さよならはここで、突然に。

さくらんこ

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再再会

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「六架さん。よろしければ此方お使いくださいね」
「え、いいんですか?」
「どうぞ。気に入っていただけると有り難いですが」
「これって……有名ブランドの!神功マスターってもしかして、神功コーポレーションの……」
「はい。父が総帥を務めております」
「すげー金持ちじゃないですか……!」
「父がですよ。……あ、六架さん糸くずが。目を閉じてもらってもいいですか?」
「え?あ、はい」

六架とマスターの会話は他愛無いものに思えた。けど、違った。全てマスターの計算通りに事が進んでいるようだった。
六架が自然と瞼を落とすとマスターが目元近くにあると思わせた糸くずを取るために前屈みになっていた。そして、自然と瞼近くに唇が寄る形になるとスーッと小さく息を吸い込んでいた。
マスターのキーポイントは瞳。瞼や眦にキスをして〈食霊〉していた筈だが今回は触れては居なかった。だけど、俺の視界に映る、六架に取り憑いた紅魂《あかたま》達が一斉に揺らめいた。そして一つ残らず一瞬にして火花がはじけとぶ様に消えてしまった。そしてマスターの唇が「ご馳走様でした」と、模ったので〈食霊〉が済んだようだ。

ああ……俺の今までの無駄なドキドキ時間を返してほしい。と、いう事はだ……。俺もキスをしなくても相手の近くで息を吸えば〈食霊〉できるという事だ。

「取れましたよ」
「あ、すいません。ありがとうございます」
「いえ。食事ができるまで寛いでいてくださいね」
「はい」

自然な流れでマスターが俺の元へ戻ってきて、六架は掘りごたつがある場所へと言ってしまった。
色々聴きたいことがあったが六架が居るために大きな声では言えず、眉だけが寄っていたからかマスターが苦笑していた。

「すいません。知っているものだと……」
「全く……知りませんでした」
「弱い紅魂《あかたま》でしたら吸い込む事が出来ます。しかし、強いものは難しいので臨機応変によろしくお願いしますね」
「あ!はい」

そして、他のキャスト達も混ざって全員で飯を食った。六架は人と打ち解けるのも早いので他のメンバーとも話をしていた。この時はこんな日が続けばいいなと思っていたんだけど……それも長くは続かなかった。


「おー。おかえりー那由多」


俺の私室が完全に六架の部屋と化した。
タバコのニオイも凄いし、ソファーだけでは収まらず、ベッドまで占領し始めた。
なんなら服もその辺に転がっているし……なぜかいつも裸で……布団に潜り込んでいる。
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