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【2-2】濡れたお前に欲情してる①
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【天夜巽】
あれから団欒は解散になって、日当瀬と明智は部屋へと戻った。
俺も部屋に戻ろうとしたけど、那由多が俺のパジャマを掴んできたので視線を向ける。
「風呂、はいっから、待ってろよ……」
物凄く恥ずかしそうに、しかし、背に腹は替えられぬと言わんばかりに俺に命令してくる那由多は久々だった。
一気に俺の機嫌は急好転し、嬉しすぎて頬が緩む。
「あ、なんなら一緒に入る?」
「一人で入れるつーの!!」
狭いから嫌だと、全否定されながらもしっかりと俺のパジャマを掴んでいるところは笑ってしまう。
さっきのマスターの話を真に受けてしまったんだろう那由多は怖すぎて一人で風呂に入れなくなったようだ。
俺はこの部屋に来てすぐにお風呂には入ったけれど、那由多とならいくらでも入るのに。
久々のお願いに上機嫌な俺は那由多の手を引いて脱衣所に向かった。
【シロフクロウ】の造りから考えると庶民的な脱衣所で、と、言っても俺の実家よりは広いし、収納部分も多い。
俺は着いてきた那由多のシャツを裾から捲り上げ脱がしてやる。
自分でできると言いたそうな不満げな瞳がこちらを向くが、そんなことはいつものことなので気にせず下も脱がそうとすると慌てて手を掴んでくる。
「下は自分で脱ぐって!も、あっち向いてろよな!!」
「もー、那由多はワガママなんだから。」
調子に乗っていると怒られてしまい、仕方なく俺は手を離す。
言われたとおりに風呂に対して背中を向け、那由多が着替えるのを待つ。
脱衣所と浴室を遮る扉は、すりガラスではなく、ホテルのように透明で中は丸見えのタイプだ。
お湯をはっているため湯気で見えにくくなっているが、中からも外からも見えるため那由多は怖くないだろう。
那由多が浴室に入っていくのを背中で感じながら、時間を潰すように腕を組む。
シャワーの音が聞こえまだそんなに時間が経たないうちに事件は起きた。
「ぅ、え、あ!!ちょっと、出たー!!!出た!!」
お風呂に入った途端、那由多は叫び始めた。
何が出たんだろうと、振り返ると、素っ裸の那由多が俺に飛びついてきた、と、いうかもろにぶちあたったので、抱きしめるように受け止めながら勢いを殺しきれず、盛大に尻もちをついた。
「ぇ、────ちょっ!那由多!落ち着いて、わかった、わかったから!」
ったたた、と、小さく声が上げるが受け身を取ったのでそこまでは痛くない。
俺が受け止めても更に逃げようとする那由多を落ち着かせようと抱きしめている腕に力を込める。
それから視線を浴室へと流すと、確かに、そこには老人の幽霊が鏡からスルリと抜け出てきた。
なぜ幽霊だと表現するのかというと、全体的に薄く宙に浮いているからだ。
《紅い魂》は人間に害を加えるものもある、もしそれだといけないと思い自然と体は強張るが、その老人の言葉を聞くなり、小さく那由多の背中を叩いてやった。
「那由多、落ち着いて。ほら、ありがとうっていってるよ?」
目の前のおじいさんは、何度も何度も那由多にありがとうと言っていた。
『コーヒーを運んでくれてありがとう』
『おばあさんに誕生日プレゼントを渡してくれてありがとう』
『ワシの話相手になってくれてありがとう』
那由多は俺の胸に埋めた顔を、ギギギギ…と、音が立ちそうなほどゆっくりおじいさんの方へ向けると、彼は小さくお辞儀をして、パチン!と、弾けるように鏡の中へと入っていった。
今のが、マスターが言っていた、おじいさんがお礼に来ると言うことだろうか。
先程のおじいさんは、なんだったんだろうか。
気配は《紅い魂》ではなく、《idea-イデアー》に似ていた。
ただ、《idea-イデアー》は抽出したエネルギーの塊なので意思を持つことはないと思うんだが。
うーん、と、頬に人差し指をたてながら考えるが考えても埒があかず、思考を放棄した。
それよりも──────…。
流れたままのシャワーの音。
水に濡れた深い青い髪。
今にも泣き出しそうな熟れた瞳。
紅潮した頬。
そして……僕が好きな、顔、声、体。
「うぁ…………鏡にはいってったし……」と、俺のパジャマをしっかりと握りしめたまま、那由多はぶつくさ言っている。
自分の奥底で何かが枯渇していることを認識してしまう。
そう、喉が渇いた。
那由多が、欲しくて────────堪らない。
自然な所作で欲望を押し隠すように那由多の額にキスを落とした。
正直たまったもんじゃない、が、駄目だ、まだ、はやい…。
そのまま押し倒してしまいそうな心をグッとこらえて那由多の背中を撫でてやる。
「…………一緒にお風呂はいる?」
あれから団欒は解散になって、日当瀬と明智は部屋へと戻った。
俺も部屋に戻ろうとしたけど、那由多が俺のパジャマを掴んできたので視線を向ける。
「風呂、はいっから、待ってろよ……」
物凄く恥ずかしそうに、しかし、背に腹は替えられぬと言わんばかりに俺に命令してくる那由多は久々だった。
一気に俺の機嫌は急好転し、嬉しすぎて頬が緩む。
「あ、なんなら一緒に入る?」
「一人で入れるつーの!!」
狭いから嫌だと、全否定されながらもしっかりと俺のパジャマを掴んでいるところは笑ってしまう。
さっきのマスターの話を真に受けてしまったんだろう那由多は怖すぎて一人で風呂に入れなくなったようだ。
俺はこの部屋に来てすぐにお風呂には入ったけれど、那由多とならいくらでも入るのに。
久々のお願いに上機嫌な俺は那由多の手を引いて脱衣所に向かった。
【シロフクロウ】の造りから考えると庶民的な脱衣所で、と、言っても俺の実家よりは広いし、収納部分も多い。
俺は着いてきた那由多のシャツを裾から捲り上げ脱がしてやる。
自分でできると言いたそうな不満げな瞳がこちらを向くが、そんなことはいつものことなので気にせず下も脱がそうとすると慌てて手を掴んでくる。
「下は自分で脱ぐって!も、あっち向いてろよな!!」
「もー、那由多はワガママなんだから。」
調子に乗っていると怒られてしまい、仕方なく俺は手を離す。
言われたとおりに風呂に対して背中を向け、那由多が着替えるのを待つ。
脱衣所と浴室を遮る扉は、すりガラスではなく、ホテルのように透明で中は丸見えのタイプだ。
お湯をはっているため湯気で見えにくくなっているが、中からも外からも見えるため那由多は怖くないだろう。
那由多が浴室に入っていくのを背中で感じながら、時間を潰すように腕を組む。
シャワーの音が聞こえまだそんなに時間が経たないうちに事件は起きた。
「ぅ、え、あ!!ちょっと、出たー!!!出た!!」
お風呂に入った途端、那由多は叫び始めた。
何が出たんだろうと、振り返ると、素っ裸の那由多が俺に飛びついてきた、と、いうかもろにぶちあたったので、抱きしめるように受け止めながら勢いを殺しきれず、盛大に尻もちをついた。
「ぇ、────ちょっ!那由多!落ち着いて、わかった、わかったから!」
ったたた、と、小さく声が上げるが受け身を取ったのでそこまでは痛くない。
俺が受け止めても更に逃げようとする那由多を落ち着かせようと抱きしめている腕に力を込める。
それから視線を浴室へと流すと、確かに、そこには老人の幽霊が鏡からスルリと抜け出てきた。
なぜ幽霊だと表現するのかというと、全体的に薄く宙に浮いているからだ。
《紅い魂》は人間に害を加えるものもある、もしそれだといけないと思い自然と体は強張るが、その老人の言葉を聞くなり、小さく那由多の背中を叩いてやった。
「那由多、落ち着いて。ほら、ありがとうっていってるよ?」
目の前のおじいさんは、何度も何度も那由多にありがとうと言っていた。
『コーヒーを運んでくれてありがとう』
『おばあさんに誕生日プレゼントを渡してくれてありがとう』
『ワシの話相手になってくれてありがとう』
那由多は俺の胸に埋めた顔を、ギギギギ…と、音が立ちそうなほどゆっくりおじいさんの方へ向けると、彼は小さくお辞儀をして、パチン!と、弾けるように鏡の中へと入っていった。
今のが、マスターが言っていた、おじいさんがお礼に来ると言うことだろうか。
先程のおじいさんは、なんだったんだろうか。
気配は《紅い魂》ではなく、《idea-イデアー》に似ていた。
ただ、《idea-イデアー》は抽出したエネルギーの塊なので意思を持つことはないと思うんだが。
うーん、と、頬に人差し指をたてながら考えるが考えても埒があかず、思考を放棄した。
それよりも──────…。
流れたままのシャワーの音。
水に濡れた深い青い髪。
今にも泣き出しそうな熟れた瞳。
紅潮した頬。
そして……僕が好きな、顔、声、体。
「うぁ…………鏡にはいってったし……」と、俺のパジャマをしっかりと握りしめたまま、那由多はぶつくさ言っている。
自分の奥底で何かが枯渇していることを認識してしまう。
そう、喉が渇いた。
那由多が、欲しくて────────堪らない。
自然な所作で欲望を押し隠すように那由多の額にキスを落とした。
正直たまったもんじゃない、が、駄目だ、まだ、はやい…。
そのまま押し倒してしまいそうな心をグッとこらえて那由多の背中を撫でてやる。
「…………一緒にお風呂はいる?」
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