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俺のこと愛してる幼馴染が彼女持ちだった件聞く?②

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∞∞ nayuta side ∞∞

結局昨日はあの後部屋に戻ってうだうだ考えて殆ど寝れなかった。そして丸め込まれた事に後から気付く。
最終的には俺がどうしたいかなんだけど産まれたときからご近所さんで、なんだかんだでずっと一緒に居る巽を突き放す事は俺には出来そうにない。最近ちょっとアイツの事格好いいなとか思ってた俺の気持ちを返せ。スペックだって料理、洗濯、掃除は完璧だし頭も良い。方向音痴で機械音痴なとこがあるけど、逆にそれも……か、かわいいなとか思い始めた俺の甘酸っぱい思いをどうしてくれんだ……!!

今日は気まずくて殆ど顔を合わせられないまま喫茶【シロフクロウ】のバイトが終わってしまった。看板を片付ける為に外へと出ると調度門の外の看板の所に巽が居た。
なんて声を掛けたらいいか分からなかったので無言近づいて行くとよく見たら一人じゃなくて先日の梢《こずえ》と呼ばれていた女性と一緒に居た。

「梢。困るんだけどな、バイト先には来ない約束でしょ?」
「なんで?なんで彼女なのにバイト先に来ちゃダメなの…ッ!」
「なんでって……迷惑なんだよね」
「……ッ、どうしてそんな酷いこというの?私のこと愛してるんだよね!?」
「……んー。好きだけど……でも、もう終わりかな?」
「………ッ!?!?な、なんで、今、私のこと好きって言った!愛してるって言ったのに……!」
「悪いけど、約束を守れない子とは付き合えないよ……。俺、一人だけを相手にするのは無理なんだ。またね、梢。他にいいひと見つけてね……」
「や、やだ!!待って……!!そんな、酷いッ!」

梢と呼ばれた女性がその場に膝を付いて泣き崩れてしまった。
流石に可哀想だろ!っと言いたかったけどそれよりも俺はショックを受けていた。巽の「一人だけを相手にするのは無理」と、いう言葉に。と、言う事は必然的に俺も多人数の中の一人になるわけだ。
このやり場のない思いに見開いた瞳が揺れる。そして、こっちにと戻ってきた巽と目があった。流石に巽もバツが悪そうに苦笑していたけどそんなんじゃ俺の怒りは収まらなかった。

「お前っ、最低だな……ッ、それって、俺のことも!」
「那由多、落ち着いて」
「落ち着いてられるかよ……!」
「違うんだ」
「違う?何が違うか、言ってみろ………………よ?」

俺は巽と目を合わせられなかった。怒りに手は震え、今にも殴り掛かりそうだったけどグッと歯を食い縛って巽を睨み付けたとき巽の背後に人影が映った。
それが梢さんだと気付いた時には巽の身体が俺の方向に倒れてきて受け止めた俺の手にヌルっとした何か触れた。

「あ、あははっ、刺しちゃった……た、巽が、悪いのよッ!あ、アタシを裏切るからッ……、アタシの、あたしのせいじゃないから……アタシの事を好きにならなかった巽が悪いんだから、ね、………!」

ヌルっとしたものが巽の血で、巽が彼女に背後から刺されたと気付くまでにはそんなに時間は掛からなかったけど、途轍もなくスローモーションで全てが進んでいく。
巽が刺された?彼女に?
発狂したように叫んで走り去っていく女を目で追うことすら出来ずに背中がから刺さっている包丁に血の気が引いた。巽の喫茶店の制服が赤く染まって行く。

「た、巽ぃぃぃぃぃっっ!!!」

何刺されてんだよ。お前強いはずだろ!?
でも、能力者と言っても肉体は普通の人間と同じだ。背後から刺された包丁は心臓の真後ろだった。巽は、巽はどうなんだろうか?治せるのか?治せないのか?いや、今はそんな事を考えてる場合じゃない。
取り敢えず俺は巽を抱えて引き摺るようにエレベーターに向かった。人体損傷は確か九鬼オーナーが治せた。ただ、オーナーはもう最上階の自室に戻ってしまっているのでそこまで急がなくてはならない。
引き摺りながら指紋認証してエレベーターに乗って最上階のボタンを押そうとしたとき横から巽の腕が伸びてきて俺達の部屋の階のボタンを押した。

「おい、大丈夫なのかよ!?」
「…………………部屋に」
「おい、巽ッ?巽。部屋だな?」

耳元で落とされた巽の声は凄く小さかった。
それでも何か考えがあるんだろうと俺は巽の部屋へと急ぐ。巽の携帯で認証して部屋を開けて奥にある畳のベッドに巽をうつ伏せで寝かせた。深々と刺さった包丁をどうすることも出来ず、手を伸ばしては引っ込めてを繰り返してしまう。こんな事なら九鬼オーナーの部屋に行くんだったと過呼吸になりそうな時に巽と視線があった。

「那由多、ごめん……抜いてもらっていい?」
「………ッッッッ!」

深々と刺さったこの刃物を俺に抜けと言うのか?
巽の呼吸は何だかしんどそうで、悩んでいる間に死んでしまうのではないかと思うと両足がガクガク震えた。
それでもこの刃物を抜くしか助ける道はなくて、俺は両手で柄の部分を握り締めるとグググっと肉を抉りながら刃物を引き抜いていく。グロテスクな見た目に涙目になって脚がガタガタ震えた。

「お゙、ぉ゙……ぅ、巽ッ…、抜けたッ………抜け、血、が……?」

刃物にベッタリと血液が付いていて今にも泣きそう鼻をすすって居ると巽の身体がふわりと輝いた。


×× tatumi side ××

今日はかなりついている。
こうやって那由多に運ばれるなんていつぶりだろうか。
それにしても那由多は本当に優しい。俺の能力は〝自己治癒力〟に付随するのものなのでちょっとやそっとで死ぬような事はない。病気も殆どしない。
しかし、背中に刺さったナイフが邪魔で治癒能力がうまく働かなかった。それでも、恐る恐る俺から包丁を引き抜いている那由多を見る事が出来たのでこれは、これで…………興奮した。
刃先が抜けていくところから肉体が修復されていく。血管が閉じて、筋繊維が繋がって、皮膚が元通りになるともう通常と何も変わらない。傷口が塞がったのを確認してから起き上がると那由多はまだ、心配そうにこちらを見詰めていた。

「もう大丈夫だよ。ありがと」
「なぁ……おい、もうやめとけよ」
「……?何を?」
「何をって……!」
「あ、彼女達のこと?んーそれは無理かな?梢とは別れるけどまだ他に代わりはいくらでも」
「─────か、代わりってなんだよ!その言い方失礼なんじゃねぇの?」

俺を心配していた那由多の瞳の色が変わった。どうやら怒らせてしまったようなので少しだけ心音が上がる。自己治癒力を向上させてしまった今、俺はあまり何も感じなくなった。痛いもなければ気持ちいいもない。ただ、唯一那由多だけは俺の感情を奥底から揺さぶってくる。
本当はバレたくなかったんだけどこうなったら正直に話すしかないのかもしれない。

「この前も言ったけどちゃんと他にも何人もいる事は伝えてるよ?」
「それに俺が含まれてんだよな?……聞いてねぇんだけど」
「それは、当たり前かな」

そう告げると那由多の青い瞳が零れそうなほど大きく開いた。俺の言葉にショックを受けているのか濡れた瞳が揺れている。この表情はこの表情で堪らないけど、かなり勘違いさせている様子に肩を竦めた。

「俺……俺はッ」
「違うんだ、那由多。那由多聞いて。那由多が思ってる事と逆だよ」
「逆ってなんだよ!」
「もう一度いうよ?代わりなんだ……全部。那由多の……代わりなんだよ?」
「──────ッッッッ!!?」
「那由多一人にしちゃったら、俺の全てを受け止められないでしょ?」


そしてその次はその青い目を驚きに揺らして絶句していた。ほんとに那由多の動向は閉ざされてしまった俺の感情を動かして止まないんだ。

∞∞ nayuta side ∞∞

やっぱり俺の代わり…………?
あんなきれいな女の子達が俺の代わりと言うのはやっぱりしっくりこない。確かに髪の色とかパーマとか似ているところはあった。それでもちゃんと女性らしくて俺とは似ても似つかない。その彼女達を巽は代わりだと言い切ったのだ。
記憶に無いくらいからずっと一緒のいるのに自分の事を好きだと知ったのはつい最近だ。巽はいつから俺にこんな思いを抱えてたのだろうか……。
少しだけ気恥ずかしそうに、けれど俺しか見ていない瞳で真っ直ぐに見詰められると呼吸が止まる。思考も止まる。

「だからね。那由多が俺の全てを受け入れてくれるなら……やめれるけど?」
「……な、……おい」

巽が俺に覆い被さってきた。血液が消えた訳じゃないので血生臭くて口元に手を置いた。
これどういう事なんだろ。
俺が巽を受け入れたら他の皆とは別れるってこと?
そしたら巽は俺のもの?
いや、俺のものって、なんだよ。恋愛ってそんなことじゃないだろ。

血が染み付いた服を脱いだ巽は胸にもベッタリと血液が付いていた。ベッドに押し倒されたまま巽胸に手を伸ばす。
今現状、頭の中が混乱しているけど、巽の怪我を心配する気持ちだけは本当だ。本当に塞がっているか確認するように手を伸ばすと巽が表情を歪めた。

「傷はもう大丈夫だよ。刺さったナイフが邪魔だっただけだからさ」
「そ、……なのか」
「大丈夫。もう痛くないんだ」
「……巽?」
「もう、那由多でしか感じないんだ」

これどういう事なんだろうか。
俺だけ特別?
俺だけ特別だったら何をしてもいい?
でも、こんな歪んだ表情の巽を突き飛ばしたらどうなるんだろ。巽を完全に拒否する事は駄目だと俺の本能が語っていた。

俺が巽を突き飛ばさない事をいい事に巽の手がゆっくりと俺の肌を滑っていく。早々に上着脱がされると恥ずかしさで身体が縮こまる。
もう何回もセックスしてるんだけど今日の巽はいつもとは別人に思えた。
俺の顔はチラチラとしか見る事をせずに胸から愛撫を始める。巽によって開発されてしまった乳首は直ぐにその愛撫に応えるようにピンっと硬くなった。

「た、つみ………」
「ほら、俺とのセックスいいよね?身体の相性も悪く無いから……」
「ん、………はぁ………ぅ」
「那由多が俺を受け入れてくれたら……那由多一人だけを愛するよ?」

俺の耳が拾う音はとても優しくて心地よいのに、目の前に広がる巽の表情は愛憎に歪んでいた。
この言葉をどこまで信じていいか分からなくて。
急に怖くなってうつ伏せになって這うように巽から逃げる。その時に畳ベッドの隙間がズレた。
中に見えたものが信じられなくて逆に俺はそれを直視してしまった。

「あ、バレちゃった?それ、よく撮れてるよね?」

そう、そこにあったのは俺の写真だった。

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