あなたのタマシイいただきます!

さくらんこ

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isc(裏)生徒会

那由多VS新井

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【千星 那由多】


晴生に先に行けと言われ少し不安に感じたが、厚化粧の女が飛び降りると同時に階段を駆け上る。
けれどすぐそこの踊り場で黒髪の男が進路に現れた。

こいつもあの場所に一緒にいた男だ。

「…っ」


こいつは周りの奴等とは少し雰囲気が違う。
こう言ったことには手を染めないような真面目そうな男子生徒だった。
その男は恨みの籠った目で俺を見ていた。
一体(裏)生徒会にどんな恨みがあるんだろうか。

下を見ると日当瀬はあの厚化粧女を相手にしている…1対1で闘うのは初めてでかなり自信のない俺は多少緊張していたが、
ここで引くわけにはいかなかった。

俺は剣を両手で構え、黒髪の男を睨む。
暫く沈黙が流れ、どちらかが先に動くか、と言ったところだった。

ど、どうしたらいいんだろうか。
相手は俺を見据えたまま動かない。罠かなんかか?


「えー……えーと…どいてくれたら嬉しいなあなんて!!!」


沈黙に耐えかねた俺はこうなりゃ先に喋れ!と思い、間抜けな言葉を口にした。 


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【新井涼】


俺は姉をひどい目に合わせた(裏)生徒会が許せない。
しかし、目の前の奴にはこの前既に制裁は加えた。

結果的には逃げられたが、これ以上罰が必要なのだろうか。
話に寄ればカメラは無くなってしまったようだが心の傷は消えないだろう。

色々考えていたため無言で見つめていると相手はとんでもない事を口走った。


「……馬鹿だろ。お前。」


俺は盛大に溜息を吐きながら携帯のサイドボタンを押す。
すると先が九本に別れた鞭にそれは変形していく、加えて異様な程に体が熱くなり、身体能力が向上していくのが自分でも分かった。

「もうお前には十分な制裁を与えたから、引くなら逃がしてやる。
ただし、それでもここを通ると言うなら、Black Owl 少尉 新井涼が相手だ。」


次はあの女が制裁を受ける番だ。
その邪魔はさせない。 


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【千星 那由多】


やっぱどいてくれませんよね。当たり前のことだけど。
馬鹿だろと言われて少しカチンと来たが、ここでムカついたらお終いだ。

黒髪の男は携帯に何かをしたのか、それは九本に別れた鞭になっていき、あちらも臨戦態勢になった。
俺を見据える目は相変わらず恨みに満ちた目をしている。

こいつの名前は新井涼と言うらしい。
どっかで聞いたような苗字だな、と思ったが思い出せない。


「ここまで来て引き下がれるわけねえだろ…」

俺は小声で新井に聞こえない程度に呟いた。


どうするか…俺からしかけるか?いや、でもあの鞭がどうなるかわからない。
伸びてきたりしたらたまったもんじゃないし、俺の剣はどっちかというと多分接近戦じゃないと有利じゃない。
かと言ってあいつの鞭を避けて剣を叩き込めるほどの身体能力はない。

…とりあえず隙を見せるまで待とう。
隙を見せるかはわかんないけど。


「…おまえなんで俺たちに恨み持ってんだよ?」 


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【新井涼】


相手から攻めてくる気が無い。
よっぽどの雑魚か、かなりのやり手か…。
俺等に捕まった事を考えると前者だが、あの時は武器を持っていなかったので侮れない。

「1ヶ月前、俺の姉さんはおまえら(裏)生徒会によって病院送りにされた。
怪我は無い…だが、ずっと意識不明で目覚めない。」

俺は淡々と告げていたが、怒りが増幅し、キッと相手を睨んだ。


「逆に教えてくれよ!!なんで姉さんがあんな目にあわなきゃならなかったのかを…!!姉さんがおまえらに何をしたって言うんだよ!!!」 


心を乱した俺が鞭を一振りする。
するとそれだけでランダムに九本の鞭が相手に襲い掛かった。
憎しみと共に。 


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【千星 那由多】


姉が病院送り?意識不明…?

新井の話を聞いていると俺の記憶とその単語が繋がる。
確か…晴生と初めての任務で施設へ預けた赤ん坊、茜の母親が病院送りになっていたはずだ。

記憶を辿っていると、怒りを露わにした新井は鞭をこちらへと振りかざした。

九つに割れた鞭が俺の方へと勢いよく飛んでくる。


やばい!!


俺は狭い踊り場から駆け出し、階段を勢いよく下へと降りる…と足を踏み外し間抜けにも転がり落ちてしまう。

「……いってえ……」

新井の鞭からは逃れられたが、ださい、ださすぎる。
そして俺が仰向けに転がった上体を起こすと視線の先に厚化粧の女…薮塚莉子と対峙している晴生の姿が見えた。
またこんなことになってたら晴生が心配してしまうと思い即座に立ち上がろうとするが、晴生の様子がおかしい。
いつものアイツなら相手からは視線を逸らさないはずなんだが、明らかに見ている方向が薮塚とは違う方向だった。

「…?」

よく見ると薮塚の胸元ははだけ、黒い下着と谷間が覗いていた。
…ああ…あいつあんな状態の女が目の前にいるから見れないのか…。
庭での事件から全然成長してねーじゃん…。
あの後色々特訓してたはずだったんだけど。

俺は新井がまだこちらへ向かって来ていないのを確認し、晴生が薮塚を直視できるようにするにはどうすべきかと考えた結果。


「晴生!!おっぱいは二の腕と同じ感触だ!二の腕だと思え!」


女性の胸は二の腕と同じ感触だってテレビで言っていた!!
俺は心の中で晴生に親指を立て、た瞬間新井の鞭が数本俺の右足に絡みついた。

「―――――っ!!」

よく見ると鞭には棘のようなものが付いていて、絡みついた部分の制服に血が滲んでいるのがわかった。
そのまま俺は引きずられるようにして新井の元へと戻される。 


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【新井涼】


「戦闘中に他人の心配か。余裕だな。」

俺は相手の足に鞭を巻き付け、階上へと引き戻す。
そして壁に向かって投げつけた。

どうやら、こいつは後者のようだ。
大した実力も無いくせにわざわざやられに来たらしい。


「……お前みたいな下っぱには姉さんの事はわからないか。いや、もしかしてそんな事をしていることすら知らないのか…。
どちらにしろ、(裏)生徒会に入ったことを……」


俺が鞭を振り上げると蛇のように千星へと向かって行き、その手足に巻き付き壁に押さえ付けた。 


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【千星 那由多】


しまった!


そう思った時には俺は壁に背中から叩きつけられる。
身体全体にぶち当たった衝撃がビリビリと走る。

「――――っ!!」

そのまま前面から床へと倒れ、衝撃で詰まった息を咳き込んで整える。
だが新井は容赦なく俺の方へと鞭を向け、その鞭に手足を絡め取られ再び壁に押し付けられた。

「っ……!!」


刺さった棘がズキズキと痛く、俺は声にならない声を上げる。
剣は辛うじて握れていたが、このまま締め付けられると手放してしまうことになりそうだ。
まずいな…不利すぎ。っつーか俺が弱すぎる!
自分の弱さを再確認しながら、手足の痛みをグッと堪える。

こんな俺にできることって…なんだ?

こちらを睨んでいる新井に目を向ける。
…とにかく俺の知っている事実をこいつに教えるしかない。
誰が茜の母親を意識不明に追いやったのかまではわからないが、少なくともこいつの恨みに俺は加担している。
きちんと向き合ってそれで無理ならどうとでもなれだ!!

俺は痛みに顔を歪めながら口を開いた。


「知ってるよ…おまえのねーちゃんのこと…。
おまえのねーちゃんの、任務、俺の初任務だったからな…よーく覚えてるよ」

新井はその言葉に目を見開き更に憎悪に満ちた目をこちらに向けた。


「だから真実教えてやる……聞き分けなさそーな顔してる耳、かっぽじって聞けよ!!
……おまえのねーちゃんな、自分の子供見捨てたんだよ!!!」 


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【新井涼】


まさか自分のこの目の前の弱そうな奴が加担しているとは思わなかった為、驚きに目を見開く。
次の瞬間には憎しみに変わるが更に突き付けられた言葉に驚きに目を見開く。

自分の意志が伴わなくなった鞭は緩みかけるが、これは相手の罠かもしれないと気を取り直し、再度四肢を絞め上げる鞭に力を込め、
残りの五本のうち一本で右上から左下に打ち付けた。 


「適当な事言うな!!
姉さんは…姉さんは…そんなんじゃない!!
愛輝凪高校だって必死に勉強して入ったんだ!!」


そうだ、そうだ!!
俺に一緒のとこ頑張れよって勉強まで教えてくれた!!

……高校一年までは。


「それに、子供が居るなんて聞いてない!!」


俺の知らない事柄。
しかし、俺はこれを全否定出来ない弱みも有り、千星を何度も鞭で打ち付けるが考えれば考えるほど迷いが生まれ始めた。 


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【千星 那由多】


動揺したか?
少し鞭が緩んだ気がしたが、すぐにその力は強まり、残りの鞭で身体を打ち付けられる。 

「――――くっ!!!」


いってえええええええやばいやばい泣きそう痛い!!!
あーーーー我慢我慢我慢!!!

痛みを堪えながら新井の方へと目をやる。
どうやら少し動揺を見せているようだった。

…このまま押しこめばなんとかなるかもしれない。

俺は何度も新井の鞭に打ち付けられ、その度にビリビリとしたなんとも言えない酷い痛みを感じる。
ここへ来る時に受け取った白い制服は、丈夫なのか痛みや破れはだいぶ軽減されていたが、下はこの制服ではなく私服だったため、
打ち付けられる度に身体が大げさに跳ねる。 手の力もだいぶ無くなってきているので、早くこいつをどうにかしないと結構やばい。 「事実…だよ!…過去の茜の母親がどんなだったか知らねーけどな…っ…!
…おまえも…ねーちゃんが大事なら本当のねーちゃんを見て現実受け入れてやれよ!!
それが…っ……家族、ってもんだろーが!」

新井の知ってるねーちゃんは、あんなダメ女じゃなかったんだろうか。
俺にも家族がいる、妹がいる、もし俺が新井と同じ状況だったら…そう思うとなんだか無性に新井が可愛そうになってくる。
いや、今更同情したって事実は変えられない。


「……自分の目で確かめて…それでも俺の言ってることがわかんねーなら…っ
…俺の事、どうとでもしたらいいよ…っ!」


どうとでもされるのはもうかなりゴメンだけどな。 


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【新井涼】


「―――――――ッ!!!!」


『茜』の名前を聞いた瞬間俺の手は完全に止まってしまった。


俺はきっと姉さんの異変には気付いていた。
ただ、認めたく無かっただけで…。


姉さんが家を飛び出したのは去年の事だった。

高校に入って少ししてから姉さんの様子はかわり始めた。
まず、服装が変わり、髪の色も化粧も、家に居る時間も短くなっていった。
俺に対する態度はあまり変わらなかったから俺は目を瞑っていてたのかもしれない。 

そして去年、親と喧嘩して出ていった。
俺はそれからの姉さんがどこで何をしていたのかなんてちゃんと知らない。
自分も受験でいっぱいいっぱいだったのだが…。

そして、合格を電話で伝えた姉さんの後ろからは赤ん坊と男の声が聞こえた気がする。

そして、病院で姉さんは発作のようなものを起こす度に『茜、ごめん』と呟いていた。


「自分の目で確かめろ」その言葉を聞いた瞬間、俺は膝から崩れ落ちる。
確かめるも何も俺は既に知っていたのに見ない振りをしていただけだった、確かに(裏)生徒会も憎い。
しかし、それよりも前にするべき事、姉と向かい合う事が必要なのだと気付かされてしまった。 


戦意が無くなると鞭は短くなり、床に落ちる。
俺は地面を見つめたまま小さく呟いていた。


「ごめん、俺。
お前に酷い事を……」



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【千星 那由多】


新井の顔から見る見る戦意がなくなっていく。
この場合の戦意は、恨みのこもった戦意だったのだが、それが消え去ったと同時に鞭が俺の身体から離れていった。 

壁に突き付けられていた身体が膝から地面に崩れ落ちる、蹲った上体を少し起こして新井を見る。
新井は俯きながら呟くように謝罪の言葉を投げかけ、その後膝からくずれるように地面に跪いた。
どうやら彼は俺の言葉に耳を貸してくれたようだ。 


痛む身体を庇いながら立ち上がり、新井の元へと歩んで行く。
新井はどうやら俺にとどめを刺されるかと思ったのか、ぐっと身を強張らせた。

「…殴ったりしねーよ」

俺は新井の頭にそっと手を置いた。


「まぁ…酷いことされたのは正直ちょっとトラウマになってるけど…わかってくれてありがとな。
こんな俺が偉そうなこと言えないけど、後はお前自身との戦いだよ。
こんなとこいないで、ねーちゃんの側に少しでもいてやってくれ」


慰めるように新井の頭をポンポンと軽く叩く。
彼は泣いていたのか、少し震えているような気がした。

そしてその時、晴生と薮塚が戦っていた方向から何かガラスのような物が落下する音が聞こえる。
何度も爆発音は聞こえていたが、今回のは少し大げさな落下音で心配になった。

「晴生…!新井、ごめん、あいつのこと見に行く!」


そう言って俺はその場から離れ晴生の元へと急いだ。 


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【新井涼】


俺はてっきり殴られると思っていたが千星はそれをしなかった。
それどころか、俺に励ましの言葉をかけた、彼は仲間のところに向かっていった。


「ありがとう、千星……」


もう俺にはそれしか言葉に出来なくて、俯いたまま少し涙を流した。


俺は今まで(裏)生徒会を追いかけていた時間も姉さんと一緒に居ることに決めた。
少しでも姉さんに話し掛けて、目が覚めたら色々な事を聞こう、姉さんが悪いならちゃんと怒らないとな。

そう思いながら俺は穏やかな表情で武器から戻った携帯を見つめた。 


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