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さくらんこ

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isc(裏)生徒会

彼らの正義

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【千星 那由多】


ゴールデンウィークも終わり、今日から学校。
学校に行くのも久々という感じがしないのと、あまり休んでいる記憶がないんだが…仕方ない。 
そしてもちろん昨日のイデアのスパルタで俺は絶賛筋肉痛だった。 


「全身がいてえ…」 


そんな日に限ってスポーツテストと重なる。
ジャージに着替えるのも手伝ってもらわなくちゃいけないくらい辛い。
着替えた後、歩くのもままならない状態で巽と晴生と一緒に体育館へと向かう。
この二人も昨日倒れるまで暴れまくったクセに、なぜだかピンピンしている。
寧ろなんかお互い闘争心むき出しで、特に晴生はやる気まんまんのようだった。 

絶対にこいつら普通の人間と身体の造りが違うだろ。

ああ、それにしても気が重い。
元々体育の授業も嫌いだし、もちろんスポーツテストなんてもっての他だ。
それにプラスしてこの筋肉痛とか、もうこの世から消えてしまいたい気分だった。 


体育館に着くと、好きな順に回ってテストを受けるようになっている。
俺達三人はとりあえず一緒に回ることにした。
この二人と一緒にやるの、逆に俺が目立ってやなんだけどな…。

何から回ろうかと話し合っていると、長身の綺麗な人が視界に入る。


やはり会長だ。


この間の買い出しの時のように、長い髪は後ろで編み込んでいるのか、ショートで眼鏡をかけていた。
目立たないように地味にしているのだろうが、それでもやはり会長は目立つ。
ジャージをきっちり着こなし、俺みたいにだらしなく着ていないその姿は…言葉で形容しがたい美しさだった。 
周りの女子や男子、先生までも視線は会長に向いていた。 

見ている俺に気づいたのか、会長はこちらに振り向き、いつもの笑顔で笑う。
一瞬にしてこちらに周りの視線が向いたのがわかり、俺は巽と晴生の後ろへと隠れた。 


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【日当瀬 晴生】


今日はスポーツテスト。
千星さんに良いところを見せて俺の株をあげてやるぜ!

勿論天夜の奴には負けねぇ。

本当は二人で回りたかったんだけどやっぱり天夜の奴はついてきた。
仕方なく体育館の中を三人で歩いていると、千星さんが俺達の陰に隠れた。
なにかと思えば会長がこちらを向いている。
なんだかその他の視線も此方に向いて固まってる気がするが。

「やっぱ、目立ちますね。会長って。
まぁ、表でも首席ですし、運動神経も抑えてますが上位。
更に神功財閥の出身となれば嫌でも人目は引きますよね。」

会長は俺たちにまで笑みを向けてから少し離れた取り巻きと一緒に運動場へ出ていった。
体育館の種目は既に終わったようだった。


「会長ってお坊ちゃんなんだ?」

「あん?お坊ちゃんっても養子だけどな、つーか、てめぇに話してねぇよ。俺は千星さんに話してんの!勝手に入ってくんな!」 

うっかり天夜の質問に返してしまった俺は慌てて奴を睨み付けるかいつも通り笑ったままであった。
気をとりなおすように千星さんに笑みを浮かべてスポーツテストを、回る順番を尋ねる。
その時天夜がとんでもないことを言い始めた。


「どうせなら三番の人は一番の人の願い事を1つきくことにしよっか。」 


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【千星 那由多】


巽と晴生のやり取りを聞きながら、会長が初めて神功財閥の養子だと知った。
そう言えば俺、会長のこと全然知らないな。


晴生と回る順番を尋ねられ、どこから回ろうかと考えていると、どうせなら三番の人は一番の人の願い事を1つきくことにしよう、などと言い出した。 

「おい…ちょっと待て…それって確実に俺が…」

そう言いかけると晴生はやってやろーじゃねえか!と更に巽に睨みを利かせた。
巽も嬉しそうにしている。

「……ちょ、おい…だから…」

二人には俺の言葉は届かなかった。
…いいや、どうせ三番になるの俺だし、願い事とかも適当にはぐらかしてごまかそう。
俺は大きくため息をついた。 


相談の結果、最初は疲れないものから回ることにした。
なので、握力測定。

三人横一列に並んで握力計を握る。
晴生にがんばりましょうね!!と言われたが、普通でも男子平均行くか行かないくらいなのに、この筋肉痛ではありえない数値をたたき出しそうだ…。 

同時にせーの、で一気に計測する。
顔を歪めながら筋肉痛の痛みに耐え、できるだけ頑張って握ったが、やはりいつも以上に力が入らない。 


結果。
巽、106。晴生、78。俺、38。


「……はあ…」

惨敗なのは目に見えていたが、こうも力の差が違うとさすがに自分が男として情けなくなりため息をつく。
つーか巽の握力がバケモノみたいで怖い。 


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【天夜 巽】


握力は俺の圧勝だった。
日当瀬くんはとても不服そうで測定器が壊れているともう一度彼が測ったものでやってみたが、
結果は同じと、いうかソレヨリ高くなったので、この値が記録となった。

次に長座体前屈にいこうとしたがなぜかいっぱいだったので、違うとこに回った。

その他の体育館での種目を終えて結果を見せ合うことにした。


上体起こし 天夜51回、日当瀬60回、千星25回
反復横とび 天夜70回、日当瀬72回、千星45回
20メートルシャトルラン 天夜150回、日当瀬100回、千星70回


二勝二敗。
勝負は混戦している。
それにしても、那由多いくら筋肉痛だといっても酷すぎないか。

そして、俺たちは体育館最後の種目の長座体前屈に向かう。
これは唯一俺の自信がない競技なので那由多に頑張って貰いたい。 


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【千星 那由多】


もう身体がもたない…。
上体起こしは腹筋痛すぎてぜんっぜん身体が起こせないし、反復横とびなんて地獄でしかなかった。
20メートルシャトルランは息はあがるわ走れないわでもう最悪。 

にしても巽と晴生の数値は異常だ。
部活本気でやってる奴等よりも数値が高い。
俺のヘボさは自分でちゃんとわかっているが、こんな奴等と肩を並べて(裏)生徒会での任務を続けていけるのだろうか…と不安になる。 

そんなことを考えていると、体育館での最後の種目、長座体前屈へと向かった。
実を言うと、俺はこれが一番得意だ。
晴生はどうだかわからないが、身体の硬い巽には勝てる自信がある。
けどこの筋肉痛に今までの種目の疲労がすでに蓄積されていたので、あまりいい数字は期待できない気がするが。 

ま、気楽にやろ…。

まだ少し並んでいたので少し待ったが順番が来る。
測定のために三人で並ぶと、見慣れた顔が目の前に現れた。 


「三木さん」


それは制服を着た三木さんで、どうやら記録係のため今日はテストを受けないらしかった。
なんか見られんのすごい恥ずかしいな…と思いながらもちょっと頑張ろうという気になれた自分がいた。

前に姿勢をかがめ、目の前に座っている三木さんの方へとチラリと視線を向ける。
だが俺は目の前に広がる光景に驚き、すぐに視線を下へと逸らす。


なぜかと言うと。


かがんでいる三木さんのパンツが見えそうだったからだ。


「………!!!!」


やばい!!!やばいやばいやばい!!!!!
もしかしてさっきからの長蛇の列はこのせいか!?
つーか…ほんと…三木さんッッ!!!!

俺は頭の中で三木さんにチョップをくらわす。
見たいが見ちゃだめだ!三木さんをそんな目で見ちゃだめだ!!!

男共がこれを見るために並んでいたかと思うと怒りやら恥ずかしさで顔が熱くなる。
そして測定の合図がかかり、俺は無心でそのまま頭をあげずに一気に下へと測定器を押しこんだ。 


結果、今まで生きてきた中で一番数の高い60cmという数値をたたき出した。
エロのパワーはすごい。 


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【日当瀬 晴生】


「すごいっすね、千星さん!」


千星さん60センチ、俺52センチ、天夜マイナス2センチ。

流石千星さん!!
どうやら千星さんは筋肉痛のようで実力を出しきれてないようだがそれなのにこの結果は凄い!

つーか、なんだよマイナス2って、こんな固いやつ初めて見たぜ、まだヌリカベとかのほうが曲がるんじゃねぇか…。
野外訓練のときもかたいとは思ったが数値にすると更に酷いな。

長座体前屈の後、天夜が記録係の三木になにか耳打ちしてた。
その後慌てて三木がスカート引っ張ってたんだけど、なにかあったんだろうか。
記録書き換えてとかだったら、殺す。

まぁ、三木がそんな不正するわけねーか、体育館の種目は終わったので俺達は運動場に出る。
残念ながら千星さんの三位は確定してしまった、が、大丈夫です!千星さん!この体が固すぎる男に一位は譲りません!
俺が一位を取って逆に千星さんの言うことを聞いてあげます!


走り幅跳びでは勝ったが、ハンドボール投げでは負けた…。
つーか、あいつ得意な種目の運動値おかしすぎるつーの!
ボールどこまで飛ばすんだよ!

結局勝負は最後の50メートル走にもつれ込んだ。


「那由多、先に走ってゴールで待っててよ。
必ず俺が先に着くからさ。」

「は!ふざけんな!俺の方が速いに決まってンだろ!」

「無理だよ。50メートルの記録を持ってるの、俺だからね。」


天夜は自信満々に言いやがった。
しかし、俺は負けるわけにはいかねぇ!
こいつが千星さんに何をおねがいするかわからねぇからだ…。
千星さんは俺が守る!!


そう、心に決めながらスタートラインに立った。
既に先に走り終えた千星さんはゴールで待っているようだ。 


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【千星 那由多】


どうやら長座体前屈が終わった後、巽が三木さんに忠告してくれたみたいだった。
とりあえず俺達以降の男子には見られないであろうと、ほっと胸を撫で下ろす。
ちなみに三木さんは巽に耳打ちされた後こっちをチラチラ見ていたが、俺は気づいていないフリをするのに必死だった。 


体育館での測定が終わり、グラウンドへと移る。
長座体前屈以外はもちろんへっぽこな記録に終わり、スポーツテストの記録は中学時代を盛大に下回る最低記録であった。
昨日のスパルタの筋肉痛が無ければ、少しはマシだったんだろうか…。
いや、あまり変わらないか。

そして残るは50メートル走。
俺は勝負のことなんて最初から諦めていたが、巽と晴生は最後まで気を抜いていなかった。
適当に走り終えた俺はゴール先で待つことになる。 


あーやっと測定が終わった。
これでどっちかが勝ったら願い事を聞くのか…。
できれば巽より晴生が勝ってほしい。
あいつ多分俺に願い事するなんて恐れ多いとか言ってできないと思うから。

そして、スターターピストルが50m向こうで鳴る。


おーおー走ってきたねー。

走って……。 


は、はえええええええ!!!!


それは野生のチーター二匹を見ているようだった。
真剣な形相は俺の方へと向き、ここにいたら絶対食われるんじゃないかと野生の本能が悟った。
踵を返して痛む身体に鞭を打ちながら、立っていたゴールラインからダッシュで逃げる。
だが奴らは50mラインを越えてもなお走り続け、俺を追ってくる。


「んだあああああああ!!!!」


そりゃあもう必死で逃げた。さっきの50m走なんか非にならないくらいの速さだったと思う。
そんな最速ダッシュも空しく、巽と晴生は俺を捕まえるように飛び掛かってくる。
そのまま俺は地面へと真正面からぶっ倒れた。 


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【天夜 巽】


あっちゃー、我を忘れすぎてしまった。
日当瀬はその俊敏性とタイミングのよさを生かしフライングにならないギリギリのラインで地を蹴りスタートダッシュを見せつけた。
それからのトップスピードも申し分なく、俺はムキになってしまった。 

ゴールで待ってるはずの那由多がなぜか分からないが遠くなる、
俺も日当瀬も、酸欠で激しく糖を消費していた為本能のままに那由多に飛びかかってしまった。

俺も日当瀬も同着で非公認ながら新記録だったようだ。

かくなる那由多は保健室いき。
しかも、保健室は午後からの身体検査で使うので手当て後は早々に追い返されていた。


日当瀬の青ざめた表情はちょっと見物だったりした。 


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【千星 那由多】


とんだ災難だった…。
あの後ずっこけて無駄に顔に傷を作ってしまった。
最近怪我ばっかりしてるせいか、どれが新しい傷で古い傷なのかもわからない。
鼻の頭に絆創膏を貼ったまま、大きなため息をつく。

結局50m走の結果は同着で、俺がずっこけたことによって「3位が1位の願い事を聞く」という話は流れていった。
よかったのかよくなかったのか。


そして昼休憩を済ませてからの午後は身体検査だ。
スポーツテストの後にハードな内容だが何分人数が多い学校のため、詰めていかないと校内生徒全員が回れない。

クラスの順番が回って来たため、先ほど訪れた保健室へと再度三人で向かう。
男子ばかりのむさくるしい室内へと入り、入口付近で制服を脱ぐ。
肌が露出すると、俺と晴生は体中がブラックオウル戦の怪我や昨日のスパルタで青痣も多く、クラスメイトに驚かれたが適当にごまかしておいた。
巽は自己治癒で治していたため、怪我などまったくない綺麗な肌だった。

それにしても、晴生の傷、まだ治らないんだな。
俺は包帯を巻いている晴生を見て表情が曇る。
もう終わったことだから気にしちゃいけないんだろうけど…。 


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【日当瀬 晴生】


午前中は作らなくてもいい傷を千星さんに与えちまってとても後悔している。
天夜の挑発になんて乗るんじゃなかったぜ。

身体検査の為服を脱ぐと傷のせいか視線が集まる。
俺はおもいっきり睨んでやったが、千星さんは丁寧に誤魔化しているようだ。
こう言うところはほんと恐れ入る。
そして、天夜は傷一つ無かった。
んと、便利だなこいつの能力。

俺は相変わらず能力が芽生えない。
イデアさんには焦る必要はないっつわれてるけど、自分にはそういう能力の欠片も無いのではと思ってしまう。


俺達は順番に測定を終えていく。
何となく服を着てない千星さんを見るのは気が引けたのでその辺の野郎を見ていると今度は逆に気持ち悪くなってきた。
その時、千星さんの声が上がる。


「あれ!俺の制服か無い!!」

ここに置いたんだけどな、と、癖っ毛の頭を撫でている千星さん。
俺が誰だ!と言う前に警報が鳴り響く。


“緊急事態です!皆さん誘導に従って体育館に避難してください!”


放送が告げられるのと同時に下着に忍ばせてあった携帯が鳴り響く。
皆の影に隠れて取るとイデアさんの声だった。

「緊急事態ダ、晴生。
那由多と巽と共に、1ーAに向カエ」

俺は千星さんと巽に目配せする。
すると、二人は気づいてくれたようで三人で保健室から抜け出す。
勿論、形振りなど構ってられないので下着一枚のままだ。 


----------------------------------------------------------------------- 


【千星 那由多】


晴生の連絡はきっと(裏)生徒会の任務関係だ。
この警報もきっと三木さんかイデアが鳴らしたのであろう。
周りの生徒はざわつきながら制服に着替えているが、俺達にそんな暇はないし俺自身着替える制服も無かったため、下着だけの状態で保健室から抜け出す。 
途中生徒たちは混乱していたが、教師などの誘導によって体育館へと向かっていたので、なるべく生徒と鉢合わせにならないように1-Aの教室へと向かった。 


教室の前へ着くと、中には誰か人がいるようだった。
俺達はバレないようにドアや開いている窓の隙間から中を覗き込む。 


「怖い?怖い?怖いなら怖いって言ってよお」


身の毛のよだつような低く野太い声が聞こえる。
後姿で誰かは分からないが、そこには男子生徒らしき人物が人にまたがっているようだった。
目をこらしてよく見ると脱力しながらも微かに声を上げて抵抗している女子生徒が見えた。

「……!」

男子生徒はその女子生徒の腕に一本一本ナイフで傷をつけていっている。
その度に血が飛び散り、女子生徒の小さな悲鳴があがっていた。

俺達はその光景を見て視線を合わせることもなく、各々がすぐ様教室へと飛び込んでいた。 


----------------------------------------------------------------------- 


【天夜 巽】


まさか、(裏)生徒会がこんなことをしているなんて夢にも思わなかった。
あの、野外合宿の意味が分かる。

教室には他に生徒も居た様子だが恐怖で端の方で蹲っていた。

三人同時に飛び込んだ瞬間辺りに靄のようなものが立ち込める、俺と那由多は目を見開いたが、日当瀬が「会長の仕業だ」と、端的に告げた。 


「解除。」

先に日当瀬がアプリを解除すると、制服が身を包む。
どうやら、上着だけは特殊仕様になってるようでイデアアプリの起動と共に自分の身に纏う仕組みになっているようだ。

「解除!」

続いて俺もアプリを解除する。
そうして、日当瀬が拳銃のトリガーを引いたが、男子生徒はそれを交わした。
俺も日当瀬も目を剥く間に、女子生徒にナイフを突き付けていた男は那由多に向かって走っていった。 


「那由多!!」 


----------------------------------------------------------------------- 


【千星 那由多】


二人は携帯を取り出し次々にイデアアプリを解除していく。
…が、俺はどこかに行った制服の上着のポケットに携帯を入れっぱなしで、解除どころの問題ではなかった。
巽と晴生が戦闘態勢に入り、俺はせめてもと靄の中教室にいた数人の生徒たちを逃がす作業に移った。 

視界が悪い中を移動していると、足になにかぶつかる。
そして、上靴で何か水たまりのようなものを踏みつけた音がした。

……血だまりだ。

そこには1-Aの担任教師が脱力して倒れている姿があった。
刺された場所は脇腹らしく、そこから血じわじわと流れ出てきている。
俺はその光景に身体が強張ったが、怯えていてはダメだ。しっかりしなければいけない。

教師はかろうじてまだ息はしているようだった。
どうすればいいんだ?とりあえずこういう時って、流れ出てる血を止めるとか…そんなんだよな?
俺は慌てながら何か当て布になるような物を探す。

すると、巽が俺を呼ぶ声が耳に届いた。
そちらの方へ振り向くと、男子生徒…いや、愛輝凪高校の制服を着た無精ひげの生えた気の狂ったおっさんが、
ナイフを持ってこちらへ向かって走って来ていた。


まずい―――!!!!


その時身体が宙に浮いたのがわかった。


「…?」

気づくと俺は誰かに抱かれ、教室の端へと移動していた。
この甘い香りは知っている。


「会長…!」 


----------------------------------------------------------------------- 


【日当瀬 晴生】


俺の銃が避けられたってことは只者ではない。
しかも、千星さんは丸腰だった。
俺も天夜も青ざめたが間一髪で会長が割って入った。


どうやら、こいつは特殊な薬品かなにかを使っているようで運動神経が異常に上がっているようだ。 

「フフフフ、武器も持たずに来たのですか?それとも、あそこに?」

生徒たちから俺達を見にくいようにと会長の起こした靄の中、会長の言われるままに犯人をよく見るとそいつが着ているのは千星さんの制服だった。 


マズイ、益々良くない展開だ。
あの制服は特殊加工されている、直撃させないと、ダメージも与えられないだろう。


会長は自分の制服を脱ぎ捨て、千星さんに渡し教師の止血を頼んだ。
勿論、会長も急いで来たのだろう俺達と同じパンツ一枚だったが直ぐに幻術で服を纏いやがった。

少しズルいと思ったが、今はそんな場合ではなく会長の合図と共に男へと銃口を向けた。 


----------------------------------------------------------------------- 


【千星 那由多】


会長の言葉に犯人を見ると、どうやらそいつが着ているのは俺の制服のようだった。

「す…すいません…」

あの特殊な制服が別の人物、しかも目の前の狂った奴の手に渡ってしまったと思うと、自分の不備を謝ってしまう。
会長が俺に自分の羽織っていた上着を渡してくれると、甘い香りに包まれた。


今回俺は何もできない。
どっちにしろ俺が入ったところで大して力になれはしないのかもしれないが、ただ黙って見ているのもなんだか歯がゆかった。 

教師の止血を頼まれた俺は、再び倒れている教師の元へと駆け寄り、近くにあったカーテンを引きちぎった。
それを直接血の流れている脇腹へと当てがう。
こんな状況は初めてのため、止血はこれでいいのかわからなかったが何もしないよりはマシだろう。 

「先生!!しっかりしてください!!」

青ざめた顔で朦朧としている教師になるべく声をかける。 


----------------------------------------------------------------------- 


【天夜 巽】


血塗れの女生徒をどうしようかと思っていると三木さんが現れた。
彼女は応急措置の道具を持っていたのでそこは任せることにした。


「会長。靄が濃すぎじゃねぇか?」

「そんなに濃くしてません、君が僕の幻術に掛かりすぎてるんです。」


この場面でも、いつも通りに二人は会話をしていた。
どうやら、日当瀬と会長は相性が悪いようだ。

それでも、日当瀬は敵の位置が分かるようで銃を放つ、すると狂った目付きをした男が靄から飛び出してくる。
そこを狙いクナイ片手に斬りかかったが右上方に逃げられてしまった。
人間離れしたした跳躍に目をみはったが、適応しようと体を切り返そうとしたその時。 


犯人は黒板へと飛んでいった。


まるで、こうなることをよんでいたように俺の横を会長が抜ける。
槍の先端は確実に犯人を捉えており、そのまま黒板へと突き刺した。


「ぎゃああああああああああ!!」


室内に響き渡る断末魔。
会長の槍は犯人の胸から腹にかけて縦に突き刺さっている。
黒板が真っ赤に染まり、床も次第に赤く染まる。

ただ、会長の表情のみがいつもの優雅さを含んだ笑みのままだった。

そのまま、犯人が絶命する。
呆気ない最後だった。


会長がアプリを解除すると、槍についていた血液が無駄だというかのように床に落ち、携帯へと戻る。
ズシャッと犯人も血溜まりに落ちたが会長は何事もなかったように携帯を拾い電話を掛けた。

「イデア。終わりました。
犯人は死亡。重体二名です。後処理頼みますね。」

「ちっ。相変わらず容赦ねぇな。」

「する必要がない。警察に引き渡してもまた精神異常で裁判ですら捌けないこんなやつに生きている価値、ありませんよ。」 


圧倒的な非道さ、そして強さを目の前にして俺は喉を鳴らした。

「天夜。ぼさっとすんな、応急措置が終わったら引くぞ」

そういって日当瀬は教師の元に走っていく。
会長は女子生徒の元に。


やり方は正しいかは分からない。
しかし、俺は彼らの正義を少し認めてしまった。 


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【千星 那由多】


男の断末魔が聞こえた。
その声に圧倒され心臓が一瞬飛び上がる。
霧で現状は見えなかったが、晴生がこちらに駆け寄ってきたので、終わったんだなと確信した。 

その後、怪我人の応急処置を終えた俺達は教室を出る。
巽が穴の空いた血みどろの制服を渡してくれたので一瞬驚いたが、それは俺の制服のようだった。
目立たないように畳んで隠し持つ。
途中廊下で救急隊員や警察とすれ違い、とりあえず怪我人のことは任せておいて大丈夫だろうと胸を撫で下ろした。 


会長に上着を借りっぱなしだったので、周りに誰もいないのを確認してから上着を脱ぐ。
会長はさっきまで幻術で服を纏っていたが、今は俺同様下着一枚だった。

なんだ…堂々と脱げるんじゃん…。
スパルタ修行の時に脱がなかったから裸になるのが嫌なのかと思ってた。

お礼を言いながら手渡すと、会長の身体が目に映る。
無駄のない筋肉と、白く透明な陶器のような美しさで、思わず見とれてしまうぐらいの身体であった。
そんな俺に気づいたのか、会長は小首を傾げながら微笑んでいたのですぐに目を逸らした。 


あの男がどうなったかは俺にはわからなかったが、耳を劈くような叫び声を思い出すと、なんとなく怖くてみんなに事情を聞くことはできなかった。 


あとこの制服…新しいの貰えるのかな。 


----------------------------------------------------------------------- 


【一般生徒】


なんだか今日は午後から通り魔が出たらしい。
しかも、生徒と先生が刺されたとか。

あー考えるだけで怖い怖い。

1Aの連中がなんかパンツ一枚でブレザーを来た連中に助けられたとか言ってたな。
顔は見えなかったらしいけど。
足はすっげぇ長かったとか。
甘い匂いがしたとか。
きっと、錯乱してて変なもの見ちまったんだろう。
もし、そんな連中が居るならただの変態だ。


そう言えば、俺も今日は変なものじゃなくていいものを見た。


三木副会長のパンツだ。


そのせいで長座体前屈の結果は悪かったけど、それを差し引いてもラッキーな出来事だったと思う。
なんたって、三木副会長は俺たちの間でひっそりと人気だし、何たってレベルが高い。
そう思いながら鼻歌混じりに早く終った学校を後にしていると、後ろから肩を捕まれた。 

甘い香と共に地を這うような声が耳に注がれる。


「君も見たんですね―――――。」



その後の俺の記憶はない。
とても綺麗な男性を見た気はするんだが…。
そしてなぜか三木副会長のパンツも記憶から消えた。

気付けば俺は家にいた。


なぜだか生きていることがとてもありがたく思えた。 



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