丁拳銃。
「チッ…」
そして、オトヅキの視線がこちらに向いた。
なにやら見透かされるような嫌なオーラだ。
だがこれと言って攻撃を仕掛けてくるわけではないようだっタ。
それにしても…ボーッと突っ立ってるフィデリオがまだ動かナイ。
こいつはマイペースすぎて本当にイヤになる。
「フィデリオ、何をしている」
「…いや、空をトブって…ジャパニーズアニメの…」
フィデリオが続けようとしたところでワタシはカレの頭を本で引っぱたいた。
「さっさと攻撃シロ!!!」
「……うん」
そうフィデリオが言うと鎖の先にリングが付いた武器を取り出したのが伝わってきた。
フィデリオの武器はそのリングで相手を拘束し、微電流を流す。
特殊能力は静電気、と言ったなんとも側にいるダケで全身がピリピリしてしまうようなヤツだ。
フィデリオはリングを魚の竿のようにナツオカへと振り投げる。
リングは猛スピードでカレに噛みつく様に拘束しようと二つに割れた。
ナツオカの「きたきた~!」という声が空中で聞こえタ。
本当に虫唾が走る声だ。
ワタシは下にいるオトヅキに攻撃をしかけようと本を開いた。
-----------------------------------------------------------------------
【弟月 太一】
なぜだか前で漫才が始まった。
陣も楽しそうにそれを見ている。
俺は肩を竦めたが、より‘視れる’方が俺にとっては都合がいい。
どうやら、それもひと時で終わった様子で俺にはローレンツが立ちはだかる。
正直、神功に比べるとプレッシャーはそんなになかった。
幻術にはその強さの種がある。
寧ろ、種がない幻術は弱い。
しかし、種を知ってしまっても避けれないものは避けれないし、かかる時は掛る。
掛ってしまうとそれ以上の力をぶつけるしかなくなってしまう。
神功の幻術は「動」を用いている。
それに加え彼はイデアアプリを手にする前からその能力を使えていた。
この男の種が分かれば少しは対抗できるようになるのだが、はたしてそこまで分かるかどうか。
「君は目が、見えない。違うか?」
とりあえず、時間を稼がなくてはならない故に言葉を交えながら銃を構える。
無言で彼は本のページを破り捨てこちらへと飛ばす。
先ほどと同じようにナイフが俺を襲ってくる。
一枚から、何本もの鋭利なナイフへと姿を変えるから厄介だ。
休む間もなく、銃でナイフを撃ち落とす。
そして、その合間を縫うようにして俺はローレンツの元に走っていく。
俺は拳銃を扱うが得意とするのは接近戦だ、彼はどうやら遠距離を好むようなので俺との相性は最悪だろう。
後ろから追いかけてくるナイフから逃げるようにローレンツの真近くまで来る。 彼に二発銃を撃ち込んでから、バク宙をするようにして自分を追跡してくるナイフを避け、
休むことなくローレンツの周りを駆けながら次は離れた距離からナイフを撃ち落としていった。
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【夏岡 陣太郎】
「うお!割れた!!」
フィデリオが振り投げたリングが二つに割れ、俺の方へと飛んでくる。
なんだかあれに捕まったらヤバそうだ。
俺はそのリングから逃げるように空中を飛びまわったが、やはり俺の後に着いてくる。
飛び回るのをやめ、空中で停止した。
「もう…厄介だ…な!!!」
マントを翻すと、広がったマントが5つに割れ鋼のように硬くなる。
それが手の平のように動き、追ってきているリングを弾き飛ばすように地面へと思い切り叩きつけた。
地面で電気のようなものが瞬時に走り、俺は息をついた。
あれに捕まったらビリビリビリー!…って感じか?
下にいるフィデリオは落ちたリングに視線を向けている。
そこから動こうとも攻撃をしようともしない。
「なんかマイペースすぎて戦い方がわかんないな…」
俺は頭を掻きながら地面近くへと飛行していく。
太一はローレンツとやりあっていた。
メガネを掛けていないアイツは戦闘中はよりクールさが増し、いつみてもその戦い方には惚れ惚れしてしまう。
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【弟月 太一】
やはり動きはそんなに速くない。
神功のように肉弾戦のできる幻術師は珍しい。
大体のゲームと同じように魔法使い類は近距離戦士の後ろに隠れて戦うものだ。
俺に一対一で戦いを挑んできたこいつが馬鹿だったな。
それとも、何か策があるのか。
イデアのスパルタのお陰で、俺は疾走し続けてもなかなか息が切れることはない。
かなりの時間疲れを知らず戦える。
俺たちは少数で生徒会を組んでいた為近距離戦士が居なかった。
それで俺がそれに選ばれた訳だが。
不運なことに特殊能力すら戦闘向けではなかった故修業は拷問のようだったが。
地面を踏む感覚がしっくりくる。
手の動きでやつの攻撃軌道も把握できてきた。
次、奴が紙を破ったときが最後だ。
今、飛行しているナイフを撃ち落とすと同時に、ローレンツが紙を破った瞬間、
その目と鼻の先まで風を切るように疾走する。
彼が紙をナイフ化して放つのをその目と鼻の先。即ちド近距離で銃の腹で弾き―――。
そのまま、銃口を相手の額に突きつけた。
「あれ?太一くん。あ、陣ちゃんも!」
そのときに聞こえたかつての勝利の女神の声はこの現状には出来すぎている。
ローレンツの口角が上がった、そして奴の背後にはすでに実体化したナイフが先ほどの数倍蓄えられていた。
彼の非道な作戦を認識すると、俺は踵を返し全速力で走りだす。
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【夏岡 陣太郎】
暫く低空飛行をして太一とローレンツの戦いを見ていた。
そして、太一がローレンツの額に宛がった瞬間だった。
「―――ッ心愛!!!」
幻術の結界の中に入ってきたのは、中学時代からの腐れ縁、そして前女副会長の夢原心愛だった。
くそ!!どうして入ってきた!!
心愛には今日のことは伝えていなかった。
だが、結界の中に入れる資質が彼女にはある。
幻術を全て見破れるわけではなかったが、校内で結界を張っている時には入っちゃダメだってあれほど伝えていたのに…!!
ローレンツが無数のナイフを心愛に向けた。
太一が心愛の元へと走ったと同時に俺も全速力で心愛の元へと飛ぶ。
「くっそ…!」
目を丸くして驚いている心愛の表情が見えた。
俺はマントを翻し、心愛の全身を包み込むように守る。
太一は俺が防ぎきれなかった幻術のナイフを二丁の拳銃で撃ち落とした。
だが、守るのに気を取られていた俺達に、フィデリオのあのリングが俺の足、そして太一の右腕にガッチリと装着された。
「ぐああっ……!」
そのリングから電流が流れたのか目の前が白くなり身体がビリビリと波打つ。
マントで身を包んでいる心愛が声なき声を上げて叫んだのが聞こえた。
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【神功 左千夫】
「ぐああっ……!」
夏岡陣太郎と弟月太一の声が響く。
視線だけ向けるとなぜかここに、前副会長がいた。
彼女は柚子由と同じで特殊能力を有していないし、武器もない。
ほんの一瞬、普段なら何ともないくらいの隙をついて九鬼が殴り込んでくる。
「――――くっ!!」
槍は間に合わなかったので彼の繰り出す拳を右腕に当てる。
ミシッと骨が軋む嫌な音が聞こえた。
その殴られた勢いに乗りながら後方へと下がる。
これ以上の足止めは無理だと判断し、小さく息を逃がす。
三人を相手に精神体の僕もかなりのダメージを受けている。
`退きます。僕が目隠しを張りますのでその内に…´
夏岡陣太郎達へと頭の中で電信を送る。
そのまま、ふわりと飛び上がるようにして後ろへと下がった。
「さて、そろそろ、僕も帰りますね。
いくら、僕とは言えこれ以上、無益な戦いはしたくないので。
では、21日後に、九鬼。」
そのまま、結界内に靄のようなものを張り巡らせる。
視界を限り無くゼロにして直ぐに僕は限り無く魂に近い状態まで実体化を、薄くして敵の幻術師の前まで移動する。
彼は調度僕の幻術を掻き消そうと本を開いていた。
彼の目の前でいきなり実体化すると、彼は目を見開いていた。こういう表情は堪らない。
「邪魔しないで貰えますか。」
右腕はまだ痺れて使えなかったので左手で彼を突き刺しに掛かる、本で防御されたがそのままそのほんに槍を差し込む。
予定通り、武器の破壊は済んだ。
相手に屈辱を与えるために、笑みを浮かべる。
他のメンバーの気配が消えたのを確認してから僕は本体に意識を戻す為に実体化を解いていく。
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【九鬼】
「逃げるの?」
ボクは濃い霧の中、左千夫くんの真後ろに立っていた。
ハッと振り向いた彼の両腕を羽交い絞めにし、目を見開いた。
「オレから逃げれると思ってるのが大間違い」
止まったままこちらに視線を向けている彼の頭の中は、何故実体化が解けていかないのか、といったところだろう。
目と口端を吊り上げ、ボクはにっこりと彼に笑いかける。
「君がマヤカシなら、僕は…リアルって言うのかな?
偽物を本物のように扱うことができるし、本物を作り出すことだってできる。
だから、君はボクから逃げられないんだヨ、左千夫クン」
彼が掴まれている腕を振りほどこうとしたので、そのまま正面から地面に押し倒し、背中へと乗り上げる。
そして、彼の身体に身を寄せ、耳元近くへと顔を持っていく。
ボクの嫌いな甘い香りが鼻孔を刺激してきたので、彼の耳を舐め上げ囁いた。
「ザンネンでした」
そう言って俺は彼の背中から心臓部分へ手を一気に突き刺し、地面に到達するまでズブズブと抉る。
生暖かい血の感触がボクを染めあげていった。
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【神功 左千夫】
「な…に…!?」
僕は今限り無く存在しないものに近い。
肉体を原子レベルまで細かくしているようなものだ。
捕まえられる訳がない。
しかし、そんな僕の考えを覆すように九鬼は僕を捕まえる。
しかも触れられると虚像に近くなっていたものが実体化させられてしまう。
そうなると、力で逃れるしか無いが、本体で無い僕には彼を振り払う力は無かったようだ。
「ぐっ!!!――――――はっ、……そんな、…まさか……、―――――――ッ!!!!!ぁ………か、はっ!!」
地面に押し付けられるだけでも屈辱なのに耳に感じる柔らかい感触に背筋が凍る。
直ぐに感じたことのない冷たい激痛が体を走り抜ける。
すべての感覚が痛みで埋め尽くされ、目の前すら赤く染まる。
僕は大量に吐血し、そのまま息をひきとる。
すると、全身が黒い霧に包まれるようにして霧散し始め肉体は消滅していったが、
肝心なコアとなる魂は九鬼の手から逃れることができず、唯一実物であった携帯のみが柚子由の元に帰っていった。
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【夏岡 陣太郎】
左千夫の悲痛な声が聞こえた気がした。
この霧は声もあまり届かなくなるため、確証は持てなかったが。
そしてその声の後すぐに目の前を覆っていた濃い霧が徐々に消えていく。
左千夫が本体に戻ってもしばらくはこの霧は残るはずだ。なんでだ?
人の形が見えてきたところで、数人の人影が見えた。
誰かが地面に倒れ込んで、その上に人が乗っている。
「…左…千夫…!!」
俺はその光景に絶句した。
左千夫の身体に九鬼の腕が刺さり、大量の血が地面を真っ赤に染めていた。
「左千夫!!!左千夫ッ!!!」
大声で叫ぶが、声は届かないまま左千夫の身体は黒い霧に包まれ消えて行った。
九鬼が地面に刺さっている手を引き抜き、眉を下げて俺達を見据える。
「消えちゃったネ。
ま、コアはこれみたいだから君んとこの会長サン、貰っていくヨ」
そう言って俺達に左千夫のコアである黒く丸い物体を見せ、口端を上げて笑い俺達に背を向けた。
「じゃ、ミンナいこっか」
「待っ…!」
「今ここで闘ってもキミ達勝てないでしょ?ボクの気が変わらないうちに早く逃げなヨ」
そう言って視線だけをこちらへと向ける。
その黒い笑みに全身の身の毛がよだった。
表情から感じ取られる圧倒的な気迫は、俺達なんて一瞬で捻りつぶすと言わんばかりのものだった。
彼らは姿を消し、ローレンツの幻術も解けたのか疎らに人が現れ始めた。
マントを携帯に戻し、怯えて今にも泣きそうに必死で謝る心愛の頭をポンポンと撫でた。
「怖がらせてゴメンな。今日はもうとりあえず帰れ。後輩がこれから大変なんだ。
また詳しい事情は今度説明するから」
そう言うと心愛は小さく頷いた。
そして、俺と太一は(裏)生徒会室へと向かった。
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【日当瀬 晴生】
くっそ……!
会長、神功と戦った時もそうだったが、相手に幻術師がいると俺は全く歯が立たない。
それどころか、足手まといだ。
会長や夏岡さんのお陰で何とか、(裏)生徒会までたどり着くことができた。
千星さんの口から零れ落ちる疑問に俺は口を開いた。
~~~リコール宣言~~~
○副会長が率いた集団と現副会長が率いた(裏)生徒会が争い、勝利した方が(裏)生徒会となる。
○現(裏)生徒会長が敗北、解散を認めた場合は即副会長が、(裏)生徒会長となる。
ただし、現(裏)生徒会長が敗北を認める前に死亡、意識不明になった場合はこの限りではない。
○現(裏)生徒会の勝利、または20日間決着がつかなかった場合は解散されない。
○現(裏)生徒会が敗北を認めておらず、現(裏)生徒会のメンバーが一人でも20日後残っていると解散させることは出来ない。
○敗北とは意識不明、死亡、敗けを認めた場合、または現(裏)生徒会のヒューマノイドが敗北を認めた場合を言う。
○ヒューマノイドは基本現(裏)生徒会につくが意向があればこの限りではない。
○決闘は放課後、休み時間、休日に秘密裏に行われ学業の本分を阻害してはならない。
○ヒューマノイドのもと現(裏)生徒会会長により、決闘日時を組むことができる。
リコール宣言とは要約するとこんな感じだ。
他にもまだこまごまとしたルールはあるが、これだけ伝えれば全員わかると思う。
「会長が俺たちを逃がしたのは、きっと20日間逃げ切る道を選んだからだ。
その前に、決闘の日程を組もうとしたが、あの白髪の男が連れてきたヒューマノイドが逃げちまったからな。」
ヒューマノイドは政府が作ったものだ。
なので彼らが見たり聞いたりしたものはなりよりも物証として重視される。
逆にヒューマノイドのいないところで何をしてもそれは認められないということだ。
「サチオが逃がしたと言うことは、ココも危ないかもしれないナ。
サチオ達が合流したらスグに場所を移動する、用意してオケ。」
-----------------------------------------------------------------------
【千星 那由多】
リコール宣言…なんだか難しいが、俺達は「解散」を副会長に言い渡されたということだ。
なぜ銀髪の男が俺達を解散させたいのかはわからない。
そもそもあの男を見たのも俺は初めてだったし…。
とにかく、俺達は戦うのではなく、20日間逃げ切るということらしかった。
20日間もどうやって逃げきるのだろうか?
授業中以外は奴等に狙われるのは確実だった。
もうみんな一人での行動はできないということになる。
俺はようやく落ち着いてきた鼓動に一息ついた。
会長達のことが気になるけど…今は先にここを出る準備をしなければならない。
「ナユタ」
イデアに急に声をかけられ俯いていた顔を上げた。
「ケイタイを返してオク」
手渡された携帯は特に変わりはなく、俺の手元に返ってきた。
「オマエがアプリを解けないカラ難易度を下げてオイタ。ナユタにシカわからナイ問題だ」
そういやアプリを解くのが遅いこと責められたな…、と携帯の画面に目を落とした。
「…ソレト…」
イデアが話を続けようとしたその時だった。
三木さんがその場にへたり込むように急に座り込んだ。
「三木さん!?」
何事かと思い、みんなが三木さんに駆け寄ると、さっきよりも顔色が悪い。
「どうしたの?」
巽が心配をして声をかけた。
三木さんは手元の携帯を俺達にゆっくりかざす。
それは、三木さんが使っているピンク色の携帯ではなく。
「それ…会長の……!」
-----------------------------------------------------------------------
【三木 柚子由】
私の元に携帯が戻ってきた。
それは左千夫さまの幻術、実体化していた左千夫さまの身に何かあったということ。
「左千夫様が…。左千夫さま…を、助けにいかないと…」
私の声は震えていた。
頭が真っ白でなにも考えられない。
本体に戻っただけなら問題ないけど、私と左千夫さまは繋がっている。
でも、今はその気配が感じられない。
今までこんなことは無かったため、私は取り乱してしまった。
「無駄だ。もう、遅い。」
声の方を振り替えると、生徒会室の入口に見るからに辛そうな表情で夏岡先輩と弟月先輩が立っていた。
夏岡先輩が落とした言葉に目を見開く。
その後ろにいつもの笑顔は無くて、私は両手で顔を覆った。
-----------------------------------------------------------------------
【千星 那由多】
夏岡さんの言葉に激しく落ち込む三木さんに何も声をかけられない。
泣いているのか、泣いていないのかは、俺にはわからなかった。
俺達も言葉を失い、重苦しい雰囲気を裂くように弟月先輩が喋る。
「左千夫は九鬼に捕らえられた…とにかく話は移動しながらだ。
今はここからいち早く出よう」
「訓練施設に宿がアル。あそこならマダ特定はされてイナイカラ大丈夫ダロウ」
いそいそと弟月先輩が先導してくれているが、俺達の間には重苦しい空気が漂ったままだった。
それを見かねてか、夏岡先輩が三木さんの頭を撫でた。
「だいじょーぶ!左千夫は強い!俺が保障する!今は前見て行こう!
これから楽しい楽しい合宿だぞー!!みんな家に帰れないから覚悟しとけよ!!」
夏岡さんのハイテンションに、三木さんが少し笑った気がした。
この人の雰囲気は本当に場を和ませてくれる。
俺も無意識に食いしばっていた歯を緩めた。
今から俺達は20日間逃げ切らなければならない。
その間は学校へは通えるが家には帰れないってこと…。
家にも連絡を入れなければならない。
「那由多、行こう」
巽に声をかけられ俯いていた顔をあげ、俺達は訓練施設に続く地下通路へと降りた。
-----------------------------------------------------------------------
【弟月 太一】
三木が携帯に残っていた音声メモを再生させてくれた。
それは、神功からのメッセージで自分のことは自分で何とかするから、20日間逃げてくれと言う内容だった。
神功が精神体とは言え、あそこまで押されている姿は初めて見た。
それに、俺が得た情報は僅かなものだが、奴等の強さを実証するものばかりだった。
俺は予備の眼鏡をかけ直し、全員を先導するように地下通路を抜けていく。
「イデア。九鬼とか言う男はドイツのオースタラ高校の会長代理と出た。
それなら、君のアーカイブに情報があるんじゃないか?」
そう告げるとイデアから機械音がした後、電子音で情報を喋り始めた。
九鬼(本名不明)
愛輝凪高校経営者の甥である。
オースタラでは他校に敗北した(裏)生徒会を立ち直らせた男。
余りにも非情な戦いかたをするため「黒鬼」との異名を持つ。
素手を武器とし、背中からはえた羽で空を飛ぶことが出来る。
九鬼の情報は要約するとこんな感じだった。
俺がつかんだ情報もイデアの情報と大差ない。
俺の特殊能力は人を見るとそいつの経歴がわかると言うものだ。
勿論さっとみただけでは簡単な情報しかわからないが。
その他のメンバーも武器と戦闘スタイルがわかったので訓練所に移動しながら伝えていく。
唯一女性だけななにも見ることがかなわなかった。
それにしても腕についたままのわっかは厄介だ残念ながらこれの解除方法もわからなかったので俺は長く息を吐いた。
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【千星 那由多】
黒鬼…その異名を聞いただけでも九鬼がどんな人物なのかわかる。
会長も無事で済まされるはずがなさそうだ。
俺達は無事に20日間逃げ切れるんだろうか。
最悪なシナリオが頭の中を駆け巡る。
弱気になっちゃダメだ。
自分の力は信じられないが、みんなの力は信じられるはずだ。
そうこうしているうちに、地下通路がこの間イデアのスパルタ特訓で訪れた山へと繋がった。
「よし、とりあえずここまでくれば安心かな」
夏岡先輩が息をついて続ける。
「…ちょっと真面目な話するよ」
そう言った夏岡先輩は俺達の前に立った。
その堅く凛々しい表情に、息を飲んだ。
「この20日間、授業中以外、いつ奴らが襲ってくるかわからない。
正直、今日俺と太一がいなかったら、君らは完全に九鬼達に負けていた。」
その言葉が突き刺さり俯きそうになったが、ぐっと堪え夏岡先輩を見据えた。
「まだまだ君達はダメだ。弱い。きっと左千夫もそう思ってる。
だから今日九鬼が来た時も君達を戦わせずに、リコール宣言も逃げることを選んだんだろう。
…だけど…このリコール宣言が終わったところで、これから(裏)生徒会を君たちが担っていけるかも心配だ。
だから俺と太一でこの20日間、君達の訓練に付き合う」
そこまで言うと夏岡先輩はいつもの表情に戻った。
「太一の指導はキッツイよ~!自分がされてきたからね!」
弟月先輩の目がメガネに隠れて見えなかったが、黙れと言いたげな表情を夏岡先輩に向けていた。
とにかく、俺達はやるしかない。
この20日間を逃げ切って、(裏)生徒会を解散させずに九鬼の手から守るんだ。
より一層(裏)生徒会でいることの決意が固まった気がした。
それと共に、自分の弱さの蟠りも心の中に募って行くことに、強く拳を握りしめた。
名前だと?
なんだこいつは、ウザいにも程があル。
人を馬鹿にしたようなオーラを纏いやがっテ。
私は盲目で姿形は見えナイが、その人物のオーラのようなものがワカル。
ナツオカと言った人物はワタシがキライな部類のクソ明るいオーラを纏っていル。
ディータ以上にウザい。
「キサマに名乗る名などナイ…」
ワタシがぼそぼそとそう言うと、ナツオカという人物は聞き取りにくかったのか大きい声で聞き返してキタ。
「えっ!?なんて!?
…つーかあんた俺のクラスの留学生じゃん!名前知ってるし!ロー…ロー…ローレンツ!だろ?」
ワタシが怒りで青筋を立てたのが隣のフィデリオに伝わったのか、肩に手を置いてきたのが肌に感じられた。
落ち着けってコトか!?…コイツもコイツで口数が少ないカラうざい!!!
「ボクはフィデリオ…お話はあとにシテ…戦ってもイイかな…?」
「ああ、いーよ!そのつもりだったし!!あんたら礼儀しらなさそーだったからな!
名前言ってくれてサンキュー……じゃあ…行くか」
ナツオカとオトヅキのオーラが一気に変わる。
臨戦態勢というヤツか。
空気がピンと張りつめ、ワタシも手に持っていた本を開いた。
ナツオカが飛んだ気配がシタ。
どうやらこいつは自在に飛べるようだ。
気配のする方へ本の1ページを切って幻術とトモにナツオカの方角へと放り投げた。
その紙は無数のナイフに変わり、いつまでも追いかけてくるといった幻術をかけてイル。
-----------------------------------------------------------------------
【弟月 太一】
あー…敵さんが陣のことをうざがってる。
見ただけでわかる。
つか、正直俺もウザいと思う。
まぁ、名前を言ってくれるほうが時間が稼げていいけどな。
陣の臨戦態勢を見届けるとすぐに俺もそれを追いかける。
陣は特殊能力で空を飛べる。
マントを付けているのでさながら正義のヒーローのようだ。
それが彼の理想であり、彼が強い理由でもある。
ローレンツという男から放たれた紙はナイフへと姿を変える。
信じなければ幻術というのはどうってことない代物なのだが、この男の繰り出す魔の空間は神功と同じで一目見ただけでナイフだと知覚させられる。
―――ならば、撃ち落とせばいい話だ。
俺は二丁拳銃を構え直し、陣に向かって飛んでいくナイフをひとつ残らず撃ち落とす。
「……、相棒を攻撃したくば、先に俺を倒してからにしてもらえるか」
銃を持ったまま親指の関節で眼鏡を外し捨てる。
俺はアプリを解除した際、コンタクトも一緒に装着してもらうようにしてあるので戦闘中は眼鏡は必要ない。
そして、もう一つの能力もそれにより使えるようになる。
その、能力は戦闘に全く関係ないのだが。
俺は一度神功に対峙している三人を見てから、目の前の二人に瞳の焦点を合わせた。
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【ローレンツ】
俺の放った幻術のナイフの気配が全て消える。
どうやらオトヅキに消されてしまったようダ。
音やオーラからして、彼の武器は二丁拳銃。
「チッ…」
そして、オトヅキの視線がこちらに向いた。
なにやら見透かされるような嫌なオーラだ。
だがこれと言って攻撃を仕掛けてくるわけではないようだっタ。
それにしても…ボーッと突っ立ってるフィデリオがまだ動かナイ。
こいつはマイペースすぎて本当にイヤになる。
「フィデリオ、何をしている」
「…いや、空をトブって…ジャパニーズアニメの…」
フィデリオが続けようとしたところでワタシはカレの頭を本で引っぱたいた。
「さっさと攻撃シロ!!!」
「……うん」
そうフィデリオが言うと鎖の先にリングが付いた武器を取り出したのが伝わってきた。
フィデリオの武器はそのリングで相手を拘束し、微電流を流す。
特殊能力は静電気、と言ったなんとも側にいるダケで全身がピリピリしてしまうようなヤツだ。
フィデリオはリングを魚の竿のようにナツオカへと振り投げる。
リングは猛スピードでカレに噛みつく様に拘束しようと二つに割れた。
ナツオカの「きたきた~!」という声が空中で聞こえタ。
本当に虫唾が走る声だ。
ワタシは下にいるオトヅキに攻撃をしかけようと本を開いた。
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【弟月 太一】
なぜだか前で漫才が始まった。
陣も楽しそうにそれを見ている。
俺は肩を竦めたが、より‘視れる’方が俺にとっては都合がいい。
どうやら、それもひと時で終わった様子で俺にはローレンツが立ちはだかる。
正直、神功に比べるとプレッシャーはそんなになかった。
幻術にはその強さの種がある。
寧ろ、種がない幻術は弱い。
しかし、種を知ってしまっても避けれないものは避けれないし、かかる時は掛る。
掛ってしまうとそれ以上の力をぶつけるしかなくなってしまう。
神功の幻術は「動」を用いている。
それに加え彼はイデアアプリを手にする前からその能力を使えていた。
この男の種が分かれば少しは対抗できるようになるのだが、はたしてそこまで分かるかどうか。
「君は目が、見えない。違うか?」
とりあえず、時間を稼がなくてはならない故に言葉を交えながら銃を構える。
無言で彼は本のページを破り捨てこちらへと飛ばす。
先ほどと同じようにナイフが俺を襲ってくる。
一枚から、何本もの鋭利なナイフへと姿を変えるから厄介だ。
休む間もなく、銃でナイフを撃ち落とす。
そして、その合間を縫うようにして俺はローレンツの元に走っていく。
俺は拳銃を扱うが得意とするのは接近戦だ、彼はどうやら遠距離を好むようなので俺との相性は最悪だろう。
後ろから追いかけてくるナイフから逃げるようにローレンツの真近くまで来る。 彼に二発銃を撃ち込んでから、バク宙をするようにして自分を追跡してくるナイフを避け、
休むことなくローレンツの周りを駆けながら次は離れた距離からナイフを撃ち落としていった。
-----------------------------------------------------------------------
【夏岡 陣太郎】
「うお!割れた!!」
フィデリオが振り投げたリングが二つに割れ、俺の方へと飛んでくる。
なんだかあれに捕まったらヤバそうだ。
俺はそのリングから逃げるように空中を飛びまわったが、やはり俺の後に着いてくる。
飛び回るのをやめ、空中で停止した。
「もう…厄介だ…な!!!」
マントを翻すと、広がったマントが5つに割れ鋼のように硬くなる。
それが手の平のように動き、追ってきているリングを弾き飛ばすように地面へと思い切り叩きつけた。
地面で電気のようなものが瞬時に走り、俺は息をついた。
あれに捕まったらビリビリビリー!…って感じか?
下にいるフィデリオは落ちたリングに視線を向けている。
そこから動こうとも攻撃をしようともしない。
「なんかマイペースすぎて戦い方がわかんないな…」
俺は頭を掻きながら地面近くへと飛行していく。
太一はローレンツとやりあっていた。
メガネを掛けていないアイツは戦闘中はよりクールさが増し、いつみてもその戦い方には惚れ惚れしてしまう。
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【弟月 太一】
やはり動きはそんなに速くない。
神功のように肉弾戦のできる幻術師は珍しい。
大体のゲームと同じように魔法使い類は近距離戦士の後ろに隠れて戦うものだ。
俺に一対一で戦いを挑んできたこいつが馬鹿だったな。
それとも、何か策があるのか。
イデアのスパルタのお陰で、俺は疾走し続けてもなかなか息が切れることはない。
かなりの時間疲れを知らず戦える。
俺たちは少数で生徒会を組んでいた為近距離戦士が居なかった。
それで俺がそれに選ばれた訳だが。
不運なことに特殊能力すら戦闘向けではなかった故修業は拷問のようだったが。
地面を踏む感覚がしっくりくる。
手の動きでやつの攻撃軌道も把握できてきた。
次、奴が紙を破ったときが最後だ。
今、飛行しているナイフを撃ち落とすと同時に、ローレンツが紙を破った瞬間、
その目と鼻の先まで風を切るように疾走する。
彼が紙をナイフ化して放つのをその目と鼻の先。即ちド近距離で銃の腹で弾き―――。
そのまま、銃口を相手の額に突きつけた。
「あれ?太一くん。あ、陣ちゃんも!」
そのときに聞こえたかつての勝利の女神の声はこの現状には出来すぎている。
ローレンツの口角が上がった、そして奴の背後にはすでに実体化したナイフが先ほどの数倍蓄えられていた。
彼の非道な作戦を認識すると、俺は踵を返し全速力で走りだす。
-----------------------------------------------------------------------
【夏岡 陣太郎】
暫く低空飛行をして太一とローレンツの戦いを見ていた。
そして、太一がローレンツの額に宛がった瞬間だった。
「―――ッ心愛!!!」
幻術の結界の中に入ってきたのは、中学時代からの腐れ縁、そして前女副会長の夢原心愛だった。
くそ!!どうして入ってきた!!
心愛には今日のことは伝えていなかった。
だが、結界の中に入れる資質が彼女にはある。
幻術を全て見破れるわけではなかったが、校内で結界を張っている時には入っちゃダメだってあれほど伝えていたのに…!!
ローレンツが無数のナイフを心愛に向けた。
太一が心愛の元へと走ったと同時に俺も全速力で心愛の元へと飛ぶ。
「くっそ…!」
目を丸くして驚いている心愛の表情が見えた。
俺はマントを翻し、心愛の全身を包み込むように守る。
太一は俺が防ぎきれなかった幻術のナイフを二丁の拳銃で撃ち落とした。
だが、守るのに気を取られていた俺達に、フィデリオのあのリングが俺の足、そして太一の右腕にガッチリと装着された。
「ぐああっ……!」
そのリングから電流が流れたのか目の前が白くなり身体がビリビリと波打つ。
マントで身を包んでいる心愛が声なき声を上げて叫んだのが聞こえた。
-----------------------------------------------------------------------
【神功 左千夫】
「ぐああっ……!」
夏岡陣太郎と弟月太一の声が響く。
視線だけ向けるとなぜかここに、前副会長がいた。
彼女は柚子由と同じで特殊能力を有していないし、武器もない。
ほんの一瞬、普段なら何ともないくらいの隙をついて九鬼が殴り込んでくる。
「――――くっ!!」
槍は間に合わなかったので彼の繰り出す拳を右腕に当てる。
ミシッと骨が軋む嫌な音が聞こえた。
その殴られた勢いに乗りながら後方へと下がる。
これ以上の足止めは無理だと判断し、小さく息を逃がす。
三人を相手に精神体の僕もかなりのダメージを受けている。
`退きます。僕が目隠しを張りますのでその内に…´
夏岡陣太郎達へと頭の中で電信を送る。
そのまま、ふわりと飛び上がるようにして後ろへと下がった。
「さて、そろそろ、僕も帰りますね。
いくら、僕とは言えこれ以上、無益な戦いはしたくないので。
では、21日後に、九鬼。」
そのまま、結界内に靄のようなものを張り巡らせる。
視界を限り無くゼロにして直ぐに僕は限り無く魂に近い状態まで実体化を、薄くして敵の幻術師の前まで移動する。
彼は調度僕の幻術を掻き消そうと本を開いていた。
彼の目の前でいきなり実体化すると、彼は目を見開いていた。こういう表情は堪らない。
「邪魔しないで貰えますか。」
右腕はまだ痺れて使えなかったので左手で彼を突き刺しに掛かる、本で防御されたがそのままそのほんに槍を差し込む。
予定通り、武器の破壊は済んだ。
相手に屈辱を与えるために、笑みを浮かべる。
他のメンバーの気配が消えたのを確認してから僕は本体に意識を戻す為に実体化を解いていく。
-----------------------------------------------------------------------
【九鬼】
「逃げるの?」
ボクは濃い霧の中、左千夫くんの真後ろに立っていた。
ハッと振り向いた彼の両腕を羽交い絞めにし、目を見開いた。
「オレから逃げれると思ってるのが大間違い」
止まったままこちらに視線を向けている彼の頭の中は、何故実体化が解けていかないのか、といったところだろう。
目と口端を吊り上げ、ボクはにっこりと彼に笑いかける。
「君がマヤカシなら、僕は…リアルって言うのかな?
偽物を本物のように扱うことができるし、本物を作り出すことだってできる。
だから、君はボクから逃げられないんだヨ、左千夫クン」
彼が掴まれている腕を振りほどこうとしたので、そのまま正面から地面に押し倒し、背中へと乗り上げる。
そして、彼の身体に身を寄せ、耳元近くへと顔を持っていく。
ボクの嫌いな甘い香りが鼻孔を刺激してきたので、彼の耳を舐め上げ囁いた。
「ザンネンでした」
そう言って俺は彼の背中から心臓部分へ手を一気に突き刺し、地面に到達するまでズブズブと抉る。
生暖かい血の感触がボクを染めあげていった。
-----------------------------------------------------------------------
【神功 左千夫】
「な…に…!?」
僕は今限り無く存在しないものに近い。
肉体を原子レベルまで細かくしているようなものだ。
捕まえられる訳がない。
しかし、そんな僕の考えを覆すように九鬼は僕を捕まえる。
しかも触れられると虚像に近くなっていたものが実体化させられてしまう。
そうなると、力で逃れるしか無いが、本体で無い僕には彼を振り払う力は無かったようだ。
「ぐっ!!!――――――はっ、……そんな、…まさか……、―――――――ッ!!!!!ぁ………か、はっ!!」
地面に押し付けられるだけでも屈辱なのに耳に感じる柔らかい感触に背筋が凍る。
直ぐに感じたことのない冷たい激痛が体を走り抜ける。
すべての感覚が痛みで埋め尽くされ、目の前すら赤く染まる。
僕は大量に吐血し、そのまま息をひきとる。
すると、全身が黒い霧に包まれるようにして霧散し始め肉体は消滅していったが、
肝心なコアとなる魂は九鬼の手から逃れることができず、唯一実物であった携帯のみが柚子由の元に帰っていった。
-----------------------------------------------------------------------
【夏岡 陣太郎】
左千夫の悲痛な声が聞こえた気がした。
この霧は声もあまり届かなくなるため、確証は持てなかったが。
そしてその声の後すぐに目の前を覆っていた濃い霧が徐々に消えていく。
左千夫が本体に戻ってもしばらくはこの霧は残るはずだ。なんでだ?
人の形が見えてきたところで、数人の人影が見えた。
誰かが地面に倒れ込んで、その上に人が乗っている。
「…左…千夫…!!」
俺はその光景に絶句した。
左千夫の身体に九鬼の腕が刺さり、大量の血が地面を真っ赤に染めていた。
「左千夫!!!左千夫ッ!!!」
大声で叫ぶが、声は届かないまま左千夫の身体は黒い霧に包まれ消えて行った。
九鬼が地面に刺さっている手を引き抜き、眉を下げて俺達を見据える。
「消えちゃったネ。
ま、コアはこれみたいだから君んとこの会長サン、貰っていくヨ」
そう言って俺達に左千夫のコアである黒く丸い物体を見せ、口端を上げて笑い俺達に背を向けた。
「じゃ、ミンナいこっか」
「待っ…!」
「今ここで闘ってもキミ達勝てないでしょ?ボクの気が変わらないうちに早く逃げなヨ」
そう言って視線だけをこちらへと向ける。
その黒い笑みに全身の身の毛がよだった。
表情から感じ取られる圧倒的な気迫は、俺達なんて一瞬で捻りつぶすと言わんばかりのものだった。
彼らは姿を消し、ローレンツの幻術も解けたのか疎らに人が現れ始めた。
マントを携帯に戻し、怯えて今にも泣きそうに必死で謝る心愛の頭をポンポンと撫でた。
「怖がらせてゴメンな。今日はもうとりあえず帰れ。後輩がこれから大変なんだ。
また詳しい事情は今度説明するから」
そう言うと心愛は小さく頷いた。
そして、俺と太一は(裏)生徒会室へと向かった。
-----------------------------------------------------------------------
【日当瀬 晴生】
くっそ……!
会長、神功と戦った時もそうだったが、相手に幻術師がいると俺は全く歯が立たない。
それどころか、足手まといだ。
会長や夏岡さんのお陰で何とか、(裏)生徒会までたどり着くことができた。
千星さんの口から零れ落ちる疑問に俺は口を開いた。
~~~リコール宣言~~~
○副会長が率いた集団と現副会長が率いた(裏)生徒会が争い、勝利した方が(裏)生徒会となる。
○現(裏)生徒会長が敗北、解散を認めた場合は即副会長が、(裏)生徒会長となる。
ただし、現(裏)生徒会長が敗北を認める前に死亡、意識不明になった場合はこの限りではない。
○現(裏)生徒会の勝利、または20日間決着がつかなかった場合は解散されない。
○現(裏)生徒会が敗北を認めておらず、現(裏)生徒会のメンバーが一人でも20日後残っていると解散させることは出来ない。
○敗北とは意識不明、死亡、敗けを認めた場合、または現(裏)生徒会のヒューマノイドが敗北を認めた場合を言う。
○ヒューマノイドは基本現(裏)生徒会につくが意向があればこの限りではない。
○決闘は放課後、休み時間、休日に秘密裏に行われ学業の本分を阻害してはならない。
○ヒューマノイドのもと現(裏)生徒会会長により、決闘日時を組むことができる。
リコール宣言とは要約するとこんな感じだ。
他にもまだこまごまとしたルールはあるが、これだけ伝えれば全員わかると思う。
「会長が俺たちを逃がしたのは、きっと20日間逃げ切る道を選んだからだ。
その前に、決闘の日程を組もうとしたが、あの白髪の男が連れてきたヒューマノイドが逃げちまったからな。」
ヒューマノイドは政府が作ったものだ。
なので彼らが見たり聞いたりしたものはなりよりも物証として重視される。
逆にヒューマノイドのいないところで何をしてもそれは認められないということだ。
「サチオが逃がしたと言うことは、ココも危ないかもしれないナ。
サチオ達が合流したらスグに場所を移動する、用意してオケ。」
-----------------------------------------------------------------------
【千星 那由多】
リコール宣言…なんだか難しいが、俺達は「解散」を副会長に言い渡されたということだ。
なぜ銀髪の男が俺達を解散させたいのかはわからない。
そもそもあの男を見たのも俺は初めてだったし…。
とにかく、俺達は戦うのではなく、20日間逃げ切るということらしかった。
20日間もどうやって逃げきるのだろうか?
授業中以外は奴等に狙われるのは確実だった。
もうみんな一人での行動はできないということになる。
俺はようやく落ち着いてきた鼓動に一息ついた。
会長達のことが気になるけど…今は先にここを出る準備をしなければならない。
「ナユタ」
イデアに急に声をかけられ俯いていた顔を上げた。
「ケイタイを返してオク」
手渡された携帯は特に変わりはなく、俺の手元に返ってきた。
「オマエがアプリを解けないカラ難易度を下げてオイタ。ナユタにシカわからナイ問題だ」
そういやアプリを解くのが遅いこと責められたな…、と携帯の画面に目を落とした。
「…ソレト…」
イデアが話を続けようとしたその時だった。
三木さんがその場にへたり込むように急に座り込んだ。
「三木さん!?」
何事かと思い、みんなが三木さんに駆け寄ると、さっきよりも顔色が悪い。
「どうしたの?」
巽が心配をして声をかけた。
三木さんは手元の携帯を俺達にゆっくりかざす。
それは、三木さんが使っているピンク色の携帯ではなく。
「それ…会長の……!」
-----------------------------------------------------------------------
【三木 柚子由】
私の元に携帯が戻ってきた。
それは左千夫さまの幻術、実体化していた左千夫さまの身に何かあったということ。
「左千夫様が…。左千夫さま…を、助けにいかないと…」
私の声は震えていた。
頭が真っ白でなにも考えられない。
本体に戻っただけなら問題ないけど、私と左千夫さまは繋がっている。
でも、今はその気配が感じられない。
今までこんなことは無かったため、私は取り乱してしまった。
「無駄だ。もう、遅い。」
声の方を振り替えると、生徒会室の入口に見るからに辛そうな表情で夏岡先輩と弟月先輩が立っていた。
夏岡先輩が落とした言葉に目を見開く。
その後ろにいつもの笑顔は無くて、私は両手で顔を覆った。
-----------------------------------------------------------------------
【千星 那由多】
夏岡さんの言葉に激しく落ち込む三木さんに何も声をかけられない。
泣いているのか、泣いていないのかは、俺にはわからなかった。
俺達も言葉を失い、重苦しい雰囲気を裂くように弟月先輩が喋る。
「左千夫は九鬼に捕らえられた…とにかく話は移動しながらだ。
今はここからいち早く出よう」
「訓練施設に宿がアル。あそこならマダ特定はされてイナイカラ大丈夫ダロウ」
いそいそと弟月先輩が先導してくれているが、俺達の間には重苦しい空気が漂ったままだった。
それを見かねてか、夏岡先輩が三木さんの頭を撫でた。
「だいじょーぶ!左千夫は強い!俺が保障する!今は前見て行こう!
これから楽しい楽しい合宿だぞー!!みんな家に帰れないから覚悟しとけよ!!」
夏岡さんのハイテンションに、三木さんが少し笑った気がした。
この人の雰囲気は本当に場を和ませてくれる。
俺も無意識に食いしばっていた歯を緩めた。
今から俺達は20日間逃げ切らなければならない。
その間は学校へは通えるが家には帰れないってこと…。
家にも連絡を入れなければならない。
「那由多、行こう」
巽に声をかけられ俯いていた顔をあげ、俺達は訓練施設に続く地下通路へと降りた。
-----------------------------------------------------------------------
【弟月 太一】
三木が携帯に残っていた音声メモを再生させてくれた。
それは、神功からのメッセージで自分のことは自分で何とかするから、20日間逃げてくれと言う内容だった。
神功が精神体とは言え、あそこまで押されている姿は初めて見た。
それに、俺が得た情報は僅かなものだが、奴等の強さを実証するものばかりだった。
俺は予備の眼鏡をかけ直し、全員を先導するように地下通路を抜けていく。
「イデア。九鬼とか言う男はドイツのオースタラ高校の会長代理と出た。
それなら、君のアーカイブに情報があるんじゃないか?」
そう告げるとイデアから機械音がした後、電子音で情報を喋り始めた。
九鬼(本名不明)
愛輝凪高校経営者の甥である。
オースタラでは他校に敗北した(裏)生徒会を立ち直らせた男。
余りにも非情な戦いかたをするため「黒鬼」との異名を持つ。
素手を武器とし、背中からはえた羽で空を飛ぶことが出来る。
九鬼の情報は要約するとこんな感じだった。
俺がつかんだ情報もイデアの情報と大差ない。
俺の特殊能力は人を見るとそいつの経歴がわかると言うものだ。
勿論さっとみただけでは簡単な情報しかわからないが。
その他のメンバーも武器と戦闘スタイルがわかったので訓練所に移動しながら伝えていく。
唯一女性だけななにも見ることがかなわなかった。
それにしても腕についたままのわっかは厄介だ残念ながらこれの解除方法もわからなかったので俺は長く息を吐いた。
-----------------------------------------------------------------------
【千星 那由多】
黒鬼…その異名を聞いただけでも九鬼がどんな人物なのかわかる。
会長も無事で済まされるはずがなさそうだ。
俺達は無事に20日間逃げ切れるんだろうか。
最悪なシナリオが頭の中を駆け巡る。
弱気になっちゃダメだ。
自分の力は信じられないが、みんなの力は信じられるはずだ。
そうこうしているうちに、地下通路がこの間イデアのスパルタ特訓で訪れた山へと繋がった。
「よし、とりあえずここまでくれば安心かな」
夏岡先輩が息をついて続ける。
「…ちょっと真面目な話するよ」
そう言った夏岡先輩は俺達の前に立った。
その堅く凛々しい表情に、息を飲んだ。
「この20日間、授業中以外、いつ奴らが襲ってくるかわからない。
正直、今日俺と太一がいなかったら、君らは完全に九鬼達に負けていた。」
その言葉が突き刺さり俯きそうになったが、ぐっと堪え夏岡先輩を見据えた。
「まだまだ君達はダメだ。弱い。きっと左千夫もそう思ってる。
だから今日九鬼が来た時も君達を戦わせずに、リコール宣言も逃げることを選んだんだろう。
…だけど…このリコール宣言が終わったところで、これから(裏)生徒会を君たちが担っていけるかも心配だ。
だから俺と太一でこの20日間、君達の訓練に付き合う」
そこまで言うと夏岡先輩はいつもの表情に戻った。
「太一の指導はキッツイよ~!自分がされてきたからね!」
弟月先輩の目がメガネに隠れて見えなかったが、黙れと言いたげな表情を夏岡先輩に向けていた。
とにかく、俺達はやるしかない。
この20日間を逃げ切って、(裏)生徒会を解散させずに九鬼の手から守るんだ。
より一層(裏)生徒会でいることの決意が固まった気がした。
それと共に、自分の弱さの蟠りも心の中に募って行くことに、強く拳を握りしめた。
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