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さくらんこ

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過去編【あなたまメンバーの裏生徒会(高校生)時代】

【過去編】6 日当瀬・明智vsリトー

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「日当瀬ッ!!」

日当瀬が能力を解放するよりも早く、明智が日当瀬を絡めとっていた蔦を刃で切り裂く。
日当瀬と明智が怪しげな植物から解放され降り立つとそこは旧校舎の廊下であった。
しかし普通とは異なり、辺りがジャングルのように鬱蒼としている。
どこを見ても植物が密生しており、窓も蔦が蔓延っており殆ど光が入らず薄暗い状態になっていた。

「なぁ……やっぱこれ全部敵とか?」
「うるせぇー、喋る前に頭働かせよ」
「ははっ、違いねぇ」
「まぁ、でも、間違いなく一つの生命体で、そいつの能力だろうな」

周りに伸びている蔦や根、葉は意思を持っているかのように絶えず動いている。
日当瀬と明智は背中合わせになるように構えると攻撃に備えて臨戦態勢を取る。
蠢くだけで攻めて来ない植物に業を煮やし剣成が鯉口を切り走りだす。
体勢をできるだけ前に倒し、一瞬にして植物の塊へと縦横無尽に斬撃を繰り出す。

「……なんてねぇっぽいけどな……っと!!あっぶねぇ!……お、あ…お!?………毒っ?!」

蔦には棘があるが明智にとってはそれくらいは取るに足りず刀を振り回すが、蔦の先に巨大なハエトリソウのように二枚貝状になった捕獲用のトゲが付いた葉が明智を喰らいにかかる。
間一髪でそれを避けると次は違う植物から毒液が吐きつけられ、命中こそしなかったが明智のすぐ横の床がみるみるうちに溶けていった。

「うおー、あぶっねー。取り敢えず植物ができそうな事全部できますって感じだな」
「呑気なこと言ってんじゃねぇよ…」

明智は日当瀬の元に戻ると攻撃された事を気にすることなくけろりとしている。
日当瀬も別段変わりなく、解析能力を発動させたまま辺りを見渡したままだった。

「なんなんですか!あなた達ッ!!もう少し驚きなさいよッ!!」
「お?…敵さん喋ったぜ?」
「んなもん、見たらわかるだろ!」
「なんか人型形成しだしたけど……」
「あ゙ー……あれが核だとしたらお粗末過ぎっけど……」

群落の一角の植物が盛り上がるように枝や花をはやした木彫りの人間が浮かび上がる。
目や鼻、口のパーツは無いが声はそこから発生されていた。

「何をくっちゃべっているので……すッ!!?」

明智が直ぐ様抜刀し、群落から切り離すように下半身部を横一文字に切り裂く。
日当瀬も腰にクロスに掛かっている弾帯から弾丸を一つ引き抜き、明智が切り離した人型に向けて放つ。
弾丸は木彫りの胸に命中し、貫通はせずに中に埋まると日当瀬が指を鳴らした瞬間に弾ける。

パァァァァンッ!!とけたたましい音を立てて木っ端微塵に弾けとんだ。
しかし、人型を倒しても周りの樹木の動きは止まることなく、より鬱蒼と生い茂る。
そして先程と同様の木彫りの人形が何体も隆起していく。

「まー、んな簡単には行かねぇわな」
「んふふふふ、無意味な事ですよ。この植物は“全て”私なんですから。自己紹介がまだでしたね、私リトーと申します。以後お見知りおきを……と言っても今日でお別れですがね、ヌフ……ヌフフッ」

あたり一面を人形の植物の化物が覆い、その横から食虫植物が顔をだし、先程毒液を吐きつけてきたグロテスクな花もこちらを向いていた。

「つーことはやっぱ全部枯らせってことか?」
「……しかねぇーみたいだな」
「ンフ、んフフフ、この量を枯らす事など不可能ですよッ!あなた達はゆっくりと体力を削られて最後には私の食料となるのですッ!」
「…ッ!お前、俺達食う気なのかよ?」

食虫植物が口を大きく開き牙のような棘が二人に襲いかかる。
明智が自分と日当瀬を守るように地面から鉱石を隆起させ壁を作り上げるが、牙の硬度のほうが勝っており、パリンッとけたたましい音を立てて砕けさる。
“食料”と表現された事を不思議に思った明智は訝しげに眉を顰めた。

「ムフフフフフッ、そうですよ!私は政府から許されているのですッ!人間を食べる事を!!」
「はー…人権もクソもあったもんじゃねぇな…、それがお上のすることかよ!」
「そんな事はどうだっていいのです……!さぁ、はやく、血を肉を!!植物〈私〉の糧となってしまいなさい…!!」

明智は繰り出される攻撃を刃で切り裂き、土の属性で鉱石を作り出して防ぎ逸らすが、日当瀬は最小限の動きで躱すことしかしない。
分析能力を最大限にフル活用し、無数に仮想ディスプレイを作り上げて数値化していく。
その日当瀬を援護するように明智は動くが更に密集してくる植物に動きが鈍っていく。


「……ッ!埒、あかねぇんだけど、なんか分かったか?」
「あ゙ぁ!?……分析するもんが多過ぎんだよ、取り敢えずコイツが暴走状態つーことは分かった」
「ヌフッ、流石ですね。そうですとも!私も昔は普通の人間でした……しかし、能力が暴走してこの姿になったのです……!!そして……我が子を、我が妻を……殺めてしまった……いえ、食ってしまった!!」

リトーの悲しみの感情を表すように周り一面に咲いてた花が萎れ、こうべを垂れる。
植物になってしまった経緯を聞いてしまうと、明智は同情するように眉を顰めた。
しかし、次の瞬間バチンッとけたたましい音が背後で鳴り響く。
バレーボール程の大きさの種が弾けるとそこから無数の毒性の種がガトリングの弾のように四方に物凄いスピードで飛び散る。

「……ッ!!!?」
「あけっ……ッ!!」
「……それは、それはとても美味でした………、あの味が忘れられないんです……そして、私は喰いまくった…!!あの時の味を求めて……!!しかし、それも長くは続かず政府に見つかってしまった……その時には君のところの生徒会長も居ましたよ…私は力敵わず政府に捕らえられてしまった……!!」

萎れていた花はまた咲き乱れ、“ケラケラ”と不気味な音を立てて愉快に笑いだした。
更に大きなウツボカズラがニタァと薄気味悪い笑みを浮かべるように歪む。
無数に飛び散った種は明智の鉱石の壁を貫通する。
咄嗟に明智は前に出るが弾丸のように飛んでくる全ての種を切り落とす事はできず、肌を掠め血が滴り落ちる。
更にその種爆弾は一発ではなく何発も、バアンッッ!!と大きな音を立てながら爆発を繰り返す。
その弾はリトー自体の植物の葉にも穴を開けたり、蔦を切ってしまったりするのだが、そうなってもすぐに新しい蔦がはえてきて明智たちを囲む。

「おい、明智ッ、俺を気にせず自由に攻撃しろよ!!」
「はぁ?参謀やられちまったらゲーム終わっちまうぜ?……はぁ…ッ、それにこの弾はお前の風も貫通してくるだろ?」
「……く」
「そして私を囚えた政府は私に交換条件を持ち出したのです。
……そう、このチート級能力…!暴走してなお消えない自我……!!政府としては消してしまうのが勿体なかったのでしょう……。
食糧としての死体を供給するかわりに政府の犬になれと……、ただ死体だけでは満足できない…たまにはご褒美を貰わないと…、ですよね、ヌフ、んフフフ」

花びらや葉が擦り合うようにしていろいろな方向からリトーの声が聞こえる。
明智は逐一その声の生ずる場所を追ってしまい、集中力と体力を削られるように呼吸が弾んでいく。
ケラケラと嘲笑うかのように花は揺れ、食虫植物は開閉する。

「なので、もう一つ追加で契約を結びました……政府に仇なすものは食べていいかと……」

今までの非にはならない程周りの植物が獰猛な笑みをかたどる。

「勿論、許可は降りました……死体もいいがやはり生きている人間は最高です!逃げ回り、恐怖に歪んだ顔が…食欲をそそりま………」

「──ごちゃごちゃうるせーよ!!明智、もうテメェに任せたぜ」
「………………………へ?」

明智はリトーの話す内容に嫌悪感を覚えるように眉を寄せるが、日当瀬は全く表情を変えることは無かった。
ただ他方から聞こえる声が耳障りだと言わんばかりに鎌鼬で話している花で形成されている人の顔を切り裂く。
突拍子もない事を言いのけると日当瀬は明智の作り上げた紫色の鉱石の上に乗っかると胡座を掻いて座り込んだ。
敵の攻撃を避ける事すらも止めてしまうだけでなく、事もあろうことか瞼さえ落としてしまう。
完全なるの非戦闘態勢に明智は間抜けな声を上げてしまった。

しかし敵の攻撃は待ってくれる筈も無く日当瀬に四方から蔦が襲いかかる。

「…………ッ!!流石、うちの参謀は、……マジで何考えてるかわかんねぇ!!……ぐっ」
「あなたの相方は美学のわからない方ですね!話しているときに言葉を中断させるなんて……!!
まぁ、いいですよ…何をしたって無駄……ですから…!」

明智は飛び込むように蔦を袈裟斬りしていく。
ただ、同時に種もはじけとぶように弾丸として撃ち込まれるので全てを処理しきれない。
腹部や腕に種が撃ち込まれていき、日当瀬の体も掠め、傷が増えていく。
それでも日当瀬は目を開けることすらせず、緑色のオーラを纏い、瞑想を続ける。
明智は生傷ばかりが増え、ポタポタと地面を汚して行った。

「噫〈あぁ〉…なんともったいない事ですか……床なんかに吸わせず私の養分に……!!糧に!!」

地面を蔓延る蔦が明智の血液まで伸びると赤い床に吸い付くようにヌルヌルと這いずりまわる。

「うまい!やはり、新鮮な血に限りますねぇ…濃厚でそれでいて芳醇な……噫、最高です…次は肉を、臓物を…よこしなさい!!!」
「……ゔ、…俺、こういう奴苦手なんだよな」

明智の表情が曇るが横の日当瀬は全く反応を示さなかった。
明智の呼吸が乱れていく、しかし攻撃の手は止まないし、減らず増える。
それでも明智は植物を切り裂き、真っ直ぐな視線を対象物へと向ける。
日当瀬を守るために刀を振り、種を切り裂く。
ウツボカズラが大きく口を開くとそれに手で触れることで逆にどろりと腐敗させてしまう。
腐敗の能力を大きく広げたいが直ぐ様腐敗した場所を切り捨てられしまうため、そこで止まってしまう。

「………ッ!?日当瀬!!?」

明智の死角から日当瀬に蔦が伸び、グルグル巻きにされる。
しかし、日当瀬は瞳を開けることなく何かを口ずさんでいる。
焦った明智は早急に蔦を切断し、日当瀬を取り返すと片腕で抱き寄せる。
再び鉱石に着地しようとした瞬間、ウツボカズラが見たことが無い大きさに変化し、大きく口でも開けるように入り口を開けると、その体内へと二人は呑み込まれていった。

「──────ッ!!!??」
「ヌフ、ンフフフフフ!!さて、私の食事といきましょう………か……?」

しかし、次の瞬間ウツボカズラが真っ二つに切り裂かれる。
そして、消化液を撒き散らし、“ギャアアァ”と音を立てて地にドサリと伏せて枯れていった。

「……あー…やばいよなこれ、ドロドロだし、熱いし、イテェ…」

ジュゥゥゥゥと日当瀬と明智の肌が焼ける。
しかも手も足も痺れてきてガクガクと震え始める。
呼吸が乱れ、息が吸いにくくなっているところで明智は気付いた。
毒に侵されていると。

「ヌフフフ、気づきましたか?痛いでしょう、苦しいでしょう!花には種には葉には全て毒があるのですよ!!明智君、日当瀬君…君たちはどんな叫び声をあげてくれるんですかねぇ……噫、…食欲がソソります、動けない君たちを消化液におとして、10日間かけてゆっくりと…はぁ……どんな素敵な時間でしょうか……」

明智の動きがどんどん鈍って行き、蔦で傷付き、二枚貝のようなハエトリ植物に噛み付かれ、それを腐敗させ消滅させても次から次へと彼の体を植物が襲った。
それでも日当瀬を守るようにして明智は刃を繰り出す。
しかし、それも長くは続かず、明智と日当瀬を分担させるように棘の付いた蔦が明智に絡みついた。

「ぐ、ああああああああっ!!」

そして、次の瞬間、明智がウツボカズラに引き摺られて行く。
長巻を握り直そうとしたが毒で手に力が入らず、眉を寄せた。

「まずはひとーり!!ヌフフフフフ!!」

明智がウツボカズラに飲み込まれそうな瞬間、ビュュュッンンン!!と全てを切り裂くような風が一面に吹き荒れた。

「………ッ、日当瀬!!?」
「あ゙ー!!!わっかんねぇ!!」

ずっと瞼を伏せていた日当瀬が開眼するが、開口一番は明智の予想を裏切る一言だった。

「はぁ!!?なんだよそれ!!なんの時間だったんだよ!!」
「あ゙ー……うるせぇ、これだから人頼りにする奴は嫌いなんだよな」
「………ッ、くそッ!頼りにした俺が馬鹿だった!!もー、しら」
「おい、待てよ、そっちは違ぇ」
「………は?」

「ヌフフ?仲間割れですか?……それなら今度は二人仲良く……!?!?」

スパンと、花が真っ二つに切り裂かれる。
そして、日当瀬は弾帯から一つの瓶を引き抜くと中に入っていたヒナゲシの花を取り出して半分は握り潰し粉状にして体に振りかけ、もう半分は飲み込んだ。

「おい、何だよソレ…」
「あ゙?三木が作った中和剤だよ」
「俺、貰ってねぇけど…」
「渡してねぇからな。ほらよ」
「はぁ!?なんで、……っ、サンキュ……」
「三木に言え」
「……ッ!!言われなくてもわかってるつーの!!」

「本当にうるさい人たちですね!!解毒剤を持ってましたか……残念ですが、持っていても同じですよ…!!何度でも毒のハーモニーを………!!」
「明智、まずはそいつ」
「は?!」
「いいから動け、テメェは俺の駒だろ?」
「ゔ………わ、わかったよ!!もー、しらねぇ、負けても日当瀬のせいだからな!!」
「ハッ、誰が負けるかよ!!千星さんから引き離した罪、償いやがれ!!」
「なんのことか分かりませんが返り討ちです!ヌフ、ヌフフ!」

激しい衝突が始まる。
全ての植物は明智たちに襲いかかるが日当瀬は事細かく指示をし、明智にとって面倒な植物だけを風と手持ちの弾を使って伐採していく。

「まず、人形は全部。次はそのヤシ木を腐敗、んで、ムシトリナデシコ、モチツツジを」
「はぁ!?!?どれだよソレ!?」
「ああ゙、それぐらい分かれよ!!ちっ!俺が風の弾あてっからそれを腐敗、伐採しろ」
「りょーかい!そっちのほうが簡単でいいぜ!」

日当瀬が小さな空気の弾を目に見えない速さで撃ち込んでいくが明智はそれをすべて目で追っており、全て腐敗か長巻で潰していく。

「無駄ですよ無駄ぁぁ!!全てを消さない限り私は、不滅!!」
「まー、原理はそうなんだけどよ、明智、遅れてるぜ?」
「だぁー!当てるのと斬るのは労力が違うんだ、ぜっ!!」

明智が日当瀬の言うとおりに伐採していくが植物の数は減る事はなく次から次へと鬱蒼とはえていく。
まるでいたちごっこが続き明智の体力はどんどん削られていくが日当瀬は指示を止めることは無かった。

「はぁはぁはぁはぁ…日当瀬…次………は、はぁはぁ」
「しつこいですねぇ!!負けを認めなさッ」
「コイツでラスト」
「………ぅ!!?なぜ!!私の居場所が………!!」

明智の血液と汗が地面に滴り落ちる。
満身創痍でも言われたとおりに植物を消していき、駒として動く。
しかし、更に部屋全体植物で鬱蒼とさせた瞬間、日当瀬が動いた。
ある一角に密集して、生えている多肉植物から一つの脳みそのような形をしたメセンを引き抜いた。
ポンとその植物から花が咲くと花弁を震わせるようにして話し始める。

「……動きがオートっぽいやつと、誰かの意思で動いてるやつがあったんでな、取り敢えず能動的なやつを片っ端から無くしてみたら命令系統の先がテメェって分かっただけだぜ」
「く……!!まさか…そんな事に気づくとは!!」
「……おい、そいつさっさとどうにかしねぇと」
「ヌフフ、ヌフ!無理ですよ!この私につけられている輪っかは爆弾なんです!ですので、私を切ろうとすれば、ボンッと─────!!な、なにを!!やめなさい!!
爆発します!!ぼ、ボボボボーン!!っと、爆発……あれ?しない?何故ですか!!何故爆発しないのですか!!?」

日当瀬はリトーの本体につけられている輪っかに視線を落とす。
神功に付けられていた首輪と同じ仕組みだったので容易に爆発しないルートを選んでその首輪を切断する。
リトーは焦った声を上げるが爆発することなく首輪が外れたため花を揺らしながら声を上げた。

「で。……後はテメェの処理なんだけど」
「ヌフ、ヌフフ、私を処理しても他の植物は残りますよ!!制御されてないまま、人を!血を求め!!」
「だろうと思って、今、テメェにとって嫌なこと考えた、…ほら、さっさと植物しまわねぇと水浸しになるぜ?」
「は!?なにを!!!や、やめなさい!!私は血や肉が好きなのです、水なんていりま、あばばばば」

日当瀬が多肉植物を水浸しにしている様子を遠くから明智は見つめていた。
満身創痍な筈なのに何だかとても複雑な気分でその様子をただ見つめた。

「あ゙?季節的にそろそろ水飲むだろうがよ!そもそもテメェの種類は休眠期があるはずなのに変に栄養取るからおかしくなってんだろうが!!植物らしく規則正しく生きやがれ!!」
「な、なんと無礼な!!私はお肉が好きなんです!!」
「いや、テメェは水だけ飲んでりゃ十分なはずだ!!」
「あば、あばばばば!おぼ、おぼれ、溺れ死ぬ……」
「だったらさっさと引っ込めろよ。テメェ水没させて残り全部引っこ抜くって方法でも俺はいいけどな」

日当瀬が悪魔のような笑みを浮かべる。
明智とリトーに悪寒が走ると同時に、リトーは諦めたように全ての植物を自分の中へと収納して行った。


「……これでいいですか?で、私をどうするんですか?焼くんですか?煮るんですか?水に沈めるんですか!?!」
「はぁ?何もしねぇし」
「おい、日当瀬!!」
「俺は人殺しはしねー主義だからな、千星さんもそんなことしても喜ばねぇし」
「でも、コイツまた人を食うぜ!?」
「ヌフフ、ヌフ…よく、おわかり」
「食わねぇよ」

「………………はぁ?」
「………はぁ!!?」

明智とリトーの疑問の声が重なって響きわたった。
日当瀬はうるさいと言わんばかりに片耳に指を突っ込む。
そしてリトーに向かって指をさした。

「そもそも、テメェの種類は食虫植物じゃねぇし、食虫植物だってあくまでも補足的に虫を食うくらいだ。ちゃんとした土の上で日光たくさん浴びてりゃ満足するはずだぜ?」
「ヌフ、ぬフフフ、甘いですね、後悔させて」
「つーか、俺と同じこと言ってそれを実行してるやつ仲間に居るんじゃねぇのか?テメェ、色艶いいし徒長してねぇし」

その言葉にリトーから咲き誇った花が揺れた。


-----------------

絶有主〈ゼウス〉高校の放課後のある日、新しく連れてこられた多肉植物であるリトーを囲むようにアクラシアと薬師河悠都〈やくしがわ ゆうと〉が声を掛けた。

「人ヲ食べる植物カ…」
「どう見ても多肉植物なんだけどな…人食べちゃったの?」
「そうです、妻と子を!!あの味が忘れられません!!」
「……そっか、哀しかったんだね」

薬師河はリトーの言葉を聞いているのに直ぐに突拍子もない返答をしてしまう。
そして、アクラシアもそれに続いて正論を述べる。

「……ち、違います、美味してく忘れられないんです!!」
「オマエは食虫植物ではナイ」
「う、うるさいですね!!」
「まぁまぁ、でも暫くは食べられないんでしょ?うーん……この種類はこんなに伸びると良くないはずだから、それにシワシワだし……」
「な、何をするのです!!私は日光が嫌いです!!」
「吸血鬼なのカ?」
「違います!!アクラシアさんも見てないで薬師河さんを止めてください!」
「ワタシは面倒なコトが嫌いダ」

アクラシアはツンとした表情のまま我関せずと言うかのようにそっぽを向いてしまう。
薬師河は遮光カーテンを引き、多肉植物にあった日照加減を作るとそこに鉢に植わっているリトーを置いた。
リトーは溶けてしまうため直射日光は嫌いであったが遮光されて丁度いい光を浴びると心地よく微睡んでしまった。

「こんな感じかな?ねぇ、リトー」
「な、なんですか!気持ちよくなんかないですからね!!」
「そっか、気持ちいいんだね。それはよかった。けど、そうじゃなくて……」
「な、なんなのですか!?まだ何かあるのですか!?お説教なら聞きませんよ!!」
「お説教になるのかな?どうしても食べたいなら人間なんだから、お肉食べたらいいんじゃないのかな?」
「…………へ?」
「ほら、牛肉とか鶏肉とか、僕変わった肉好きだから今度持ってきてあげるね」
「ち、違います!私は人が……人の肉が!!」
「食わず嫌いハ良くないナ」
「ぐ…わ、わかりました、食べればいいんでしょ、食べれば……!!」
「でも、もう必要ないと思うけどね」

カーテンが風に揺らされる横で薬師河はいつものように柔和な笑みを浮かべていた。

-----------------

その日からリトーは絶有主〈ゼウス〉高校のメンバーと任務をした後は人肉を欲しなかった。
アクラシアに周りの土の解析をさせ薬師河が増殖させる植物の種類、場所を特定していたからだと今気付いた。
政府の指示に従い任務を行った日だけは肉を欲し、食った。
いや、食わされるように、飢えるように仕向けられていたのだ。
人の肉を食うことから逃げる事ができないように。
今日も政府の指示に従い、土の無いところで植物を増殖させると人の血はとても美味かった。
だが、薬師河が毎日窓を開け、遮光カーテンを閉じた窓際での日光浴のほうが心地良いことをリトーはわかってしまった。

「私は………」
「ま、俺の観賞用植物になるならきっちり面倒みてやってもいいけどな」
「だ、だれがあなたなんかに!!知りませんよ!私は逃げますからね!逃がした事を後悔するのはあなた達ですよ」

そう言って日当瀬の手からリトーは日当瀬の手から抜け出すように飛び降りて、根が足のように動き逃げていく。
明智はやれやれと言うかのように溜息を溢し、長巻を鞘にしまった。


「……はぁ、いいのかよ?」
「あん?…当たり前だろ。やっちまった事はもう戻れねぇんだよ。後はアイツがどーするかだしな」
「はぁー……やっぱ、俺お前のこと好きだわ」
「はぁ!?気持ち悪いこと言うんじゃねぇよ…テメェに好かれても仕方ねぇし!!
……つーか、さっさと千星さん探しにいくぜ!!」
「あー、はいはい」


ただの旧校舎に戻った場所から下の階に向かうように二人は走っていった。

END

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