25 / 113
過去編【あなたまメンバーの裏生徒会(高校生)時代】
【過去編】11 さようなら〝サチオ〟※流血表現あり
しおりを挟む
「なったぞ?それでどうするのじゃ?」
「簡単ですよ……」
(ああ、もう入れましたね)
「は?な!?」
イロハは〝遺伝子〟の能力を使って神功左千夫《じんぐう さちお》に容姿を変えた。神功はイロハが変化した神功左千夫《じんぐう さちお》の瞳を真っ直ぐに見つめると抜け殻のように本体が崩れ落ちる。その抜け殻は九鬼と薬師河によって支えられた。
そしてイロハは自分の中から聞こえる声に神功の容姿のまま目を真ん丸にしてキョロキョロと辺りを見渡す。
「どういう事じゃ?」
『僕の顔でそういう表情を作るのは控えてもらえませんか?』
「な、なんぞ!妾の口が勝手に動くぞ!」
『君の中に入りました』
「な、な!?どこにじゃ!どうなっておる、妾が妾がおかしいぞ!のう、悠都」
「……えーと、そうだね。イロハちょっと落ち着いて、左千夫の顔で縋られると流石に……ね」
「うう、これが落ち着いていられるか、妾の……妾の中に神功が……!
九鬼!血だ!血を分けるが良い!さすれば強力なお主の能力で神功を追い出せるのではないか?お、お願いじゃ……!」
「う……イロハちゃん、待って。ボクその顔に頼まれると結構……クる」
声も神功に変わってしまっているが口調はそのまま故に薬師河も九鬼も神功では無いと分かっているのだが、弱り縋られるとどうしても二人共顔が赤らんだ。そして次の瞬間イロハでは無い、いつもの神功の口調でイロハの口が動く。
『…………矢張り、結局は顔なんですね』
「そ、そんなことないヨ~!性格も、冷たくてクールな左千夫クンが……!」
「そういう訳じゃないけど、……やっぱり迫られると弱いかな……」
『……仕方ありませんね。自分の顔が整っていることは僕が一番熟知してますし。僕にはそもそも可愛げってもんがありませんしね……まぁ、貴方達に対して作る気もありませんが』
そう言って神功自身がイロハの表情を動かして作った狡猾な自信に満ちた笑みに九鬼と薬師河は一層頬を染めた。神功はそんな事お構いなしにその場に胡座を掻く。
『九鬼。右足、左足、左手、右手、最後に心臓です』
「な、何をするつもりじゃ……」
『簡単ですよ。爆弾をえぐり出すんです』
「な、な……!!」
『大丈夫です、僕は自分の体なら隅々まで覚えているのでどこに爆弾が埋まっているか直ぐに解ります。九鬼ダガーを』
「待て!!やめろっ!妾の肌を傷つけるなぁっ、ま、待て!」
『では、右足から』
「ぎ、ぁあ゙あ゙ああっ!!」
神功の声のまま悲鳴が当たりに響き渡る。
イロハが叫び声を上げ続けているため神功は言葉を吐き出せずイロハだけに問いかけるように頭の中で言葉を綴った。
(煩いですね。イロハさん、抵抗しないでください。面倒です)
「妾の、妾のあ゙じ、あじがぁぁぁ!!」
(イロハさん、ちゃんと息吸って、吐いて、ほら、心臓止めちゃだめですよ)
「うるさい、うるさい、うるさーー────っ、……煩いので完全に乗っ取らせてもらいました……イロハさん次逆足行きますよ……ふ、ッ」
(な!妾の妾の声が……、ひ、ぎ、やめ…………!!!??)
ザクッ、ゴリッ、ブシュッ
肉が切断される音が大きく響くがイロハの体を神功が完全に乗っ取ってしまったので叫び声を上げることも表情も変わる事も無くなってしまう。淡々と爆弾チップの入ってる箇所の皮膚を魚を捌くかのように裂き、中の筋肉と筋を絶ち、チップにナイフを引っ掛けて弾き出すと九鬼が水で包んで不発させる。逆足も同様に肉を割いて取り出すが中でイロハが悲鳴を上げて居るようで時折神功の動きが止まった。
「ほら、今は僕なんですから違う能力はつかっちゃだめですよ?イロハさんは試験管人間ですよね、こんなことくらい沢山されてきたでしょう?嗚呼、優良個体はされないんですかね……」
(ぎゃぁあああああっ!痛い!神功!やめろ!妾の妾の体を裂くなッ!切るなァァァあ!!!)
「では、進めますね」
(いぎぃぃっ!妾のッ!妾のきめ細やかな肌が!血が、血が出てるではないかっ)
「切ってるんですから、当たり前ですよ。腕、行きます。九鬼鏡を」
(み、みせるなぁぁぁっ!あ、あ、ああっ、痛い、痛いぞ、神功…そちは痛くないのか、はぁ、はぁ、肉が抉れておる)
「痛いですが、後は逆ですね。僕両利きなので安心して下さい。外しませんので」
(待て、神功!時間を、時間をくれ!……痛すぎてッ、ァああああああっ─────!!!)
「さて、あとは心臓ですがいけそうですか?……困りましたね、返答がありません」
神功はイロハの体を何の抵抗もなく切り裂いていった。余りにも淡々と行われる行為に薬師河は苦笑を浮かべ、中のイロハに同情すらした。
そして、爆弾を四つ全て体内から弾き出すと九鬼が傷口に血液を垂らし治癒してしまう。ただ、痛みは消えないので中に押し込まれたイロハ大きく首を振った。
(無、無理じゃもう、耐えれぬ……!)
「まぁ、無理と言われてもやるんですが」
九鬼と薬師河はイロハの中に入っている二人の様子を見つめた。神功の言葉のみしか外には聞こえなかったがイロハが、神功の中でみっともなく泣き喚いている様子が手に取るように分かったし、同じ実験体だからかいつもより容赦のない神功に畏怖すら感じた。
「敵には回したくないよネ~」
「それは同感かな……」
「傷、塞がりましたね。手足の動きも悪くない。
九鬼。最後の爆弾は貴方が抜いてくれますか?」
「ん?いいヨ~」
「場所はここです。わりときっちり心臓に埋まっているので直ぐに蘇生を」
「左千夫クンの心臓あったかいからダーイスキ」
(いや、やめろ、や、め、…………ぐぅっっっつ!!!む、胸、胸がァァああああっ!)
「余りやりたくなかったのですが無理そうですね、痛覚を遮断します。中がうるさ過ぎる」
「それ、反動で死んじゃわない?」
「上手くやります」
(な、なんぞ?急に何も感じなく…………あ、あ゙……妾の妾の胸が……!!)
神功とイロハが共有している視界にダガーが映った。
神功は肋骨の隙間の中央付近になんの躊躇いも無く刃を突き刺す。そして横一文字に心臓のギリギリで引き裂くと指を差し入れて上下へと開いた。
「どうぞ。イロハさん行きますよ」
(なんの事じゃ、なにも感じぬ!胸が、胸が開いてるのになにも感じ…………ぬ、………ぐはッ)
「……ッ、余り保ちそうに無い」
「……ん、待って。まだ見つけてナイ」
「右心室の下……ですかね」
「あ、ココか」
九鬼は腕を切ってまず両手に血液を付着させる。その手で直接心臓を触診し、爆弾を探すが簡単には触れる事ができず、自分の血液細胞をイロハの心臓へと潜り込ませた。位置を特定すると一度手を離し、グローブの金属でワイヤーを作るとそれにも血液を付けて心臓に繋がる太い血管を割いて中にカテーテルのようしていれ込んで行く。そして、爆弾に当たった瞬間に特殊素材で包み込むと完全に肉に埋まっている小型爆弾を引っ張り抜いた。何を言わずも薬師河が爆弾を処理し、九鬼は直ぐ様心臓と血管の傷の創造に入る。
(──────────!?)
イロハを不思議な感覚が襲った。痛くないのに息が出きず、胸が焼けるような気分になった、その瞬間、イロハに自由が戻った。びっしょりと汗を掻いて胸を抑えたときには嘘であるかのようにそこに傷は無く、目の前の九鬼は両手が血まみれのままである為信じられず何度も何度も胸と手足を触った。
「な、なんと……これで、妾はじゆ、……う………───────」
「おっと、イロハちゃん?」
歓喜に声を上げだ瞬間、イロハの瞳がグルンと回転し、白目を剥いて倒れる。それと同時に薬師河に支えられ神功本体が大きく咳き込んだ。
「ゴホッ、ゲホッ…………はっ、…………ッ」
「左千夫、大丈夫?」
「はい……流石に、少し僕本体にもダメージが……痛みと、恐怖は僕が精神と一緒に持ってきたのですが。此方もあちらも無傷とはいかなかったようですね」
「ま、大丈夫じゃないカナ?イロハちゃん、ちゃんと心臓動いてるしネ~」
イロハは肉体に掛かった負荷により気を失ってしまい、神功は痛みを全て自分の本体に持ち帰った為体が勘違いを起こし吐血した。神功は直ぐに血液が付いた口の端を拭うと呼吸を整え、立ち上がった。
イロハが気を失った為に作り直した空間が消えて校舎の屋上近くの教室へと景色が変わる。
「ありがとう、左千夫。君のお陰だよ」
「いえ、僕は僕の欲の為に動いただけです」
「……そうだね。それじゃ、僕は退くから君のしたい事をしておいで、イロハの事頼むよ」
「……え?あ、待って……悠都!貴方は⁉︎ッ…九鬼、イロハさんの避難を」
「え?ちょ、左千夫クンドコイクの!」
「直ぐに戻ります」
薬師河はイロハの顔色が整うと小さく笑みを浮かべて、窓の外へと飛び立った。神功は悪い予感しかせずに精神的に傷む体を叱咤して薬師河を追う。その場に残された九鬼はついていこうとしたが気絶しても神功の容姿のままのイロハに服を掴まれてしまうと放っては置けなかった。
「も~!左千夫クンのいけず!……て、ヤッバイじゃんこれ……」
そして、結界が壊れ、監視カメラに絶有主《ゼウス》の敗北が映った瞬間、下階の多方面から爆発音が鳴り響き、九鬼はイロハの体を抱くと爆破と反対側へと走っていった。
校舎の1階から爆発音が聞こえる中、薬師河は屋上庭園へと登る。その後を神功は追いかけると同じ場所へと降り立った。
「悠都……!!」
「あ、……左千夫。着いてきちゃったのか」
「悠都、校舎の破壊が進んでいます。逃げなければ……」
「もう、いいかな」
「……………!?どういう……」
「左千夫。イロハは爆弾が5つだったよね?」
「そ、そうですが……もしかして、悠都にも…!?なら……」
「そうだね数え切れない程。残念だけど僕はもう助からない」
「───────ッ!!??」
「僕の体は爆弾に起因する細胞で作られた仮の染の肉体なんだ。僕は僕のエゴで生《せい》を伸ばしていただけだし……絶有主《ゼウス》の皆も自由になったし、思い残す事は無いかな」
「……そ、そんな。貴方はあの時、生きていたのでは?なにか、なにか方法が!!」
「あ、そうだ。最後に一つ……」
下から爆破の轟音が響き、建物が激しく揺れる中、薬師河は庭園の花に囲まれいつも通りに微笑んだ。神功は薬師河が嘘を言っているようには見えなかった。もう自分には助かる手段が無いと打ち明けられ神功は動揺に視線を揺らす。しかし、そんな神功をお構いなしに薬師河は両手を大きく開いた。
「仲直りしよう?」
「仲直り?喧嘩なんてしてません……謝らなければならないのは」
「僕だよ。ごめんね、ずっと言えなくて、君一人を遺してしまって」
「……ゆう……ッ…サチオ」
「7913……。最後に抱き締めさせて?」
神功は悟った。もう本当に薬師河、いや〝サチオ〟とお別れなのだと。その腕に抱き着いてしまえばきっと自分の前から〝サチオ〟は姿を消してしまうと分かっているのに戦闘奴隷時代に何度も支えられた腕に引き寄せられるように足が進む。
「……きっと、きっとなにか、なにか」
「7913……ありがとう。その言葉だけで僕は幸せ者だ」
「〝サチオ〟嫌です……行かないで」
「君と出会えてよか……………─────ッッッッ!!?」
バッァシュン! べシャッ……
神功が薬師河に触れそうになったその時、薬師河の体が大きく音を立てて破裂した。そして飛び散った血液が神功を赤く染める。神功の思考が完全に止まり、真っ赤に染まった自分の手を見つめた瞬間、それだけで終わらなかった。神功には哀しむ暇させも与えられることは無い。
飛び散った薬師河の血液細胞の一つ一つが小型爆弾に変化し、神功の肌の表面で爆発音が鳴り響いた。
「──────ッァあああああっ!!!」
思わず神功は声を上げて、肌に付着した血液は炎で焼いてその細胞を壊す。しかし、到底間に合わず全身に酷い傷を負って膝を付いた。
「………っ、あ………あッ」
目の前の薬師河は既に原型を留めて居らず、その血液が爆破するので触れることも出来ない。神功が色濃く絶望する姿を遠くから下品な笑い声を発しながら一人の男が見つめていた。
「ハッハーッ!なっさけねぇ、仕損じたらそうなるって分かってただろうに……!」
「……ッ……その声は……B」
「正解だぜ!良かったな神功?知り合いだったんだろぉ?原型が無くなっちまったなぁ!元からイケ好かねぇ野郎だったからスッキリだな」
「…………ッ、何故、レゲネのお前がここにいる」
「政府と取引したからに決まってんだろぉ、悲しさで頭おかしくなっちまったか?神功。
因みにそいつの体、俺の細胞で作ってたんだぜ?裏切ったらいつでもバンできるよーによ。ハハッ、ハハハッ!まさかホントに爆破できる日が来るとは思わなかったけどな!もっと賢いやつだと思ってたぜッ!」
「……ッ、貴様ッ!!」
Bと呼ばれた男はどこからともなくガスマスク姿で現れた。彼は独自の能力犯罪者収容施設「レゲネラツィオン」通称「レゲネ」のメンバーの一人であった。神功とは知った中であったが能力が爆破というだけで他の情報は持ち合わせて居なかった。しかし、既に冷静さの欠片も残っていない神功は自分の傷を焼き、精神で神経を繋がっていると自分に暗示を掛けようとしたが何故かいつも通り上手く行かず盛大に吐血し、その場に再び膝を付いた。
「カハッ……ッ、なぜ」
「お?おおお?コリャー儲けモンなんじゃねぇーの?立てねーの?まっさかこんなとこでお前も殺せるとか……、政府に幾らで死体売ってやろうかなー、良い小遣い稼ぎになるぜ!!」
「────くっ!」
神功の体は思うように動かなかった。そして、その体を目掛けてBが掌を翳した。Bのすぐ近くの空中が爆発して、誘発するように神功まで一直線に爆発が伝染していく。神功がなんとか動く手を前に出し槍で防御姿勢を取ったその前に人影が立ちはだかる。
「……最後くらい静かにお別れさせてよ」
「さ、……〝サチオ〟?」
「はぁ?ざけんなよ、テメー!いま、木っ端微塵にぶっとんだよな?ぁあ?フザケてんのか?」
「うん。そうなんだけどさ……僕の能力ってこんな使い方もできたみたいだ……よ!」
「……ッ!?……ざけんなぁああ!テメェは他のイレモノがなきゃ、死ぬしかねぇんだよ!その体は俺の細胞そのものなんだからなッ!」
「そうだね。でも、せめて好きな子を守ってから死にたいかな?」
「この、死に損ないがぁぁぁぁあああ!!」
神功は目を見張った。自分を守ってくれたのは〝サチオ〟だったからだ。見るも無残に肉体が砕けちった筈なのに薬師河の体は血だらけであるが元に戻っていた。今現在もBの細胞の爆発と、薬師河の細胞の再生が繰り返され、所々皮膚が裂けては戻っていく。確かに薬師河は戦いの最中にも傷が塞がっていた。彼の能力はどんな細胞でも彼自身に変えてしまうものであった。神功が殺した筈の彼は他の人間や生き物に乗り移り生きながらえていた。そして今は政府と取引し、レゲネ構成員のBの肉体の細胞で作られたクーロンに薬師河は乗り移っていたのだ。
はやく助太刀しなければと動いた瞬間、燃やし切れなかった師河の血液が神功の肌の上で爆破した。
「ぐっ……ぅっ!」
「左千夫……!?」
「てめーは余計な事すんなよっ!そこでコイツが無様にやられる様をみとけよ、ごらぁぁ!!」
「────黙れ」
「は……な、に……」
「左千夫は、……朱華《しゅか》はお前ごときが傷付けていい相手じゃない」
「は?……何なんだよこいつは!こんなのでー……た、に……」
神功が悲鳴を上げた瞬間、Bは楽しげに笑った。そして更に神功についた自分のクローンの血液細胞を爆破させようとした瞬間近くまで来ていた薬師河の腹が縦に化物の口のように大きく開いた。そして、Bに噛み付いてグッチャグチャと嫌な音を立てながら飲み込んで行く。
「ッ薬師河!でっめぇ!!おぼえてろよ!次はぜって、ぎ、ゃあああああああっ!」
「……品がないやつ……ごめん、僕のせいだね、痛かったでしょ?」
「い、いえ……」
そして、Bを自分の肉体へと取り込んでしまった薬師河は何事も無かったように再び神功に向かって微笑みを浮かべた。
「怒るのは苦手なんだけどな」
「悠都の……〝サチオ〟の能力?」
「うん、そうだね。基本は他の肉体を僕の姿形にすることくらいしか出来なかったんだけど、死ぬ間際に使い方がちょっと分かったよ。相変わらずうまく使えなかったけど……やっぱり朱華《しゅか》は凄いね」
「……ッ、その名前は……君が僕に…………」
「覚えてくれてたんだね………ッ!?はっ、……ぅ……」
「〝サチオ!?〟」
「さっきのBはニセモノみたいだね……本体が、来るわけないか……ッ体の中がッ、僕の細胞の爆発が止まらないッ」
神功が膝で這うように薬師河の元へ向かった。
その神功を薬師河が手で制す。先程のBは薬師河の体を作った時のように肉体のクローンで本体は別の場所にあり、その本体が薬師河の体の細胞を起爆させている為爆発は止まらず、薬師河の体の中は爆発と再生が交互に発生し、肌の色が青褪めたり元に戻ったりを繰り返していた。
薬師河はいつ再生が爆発に負けるかわからない体を引き摺り、血液の道を作りながらフェンスに向かい後ずさっていく。神功は何度も躓き、膝をつきながら更に地面を赤くよごして追いかける。しかし追いつく事はなく薬師河はフェンスへと背中を預けた。
「今度こそ、本当にお別れだよ、朱華《しゅか》……ああ、また、君を抱きしめられないや」
「待って、待って下さい……〝サチオ〟……僕は……僕は」
「蛍の事よろしく頼むね。絶有主《ゼウス》のメンバーの事も……。ありがとう、生きていてくれて」
「嫌です……僕は、ちゃんと君の命令を聞いて、生きて……生き抜いてきた……そしてまた逢えたのに」
「ごめんね。朱華……いや、さようなら、7913……もう、僕の事なんて忘れて……だって僕はお前のこと」
だいきらい
薬師河の唇がそう象る。
ただ、声は最後まで出ることなく、肉体の爆発によりフェンスが潰れて空中へと体が投げ出された。
神功はまた喪ってしまう。失わない為に強くなった筈なのに一番失いたくないものが目の前で消えようとしている。過呼吸を繰り返しながらも精神を統一する。精神体にさえなれば、体から抜け出せれば自分は自由になる……薬師河を追いかけれると、瀕死の肉体から精神を抜こうとしたとき───
「左千夫くん、ダメッ!」
後を追いかけてきた九鬼が神功の腕を掴んだ。
九鬼の手は実体と一緒に精神まで捕まえる。そうすると、神功は体から抜ける事が出来なくなり、驚きの表情で九鬼を見上げた。
二人の様子を最後に視界におさめた薬師河は小さく笑みを浮かべて屋上庭園からグラウンドに落下していく。ハッとした神功は身を乗り出すがもうそこには彼は居なかった。
「〝サチオォォオオッッッッ〟!!!」
ドォォォォォンッ!と激しい閃光と爆音に紛れて神功の悲鳴が木霊する。暴風が吹き荒れ、飛ばされた神功の体を九鬼が抱きとめて地面を滑る。神功は直ぐ様立ち上がろうとするがもう一度九鬼に腕を引っ張られ殺気を含んだ瞳で睨みつけたあとハッとしたように唇を噛んだ。
「……何故、止めた」
「その体で精神体になったら死ぬからにきまってるデショ」
「………………………」
二人の間に沈黙が走る。しかし、九鬼は神功を抱き締めたまま離すことなく何度目かわからない腕の傷をまた深く切り裂いて神功に、自分の血を注いだ。神功は俯きその表情は髪に隠れてしまって見えないが小さく震えていた。
「すいません……ありがとうございます」
「キモチワルイなぁ……で、どうすんの?」
「…………落とし前つけに」
「…………仕方ないから、手伝ってあげるヨ」
神功から落ちる礼に九鬼は肩を竦めた。神功の傷を塞ぐと何度も裂いた腕の傷に包帯を巻き立ち上がり、グローブを整えた。
神功は傷の治った体の痛みを馴染ませるように瞳で見ると立ち上がった。
神功がフェンスから下を見下ろすがもうそこには焼け焦げた地面以外には何も存在しなかった。
「簡単ですよ……」
(ああ、もう入れましたね)
「は?な!?」
イロハは〝遺伝子〟の能力を使って神功左千夫《じんぐう さちお》に容姿を変えた。神功はイロハが変化した神功左千夫《じんぐう さちお》の瞳を真っ直ぐに見つめると抜け殻のように本体が崩れ落ちる。その抜け殻は九鬼と薬師河によって支えられた。
そしてイロハは自分の中から聞こえる声に神功の容姿のまま目を真ん丸にしてキョロキョロと辺りを見渡す。
「どういう事じゃ?」
『僕の顔でそういう表情を作るのは控えてもらえませんか?』
「な、なんぞ!妾の口が勝手に動くぞ!」
『君の中に入りました』
「な、な!?どこにじゃ!どうなっておる、妾が妾がおかしいぞ!のう、悠都」
「……えーと、そうだね。イロハちょっと落ち着いて、左千夫の顔で縋られると流石に……ね」
「うう、これが落ち着いていられるか、妾の……妾の中に神功が……!
九鬼!血だ!血を分けるが良い!さすれば強力なお主の能力で神功を追い出せるのではないか?お、お願いじゃ……!」
「う……イロハちゃん、待って。ボクその顔に頼まれると結構……クる」
声も神功に変わってしまっているが口調はそのまま故に薬師河も九鬼も神功では無いと分かっているのだが、弱り縋られるとどうしても二人共顔が赤らんだ。そして次の瞬間イロハでは無い、いつもの神功の口調でイロハの口が動く。
『…………矢張り、結局は顔なんですね』
「そ、そんなことないヨ~!性格も、冷たくてクールな左千夫クンが……!」
「そういう訳じゃないけど、……やっぱり迫られると弱いかな……」
『……仕方ありませんね。自分の顔が整っていることは僕が一番熟知してますし。僕にはそもそも可愛げってもんがありませんしね……まぁ、貴方達に対して作る気もありませんが』
そう言って神功自身がイロハの表情を動かして作った狡猾な自信に満ちた笑みに九鬼と薬師河は一層頬を染めた。神功はそんな事お構いなしにその場に胡座を掻く。
『九鬼。右足、左足、左手、右手、最後に心臓です』
「な、何をするつもりじゃ……」
『簡単ですよ。爆弾をえぐり出すんです』
「な、な……!!」
『大丈夫です、僕は自分の体なら隅々まで覚えているのでどこに爆弾が埋まっているか直ぐに解ります。九鬼ダガーを』
「待て!!やめろっ!妾の肌を傷つけるなぁっ、ま、待て!」
『では、右足から』
「ぎ、ぁあ゙あ゙ああっ!!」
神功の声のまま悲鳴が当たりに響き渡る。
イロハが叫び声を上げ続けているため神功は言葉を吐き出せずイロハだけに問いかけるように頭の中で言葉を綴った。
(煩いですね。イロハさん、抵抗しないでください。面倒です)
「妾の、妾のあ゙じ、あじがぁぁぁ!!」
(イロハさん、ちゃんと息吸って、吐いて、ほら、心臓止めちゃだめですよ)
「うるさい、うるさい、うるさーー────っ、……煩いので完全に乗っ取らせてもらいました……イロハさん次逆足行きますよ……ふ、ッ」
(な!妾の妾の声が……、ひ、ぎ、やめ…………!!!??)
ザクッ、ゴリッ、ブシュッ
肉が切断される音が大きく響くがイロハの体を神功が完全に乗っ取ってしまったので叫び声を上げることも表情も変わる事も無くなってしまう。淡々と爆弾チップの入ってる箇所の皮膚を魚を捌くかのように裂き、中の筋肉と筋を絶ち、チップにナイフを引っ掛けて弾き出すと九鬼が水で包んで不発させる。逆足も同様に肉を割いて取り出すが中でイロハが悲鳴を上げて居るようで時折神功の動きが止まった。
「ほら、今は僕なんですから違う能力はつかっちゃだめですよ?イロハさんは試験管人間ですよね、こんなことくらい沢山されてきたでしょう?嗚呼、優良個体はされないんですかね……」
(ぎゃぁあああああっ!痛い!神功!やめろ!妾の妾の体を裂くなッ!切るなァァァあ!!!)
「では、進めますね」
(いぎぃぃっ!妾のッ!妾のきめ細やかな肌が!血が、血が出てるではないかっ)
「切ってるんですから、当たり前ですよ。腕、行きます。九鬼鏡を」
(み、みせるなぁぁぁっ!あ、あ、ああっ、痛い、痛いぞ、神功…そちは痛くないのか、はぁ、はぁ、肉が抉れておる)
「痛いですが、後は逆ですね。僕両利きなので安心して下さい。外しませんので」
(待て、神功!時間を、時間をくれ!……痛すぎてッ、ァああああああっ─────!!!)
「さて、あとは心臓ですがいけそうですか?……困りましたね、返答がありません」
神功はイロハの体を何の抵抗もなく切り裂いていった。余りにも淡々と行われる行為に薬師河は苦笑を浮かべ、中のイロハに同情すらした。
そして、爆弾を四つ全て体内から弾き出すと九鬼が傷口に血液を垂らし治癒してしまう。ただ、痛みは消えないので中に押し込まれたイロハ大きく首を振った。
(無、無理じゃもう、耐えれぬ……!)
「まぁ、無理と言われてもやるんですが」
九鬼と薬師河はイロハの中に入っている二人の様子を見つめた。神功の言葉のみしか外には聞こえなかったがイロハが、神功の中でみっともなく泣き喚いている様子が手に取るように分かったし、同じ実験体だからかいつもより容赦のない神功に畏怖すら感じた。
「敵には回したくないよネ~」
「それは同感かな……」
「傷、塞がりましたね。手足の動きも悪くない。
九鬼。最後の爆弾は貴方が抜いてくれますか?」
「ん?いいヨ~」
「場所はここです。わりときっちり心臓に埋まっているので直ぐに蘇生を」
「左千夫クンの心臓あったかいからダーイスキ」
(いや、やめろ、や、め、…………ぐぅっっっつ!!!む、胸、胸がァァああああっ!)
「余りやりたくなかったのですが無理そうですね、痛覚を遮断します。中がうるさ過ぎる」
「それ、反動で死んじゃわない?」
「上手くやります」
(な、なんぞ?急に何も感じなく…………あ、あ゙……妾の妾の胸が……!!)
神功とイロハが共有している視界にダガーが映った。
神功は肋骨の隙間の中央付近になんの躊躇いも無く刃を突き刺す。そして横一文字に心臓のギリギリで引き裂くと指を差し入れて上下へと開いた。
「どうぞ。イロハさん行きますよ」
(なんの事じゃ、なにも感じぬ!胸が、胸が開いてるのになにも感じ…………ぬ、………ぐはッ)
「……ッ、余り保ちそうに無い」
「……ん、待って。まだ見つけてナイ」
「右心室の下……ですかね」
「あ、ココか」
九鬼は腕を切ってまず両手に血液を付着させる。その手で直接心臓を触診し、爆弾を探すが簡単には触れる事ができず、自分の血液細胞をイロハの心臓へと潜り込ませた。位置を特定すると一度手を離し、グローブの金属でワイヤーを作るとそれにも血液を付けて心臓に繋がる太い血管を割いて中にカテーテルのようしていれ込んで行く。そして、爆弾に当たった瞬間に特殊素材で包み込むと完全に肉に埋まっている小型爆弾を引っ張り抜いた。何を言わずも薬師河が爆弾を処理し、九鬼は直ぐ様心臓と血管の傷の創造に入る。
(──────────!?)
イロハを不思議な感覚が襲った。痛くないのに息が出きず、胸が焼けるような気分になった、その瞬間、イロハに自由が戻った。びっしょりと汗を掻いて胸を抑えたときには嘘であるかのようにそこに傷は無く、目の前の九鬼は両手が血まみれのままである為信じられず何度も何度も胸と手足を触った。
「な、なんと……これで、妾はじゆ、……う………───────」
「おっと、イロハちゃん?」
歓喜に声を上げだ瞬間、イロハの瞳がグルンと回転し、白目を剥いて倒れる。それと同時に薬師河に支えられ神功本体が大きく咳き込んだ。
「ゴホッ、ゲホッ…………はっ、…………ッ」
「左千夫、大丈夫?」
「はい……流石に、少し僕本体にもダメージが……痛みと、恐怖は僕が精神と一緒に持ってきたのですが。此方もあちらも無傷とはいかなかったようですね」
「ま、大丈夫じゃないカナ?イロハちゃん、ちゃんと心臓動いてるしネ~」
イロハは肉体に掛かった負荷により気を失ってしまい、神功は痛みを全て自分の本体に持ち帰った為体が勘違いを起こし吐血した。神功は直ぐに血液が付いた口の端を拭うと呼吸を整え、立ち上がった。
イロハが気を失った為に作り直した空間が消えて校舎の屋上近くの教室へと景色が変わる。
「ありがとう、左千夫。君のお陰だよ」
「いえ、僕は僕の欲の為に動いただけです」
「……そうだね。それじゃ、僕は退くから君のしたい事をしておいで、イロハの事頼むよ」
「……え?あ、待って……悠都!貴方は⁉︎ッ…九鬼、イロハさんの避難を」
「え?ちょ、左千夫クンドコイクの!」
「直ぐに戻ります」
薬師河はイロハの顔色が整うと小さく笑みを浮かべて、窓の外へと飛び立った。神功は悪い予感しかせずに精神的に傷む体を叱咤して薬師河を追う。その場に残された九鬼はついていこうとしたが気絶しても神功の容姿のままのイロハに服を掴まれてしまうと放っては置けなかった。
「も~!左千夫クンのいけず!……て、ヤッバイじゃんこれ……」
そして、結界が壊れ、監視カメラに絶有主《ゼウス》の敗北が映った瞬間、下階の多方面から爆発音が鳴り響き、九鬼はイロハの体を抱くと爆破と反対側へと走っていった。
校舎の1階から爆発音が聞こえる中、薬師河は屋上庭園へと登る。その後を神功は追いかけると同じ場所へと降り立った。
「悠都……!!」
「あ、……左千夫。着いてきちゃったのか」
「悠都、校舎の破壊が進んでいます。逃げなければ……」
「もう、いいかな」
「……………!?どういう……」
「左千夫。イロハは爆弾が5つだったよね?」
「そ、そうですが……もしかして、悠都にも…!?なら……」
「そうだね数え切れない程。残念だけど僕はもう助からない」
「───────ッ!!??」
「僕の体は爆弾に起因する細胞で作られた仮の染の肉体なんだ。僕は僕のエゴで生《せい》を伸ばしていただけだし……絶有主《ゼウス》の皆も自由になったし、思い残す事は無いかな」
「……そ、そんな。貴方はあの時、生きていたのでは?なにか、なにか方法が!!」
「あ、そうだ。最後に一つ……」
下から爆破の轟音が響き、建物が激しく揺れる中、薬師河は庭園の花に囲まれいつも通りに微笑んだ。神功は薬師河が嘘を言っているようには見えなかった。もう自分には助かる手段が無いと打ち明けられ神功は動揺に視線を揺らす。しかし、そんな神功をお構いなしに薬師河は両手を大きく開いた。
「仲直りしよう?」
「仲直り?喧嘩なんてしてません……謝らなければならないのは」
「僕だよ。ごめんね、ずっと言えなくて、君一人を遺してしまって」
「……ゆう……ッ…サチオ」
「7913……。最後に抱き締めさせて?」
神功は悟った。もう本当に薬師河、いや〝サチオ〟とお別れなのだと。その腕に抱き着いてしまえばきっと自分の前から〝サチオ〟は姿を消してしまうと分かっているのに戦闘奴隷時代に何度も支えられた腕に引き寄せられるように足が進む。
「……きっと、きっとなにか、なにか」
「7913……ありがとう。その言葉だけで僕は幸せ者だ」
「〝サチオ〟嫌です……行かないで」
「君と出会えてよか……………─────ッッッッ!!?」
バッァシュン! べシャッ……
神功が薬師河に触れそうになったその時、薬師河の体が大きく音を立てて破裂した。そして飛び散った血液が神功を赤く染める。神功の思考が完全に止まり、真っ赤に染まった自分の手を見つめた瞬間、それだけで終わらなかった。神功には哀しむ暇させも与えられることは無い。
飛び散った薬師河の血液細胞の一つ一つが小型爆弾に変化し、神功の肌の表面で爆発音が鳴り響いた。
「──────ッァあああああっ!!!」
思わず神功は声を上げて、肌に付着した血液は炎で焼いてその細胞を壊す。しかし、到底間に合わず全身に酷い傷を負って膝を付いた。
「………っ、あ………あッ」
目の前の薬師河は既に原型を留めて居らず、その血液が爆破するので触れることも出来ない。神功が色濃く絶望する姿を遠くから下品な笑い声を発しながら一人の男が見つめていた。
「ハッハーッ!なっさけねぇ、仕損じたらそうなるって分かってただろうに……!」
「……ッ……その声は……B」
「正解だぜ!良かったな神功?知り合いだったんだろぉ?原型が無くなっちまったなぁ!元からイケ好かねぇ野郎だったからスッキリだな」
「…………ッ、何故、レゲネのお前がここにいる」
「政府と取引したからに決まってんだろぉ、悲しさで頭おかしくなっちまったか?神功。
因みにそいつの体、俺の細胞で作ってたんだぜ?裏切ったらいつでもバンできるよーによ。ハハッ、ハハハッ!まさかホントに爆破できる日が来るとは思わなかったけどな!もっと賢いやつだと思ってたぜッ!」
「……ッ、貴様ッ!!」
Bと呼ばれた男はどこからともなくガスマスク姿で現れた。彼は独自の能力犯罪者収容施設「レゲネラツィオン」通称「レゲネ」のメンバーの一人であった。神功とは知った中であったが能力が爆破というだけで他の情報は持ち合わせて居なかった。しかし、既に冷静さの欠片も残っていない神功は自分の傷を焼き、精神で神経を繋がっていると自分に暗示を掛けようとしたが何故かいつも通り上手く行かず盛大に吐血し、その場に再び膝を付いた。
「カハッ……ッ、なぜ」
「お?おおお?コリャー儲けモンなんじゃねぇーの?立てねーの?まっさかこんなとこでお前も殺せるとか……、政府に幾らで死体売ってやろうかなー、良い小遣い稼ぎになるぜ!!」
「────くっ!」
神功の体は思うように動かなかった。そして、その体を目掛けてBが掌を翳した。Bのすぐ近くの空中が爆発して、誘発するように神功まで一直線に爆発が伝染していく。神功がなんとか動く手を前に出し槍で防御姿勢を取ったその前に人影が立ちはだかる。
「……最後くらい静かにお別れさせてよ」
「さ、……〝サチオ〟?」
「はぁ?ざけんなよ、テメー!いま、木っ端微塵にぶっとんだよな?ぁあ?フザケてんのか?」
「うん。そうなんだけどさ……僕の能力ってこんな使い方もできたみたいだ……よ!」
「……ッ!?……ざけんなぁああ!テメェは他のイレモノがなきゃ、死ぬしかねぇんだよ!その体は俺の細胞そのものなんだからなッ!」
「そうだね。でも、せめて好きな子を守ってから死にたいかな?」
「この、死に損ないがぁぁぁぁあああ!!」
神功は目を見張った。自分を守ってくれたのは〝サチオ〟だったからだ。見るも無残に肉体が砕けちった筈なのに薬師河の体は血だらけであるが元に戻っていた。今現在もBの細胞の爆発と、薬師河の細胞の再生が繰り返され、所々皮膚が裂けては戻っていく。確かに薬師河は戦いの最中にも傷が塞がっていた。彼の能力はどんな細胞でも彼自身に変えてしまうものであった。神功が殺した筈の彼は他の人間や生き物に乗り移り生きながらえていた。そして今は政府と取引し、レゲネ構成員のBの肉体の細胞で作られたクーロンに薬師河は乗り移っていたのだ。
はやく助太刀しなければと動いた瞬間、燃やし切れなかった師河の血液が神功の肌の上で爆破した。
「ぐっ……ぅっ!」
「左千夫……!?」
「てめーは余計な事すんなよっ!そこでコイツが無様にやられる様をみとけよ、ごらぁぁ!!」
「────黙れ」
「は……な、に……」
「左千夫は、……朱華《しゅか》はお前ごときが傷付けていい相手じゃない」
「は?……何なんだよこいつは!こんなのでー……た、に……」
神功が悲鳴を上げた瞬間、Bは楽しげに笑った。そして更に神功についた自分のクローンの血液細胞を爆破させようとした瞬間近くまで来ていた薬師河の腹が縦に化物の口のように大きく開いた。そして、Bに噛み付いてグッチャグチャと嫌な音を立てながら飲み込んで行く。
「ッ薬師河!でっめぇ!!おぼえてろよ!次はぜって、ぎ、ゃあああああああっ!」
「……品がないやつ……ごめん、僕のせいだね、痛かったでしょ?」
「い、いえ……」
そして、Bを自分の肉体へと取り込んでしまった薬師河は何事も無かったように再び神功に向かって微笑みを浮かべた。
「怒るのは苦手なんだけどな」
「悠都の……〝サチオ〟の能力?」
「うん、そうだね。基本は他の肉体を僕の姿形にすることくらいしか出来なかったんだけど、死ぬ間際に使い方がちょっと分かったよ。相変わらずうまく使えなかったけど……やっぱり朱華《しゅか》は凄いね」
「……ッ、その名前は……君が僕に…………」
「覚えてくれてたんだね………ッ!?はっ、……ぅ……」
「〝サチオ!?〟」
「さっきのBはニセモノみたいだね……本体が、来るわけないか……ッ体の中がッ、僕の細胞の爆発が止まらないッ」
神功が膝で這うように薬師河の元へ向かった。
その神功を薬師河が手で制す。先程のBは薬師河の体を作った時のように肉体のクローンで本体は別の場所にあり、その本体が薬師河の体の細胞を起爆させている為爆発は止まらず、薬師河の体の中は爆発と再生が交互に発生し、肌の色が青褪めたり元に戻ったりを繰り返していた。
薬師河はいつ再生が爆発に負けるかわからない体を引き摺り、血液の道を作りながらフェンスに向かい後ずさっていく。神功は何度も躓き、膝をつきながら更に地面を赤くよごして追いかける。しかし追いつく事はなく薬師河はフェンスへと背中を預けた。
「今度こそ、本当にお別れだよ、朱華《しゅか》……ああ、また、君を抱きしめられないや」
「待って、待って下さい……〝サチオ〟……僕は……僕は」
「蛍の事よろしく頼むね。絶有主《ゼウス》のメンバーの事も……。ありがとう、生きていてくれて」
「嫌です……僕は、ちゃんと君の命令を聞いて、生きて……生き抜いてきた……そしてまた逢えたのに」
「ごめんね。朱華……いや、さようなら、7913……もう、僕の事なんて忘れて……だって僕はお前のこと」
だいきらい
薬師河の唇がそう象る。
ただ、声は最後まで出ることなく、肉体の爆発によりフェンスが潰れて空中へと体が投げ出された。
神功はまた喪ってしまう。失わない為に強くなった筈なのに一番失いたくないものが目の前で消えようとしている。過呼吸を繰り返しながらも精神を統一する。精神体にさえなれば、体から抜け出せれば自分は自由になる……薬師河を追いかけれると、瀕死の肉体から精神を抜こうとしたとき───
「左千夫くん、ダメッ!」
後を追いかけてきた九鬼が神功の腕を掴んだ。
九鬼の手は実体と一緒に精神まで捕まえる。そうすると、神功は体から抜ける事が出来なくなり、驚きの表情で九鬼を見上げた。
二人の様子を最後に視界におさめた薬師河は小さく笑みを浮かべて屋上庭園からグラウンドに落下していく。ハッとした神功は身を乗り出すがもうそこには彼は居なかった。
「〝サチオォォオオッッッッ〟!!!」
ドォォォォォンッ!と激しい閃光と爆音に紛れて神功の悲鳴が木霊する。暴風が吹き荒れ、飛ばされた神功の体を九鬼が抱きとめて地面を滑る。神功は直ぐ様立ち上がろうとするがもう一度九鬼に腕を引っ張られ殺気を含んだ瞳で睨みつけたあとハッとしたように唇を噛んだ。
「……何故、止めた」
「その体で精神体になったら死ぬからにきまってるデショ」
「………………………」
二人の間に沈黙が走る。しかし、九鬼は神功を抱き締めたまま離すことなく何度目かわからない腕の傷をまた深く切り裂いて神功に、自分の血を注いだ。神功は俯きその表情は髪に隠れてしまって見えないが小さく震えていた。
「すいません……ありがとうございます」
「キモチワルイなぁ……で、どうすんの?」
「…………落とし前つけに」
「…………仕方ないから、手伝ってあげるヨ」
神功から落ちる礼に九鬼は肩を竦めた。神功の傷を塞ぐと何度も裂いた腕の傷に包帯を巻き立ち上がり、グローブを整えた。
神功は傷の治った体の痛みを馴染ませるように瞳で見ると立ち上がった。
神功がフェンスから下を見下ろすがもうそこには焼け焦げた地面以外には何も存在しなかった。
4
お気に入りに追加
113
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/horror.png?id=d742d2f035dd0b8efefe)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる