あなたのタマシイいただきます!

さくらんこ

文字の大きさ
上 下
31 / 113
isc(裏)生徒会

ストーカー

しおりを挟む
【千星 那由多】


茜の事件から1週間が過ぎた月曜日の朝。
俺は寝不足の目を擦りながら、重い体をベッドから無理矢理起こす。

右手にはイデアから返された携帯が握られていて、「イデアアプリ」が起動していた。

「・・・もうマジでこのパズルとけねーよ・・・」

俺は寝起きの掠れた低い声でそう呟くと、ボタンを押して携帯の画面を閉じた。

あの日茜の任務が終わってから、俺はイデアに携帯を返してもらった。
黒いフォルムが青に変わっていて驚愕したが、俺は青が好きだったのでまぁそれはそれでよかった。
中身は何も変わりはなかったが、ただこの「イデアアプリ」が問題だった。
イデアに「このパズルを解けルヨウにしてオケ」と言われたのはいいが、1週間経った今でも解けていない。

なぜこのアプリが入っているのか、そしてなぜ解かなければならないのかまでは教えてくれなかったが、
「解けナイと解任ダ」とかなんとか指までパキパキと鳴らされてしまったので、それから1週間俺はずっとこのアプリを解くのに必死だった。


そう言えば茜の件、無事に茜は保護施設に預けられたみたいだが、
茜の母親はあの日病院へ運ばれて、意識不明の重体になって今でも目を覚まさないらしい。
(裏)生徒会のみんなは何か知ってる風だったが、
俺は別にあの酷い母親がどうなろうと関係なかったので深入りはしなかった。
茜の母親であることには変わりないのだが。


そしてこの1週間は、やれ任務だと色々な雑用染みたことをやらされていた。
だいぶ(裏)生徒会というものがわかってきたが、その任務の内容と言ったら、
逃げた猫探しだの彼氏と復縁させてほしいだの教室に巣を作ったスズメバチ退治だの・・・
本当に「ていのいいなんでも屋」の仕事内容であった。

文句を言うのもめんどくさくなってきたので、きちんと任務はこなしていたが、
ここにきて本当にこんな任務だけでいいのかと(裏)生徒会に疑問を持つようになっていた。


準備と朝食を終えた俺は、再び携帯のアプリを開き、靴を履く。
妹に「最近なんかゲームばっかりしてるね」なんて後ろから言われたが、適当に相槌を打っておいた。

これはゲームじゃない・・・んだろうけどな。

携帯をいじりながら玄関を開け、外に出たその時だった。
最近見慣れた顔が門のすぐ側にいた。


「日当瀬・・・・・・なんでいんの?」 


----------------------------------------------------------------------- 


【日当瀬 晴生】


「おはようございます!千星さん。あ、妹さんですか?いつもお世話になってます。日当瀬晴生って言います。」 

少し早くからスタンバイしていたが俺の読み通りの時間帯に千星さんは姿を現した。
どうやら後ろから姿を現したのは妹さんのようだったので失礼のないように挨拶しておいた。
彼女は少し顔を赤らめた気がしたが気にせず、千星さんが横に来るのを待ち歩き始めた。

「夏岡さんに、千星さんの事話したら、それなら自分のとこに来るより千星さんのとこに行けって言ってもらえたんで、迎えに来ました。」

いつもは旧(裏)生徒会長である夏岡陣太郎さんと登校していたのだが、
土曜に千星さんとの事を話すと自分に新しく信頼できる人物が出来た事を大変喜んで下さり、
更に自分と登校するより、千星さんと登校するほうが友情を育めるのでは無いかと提案してくださったのだ。
まだ、状況を飲み込めてないような千星さんが迎えに来たことに驚いているとは気付かず、
夏岡さんの事が分からないのだろうとひそっと耳打ちした。

「因みに夏岡さんつーのは、前(裏)生徒会長で、俺の尊敬してるもう一人の人です。
あ、その会長の時も俺、会計してたんスよ。」 

距離を近付け耳打ちをしていると視界に失礼ながら相手の携帯画面が入ってしまい、
起動している見慣れたアプリに数度瞬く。

「千星さん…なんで、今、“イデアアプリ”起動させてるんですか?」

しかもそのパズルはぐちゃぐちゃで、全く進んで無いことにも気付いたがそれは伏せて置くことにした。 


----------------------------------------------------------------------- 


【千星 那由多】


日当瀬の最初の印象と、茜の事件からの印象がガラリと変わったことは言うまでもないが、
俺の家に迎えに来るとまでは思ってもいなかった。
尊敬した人には無礼のないように、という精神なのかどうなのか・・・。
それはちょっと行き過ぎな気もするが、懐かれているということは別に嫌じゃなかった。
最初のギスギスした関係よりも、こっちの方が楽っちゃ楽だ。

日当瀬を初めて見た妹が顔を真っ赤にして、「おにーちゃんにイケメンの友達がいる・・・」
なんて言いながら何故かまた家に入ってしまった。
家の中で大声で母親を呼ぶ声が聞こえた。
帰ってきたらめちゃくちゃ質問されるだろうな・・・。

とりあえず俺はここから動かないことには学校に行けないので、門を開けて日当瀬と一緒に学校へ行くことにした。
近所のおばちゃんや、通勤のおっさん達が物珍しそうな目で日当瀬のことをジロジロ見ているが、
本人はまったく気付いていないのか気にしていないのか、俺にここに来た理由と「夏岡さん」という人のことを耳打ちで話始めた。


近い近い近い!

俺は誰であろうと一線を越えた距離に人が近づいて来るのがとても苦手なので、
日当瀬と反対側に体を寄せつつも、若干テンパりながら携帯に目を落として話を聞いていた。

ここで初めて夏岡という存在が、前(裏)生徒会長で、日当瀬がものすごく慕っているのだとわかった。
ただ・・・こいつを尊敬させる夏岡という人物が未知数なので、俺は勝手に怖い想像をして身震いをする。

そんな時に日当瀬は俺がいじっていた携帯イデアアプリに気付いたのか、
不思議そうに「なぜ今起動させているのか」と問いかけてきた。
今、という言葉が多少引っかかったが、気にせずに日当瀬の質問に答えた。

「コレ知ってんの?なんかコレ、イデアが勝手に入れてたんだけどさ・・・
解けるようにならなきゃ(裏)生徒会解任だとかなんとかで・・・。
それが俺頭悪いからぜんっっぜんとけねーんだよ・・・。わかるこれ?つーか解いて!!」

俺は日当瀬に携帯画面をズイと向けて見せた。 


----------------------------------------------------------------------- 


【日当瀬 晴生】


どうやら千星さんの話し方を聞いていると、“イデアアプリ”の詳細を全く教えて貰ってないようだ。
俺は、イデアさんが詳細を伝えていないのはきっと考えが有ってのことだと解釈し、
解いてと言う千星さんに慌てて両手を振る。

「や、解くのは構わねぇーんスけど、ちょっと人目につくとこでは…。」

流石に千星さんの願いをきいてあげたいのだが、そのアプリを解くとどうなるかを知っている為に、
校門を潜り抜け、人が多くなった辺りを見渡しながら、ここでは解けないことを伝え。
その代わり、自分のポケットからキーボード付きのエメラルドグリーンの携帯を取り出すと、同じアプリを見せてやり。 

「実は俺のにも入ってます。っと言っても毎回問題は違うし、俺のは結構レベルが上がってますから、もう少し難しいですが…。
あ、練習するのは構いませんが、解けそうになったら人目のつかないところに移動した方が良いですよ。」 

きっと千星さんはこういうものが苦手なんだろうと理解したが、
人間誰でも得手不得手があると、特に気にせず教室へと入った。
席に迎う前に、相手がそのアプリと一週間戦っていたとは知らずに、フォローと言う刃の言葉を相手に掛ける。

「まぁ、俺も最初は丸一日掛かったんで、ゆっくり頑張って下さい。」 

本当は三分。
しかもインスタントラーメンの待ち時間だったりするのだが。 


----------------------------------------------------------------------- 


【千星 那由多】


日当瀬の携帯にも同じアプリが入っていて、それを解く場所に気をつけろってことは、(裏)生徒会関係で大事なアプリなんだろう。
ただこのアプリの用途が何なのかは教えてくれなかったので、とりあえずこのパズルが解けるまで、自力でがんばるしかないか・・・。
ズルしたらイデアにバレそうで怖いし。

日当瀬はこのアプリを解くのに最初は1日かかったと言うが、
俺がまだ1週間かかってこれからも解けるかどうかわからないアプリを1日で解くとか・・・やっぱりこいつは変人だ。 

教室へと入ると、俺と日当瀬が一緒に教室に入って来たのが珍しかったのか、生徒が目を丸くしてこちらを見ていた。
だいぶこいつといることには慣れたが、クラスの生徒は日当瀬の変わりようにまだついて行けてないようだった。
まぁ俺に対して敬語ってだけで、クラスのみんなには相変わらずスレた態度とってんだけど・・・。


日当瀬は俺が席について鞄の中から筆箱やらなにやらを出すまでずっと俺の行動を眺めていた。

「いや、もう席行っていいよ・・・?」

こいつは忠犬ハチ公か?
俺が命令したらお手、お座りまでしそうでちょっと恐ろしくなったが、
彼の尊敬する夏岡という人は、こいつのこういう所を手軽に扱ってしまうのだろうか。
いつか会った時に日当瀬のことをこっそり相談してみよう。

空になった鞄を机の横にかけたと同時に、聞きなれた声が斜め上から降ってきた。 


----------------------------------------------------------------------- 


【天夜 巽】


「おはよう、那由多。あれ?今日は新しいお友達と一緒?おはようございます。俺、天夜巽って言います。」

最近、那由多がこの金髪美人さんとよく一緒にいるのは知っていたけれど、朝から一緒に居るところを見るのは初めてで、
しかもこうやって話のは俺は初なのでいつものように笑みを浮かべながら挨拶したはず…なのだが物凄く睨まれてしまった。 

「誰っすか、こいつ。」 

「え?あ、ああ。天夜巽、俺の幼なじみなんだ。巽、こっちは日当瀬晴生、えーと…最近出来た友達で…」 

「うん。知ってるよ。それより、那由多、最近ちゃんと寝てる?顔色悪いみたいだけど。」 

那由多に必要以上に近づくと体が強張るのは知っているけれど、近付かずにはいられずに、ズイッと顔を寄せて目の下のくまを見つめる。 

そうすると日当瀬が割って入って来てしまった。 


----------------------------------------------------------------------- 


【日当瀬 晴生】


「え!?ホントっすか?千星さん!そんな事にも気付かないなんて、お、俺、と…と…友達失格です!!」 

きっと、(裏)生徒会の仲間だとは言えずに、優しい千星さんは俺のこと友達だと言ってくれたんだろうが、
それでも俺に取っては感激の嵐で、反芻するのがとても照れ臭かった。 

ポッと出の天夜とか言う野郎に千星さんの体調が分かるのに自分が分からない歯痒さに、
二人の間に割って入るように千星さんの顔を見つめると確かにくまがくっきりと付いていた。 

連日の(裏)生徒会の雑用任務に“イデアアプリ”…何となくそのくまの理由が分かってしまった俺は… 

「こんど安眠枕持ってきます!!」 

としか言えず、それと同時に先公が入ってきて授業が始まった。 


----------------------------------------------------------------------- 


【千星 那由多】


幼馴染の巽は誰とでもすぐに仲良くなれるし、自分から進んで友達を作るタイプだ。
こいつは性格もいいし、人当たりもいい。周りのお墨付きの「いい人」といった感じ。

だが、日当瀬だけは論外・・・というよりこいつは周りはほぼ敵だと思ってるようなタイプだから、
巽であってもこいつと仲良くするなんてことはかなりの時間を要するだろう。

巽が自己紹介をしてきたので、日当瀬の変わりにとりあえず「友達」ということで俺から軽く紹介する。
(裏)生徒会のメンバーだなんてさすがに言えるわけもなく・・・。

そんなことを考えていると、巽が俺の寝不足に気付いたのか、顔をかなり近くに寄せてきた。
巽の人との距離感の無さは昔からだったので、だいぶ慣れてはいたがやはり少したじろいでしまう。

「あーゲームばっかして・・・」

適当にはぐらかそうと思ったところで、今度は日当瀬が巽と俺の間に割って入ってきた。
どうやら日当瀬は俺が「友達」と言ったことが相当嬉しかったようで、目をキラキラと子犬のように輝かせて言葉とは裏腹な表情をしている。 


つーか・・・・・・二人とも顔がすっっごい近いんだよ!!! 


俺は顔を引き攣らせながら椅子が浮くくらい後ろへとかなり身を引いていたが、
この距離感0野郎達は一向に目の前から離れようとしない。

誰かこの二人をひっぺがしてくれ!!


日当瀬が安眠枕がどうのこうのとかいう見当違いの言葉を言っている時に、教師という救世主が光臨し、二人は普通に俺から離れていった。

俺は後ろに浮いていた姿勢と椅子を元に戻し、大きな溜息をついて額の汗をぬぐう。
この二人がいると身が持たない気がする・・・。



それからの休み時間は地獄で、巽と話しをしていたら日当瀬が割ってはいる、の繰り返しであった。
飯も、体育の組合わせも、もちろんトイレに行くにも二人がついてくる。
俺の周りにはずっと同じ顔がふたつちらついていた。
巽は日当瀬のつっけんどんな返事にも普通にのっかっていくし、こいつら磁石のS極とS極なのになんで近くにいるんだと、
俺は寝不足にプラスされためんどくささを感じて溜息を繰り返していた。 


そんな疲れる1日を終え、今日は(裏)生徒会のミーティングだということを先週イデアから聞いていたので、
実習棟の鍵をまだもらっていない俺は日当瀬を誘って(裏)生徒会室に行こうと思っていた。
まぁ俺から誘わなくてもまたあいつから来るだろうと、疲れた体でだらだらと帰り支度を終え、
立ち上がったところで再び巽に声をかけられた。 


----------------------------------------------------------------------- 


【天夜 巽】


勉強よりは体育が好きな方だけど授業は嫌いでは無い。
この時間に覚えてしまうとそれほどテスト勉強が必要無いからだ。
まぁ、那由多には教えないと駄目なんだけど。

那由多とは幼なじみで、家も近い事がありずっと一緒に育って来た。
俺が母さんしか居なくて、女手一つで育てられた事もあり、昔は那由多の家でご飯をよくご馳走になったしね。

最近那由多に新しい友達が出来た、彼は那由多をとても大事にしてくれている良い奴だ。
…でも、そのせいかは分からないが那由多が少し疲れている気がする。
那由多が誰とどこで何をしようと関係無いんだけど、昔から他人に無関心な割にはよく面倒事に巻き込まれるせいで目が離せない。

別に那由多が好きでやってるなら、いいんだけど…。

休憩中も日当瀬はずっと那由多の傍に居た。
凄く俺には素っ気ないんだけど、この人が悪い人で無い事は横に居るだけで分かる。
きっと不器用なんだろうなと思いながら、時間は過ぎていった。

放課後、俺は普段、自分の身体能力を買われ色んな部活の助っ人をしているのだが、
今日は久々にどの部活も休みなので俺は那由多と一緒に帰ろうと思った。
もし、悩み事が有るなら聞き出せるかも知れない。


「那由多。俺、今日部活休みなんだ。一緒に帰ろう?」 

「……ああ、ごめん。今日は……」 

「残念ながら千星さんは俺と先約があるんだ。テメェはその辺の女とでも帰るんだな。」 


また、日当瀬くん…。
本当に那由多の自由なんだけど何だかちょっと寂しい気もする。
子供が巣立つ時の親の気持ちが今ちょっと分かった。

仕方無いので俺は、控えめに那由多に手を振り、騒めきたつ女子を素通りし一人で帰ることにした。 


----------------------------------------------------------------------- 


【日当瀬 晴生】


気に食わねぇ……。

何がって、あの天夜の野郎だ。
いつも千星さんの傍にいて、しかも千星さんの幼なじみと来たものだ。

俺の知らない千星さんを沢山知っている事がまず許せねぇ。
次に千星さんに対して態度が馴れ馴れしいこと、それから休憩時間毎に来んなつーの。
俺はもっと千星さんと話したいんだよ。

こんな体育バカよりきっと俺の方が役に立ちます!って、言いたいけどそれはまた今度の機会にしよう。
ホームルームを終え、日直の仕事が有ったため少し遅れて行くとそこには天夜巽が立っていた。
事も有ろうか、俺の、千星さんと帰ろうと言いだしている。

しかし、残念ながら今日は(裏)生徒会のミーティングの日。俺は勝ち誇ったように二人に割って入った。



天夜が帰ると千星さんと一緒に実習棟の科学準備室にある(裏)生徒会の部室に向かった。
部室に入るとイデアさんしか居ないのはいつものことなのだが、
千星さんとイデアさんにコーヒーを出し暫くしても、他委員会と会議をしてから来る三木がなかなか来なかったので俺は痺れを切らした。 

「ったく!!!何してんだよ、アイツ。こんなに千星さん待たせて!」 


----------------------------------------------------------------------- 


【千星 那由多】


いろんな部活の手伝いをしていて多忙な巽に、久々に一緒に帰ろうと誘われたが、
今日は(裏)生徒会のミーティングで断ることしかできなかった。

大体こいつが俺と一緒に帰ろうって言ってくる時は、俺のことを心配しているか、話したいことがあるとかそういったことなんだろうけど・・・。

日当瀬のフォローに巽が少し寂しそうな顔をしたが、事情を話すことができないので、
一人で教室を出た巽に「ごめんな」としかいう事ができなかった。 



日当瀬と実習棟へ向かう時にも巽のことが気になっていたが、寝不足でぼんやりとした頭ではあまり深く考えることができなかった。 
また、明日改めて謝っておこう。



(裏)生徒会室につき、ソファーへと腰かける。
最初ここに来た時の座り心地とは違い、この椅子、気持ちよすぎて寝てしまいそうだ・・・。
日当瀬が淹れてくれたコーヒーを口に含み、ここで落ちてしまったらイデアに怒られる!
と、疲れた目を強く瞑って少しでも脳を回復させる。

三木さんが遅れているみたいだが、彼女も表の生徒会などで多忙なのはわかっているし、日当瀬の苛立ちを眺めながら俺は自然と溜息をついていた。
ここ最近の寝不足と、新しい環境で疲れたか?
元々体力はそこまでないし、この1週間慣れないことをして筋肉痛と戦っていたこともあって、俺の体は疲れとストレスがたまっているみたいだった。 

そうだ、三木さんが来るまでにイデアに「イデアアプリ」のことをもっと詳しく聞いておこう。

「なあイデア。このイデアアプリなんだけどさ・・・」

そう俺が質問をしようと思ったところで、(裏)生徒会への入り口である壁がスッと開いた。 


----------------------------------------------------------------------- 


【三木 柚子由】


「すいません、遅れてしまって……」

「どうシタ?何か不都合デモあったカ?」

駆け足で(裏)生徒会室に来ると皆揃っていて気まずそうに肩が竦んだ。
やっぱり会長様は来てないので少しがっかりしたけれど今日表の生徒会や委員会と話して纏めた者を個々にと配ったところでイデアちゃんから来た質問。
正直に答えようかと悩んでいると、日当瀬君からも睨みをきかされ仕方なく、小さな声で喋りだした。


「あの……その…どうも、ストーカーにあってるみたい……。
その人にばれないようにここに来るのが大変だっ…た…から。
あ。千星君、これ、スペアキー、遅くなって…。」


ストーカーと言うと不穏な空気が流れた気もしたけれど、うっかり千星君に鍵を渡すのを忘れていた事を思い出した。
慌てて千星君の顔を覗くと彼はいつも以上に眠たそうで小さく首を傾げながら鍵を手渡した。

「大丈夫?千星君?」 


----------------------------------------------------------------------- 


【千星 那由多】


三木さんがやってきて、申し訳無さそうに遅れた理由を話してくれた。

それに続いて実習棟のスペアキーを手渡してくれた時に俺に気遣いの言葉をかけてくれる。

やっぱそんなに疲れてるように見えるかな?
ちょっとしっかりしないと・・・。
ストーカーされてる三木さんの方が今は一大事だ。
いらない心配をかけてしまうのは余計に彼女の負担になってしまう。

俺は三木さんからスペアキーを受け取りながら、無理に笑顔を作ってみせた。

「大丈夫ですよ!ちょっと寝不足なだけで!
それにしても三木さんストーカーされてるとか・・・心当たりとか無いんですか?」

俺は意識をしっかり持てるように、少し大げさな声で三木さんに質問をした。
三木さんはちょっとドジだけどかわいいし、きっと男子にもモテるんだろう。
本人はそんなことはないって言いそうだが。
こんな所まで追ってくるようなストーカーがいるなんて男として許せなかった。

・・・まあ俺にも日当瀬というストーカーみたいな存在がいるが・・・それは置いといてだな・・・。

三木さんは、俯きながらもごもごとしていたが、どうやらまだ誰かはきちんとわかってはいないようだった。

すると、俺の横に座っていた日当瀬がボソっと何かを口にした。 


----------------------------------------------------------------------- 


【日当瀬 晴生】


「奴らか……」


三木のストーカーの件で思い当たる事がある俺は小さく呟くが、千星さんもお疲れのようだし、
会長も居ないので会議の進行役をかって出た。
しかし、今週は特に話す内容も無いため活動報告と任務予定を告げるのみに留めた。
それだけ言い終わると席につき、イデアさんに目配せしてから柚子由に言葉を投げ掛ける。


「多分、風紀の奴等ですよね…。」

「そうだナ。核心はナイが。」

「ちっ。今までも、たまにあったけど、なんでこんなに大っぴらに…。
おい、三木。テメェ携帯あんだろ?やばかったら連絡いれろよ?後、ばれたって記憶消せば済むんだから無理すんなよ。」 

「ぇ……ぁ、うん」

風紀委員の奴等が昔から俺らをかぎ回って居たのは知っていたが、
やみくもに探していた程度で三木を追い掛け回すような下衆いことは今までしなかったはず。
なのにどうして急に大掛りな行動を起こしたのか…。
もしかしたら、最近俺が調べている件に関係あるかも知れないが、核心が持てないのに誤情報を流すわけには行かずそれは伏せて置いた。 

厄介な事にならなければいいが。その後はお疲れ気味の千星さんを家まで送ってから帰途についた。 


----------------------------------------------------------------------- 


【千星 那由多】


ハルキが口にした、「奴ら」というのは風紀委員のことらしい。

委員会ってのは、表向きにはどこの学校にも存在する普通の委員会のようなものだが、実のところ、(裏)生徒会を補助する役目をしている。
その委員会の委員長にのみ、副会長の三木さんだけが、(裏)生徒会の副会長だということを知られていて、
相互情報の架け橋になっているということは聞いていた。
委員会には風紀、図書、放送・・・ほかにもあるようだったが忘れてしまった。

その委員会を選ぶのは純粋に学校側の推薦なので、誰が選ばれるかは(裏)生徒会では決めることはできないらしい。
だから変な奴がいる場合もあるとは聞いていたが・・・。

「風紀委員」が何故三木さんを付回しているんだ?

みんな確信はないと言っているし、俺も今日はいつも以上に頭が回らないから、
話に突っ込んでややこしくさせてしまうと迷惑かなと思い、ミーティングにはあまり深入りしなかった。 



その日、日当瀬に家まで送ってもらった後(俺はいいと言ったんだが)、今朝のお迎えの件を妹と母親に質問攻めにあった。
今日はかなり疲れていたので、「クオーターの友達」とだけ言うと部屋に戻り、イデアアプリを起動。

ものの数分で晩飯も食わずに朝まで眠りこけてしまった。 


----------------------------------------------------------------------- 


【風紀:鮫島】


放課後、「例の女」を尾行をしていた谷口が教室へと帰ってきた。
僕はというとその間委員長のお世話を付きっ切りでしていたのだ。
させられているというのが正しい言い方だが。

「例の女」の尾行を失敗した谷口は、案の定酷く罵倒されて、殴られまくっていた。
バカだの猿だのクズだの・・・だけどあいつは「申しわけございません!」と何度も何度も謝り媚び諂っている。

僕も何故だかわからないがとばっちりを受け、右脛に蹴りをくらわされた。
いつものことだから慣れてはいるが、やっぱり痛い。


ひとしきり怒鳴り散らした後、委員長はご自慢のブランドデザイナーがデザインしたクシを取り出し、綺麗に髪を整える。

「ったく・・・貴様らは役に立たん!!無能どもめ!!
仕方がない・・・明日、俺様があの女を尾行して、他の(裏)生徒会の奴等を引きずりだしてやる・・・ククッ・・・ハーッハッハッハッハ」

谷口は「さすが委員長っ!」とかなんとか言いながら、痣になった顔を気にもせずにこやかに拍手をしていた。 

・・・ついていけない。
だけど僕は、ここにいなきゃならないんだ。
高らかに笑う委員長と拍手し続ける谷口を見ながら、僕は俯きながら小さく小さく拍手をした。 



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

兄になった姉

廣瀬純一
大衆娯楽
催眠術で自分の事を男だと思っている姉の話

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

奇妙な日常

廣瀬純一
大衆娯楽
新婚夫婦の体が入れ替わる話

処理中です...