あなたのタマシイいただきます!

さくらんこ

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★本編★あなたのタマシイいただきます!

【7】 喫茶【シロフクロウ】へようこそ!

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ここは都心から少し外れた潮風の吹く海沿いの場所。
そこに聳えた立つ高級マンション街の一角に【シロフクロウ】という流行りの喫茶店が在る。
愛輝凪〈あてな〉大学のすぐ近くという立地でもあるため学生の利用も多い。
今日は休日のため、いつもより幅広い年代で賑わいを見せる喫茶【シロフクロウ】。
今日はそこで働くメンバーを覗いてみよう。

「いらっしゃいませッ、こちらへどうぞ。」

少し上ずった声で緊張気味に迎えてくれる、彼の名前は千星那由多〈せんぼし なゆた〉。
全体的に華奢で、青い瞳、紫ががった青い髪がパーマのようにクルクル跳ねている髪を接客中は後ろで一つに結んでいる。
見た目も悪くはないがこれから紹介するメンバーと比較してしまうと普通と表現せざるを得ない。
至って何の変哲もない普通の大学生である。
喫茶【シロフクロウ】のバイトを始めてから日は浅くたどたどしいが、逆にそれがここでは他のキャストとのギャップになっていいと言われている。

いつも通りのお出迎えだったが、いつもと違うものを千星は招き入れてしまう。

そう、彼は《紅い魂─あかいたましい─》 を実体化させてしまう能力を有している。
喫茶【シロフクロウ】 は表向きの顔で、彼らにはこの喫茶店を媒体とした“もう一つの仕事”がある。
それは、《紅い魂》を《食霊》し《idea─イデア─》 と言うエネルギーを集めること。
勿論、一般の人々にはバレないようにそっとである。

千星が《紅い魂》を招き入れてしまった為、ポンポンポンと喫茶店一面にレンゲの花が咲き乱れる。
彼は《紅い魂》と言葉を交わすと、魂を元の姿に近いものへと変えてしまう。
今日は花の魂だったようで、辺り一面がレンゲの花で埋もれていく。

いち早く対処に動いたのは日当瀬晴生〈ひなたせ はるき〉だ。
カウンター近くの彼専用の装置を操作して、喫茶店のシャッターを下ろし、イルミネーションを発動させる。
レンゲの花と合うようにクラッシックな色合いの照明を作り上げ、千星が招き入れたものを演出っぽく見えるようにしてしまう。

日当瀬晴生〈ひなたせ はるき〉 はここの経理を全て任されており。
頭脳明晰、容姿端麗だが、口が悪く、性格がキツイのが玉に瑕。
異国の血が混じっており、クオーターで目鼻立ちが整っているが、日本の血が少しだけ彼のキツさを緩和させている。
大学二年だが、既に海外では博士号まで取得し近代科学のパイオニアとして知る人ぞ知る有名人でもある。
経営者としても、敏腕である日当瀬はいくつもの会社を経営しており、実家は貴族の家系だが妾の子である為自分から近寄ることはない。
ブロンズでさらりと流れるショートボブの髪をその日の気分でセットし、ピアス、アクセサリーもその時の気分で付け替える。
透き通った翡翠の瞳を眇め、勤務中であるのにも関わらず癖で胸ポケットの電子タバコに伸びそうになる手を途中で止める。
日当瀬が意識を集中させると、ふわりと旋風が巻き起こる。
彼の属性は“風”。
緑がかった旋風がレンゲの花を掬いあげるように舞い、日当瀬の周りをクルクルと回るとひっそりと気づかれないように彼は息を吸う。
本来は《紅魂》の各部位に口付けなければ《食霊》は出来ないが、人型化しない弱い《紅魂》の場合は唇を寄せるだけで《食霊》できる。
日当瀬の場合、ポイントは“耳”である。
日当瀬は来店中のお客様の喧騒に紛れて能力を発動させる。
彼の能力“アナライズ”は視覚嗅覚等の感覚上昇により情報分析、分子の細分化等を行える。
日当瀬は能力を授かったときより視力が上がってしまったため、普段は通常に戻すため特殊なメガネかコンタクトをしている。
今日はめているメガネをずらすようにして無数に咲き乱れる蓮華の核を探し出した。

「只今より、喫茶【シロフクロウ】はランダムイベントタイムに入ります!
暫くの間ですが非日常な空間をお楽しみください。」

日当瀬のアドリブにすぐ反応を見せる男は明智剣成〈あけち けんせい〉 だ。
長身で茶色い髪は耳の横だけを長めに残して、他は短く切り揃えられ清潔感のある見た目をしている。
意志の強そうな紫の瞳は表情と同じく豊かに変化し、スポーツマンらしい爽やかな笑顔が売りである。

明智の属性は“地”。
ハラハラと砂粒のような紫色の結晶が光のイルミネーションをイリュージョン化させていくようにと輝きを追加していく。
近くを舞う弱い魂の蓮華の花は“外部要因”を探らずとも剣成に近づくだけで《食霊》され姿を消していった。
普段彼は、その《紅魂ーあかたまー》 に起きた現象などを起こした根源に口づけすることで《食霊》をする。
彼の家元は日本武道の名家である。
長男でないため明智自体は気軽に暮らしているが、古武道の他に現代武術である剣道・居合の有段者で、柔道、剣道、弓道、相撲、空手道、合気道、少林寺拳法、なぎなた、銃剣道は一通り教え込まれている。
その背筋はきれいに伸びており、イレギュラーな事態にも柔軟に対応し、各テーブルを回りながら蓮華の花が増殖し過ぎないように数を減らしていく。

その時、一つだけ《食霊》できない蓮を見つけ。
その動きを留めようと明智の能力の“微生物”、何でも分解し腐敗させてしまう能力を行使しようとしたが、他の客からコールが掛かってしまい「はーい。少々お待ちください。」と、軽快な声とともに仲間に合図だけして其方に向かう。


キッチンのカウンターから此方を窺うのは、天夜巽〈あまや たつみ〉 だ。
橙色で、右側の髪だけが長く、左は短めのアシンメトリーの髪型。
人好きの笑みを湛え、ぱっちりとしたオレンジの陽の光のような瞳で優しい雰囲気の為、キッチンでありながらも指名してくる客も多い。
本人も軽くしか伝えられていないが忍者子孫であり、昔から通常生活の中で英才教育を受けていたため暗器を使いこなすことができる。
そこら中にあるものが彼の武器となり手となる。
そんな天夜の属性は“雷”
パリッと、静電気のようなものを起こし蓮華がキッチンに入り込んでくるのを防ぎ《食霊》する。

「巽~、これどうなってっ、ぉわ!!!」

「那由多、危ない、…もー、気をつけないと。」

「悪いっ!ごめん、指!」

「え?ああ、大丈夫だって。……蓮華の《紅魂ーあかたまー》 かなぁ…」

千星がテーブルの片付けをしてキッチンへと運んでいたのだが、照明が暗くなっている上、蓮華の花が乱れ飛んでいるため、持っていたトレーがグラつく。
天夜は慌ててカウンター越しに千星のトレイを支え崩れないようにして受け取る。
その時にナイフが天夜の手を掠めて落ちたため、一本の血の筋が走った。
千星は慌てるが、天夜はあわてる素振りを見せずいつも通りの微笑みを落とした。
彼の能力は“自然治癒力”
既にナイフが滑った跡は瘡蓋になり、直ぐに何事もなかったように皮膚が戻る。
天夜は身体能力を極限まで高めたり、自己治癒を行うことができる。
その能力は日に日に高まり、痛み、病気を忘れてしまうくらいに彼の体を活性化させている。
そんな天夜の元に先程明智が合図した、赤紫の色が一際際立つ蓮華の花が舞う。
天夜の目に冷たさが宿ると床に落ちたナイフを蹴り上げ、素早い速さで蓮華を突き刺すようにと投げる。
しかし日当瀬が繰り出す旋風が同時にその蓮華を狙っていたようで、外れたナイフはキッチンのカウンターへ突き刺さった。
勿論千星が青褪めたのは言うまでもない。

「残念、蜜がでたらいけるかな、と思ったんだけど。」

天夜の二面性が瞳の色から垣間見えるが、それが表に現れることは殆ど無い。
彼の《食霊》のポイントは“内部”
体液、血液が必要となるので花の場合は蜜になるのだろうか。
その後は何事もなかったようにニコッと笑みを湛えた。


「なになになに~!楽しそうなコトになってるネ~」

奥から出てきたのは休憩を終えて戻ってきた九鬼〈くき〉である。
プラチナの透き通った髪の裾は自由に遊んでおり、襟足が長く赤毛が混じりこんでいる。
その長い襟足を結び、長身の彼はいつも糸目でニコニコと喰えない笑みを称えているが、チャイニーズマフィアの跡取り息子で喫茶【シロフクロウ】の土地の所有者、所謂オーナーである。
オーナーであるが彼はキッチンもホールもこなす一人のキャストでもある。
彼は《食霊》すると勃起するという特異体質でもあるので、それを隠すように緩めにエプロンを結ぶ。
属性は“水”で、小さな水晶のような水の粒が蓮華の花を包んでは弾けていく。

「ヤッホー☆みんな今日も遊びに来てくれてありがとね~。
それでは、ショータイムもラストとなります、最後まで楽しんでネ」

喫茶店の中に声が響き渡る。
細かった糸目が開かれると三白眼で、透き通った銀色の瞳は鋭く獲物を定める。
素早く伸ばした手が核となる蓮華の花に触れた瞬間、蓮華は一人の少女の形となり、フワリと天井近くまで浮き上がる。
九鬼のキーポイントは“手足”
能力は“創造”である。
いつも彼が創り上げるのは、銀髪のボンッキュッボンッを絵に描いたような艶めかしいボディの持ち主か、黒髪でスラッと手足が長いモデル体型の女性か2つのタイプなのだが、今日は蓮華と言う前情報があった為、赤を基調とした髪を2つのお団子に結んだ幼女が布ばかりの服を纏い宙を舞う。

来店客から歓喜の声が上がり、拍手まで起こると九鬼は中央の丸いカウンターの中に居る、マスター、神功左千夫〈じんぐう さちお〉へと目配せした。

静かな笑みを湛えたままカウンターの客とお喋りしながら一部始終を見守っていた神功が九鬼からの視線を感じると、彼のキーポイントである朱い“目”が揺らめく。
神功左千夫〈じんぐう さちお〉は現代の3大財閥とも言われる神功家の養子である。
才色兼備、ミステリアスな雰囲気で精錬された容姿、所作は老若男女に人気である。
今でこそ上流と言われる地位にいるが、幼い頃は地下社会の人間だった過去を持つ。
記憶のある頃からマフィアの人体実験の奴隷として飼い慣らされていた彼は、虎視眈々と施設破壊の計画を練り、そして現在に至る。
緋色の瞳はアルビノの遺伝子を有するからであるが、大学等は黒いコンタクトをしているため、こちらの朱い瞳がコンタクトだと思われている。

神功の能力は“精神”
精神を乗っ取り破壊させることもできるし、幻術をまるで本物の様に扱うことができる。
喫茶【シロフクロウ】全てが彼のテリトリーになると彼の一人の空間が広がる。
全ての客が同じものを共有し、同じ感覚を植え付けられる。
蓮華の化身とも言える幼女が、客の隙間をひらひらと光のように舞い、最後は中央の上まで上がりフワリと優しい炎を揺らめかす。
赤い光と共に花の化身は消え去り、蓮華の花弁があたり一面に舞う。

非幻想的な世界に客達は飲み物や料理に手を付けるのも忘、れその情景に魅入った。

「以上で、今日のスペシャルショータイムは終了ダヨ☆
また楽しみにしててネ~」

九鬼の軽快な声が響き渡るとシャッターが上がり、いつもの喫茶【シロフクロウ】へと戻る。
客からの拍手にキャスト一同が一礼をするとまた通常営業へと戻っていく。


▽▲◆Ξ×∞▽▲◆Ξ×∞▽▲◆Ξ×∞

「いやー、今日も千星さんのお手柄っスね、流石です。」

「ホント、那由多は凄いねー。」

「いや、俺は何もしてねぇから!!」

「だな。ナユは突っ立ってただけだな!」

「ちょ!接客はちゃんとしてたつーの!」

Close後の喫茶【シロフクロウ】の後片付けをしながら、日当瀬、天夜が千星を褒め、明智がそれを茶化すといういつもの光景が広がっていた。
同じ歳の4人は仲良く片付けを終わらせると、上の階にある共同スペースへと向かう。
その時に千星の前にひらひらと舞う蓮華の花が一つ、どうやら《食霊》しそびれていたもののようだ。

千星は緊張した面持ちで、蓮華の花を掬いあげると花弁へと唇を寄せた。
なんの音もなく、物音一つなく、蓮華が消える。
彼の属性は“無”とでも表現しようか…、ノーアクションで《食霊》を行えてしまうのである。
勿論、能力については、高校時代の記憶の大半を失ってしまっている彼には使えなくなっている。
はぁーと、大きく溜息を吐いた千星が顔を上げるとそこには糸目の九鬼が同情の視線を向けつつも、笑いを殺しきれず口に手をやっていた。

「なゆゆって見た目も地味だけど、《食霊》も地味だよネ~。」

オーナーの九鬼はいとも簡単に後輩の地雷を踏むと、共同スペースへと上がっていく。
千星はなんとも言えない感情にワナワナと肩を震わすが、その両方の肩をポンと柔らかく包む人物がいる。
マスターの神功である。
神功は顔をのぞき込むように微笑みかけ、那由多の唇を親指でなぞった。

「何事も、前動作無しでなす事は難しいことなのですよ?
那由多くんはもう少し、自分に自信を持ちましょうね。」

「マスター…………。俺、がんばります。」

にっこりと笑みを湛えると、そのまま千星の背中を押すように神功は歩き出す。

今日も喫茶【シロフクロウ】は忙しい1日を終えて完全閉店の時間を迎える。
その頃になるとカウンターの上の棚のシロフクロウの置物が動き出す。
置物だと思われているが、彼は精巧なロボットであり。
名前を“ラケダイモン”と言う。
通称“ラケ”と呼ばれるシロフクロウが「ラケケケケ」と笑い部屋の中で飛び立つと、この街の夜は更けていった。


End








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