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過去編【あなたまメンバーの裏生徒会(高校生)時代】

【過去編】1 コントローラーバトル(男女カプあり)

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『羅呪祢〈ロシュネ〉高校 神功十輝央 KO!!よって生存者0により、勝者!! 愛輝凪〈アテナ〉高校!!』

審判をしているヒューマノイドから機械音が落ちる。

今行われていたのは「地区聖戦・ラディエンシークルセイド」の決勝戦である。
地区聖戦とは、簡単に言えば各高校の(裏)生徒会が競い合い勝者を決めるというものだ。
優勝した高校は有名大学への推薦人数や高卒での受け入れ先企業が大きく変わる政府公認の闘いの場である。
決勝戦はこの地区で選ばれた4校の総当たり戦の予定だったが負傷者多発の為、釈迦と崇められた押矢歌留多〈おしやかるた〉が会長をつとめる羅呪祢〈ロシュネ〉高校と、神功左千夫〈じんぐう さちお〉が(裏)生徒会長をつとめる愛輝凪〈アテナ〉高校の一騎打ちとなった。
勝者を決める為の決勝戦は3回戦に分かれ、多種多様な競技が行われる予定だったが、その1回戦目で事件が起こる。

1回戦目で行われたのは“コントローラーバトル”である。
コントローラーバトルとは実在する人間を格闘ゲームのようにコントローラーで動かし闘うと言った内容だ。
駒となった人間は一度コントローラーと繋がれてしまうと、その支配を解かない限り指一本思い通りに動かす事は出来ない。
視線と口のみが自由に動く形となる。

愛輝凪高校の対立校、羅呪祢高校はコントローラーの鬼と呼ばれている阿弥陀来次〈あみだ らいじ〉が7台のスマホを駆使し、自分の(裏)生徒会長のメンバー七人をも動かす凄ワザを披露した。
一方、愛輝凪高校は千星那由多〈せんぼし なゆた〉 が(裏)生徒会副会長である九鬼〈くき〉と、会長である神功左千夫〈じんぐう さちお〉の二人を同時にアーケードスティックを改良したものを扱って動かしてみせた。
7人対2人と言う人数の差があったものの、個々のポテンシャルの違いと千星那由多〈せんぼし なゆた〉 の火水風土雷の全ての自然の力を使えると言う“能力”をコントローラーバトル中だけプレイヤーの九鬼が使用できると言う特権を駆使して勝利を収めることができた。

「はぁ………はぁ……やっば!きっつ!!」

接戦だった為、勝者を告げるコールが鳴って直ぐに九鬼が文句を垂れながら体の力を抜くが、まだ千星のコントロール下にある為にファイティングボーズが解かれることはない。
必殺技を使った効果で九鬼の見た目の配色が真っ黒に置換された状態もそのままで、呼吸を弾ませる。
神功も同じく肩で呼吸を繰り返し、天を仰ぎたいけれど自由が効かない。
二人ともコントローラーバトル用のボディスーツはボロボロで、強者二人には珍しい満身創痍と言う言葉がピッタリとくる有様だ。

「アハッ♪負けちゃいましたね~、さぁ、どうしましょうか?御仏の導きのままに…ですよね~、ね?押矢さん、押矢さん?」

羅呪祢側で六人を操作していた阿弥陀来次〈あみだ らいじ〉は、負けたにもかかわらず軽快な口調のまま直ぐ横で腕を組んで座って居る会長である押矢の肩を揺らす。
羅呪祢〈ロシュネ〉高校はチャクラが開いた押矢のお告げのままに動くスタンスとなっているが、揺らされた押矢は何も告げずその場にドサリと人形のように倒れた。

押矢は本当に人形になったかの様に倒れたまま瞬くことも無くピクリとも動かない。

「アハッ…操作化に置きすぎるとこうなっちゃうんですね♪勉強になりました~」

押矢の化けの皮が剥がれたかのように残忍な笑みが浮かぶ。
お告げは阿弥陀が横に居るとき告げられると思われていたのだが、それは違った。
阿弥陀は押矢を“操作”していたのだ。
あたかも押矢が言っているように思わせ、羅呪祢(裏)生徒会を好き勝手動かしていたのは阿弥陀であった。

「阿弥陀!!貴様ッだましたな!!」
「私達をなんだと思って…!」
「とっ~ても優秀なコマですよ♪ああ、でも、新しいの手に入ったんでもう用済みですけどね~、人を電子レンジにぶっこんたみたいにバンって出来ちゃう人と~、愛輝凪高校のお二人さん♪」

阿弥陀が意味深に自分のスマホをタップする。
羅呪祢(裏)生徒会の全員が憎悪を顕にするが、全員指一本動かすことが出来ない。
それは愛輝凪のメンバー全員も同じで、彼らの表情に緊張が走る。
そう、阿弥陀はこの場にいる全ての人間、千星、九鬼、神功、審判であるヒューマノイドすら自分の支配下に置いたのである。
更に最悪な事に九鬼、神功はコントローラーに繋がれたままなので千星のボタン入力が無いと動く事ができない。

「さて、先ずはお人形さんになってもらう為に精神を壊しましょうねぇ~、十輝央サン♪君が一番簡単そうだ…大事な人、殺しちゃいましょうか~」

神功左千夫〈じんぐう さちお〉の義理の兄である、神功十輝央〈じんぐう ときお〉はコントローラーバトルの末気を失っていた。
しかし、その体が何かに操られているかのように、ゆっくりと観客席の愛輝凪生徒会副会長である三木柚子由〈みき ゆずゆ〉の元へと一歩、一歩、まるでゾンビのように歩かされていく。
三木は立ち上がり逃げようとするが、観客席の椅子に貼り付いたように体が動かなかった。
これも阿弥陀の操作系能力のせいだ。
異常事態にその表情は青ざめ、体は小さく震える。

「十輝央さん……十輝央さん…」

三木が振り絞るように声を掛けるが神功十輝央が目を開けることはない。
羅呪祢高校の一人が扱っていた戟〈げき〉と言う槍のような武器を手に近づいていく。
この時この静寂な重い絶望に満ちた空気を壊す声が、一人の男からあがる。

「見つけ………た!なゆゆ!!復唱!!X!ZR!!スティックL!!+X+ZR!!」
「X!ZR!!スティックL!!+X+ZR!!……!!────動けッる!」
「続けて!那由多くん!ZR+ZL+X+A!先ず九鬼を……!!左首筋の付け根です!」

その男、九鬼が大きな声を上げるとそれに擬えるように千星が繰り返す。
九鬼の視線の先にいる千星の首筋に付いていた茶色い毛髪が炎を上げて燃え尽きる。
その瞬間千星の硬直が解けた。
そう、彼等はこの危機を予想していたのだ。
もしも操られてしまったときのためアーケードスティックは音声も認識できるようにしてあった為、千星の声で九鬼を操作し、それに従って動いて能力を使うことができた。
千星の炎を生み出す能力を九鬼は視線で発動させ、千星の首筋にあった阿弥陀の毛髪を燃やした。
続いて神功の言うとおりに千星がコマンドを入力すると、神功が実体から抜けて精神体となる。
本物と見分けがつかないが精神体となった事により阿弥陀の操作系能力から開放され、千星のコマンド通りに動く事ができるようになった。
先に神功は九鬼についている同じく茶色い毛を切り裂いた。
そう、押矢は受信機を付着する事により対象を動かす事ができるのだ。
その受信機はわかりやすいボタンのようなものから分かりにくい小さいものまで様々な種類がある。
今回は一番分かりにくい髪の毛を使ったが、勘のいい九鬼に気づかれてしまったようだ。
九鬼も神功が受信機を剥したことにより操作から開放されると、千星はアーケードスティックのボタンを動かし、神功の精神体が抜けて転がっている本体を抱えさせて自分の側へと戻す。
そして、神功の実体の発信機も取り除いた。
これも手筈通りだ。
九鬼を使って千星は自分の守りを固める。
ヒューマノイドが全て押矢の手の中にある為に神功、九鬼がコントローラーから切断され自由に動き回れることはない。
すなわち、千星が全て一人で二人を動かして、阿弥陀を倒すしかない。
千星の両手がガクガクと震える。
乗っ取られたときの対応作で教えられているのはここまでだった。
後は自分で考えて動かさなければならない。

“ブー ブー ブー ブー”

コントローラーバトルが終わったにも拘わらず、阿弥陀が自分の能力を駆使してコントロールしている者達を動かす為システムから警告音が鳴り響く。
しかし、それを止めたり正したりできるヒューマノイドも全て阿弥陀の手の内である為、音が響くだけで何も起こることは無い。

「アハッ♪流石、神功さん~そうで無いと!ゲームは接戦であるほど楽しいんですよね~!」

ズラッと阿弥陀の前にスマートフォンが並ぶ。
一台で何人をも支配下に置いている彼はまるで演奏するかのように画面をタップしていく。
千星も普段は運動神経も動体視力もからっきしなのだが、コントローラーを持つと人が変わる。
全てのモニターの情報を頭に叩き込み、視線を動かして必要な情報だけ読み取っていく。
両手は震えて、緊張の為体温は下がり色々な汗腺から汗は吹き出ているが、画面に没頭しゲームの世界へと入っていく。
そう、ここは戦場ではなくゲームの世界なのだと。
そう思わなければこの緊張感を千星は拭うことはできなかった。
口を開けて大きく弾んでいた呼吸が落ち着いてくる。

襲い来る羅呪祢のメンバーはコントローラーバトル後の為、満身創痍で体中悲鳴を上げていたが阿弥陀は構う事なく千星を潰しに掛かる。

「阿弥陀!!やめろぉぉぉ!!」
「痛いッ!阿弥陀ッ!このぉぉ!!」
「うるさいな~♪喋れなくするのは難しいんですよね~っと、こっちも♪」

「なゆゆ、イイ感じッ!………ッ多少、肉体損傷は気にしないでイイ………て、もう聞いてないカ…」

九鬼の言葉も聞こえない程千星は操作にのめり込んでいた。
千星に殴り掛かりにくるメンバーを、九鬼を使って地に伏せていく。
九鬼は元より派手な能力である為ガス欠になりやすい。
しかし、今はなりふり構ってられないため千星の打ち込むコマンド通りに地面を変型させる能力を発動させていく。
キャパオーバーを近くに感じ、体内の血管が暴発しそうな感覚を己の意識で抑えるように体が壊れない事に集中し護りに徹する。

「那由多くん、阿弥陀を!!意識を奪えば!……ッ!?柚子由を!!」

神功の声よりも早く、神功の精神体は攻めへと転ずる。
三叉の槍を手に阿弥陀に向かって一直線に走らせさせているのは紛れもなく千星のボタン操作だ。
神功は自分の意識よりも早く自分が動く事を初めて体感し、引っ張られる体が軋む。
しかし阿弥陀も簡単には接近させてくれず各校の監視役についているヒューマノイド達が行く手を阻む。
ヒューマノイド達が結合し神功の周りを囲むと、まるで鉄の処女アイアンメイデンの様な大きな檻の金属の塊になって神功の前に立ちはだかった。

ガバッと大きく神功を全て飲み込むように扉が開く。
神功自体は体を逸らそうとするが、千星はコマンドを何も入力しなかった。
神功の精神体を棘がついた扉が喰らう。

「───────ッ!!!」
「左千夫クン!!?」

「アハッ、チェックメイト~!あとは、コッチ♪十輝央さん、ほら、行きますよ~、目が覚めたらあなたの腕の中には大事な人の亡骸~♪」

鉄の扉の隙間から血液が滲み出る。
九鬼の声が上がるが、千星の支配下にある為に助けに行くことは出来ないし、今自分がここを離れられる状況ではない事もわかる。
だが九鬼は千星の今の一手は悪手にしか思えなかった。
なんの為に神功を見殺しにしたのか理解できなかったのだ。
九鬼に疑心が沸き、様子を窺うために千星に視線を向けると、初めて対峙したときの事を思い出す表情にゾッとした。
千星はブツブツ何かを呟いてはいたが全く画面から視線を離しては居なかったからだ。
しかしピンチには違いない。
三木の直ぐ傍まで神功十輝央は辿り着くと戟〈げき〉を振り上げて居た。

「………起死回生行きます」

色々、……色々な機械音や警告音、悲痛な叫び、笑い声が木霊している筈なのに静かな千星の声はそこに居る全ての者の耳へと届いた。
まだコントローラーバトルの支配下にある為、阿弥陀の能力よりもシステムが優先される。
羅呪祢〈ロシュネ〉高校や神功十輝央は体力ゲージが0の為、阿弥陀の能力で動かしていたのだがそれにすら干渉が入る。
“起死回生”のコマンド入力中は全ての駒が動く事ができなくなる為、神功十輝央の動きが止まった。
神功十輝央が握っている戟〈げき〉の切っ先は柚子由の目と鼻の先で止まり、その存在は重く鈍く輝いている。
イレギュラーが発生した為それは阿弥陀にまで及び、千星以外この会場では誰も動くことはできなかった。
ガタガタと青褪めて震える三木はそれでも視線を離さずに神功十輝央を見つめていた。

“起死回生”とはコントローラーバトルの時のみに発動が許される必殺技であり、自分が動かす人間が体力ゲージ0に近付いた場合、即ち死にかけた場合にしか使うことが出来ない。
千星の画面上ではヒューマノイドにより形成された檻に飲み込まれた神功の体力ゲージが瀕死を告げ赤く点滅していた。
千星の見つめている画面の上から物凄いスピードで起死回生を使うためのコマンドが流れ落ちてくる。

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『僕の“起死回生”コマンドが難しいんですか?』
『はい……て言うか、押してるつもりなんですけど…ズレます…俺、リズムゲームみたいなやつも苦手じゃないはずなんです……っ』
『これが録画したやつですね?………なるほど。ここは、同時に見えますけど錯覚でこっちのほうが早く落ちてます』
『────え!?!?』
『こっちは、ここに視線を取られてしまうのでこの矢印は視野外になって見えなくなります』
『あ……!!ホントだ……』
『コマンドの流れ方は確か、毎回違うんですよね……暗記する事もできませんし……試合では僕の“起死回生”は諦めましょうか』
『───え!!』
『僕は催眠術を使うのでこの手の錯覚の原理は全て覚えてますが、それでも実戦で仲間が死にかけているときに打ち切れと言うのは酷な事だと思うので……あ、でも他の試し撮りしたものも原理だけはお伝えしときますね。ゲーマーさんとしてはクリアできないままってことは納得いかないのも理解できますので』
『あ、ありがとうございますッ!!』
『しかし、こんなに難しい僕の“起死回生”とは何が起こるんでしょうね……ゲームの根底を覆すことになり得ること………』
『会長…………?』
『嗚呼、すいません仕組みから考えてそうかと思っただけで……僕も純粋に気になってしまって……もしかしたら物凄いくだらないものかも知れません』
『例えば………どういうやつですか?』
『そうですね……ケーキを、沢山産み出す……とか』

千星の頭の中にコントローラーバトルの練習中の神功との会話が思い起こされる。
最後の会長として、甘いモノが好きな彼としての冗談も一緒に思い出してしまった千星は静かに笑みを湛え、少しだけ緊張が解れた。
結局、神功の起死回生コマンドは練習では一度も成功しなかった。
それ程複雑で不可能なコマンドの為、試合で使う事は止めておこうと話し合いで決まっていた。
コマンドを録画して神功も見たが、矢印同士が錯覚を起こさせたり、視野外に矢印が流れたりと普通とは全く違う傾向だった為難しいと結論付いたからである。
なので実際このコマンドが決まっても何が起きるか誰にも解らない。
それでも千星はこの無謀とも言える手段を選択した。

「アハッ♪千星君ってまさかその為に会長瀕死にしたんですか~?めっっっちゃ面白いじゃん~!
起死回生やりたいがために身内を瀕死!?最高じゃん♪
久々に見たそんなゲーム狂な奴!コマンド入力止めるなら、君だけ生かしてあげといてもいいですよ~」
「………………………………」
「だんまりかぁ~つまんないですねぇ、この時間は何も出来ないしぃ、コントロールバトル切断しとけばよかったですね~、でも、それ成功して何になるんですか?
会長瀕死にして遊んでるだけなんですよね?それとも緊張し過ぎて気でも狂いましたか?君ゲーム以外ダメダメだもんねぇ~」

阿弥陀が千星を揺さぶりにかかる。
千星に悪魔の囁きを持ち掛ける。
“何になるの?”の言葉は会場内全ての人が同じ思いだった。
千星の横で止まってしまっている九鬼ですらそう思ってしまった。
無駄、不安、恐怖、疑念、全ての負の感情を含んだ視線が千星を襲う。
画面に没頭していた筈の千星の視線がブレる。
していたか、していないか分からなかったくらいの呼吸が弾み肩が上下していく。
一つも、たった一つもコマンドをしくじる訳には行かないのに集中力が続かない。
ただでさえ神功左千夫〈じんぐう さちお〉の起死回生コマンドは不可能だと結論付いたものであるのに。
千星すらも思った、どうして自分はこの選択をしたのかわからなくなっていく。
どうせ何も残せないなら、一度でいいから成功させてみたかったから?
タダの一般人が神功左千夫〈じんぐう さちお〉のように全てを持っている男を動かせる事の優越感に浸りたかったから?
もしかしたら自分はただゲームを楽しんでいるのかもしれない。

千星の思考が沈み、表情が明らかに暗く淀んでいく。
視界が歪み、視野が狭くなっていく。

「十輝央サンは柚子由チャンの目の前。起死回生が成功したとしてもその瞬間顔面から真っ二つ~♪
神功さんの“起死回生”はどんな事が起きるかわからないけど、神功サンの体力ゲージは少し回復するだけなんですよ?
と、言いますか、精神体が今ヒューマノイドによって滅多刺し状態ですよ?手とか足とか貫かれているんですよ?動けませんって~♪彼そのまま死んじゃうじゃないですか?勿論千星クン、君を恨みながら♪
そして、三木さんはそこからゆっく~り、滅多刺しにして、何分くらいしたら十輝央サンは気付きますかね?何回も刺して、コロして、赤く染まって、自分がどうしてそうなったか気付いた時の彼を想像したら───────滑稽…ですよねッ♪」

阿弥陀の顔が愉悦に歪む。
貼り付けていたものが全て剥がれ落ちるように欲がむき出しになる。
誰もが恐怖し慄くその表情に千星も恐怖し指が震える。

ただ、一人だけ。
彼を疑わない者がいた。
凛とこの場にそぐわない可愛らしい声が会場内に響き渡った。

「そんな事ない!!千星君は間違ってない!!左千夫様は……左千夫様は千星君のこと絶対そんな風に思わない!!彼は、…彼はとても強い人だから……!千星君、しっかりして!!千星くんなら出来るから、きっと出来るから、私は、私はどうなってもいいから、十輝央さんを、十輝央さんを────助け…て……!」

「三木さん………………」

必死に三木が思いを伝える。
声が掠れ上擦っても、必死に思いを伝える。

コントローラーを握っている千星に
檻の中の神功左千夫に
目の前の神功十輝央に

その声は千星の心へと届く。
そうだ、俺は会長が起こす奇跡へとかけたのだと想いが舞い戻る。
その声が力となりまた画面にのめり込んでいく。
周りの雑音は聞こえなくなり純粋にゲームに没頭していく。
三木は視界の端に千星を捉えると、ホッとして目の前の神功十輝央を見つめながら泣きそうに表情を崩した。

「十輝央さんもだよ……十輝央さんは左千夫様の唯一のお兄さんなんだよ……あんな、あんなこと言っちゃだめ、今の十輝央さんは……嫌い、だいっっきらい!!目を覚まして!!私の、私の好きな十輝央さんに戻ってッ!!」
「───────!!あれ…………………柚子由……さん………?────!??」

三木の呼び掛けに気を失っていた筈の神功十輝央の瞼が震える、そしてゆっくりとその瞳に光が戻った。
一瞬で現状を把握するが全く体が動かない事に一気に体を緊張させる。
目を見開き動かせる視線だけ動かしできることを考え表情を強張らせた。

“起死回生コマンド 成功!!”

次の瞬間千星が最後のコマンドを入力し、鉄の処女に包まれた神功が眩い光に囲まれる。
続け様に千星はコマンドを入力するがそれは阿弥陀も同時だ。
戟〈げき〉が真っ直ぐに神功十輝央を見詰めながらも青褪めた三木へと振りかざされる。
誰もが思った、千星すら思ってしまった。
矢張り、無力だったのだと、現実はゲームのようにうまく行かないのだと。
ディスプレイを見渡しても何も特殊な事は起こらない。
起こる気配もない。
“起死回生”の効果すらもわからないほど変化が無かった。
神功左千夫〈じんぐう さちお〉のゲージが少し回復しただけである。
千星は指を必死に動かすが、思考は絶望に塗り替えられて行く。
失敗したのだと。

「…………あ………………あっ……………俺、会長……」

“──────刄ヨ朽チヨ”

地を這うような低音が全ての者の頭の中に響く。
三木を貫くはずだった戟〈げき〉から炎が上がりその存在が無かったかのように燃え尽きると、同時に拘束していた鉄の檻をも粉々にし、血だらけの神功が地に降り立つ。

千星が必殺技の“反射”コマンドを同時入力したため、黒い髪はブロンドに染まっていたが起死回生コマンドの発動のため瞳は赤く、血の涙が滴っていた。
コントローラーバトルでは駒となったものは自発行為が出来ないはずだが、神功の起死回生コマンドは自発を許す能力であった。
その効果は“願い”
思った事を幻影でしか為せない彼がリアルでできてしまうと言うものであった。

「アハッ、アハハハハハハハッ!!いいねぇ!欲しい!!欲しい!!僕、僕のお人形になりなよぉぉぉ!!」

「兄さんッ!!しっかりして下さ…い!僕の、僕のことは嫌いでも構いません、僕はどうなっても、いいです……でも柚子由は、柚子由だけは……ッ」

神功左千夫は血だらけで吐血しながら叫び声を上げるが、神功十輝央の動きは止まらない。
千星の操作によって阿弥陀に向かって走り折れた槍の柄を構えるが、それよりも早く神功十輝央の右手が能力を宿して三木の顔を掴みに開かれる。
神功十輝央の能力は“電磁波”
全ての能力の源であり、彼の掌によって掴まれたものは粒子を揺らされ、膨張し爆発して肉塊となる。
しかし先程まで恐怖し、青褪めていた三木は表情を一変させる。
神功十輝央が元に戻った事に安堵した彼女は自分の死を受け入れる様に瞳を閉じた。
潔く自分を諦めてしまう彼女に、二人の兄弟の気持ちが爆ぜる。

“──────消エロ”

弟の神功は兄を束縛するもの全てを、兄の神功は自分の能力の根絶を“願う”

「さぁ♪血の雨を浴びましょうね~!!あ……はっ?……」

人を殺せる事に最高潮に上がっていた阿弥陀の眉が顰められた。
阿弥陀が神功十輝央を操作している携帯が誤作動音を起こす。
タップしていないコマンドが勝手に発動され、神功十輝央の体全体からコントローラーバトルのシステムを狂わせる程の電磁波を放出される。
すると彼の体の自由が効き、逆の左手で神功十輝央は右手首を握り締めた。
そして、一瞬遅れて右の掌が三木に触れる。

───────ただただ、何も起こらなかった。
三木の額を神功十輝央の掌が包み込んだという事実だけがそこにはあった。
血も何も流れることはなく三木はそっと瞼を持ち上げた。
それだけではなく、阿弥陀のコントロールの受信機も意味を持たなくなり、阿弥陀の支配下から神功十輝央は解き放たれた。

「ハッ!?……なにこれ……おかしいじゃん、何がおこ…………てッ」

阿弥陀が異常事態に声を上げるがその逡巡の時間の猶予もなく彼の前に人影が立ちはだかる。
槍を構えた血だらけの神功左千夫が大きく右手を後ろに引く。
その瞳は酷く冷えていて冷静さの欠片も残っていなかった。

「左千夫クン!!そのコースはッ……ダメッ!」

一部始終を傍観する事しか出来なかった九鬼の声が場内へと響き渡る。
神功左千夫の瞳に色が差し、ハッとするが既に遅い。
「逸レロ」と呟くのが精一杯で壊れた槍の柄は阿弥陀の胴体を貫通した。

「……………グハッ……………アハッ…………ざ……ん、ね……ん、ぼくだけが………政府の……おん…け…い…を……………」
「─────ッ、エルッ、すいませんッ、彼を……」

阿弥陀は吐血し、その場に倒れ込んでいく。
九鬼の呼び掛けにより急所は外すことが出来たが手当しなければ死ぬだろう。
神功左千夫は直ぐに治療ができるエルという人物に声を上げて呼びかける。
全員が阿弥陀のコントロールの呪縛からは開放されたがコントローラーバトル自体はまだ解除されていない。
神功左千夫も地に足を付けたいがコントローラーバトルが終わらない限りは倒れる事すらも許されない。
立ったまま意識が朦朧としている神功左千夫の耳に啜り泣く様な声が聞こえる。

「柚子由さん………!!どうして、どうして君は……ッ!お願いだからもっと自分を大切にして……僕なんかの為に自分を犠牲にしないで……」
「十輝央………さん……?よかった………元に戻って、…………ねぇ、……十輝央さん、私、聞きたいことがあって………左千夫様のこと、………大好きですか?」
「…………ッ!?今それどころじゃ……もう……本当に、君にはかなわない……よ。大好きだよ、好きに決まってるだろ……左千夫も、左千夫の事を大好きな君も、僕は……大好きだよ」
「よかった………ずっと、ずっと、気になってたんです………十輝央さんの口から聞けて………よかった…………」

操られたとは言え好きな相手に対して死を選択させた事の罪悪感に耐えきれず、神功十輝央は彼女を抱き締め涙を流すが、そんな三木から返ってくる言葉に神功十輝央は更に抱擁を深めた。
こんな時でも三木は自分の事よりも他人を優先してしまうのだ。
過ぎた緊張から解き放たれた彼女は瞼を落とし脱力した。
そんな彼女に神功十輝央はそう告げる事しかできず無力に嘆くしか無かった。
何故三木が肉塊にならなかったと言うと、神功十輝央の能力“電磁波”とは能力の源である電磁波自体を動かす事が出来るため、全ての能力を“キャンセル”できると言う側面を持つからだ。
これまでも彼は知らずのうちにキャンセルを行う事があったが、今回初めて意識して使えるようになった。
そして神功十輝央はこの時誓った。
自分は三木を守れるようになりたいと、何に変えても彼女を守れる存在になりたいと。
その守りたい対象は三木だけでは無い。
少し離れたところで血だらけで立ち竦んで居る神功左千夫をもだ。

腕で涙を拭うと三木に微笑み掛けて、その額へとキスを落とした。

その様子を神功左千夫は見届けると安堵したように息を吐く。
阿弥陀によって占領されていた機械系統が正常に戻り、残っていたヒューマノイドによりコントローラーバトルが終了した。
神功左千夫の精神体が実体へと引き摺り戻される。
精神体の損傷が激し過ぎた為に実体へとそのままダメージが移動する。

「───────ッッッ!!!!」

九鬼が支えている腕の中で声無き悲鳴を上げるが直ぐに彼から離れるように体を起こし、すぐ側でまだ画面を見つめている儘の千星に神功左千夫は駆け寄った。

「おつかれさま………で………………す………那由多……く、……ん」

いつものようにいつもの笑みを湛えながら労いの言葉をかけるつもりだった。
だが、その言葉は途中で切れてしまう。
千星那由多の表情はグチャグチャなのにその顔は血が通っていないのでは無いかと思えるほど蒼白だったからだ。

「会長…………俺、勝ちました……………会長の望みどおり…………勝ちました…………よ」
「…………は、はい…………ありがとうございます」
「でも、俺ッ!!必死で、覚えて無いけど、覚えてるんです…………俺、俺…………阿弥陀を……………殺す……………つもりでした……」
「─────ッ!!那由多くん、落ち着いて下さい………あくまでも、あくまでも刺したのは僕です…ッ、指示をしたのも……」
「俺が………“操作した会長”…………ですよね……」
「那由多………くん……」
「分かってるんです……ッ!三木さんがあんな目にあって……カッとなって………助けるにはああするしか、ああするしか無かったんですよねッ!!」

混乱した千星が神功左千夫に詰め寄る。
何度も同意を求めるかのように神功に声を掛け、彼の肩を持って必死に揺さぶる。
神功左千夫は千星を刺激しないように気を付けながら自分がした事だと告げ、千星を肯定するように頷いた。

「そうです……最善の──」
「なゆゆ、それ言ってどうなるノ?」
「………副、会長…………?」
「なゆゆは、最善の策をとって阿弥陀を殺そうとしたんだヨ?」
「─────九鬼!!」
「左千夫クン、黙って。
なゆゆはそろそろ選択しないとイケナイと思う、ボク達側に来るのか、そのままオアソビで居るのか……。
なゆゆ、キミはもうボク達を使えば誰でもコロセルンダヨ?」
「……俺は……俺は」
「あー……メンドクサイ。ヒトゴロシになれって言ってるんじゃナイのは分かるかな?」
「…………はい…」
「なら、考えて、自分の行動に責任持って……左千夫クンに押し付けナイで、──堕ちたら戻れないヨ。
殺すも、殺さないも自由なんダヨ?オアソビが悪いわけじゃナイ。
でもまぁ、今日はおつかれサン♪がんばったネ」

ポンと千星の頭を九鬼が叩く。
すると千星の表情の強ばりが溶け、頬に赤みがさしていく。
その表情を見た神功左千夫も安堵したように笑みを湛えた。

「あ!でも!!なゆゆ一つ忠告!!多分知らなかっただろうから許すけ………ど!!」

九鬼が神功の背後から胸元に手を回し、ボロボロのボディスーツをビリビリビリッと音を立てて破き、上半身を露出させる。

「なっ!なっ!なぁぁあ!!!副会長!何してるんですか!」
「──────────ッ!!」

千星は目の前に晒される神功の生肌に見てはいけないものを見せられている気になってしまって反射的に顔を真っ赤に染め、神功よりも驚愕に声を上げる。
男とは思えない程白く透き通った肌を見せ付けられた千星は慌てて顔ごと視線を逸した。
だが良く思い返すと白以外の色が脳裏に浮かぶ。

神功も驚きに表情を強張らせるが声を上げることは無かった、しかし見えないところまでは幻術を掛けていなかった為、神功の体は至る所の皮膚の色が一変し、赤色や紫色の斑点が出現していた。
かなりの箇所が斑状出血しており、毛細血管すらも拡張していた。
神功は九鬼を睨みつけると手を払い除け、直ぐ様自分に幻術をかけると白い肌の色へと戻した。
千星が慌てて視線を戻す頃には幻術を掛け終えていて結局陶器のような透き通った肌をガン見することになってしまっただけであったが、それでも神功が酷い怪我を負ってしまったことは認識する事が出来た。

「左千夫クンの精神体って実体と近い時はダメージ蓄積するから使い方気をつけてあげてネ~。まぁ、ボクが興奮する材料になるからコレくらいならありがた───ッ!いったい!左千夫クン足踏んでる、踏んでる!キミ瀕死なんだからちょっと大人しくしてなよッ!」
「誰かさんが大人しくしてくれれば、考えます………。
九鬼はこう言いますが、僕は逆に気にせず酷使して貰えれば助かります」
「え!?!?でも、会長!!!?」
「使い惜しんで仲間に死なれたら困りますので…。精神体が物理的に破壊されても僕は死ぬことはありませんので、好きなだけ甚振ってもらって結構ですよ」

神功はいつものように微笑みを浮かべながら千星に言葉を告げた。
結局、千星は九鬼に寄って無駄な混乱を与えられただけで神功をどう扱ったらいいかまでは決める事ができなかったが、そのお陰で阿見田の事を考えていた頭が次は神功の事を考える事に切り替わった。
考えてそういう方向に持っていったのか、考え無しに行ったかはわからないが、九鬼のお陰ではある。
締め切られていたゲートが開き、別室で待機していた天夜、日当瀬が千星の元へと走っていき声を掛けると、千星の表情は更に赤みがさしていった。


神功左千夫〈じんぐう さちお〉が(裏)生徒会長を務める区域では「地区聖戦・ラディエンシークルセイド」はこれにて、幕を下ろした。
その他の区域でも同様に高校が順位付けされそれに応じて報酬が与えられる事になる。
そして地区の優勝校の愛輝凪高校(裏)生徒会は政府直属の組織の中でも上位となり、高校を守るとは異なる政府直下の任務をこなしていくことが彼等の放課後の活動に追加されていく事となった。


END
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