元戦闘奴隷なのに、チャイニーズマフィアの香主《跡取り》と原住民族の族長からの寵愛を受けて困っています

さくらんこ

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令和6年最新話★★★

48後日〜79紅い魂

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後日


▽▽ KUKI side ▽▽

ボクは朝は強くない。なのでセックスで抱き潰して一緒に寝ても大体は左千夫クンが早く起きて既に姿が無いことの方が多い。けど、今日は違った。まだボクの腕の中に温もりがあることが幸せだなんて昔ではありえない感覚だ。
〝精神〟を激しく消耗してまだ眠ったままの左千夫クンを後ろからぎゅゅゅっっと抱き締めた。
「ふあ~、やばーい寝過ぎたー」
ボクよりも少し低い体温を抱き寄せるとピクッと指先は動くもののまだ起きる気配は無かった。項に顔を埋めると甘い匂いにクラクラする。朝勃ちと興奮が相俟ってチンコが臨戦状態になったので枕元からゼリー付きのコンドームを取り出してペニスに嵌めると昨日したことで少し緩んでいる左千夫クンの窄まりを無理矢理開いて押し込んでいく。
「…………っ、…………ぁ…………ぁ」
脈拍が上がって肉体は覚醒に向かっているがまだ意識は起きてはこれないようであまーい吐息だけが漏れる。長い髪を掻き分けて項に吸い付いてキスマークを沢山散らして、胸の突起を指先で淡く転がして、腸襞全てを刺激するようにゆっくりと腰を揺らしていると、ビクンッと体が大きく痙攣した後、項を手で隠された。起きたのかな、と顔を一度離すとものすっっっごい不服気な左千夫クンと目があった。
「おは……ようござい……っん」
「ン。おはよー」
「ッ、は、ッ説明してもらえませんか。朝から、っ!~~ッッッ!うごかす……な」
「朝勃ちしてたから気持ちよくしてあげようと思って♪」
「誰も頼んで……ッ、はっ、待って……ッ」
はじめこそ激しく抵抗していたがボクが後ろから抱きしめたままパチュン♡と激しめに腰を打ち付けると慌ててキュゥぅぅっと穴を締め上げて自分のペニスをギュッと握っていたいた。直ぐに排尿したいのだと察すると余計に楽しくなってきて左千夫クンの性器へと手を伸ばした。
「おしっこ?あの後点滴したからネ~」
「っ!?分かってるなら……く、抜け……ッ」
「このまま漏らしてもいいケド?」
「な!出来るわけ……ッ、は……ぅ……」
「なんなら手伝ってあげるけ……ど♪」
「はっ、ぁぁっ!……っ、う♡」
左千夫クンが根本を握っているのでそこからハミ出てる先端の部分を掌でスリスリと擦ってやると中をきゅうきゅうに締めながら身悶えていた。ズチュッズチュッと淫猥な音を立てながら腰を揺らして、尿道口に爪を立ててやると肩越しに朱く染まった目元が見えた。そして少し眉を下げた左千夫クンがフルフルと首を横に振る。
「も、無理です……ッはぁ、抜いて……」
「大丈夫~左千夫クンのオシッコなら大歓迎!」
「……ッ!?く、変態めッ」
「わっ!?ちょ、待って!チンコとける!も~」
ブワッと左千夫クンの周りの温度が急上昇した。瞬時に発火しようとしていると分かったので慌てて左千夫クンからチンコを抜いた。逃げようとする体を横抱きにして、シャワー室へと向かう。暴れる間も与えず昔も押し込んだ事のあるヤるだけの子が使うシャワールームへと二人で無理矢理入ると向かい合うようにして左千夫クンの背中を冷たいタイルに押し付けてビクッと、したところでまたアナルに挿入してやった。

「っはぁ♡……な、も、……トイレに行かせろとッ」
「え~。前もここでしたじゃん。覚えてる?あの時は敵同士だったけどネ」
「はぁ……っ、覚えてな……く、ん!」
「ここなら漏らしても問題ないでしょ~」
「あっ!まっ!動くなッ」
「あ、ダメダメ。発火されたらチンコ使い物にならなくなるから♪」
「ひぁっ♡んん!ぁ、まっ!んんんんん♡♡」

能力を使われると厄介なのでガンガンと膀胱を裏側から突き上げてやりながら痛いくらいに鈴口を爪で抉って集中力を削ぐ。タイルをタップすると壁から手が伸びて左千夫クンの足を下から掬うように抱えて開脚させた。昨日の傷は癒えているがダメージはまだ残っているようで動きにキレが無いのが救いだ。激しく突いていたものを緩やかな打ち付けに変えて、スリスリと優し目にチンコを擦ってやってるのに全身を震わせるだけで一向におしっこは出なかった。
「も~強情だよネ。ホント」
「誰のせいだ……と」
「それじゃあ、ボクが先に満足させてもらうネ~」
「ッあ!?……ま、ッッッッな!やめ、やっ、ぁあああああ♡♡♡♡♡」
「ハァ♡やっぱ我慢してると、っ、すっごい締まるよネ~」
「や、やめっっ、んんんん♡♡♡♡♡」


▲▲ sachio side ▲▲

身体は完全に治っているのだが違和感が凄い。中身まで全部露わにされたのにまだ僕の体に興味があるようだ。目の前の男のストライクゾーンの広さには恐れ入る。僕も色んな人間を見てきたがこういう変態は普通偏ったプレイでしか興奮しない。こんなに幅広いプレイに順応しているなんて……。
そんな考えも激しくなった突き上げに霧散していく。壁から手が伸びて脚だけじゃなく僕の手まで拘束してしまうと抵抗らしい抵抗が出来ないまま、ぐちゃぐちゃに中を掻き回されて、ぐっぷっと音が鳴るほど膀胱側をペニスで持ち上げられながら抽挿ちゅうそうを繰り返され悶絶した。
「だっ……ッッッめ、で……る、ッッッッんん♡゙」
「どっち?おしっこ?精液?」
「ぁあっ゙!?わかんなっ、うっ!開くッ゙おしっこの穴ッ、ひら……ッッッ~~~~~ぅぅ♡♡♡゙♡゙」
膀胱を無遠慮に押し上げられて、小水を漏らしたくなくて意識的にまた締めてしまうと腸壁までもが狭まって無防備になった前立腺を擦りあげられる。もう、締めていても漏れそうで僕の顔が焦って情けなく歪んだときに最奥まで突き上げられた。ガクガクガクガク───ッッッと全身が痙攣してイった。尿道がクパァっと開いてビクビクビクッ!と震えながら先ずは精液が飛び散る。それならイって直ぐに我慢したら、と、思う暇もなくまだイってない九鬼はそのまま突き上げを続けた。前立腺からの深イキが続いて、僕の体は規則的な弛緩と緊張を繰り返す。

「ッ゙ッ゙ッ゙ッ゙!?ぁああああっ!も、イってます♡゙んんっ!!止まッ゙!止まッ♡」
「ハァ♡射精、の、ほうだったネッ……く、中波打ってスゴっ……く。じゃ、そのままおしっこ漏らしちゃおっか♪」
「ッッッぅぅう~~~~~~~♡゙♡゙♡゙♡!?や、止まって!止まれ、は、ぁ、ああああああああっ♡゙」
「ッ、イきっぱなしだからまだ、出ない?」
「もうっ、ゆるめっ!ぁあああっ♡♡また、イくっ、イってるッッッッ゙♡゙♡゙♡゙」
「じゃ、ちゃんとそのまま尿道開いとくんだヨ?締めたらもっかい初めからだからネ~」

連続で起こる絶頂が辛くて僕はコクコクと首を縦に振った。全ての穴を明け渡すように弛緩させると九鬼は満足そうに口角を上げて少しだけ突き上げを緩くしてくれた。直ぐに緩んだ括約筋から小水が溢れだし、ジョボジョボと排尿が始まる。臭いは余りしなかったがこの行為自体が恥ずかしいので自然と視線が細くなり顔を背けたが、ズチュン!と、僕が排尿を始めるなり九鬼が深く突き上げを再開したため目を見開いた。
「っっっんんんぁあああああっ♡゙♡゙九鬼ッ゙……まだ、出てるッ」
「出てるからいいんじゃん♪案外癖になっちゃうかもヨ?お手伝い~」
膀胱を前立腺ごと押し上げられて、ジョボッ!ジョボ!と突き上げにあわせて小水が漏れる。変に我慢してしまって余計に排尿の時間が伸びてしまい、更にはまた性感が高まり混乱した。
「はっ、あ!?だ、だっ!また、まった、イく、イッ~~~~~~ぅうぅ、んんんん゙!」
「ッ!ん゙♡……すっごい締め付けッ、ホントエロい体だよネ……ッ」
「はぁ♡あっ!あ!止まって、とまっ!!」
目の間が白くなって僕は排尿しながら絶頂した。勿論精液は出ずに痙攣だけが続いて、蕩けるような快楽に酔い痴れてガタガタと全身を震わせながら九鬼の腹に排尿し、そして排尿が全て終わると少量の精液が飛び散った。


▽▽ KUKI side ▽▽

カワイイ。左千夫クンは快楽を引き伸ばせば引き伸ばすほど乱れてくれる。ほーんと、癖になる。昔は自分さえ気持ち良ければそれで良かったし、相手も勝手に乱れていた。こんなにも自分を狂わす存在が在るとは想像しなかった。
突き上げを緩やかにしていくとうっとりと視線が綻ぶ。もう少し虐めてやろうと思っていたがボクの方が満足してしまってシャワーのコックを捻ると排尿と精液を流した。そして左千夫クンの拘束を無くすと唇を重ねながら自分を追い立てた。
「あっ!白翼バイイーッ!!バイッ……ぁあああっ♡♡ッんあ♡」
「ん……ッ、かわいっ……はぁ、……ホント、……ふ、我爱你ウォーアイニー……」
密着して、壁に押し付けるようにしながら腰を打ち付けるとボクの体に脚と手が絡みつく。舌を絡めながら静かに囁くとキュゥぅぅっと中が締まって、ボクの舌も吸い上げられたので呆気なく達した。昨日の猟奇的なセックスで精神面も満たされていたからかいつもより脱力感が強く、目の前のあまーい肢体に酔い痴れながら動きをゆっくりにして、更に深くキスをして、気持ちがいい気怠さのまま唇を離すと、目の前の左千夫クンは我に返ったのかトンデモなく眉を寄せて恥ずかしそうに目元を染めて、ワナワナの震えるだけではなく、蹴り飛ばされるようにシャワー室から追い出された。
「わー。ちょっと、左千夫クン!ボク、ビシャビシャなんだケド」
「……ッ知りません!他にも風呂はある筈です」
「え~、あるにはあるケド。ボクは左千夫クンと一緒に入りたーい♪ほら、お尻の穴も洗うの大変でしょ?ボクの大きから奥まで精液たっぷり~……」
と、まぁ。そんな茶目っ気な冗談を言っていたらシャワー室への扉が開いて、……とーんでもなく冷たい目をした左千夫クンが現れた。これはマズイと全身が一瞬にして凍ったけど左千夫クンはボクに「どうぞ」とだけ告げてスタスタと部屋に戻っていった。さっきまでの甘い雰囲気なんか全く感じられずにボクは自然と笑みを零した。


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「エネルギーが足りない?」
「その表現が適切かどうかは分かりませんが、政府の電磁波増強装置は破壊してしまったので、イデアを修復するには代わりなるエネルギーが必要なのかもしれません」
「それって、誰でも能力者になれる装置をまた作るって事?ボクは別にいいケド」
「いえ。それに代替するエネルギーに関しては当てがあります。供給装置は晴生くんにお願いするとして、後は施設を建設する場所──」
「あ!そうそう。海沿いの土地押さえたヨ」
「流石……ですね。立地条件がかなり厳しかったのですが」
「そこはもう、ボクにかかれば♪はい、権利書と契約書~」
「ありがとうございます。では」
ボクの部屋に置いてある彼専用のバスローブを羽織った左千夫クンは契約書だけを受け取ると内容を確認し、│瓏 九《ロン ジゥ》とボクの表向きの本名を記載していた。まず初めに、契約書の自筆欄なのでボクが直接書くところだ。と、いう至極当然の疑問が沸くが、左千夫クンは筆跡も完璧に真似できるので、問題は無いと消えていく。次に左千夫クンが欲しがっていたのに、なぜボクの名前を書いたのかと疑問が浮かぶが別場所から持ってきた〝賃貸契約〟の契約書によって納得はした。
どうやらあの土地はボクの名義にして、ボクは左千夫クンにその土地と建物を貸す契約を結ぶらしい。そこまではわかった、理解した。ただ、賃貸契約の金額がボッタクリの域だし、そもそもこの土地って……。
「え?その額だったらボクが儲かる事になるケド?」
「〝適応物件を探す〟と言う仕事をしたのだから当たり前なのでは?」
「へ?対価はもう昨日貰ったし、そもそも土地は左千夫クンの誕生日プレゼントでしょ?」
「……こんな高価なもの必要ありません。探してくれた事で充分です」
「え!?他に誕生日プレゼント用意してないんだケド!」
「気持ちだけで結構です。と、言いますか。貴方は聞いていないようでしたが契約条件については探す前にお伝えしましたよ」
聞いてなかった……。確かになんか言ってた。納期の事を言ってるとばかり思ってたけど違ったのか。と、言う事は直ぐ傍にある彼の誕生日には別のよろこぶものを用意しなければならない。しなければならないというよりも、用意したい。まったぁぁぁぁっくもって左千夫クンは高価な誕生日プレゼントを必要としてないんだけど。
ボクが頭を抱えて、ウンウンと唸っていたからか左千夫クンは契約書を書き終えるとクスっと息を抜くように笑った。出来上がった書類に目を通すとホントにボクが書いたみたいだし、とんでもなーくボクが得する形に作られていて、物欲の〝ぶ〟の字も見て取れず肩を落とした。
左千夫クンが喜ぶモノなんてほんのひと握りしか無いんだろうな。
「九鬼」
「んー……?」
「誕生日プレゼントなのですが」
「!なに?欲しいもの?」
「物ではないですが。そのエネルギー集めを手伝ってもらえませんか?」
「え?ソレは愉しそうだし言われなくても──」
「なら。愉しくなくなる程集めてください」
ニッコリと擬音語が目に見えそうな程整って微笑む左千夫クンの提案は相変わらず悪魔じみている。ボクの口角がかなーり引き攣ったがもうそこは了承するしか無かった。尻に敷かれるというのはこういう事なのだろうか。



【紅い魂】

▽▽ KUKI side ▽▽

誕生日は言われた通りにイデアちゃんを復活させるためのエネルギー集めに付き合った。一応何も用意しないのもあれなんで金と地位を利用して王宮御用達のうん百万するパイナップルを使ったスイーツとカットフルーツを用意した。恋人に渡すには安上がりなプレゼントとなってしまったのでボクの部屋に来てすぐに「おめでと~♪はい、誕生日ケーキ!」と、いつもの調子で渡すと、「……ありがとうございます」と、いつも通り受け取ってくれた。
別に何も期待してないし、受け取ってくれただけ良かったな、くらいにしか思ってなかったのでその後の彼の表情に心臓を抉られたのは計算外である。
いつも通りのすかした顔で受け取っていたのに、ボクの部屋の冷蔵庫に仕舞う彼の表情はとても嬉しそうに見えた。それでもって、ちょっとボクが動揺して、「トイレに行ってくる~」なんて言って部屋から出て、深呼吸して、気持ちが落ち着いてから戻ると……カットフルーツにしてもらった分を幸せそうに食べていた。
甘いモノが好きなのは知ってる。(裏)生徒会でも美味しそうにケーキを食べていたし、甘いモノが食べれて幸せなだけだと分かっているのにオトコと言う生き物は単純なので自分がプレゼントとしたから幸せそうだと錯覚してしまう。そんな顔を左千夫クンはしていた。
そして、ボクに気付くとそのまま更に笑みを深めた。
「流石。一級品ですね」
「……っ、でっしょ~?一応そんなんでも手に入れるのは苦労したヨ~」
「世界一高級なフルーツをそんなものと言うのは貴方くらいかと」
「ま♪ボクって一応、金持ちのボンボンだからネ~」
そんな無駄口を叩いている口元に左千夫クンがカットパインを運んできた。果物は好きでもキライでもない。気分次第ではイラナイと断ることも多い。だけどこういう時の左千夫クンはボクに拒否する間を与えない。自然と迎えるように頬張ると甘くて上品な味が口内に広がった。パインもオイシイけど正直、左千夫クンの蜜に濡れた唇のほうが食べたかったなぁと思いながら嚥下した。
 


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「着きましたよ」

そう言って連れて来られたのは、ぱっと見は変わったところなんてない荒れた墓地だった。ただ磁場のバランスが極端に悪い。不要なエネルギーが漂っていると言えばいいのか、言葉では表しにくいがとにかーく、気持ちが悪い。
そんな中、朱く揺らめく左千夫クンの瞳がボクを見つめてきたのでボクは彼の見ているセカイを観ることにした。
ユラユラ揺らめく無数の火の玉、人の影のように見えるものも、既に人の形はしてない無いもの、おぞましいもの。色んなものがたくさーん観えた。次の瞬間、全てが左千夫クンのゴウッと激しく燃える炎に包まれた。断末魔が脳裏に響き渡るケド、ボクにとっては聞き慣れた声なのでなんの感慨も浮かばない。それよりも目の前の美麗な男の所作に釘付けになる。スゥッと息を吸うようにして左千夫クンは全ての荒れた氣を自分の中に取り込んだ。ナルホド、コレならイデちゃんのエネルギーに取って代わりそうだ。しかーも、左千夫クンはその後直ぐにその汚れた氣を自分の中で浄化して、エネルギーとして抽出していた。ホント……この手の事になると彼の右に出る者は居ない。
「こんな感じですかね。エネルギーを集めて貰えれば、抽出は僕がします。後は晴生クンにお願いして供給装置も作ってもらってるので」
「オッケ~♪でもこれ効率悪いネー、負のエネルギーから正のエネルギー作る感じ~」
「負のエネルギー限定では無いのですが、自然と陰の氣が多くなりますね。ですから、死ぬ気で集めてください。需要と供給のバランスが取れなくなるので」
「ゔ……はぁ~何事もガンバラナイ主義なのに……。あ、でもボクもーっと沢山ありそうな場所知ってるカモ!」
「九鬼?どこへ」

要するに負のエネルギー、陰の氣が集まるトコロにいけばいいわけだ。だったら期間限定でオープンしてるあそこがいい!と、ルンルンで左千夫クンを引っ張ってホラーハウスへとやって来た。ホラーハウスのチケット売り場へと向かおうとしたが、逆に腕を引っ張られた。不思議に思って振り返ると、左千夫クンは〝無〟の表情で【恐怖の館~幽霊茸の生える場所にあるものとは?~】といかにもなタイトルの書かれた看板を見上げていた。
あ、そっか。左千夫クン、お化けだめだったなァ。と、言うか、絶対さっきの荒れた墓地の方が怖いと思うんだケド。まぁ、ナニはともあれ嫌がられると余計にやる気が出てきてボクは左千夫クンの腕を引っ張り返した。


▲▲ sachio side ▲▲

「いっくよ~」
「……っ!?九鬼!」
「え?左千夫クン、まっさか~ボクが手配した肝試しならまだしも、こーんな普通の人間が作ったお化け屋敷が怖いなんて言わないよネ~?歴代最強で、政府からも畏怖されている神功左千夫じんぐう さちおがこんな一般人も怖がらないような~♪」
「く、九鬼!声が大きい……目立ち過ぎます」
「あ~。確かに今日はデートのつもりじゃ無かったから決めてないしネー。でもエネルギーを集める時は耐性のある服にした方がイイだろうし。うーん、色々決めること多いネ♪」

今日は手ほどき程度のつもりだったので黒で統一した長袖長ズボンの薄着だった。九鬼はまだ入梅だと言うのにタンクトップ一枚の極薄着だ。気配を消して動いている時は僕達の存在に気づく者は限られた有力者だけなので気にならないがこんな人が多い場所で普通に話されると一気に人目を引く。ただでさえ僕も彼もこの国にしては長身なんだ。
知り合いに会うほうが困るので仕方なく入りたくもないお化け屋敷のチケット売り場へと入った。色んなところに貼られているポスターに視線が泳いでしまう。幽霊茸とはキノコと名前がついているがギンリョウソウの事で、歴とした植物である。見た目が白く、ひょろっとしたオバケキノコのような出で立ちで「腐生植物」といった種類だ。なので、その字面のインパクトから考えると……、【恐怖の館~幽霊茸の生える場所にあるものとは?~】の〝あるもの〟とは人間の死体だと一般人は推測するだろう。だが、僕は知っている。腐生植物というものは死骸から生える植物ではなく、菌類。茸から栄養素を貰って成長していく植物のことだ。だから、幽霊茸の下には何も埋まってはいない、埋まっては……いないんだ!
そんな事に思考を奪われていると既に会計が済んでいて、薄暗い中順番待ちの列に並んでいた。至る所にあるモニターには僕の考察通り───
「これって何の植物ですか?」
「ユウレイタケだな。腐生植物つーんだ」
「腐生植物?」
「腐生植物しらないのか?要するに……死体から養分を貰って生きている植物のことだよ」
「えっ?じゃ、じゃあ……この下には」
「そう。動物の死骸か……もしかしたら人の死骸が埋まってるかもな?」
「そ、そんな怖い事言わないでくださいよ!」
「ははは。ウソウソ!そもそも腐生植物って言うのは……ん?どうした?」
「せ、先輩ッ!う、後ろ」
「うわ、なんだよこれ!」
「キャァァァァァァァァァァァァァ‼︎」

そんなナレーションと山を散策している男女二人の姿がモニターに映し出されて、最後は男の背後にユウレイタケのような白いオバケがぼんやり映し出されたところで映像は切れる。それが自分達の順番が来るまで永遠と繰り返される意味が僕には理解できない。そんな中で九鬼は全く別の事を話していた。

「あの、エネルギーを集める行為なんだケド。感覚的には左千夫クンは口から体内に入れちゃう感じ?」
「は、……はい。そうです」
「なら、霊を食べちゃう訳だから、〈食霊しょくれい〉とかどう?」
「はい……」
「で、イデちゃんの為のエネルギーだから ideaイデア化だネ♪相変わらずボクって天才♪あのゆらゆらしてるのは〈紅い魂あかいたましい〉とかどう?火の玉みたいだし」

と、九鬼が指差した先にはエネルギーとして抽出できる陰の氣が渦巻いていた。それは確かに……火の玉の形に告示している。いや、もしかしたらあれは火の玉なのか?まだお化け屋敷に入っても無いのにこんな所に仕掛けがあるのか?それともホンモノの?いや、違う。あれは陰の氣だ。何度も僕はエネルギー化したではないか。しっかりしろ神功左千夫じんぐう さちお
走馬灯のように頭の中に色々な考えが浮かんでは消えていく。完全に硬直してしまったボクを他所に九鬼は列からはみ出さない程度に火の玉……〈紅い魂あかいたましい〉に近づくと指先で触れた。……触れれるものなのか?〈紅い魂あかいたましい〉に。やはりあれはただの陰の氣では無く、墓場に飛び交っているという火の玉……!と、止めどなく思考は回ったが、九鬼は何事も無かったように能力で水球を作って〈紅い魂あかいたましい〉を包むように浄化させていた。そして、ゆっくりと吸い込むように────食した。成程、確かに〈食霊しょくれい〉という名称はわかりやすい。その後に「ごちそうサマ~」と、言の葉を紡ぐ事で完全に陰の氣を断ち切っている。何も伝えずとも理に適った行いができるこの天才的なセンスには本当に惚れ惚れとしてしまう。
「ウーン。やっぱりエネルギー効率悪いネ~その割にずっっしり、しつこい感じ」
「流石ですね。一度見ただけで」
「ソレはボクだから当たり前だよネ♪じゃ、残りは中で!」
「え?あっ……ま、九鬼。僕は矢張り、中には……ッ」

「ようこそ、恐怖の館、幽霊茸の生える場所にあるものとは?へ。ここから先は暗くなっておりますので足元には気を付け下さい。特に白いキノコにはお気をつけくださいね?それではいってらっしゃい」

スタッフのそんな場違いな明るい声に背中を押されるように僕達はお化け屋敷の中へと入った。


▽▽ KUKI side ▽▽

ボクの予想はバッチリでお化け屋敷の中には沢山の〈紅い魂あかいたましい〉が居た。居るといってもボクと左千夫クンが見えている景色は違うと思う。ボクには陰の氣が漂ってグニャっとしてるイメージか、よく見えても火の玉が揺らめいている感じにしか見えないが左千夫クンと手を繋ぐと〈紅い魂あかいたましい〉の個々の形がより鮮明に視えた。左千夫クンが視ている〈紅い魂あかいたましい〉の実態は手が無かったり、足が無かったり、血みどろだったりとかなーりグロテスクな見た目なんだケド、左千夫クンはボクが見ている火の玉の方が怖いようだった。それでも自分以外が見る、〈紅い魂あかいたましい〉の形をデータが欲しいみたいで、ボクから見える視界を能力で覗いては目を背けている。正直、エネルギーとして可視化できているならどんな形でも構わないと思うんだけど、変なところは研究熱心だ。
そして、それよりも目の前に広がるお化け屋敷の仕掛けが怖すぎるようで何度も立ち止まっている。悲鳴をあげたりはしないんだケド……。

「ねーねー」
「な、なんですか?集中してるんで話し掛けないでもらえますか?」
「え?集中?ナニに?」
「今から8歩歩いた左側に機械音がするので音が出るような仕掛けがあります。そして、更に20歩歩いたところの正面の壁に人の気配があります。と、言う事は僕は今から左からの攻撃に驚いたフリをして、逃げるように進んで前から飛び出してくる人間を殺さないように……耐えなければ……ッ、ならないんですよ?」

ものすごーく、ものすっごく、真剣な眼差しで見つめられてその麗しさに喰らいつきたくなったケド言ってる事は支離滅裂だった。
どこでどうやって驚かされるかを完璧に分かっているのになぜ怖いかがボクには理解できない。そして、怖がる左千夫クンはめちゃくちゃ可愛くて襲いたくなる。流石に今日は誕生日なのでやめておくが普段なら危なかった。ボクを盾にするように進むケド、左側で『ぎぃやぁあああああああっ!!』と機械音がなるとびくぅっ‼︎と肩を竦めて、ボクを押しやるように先に進んで正面から飛び出してくる白いオバケの盾に使われた。『早く私をみつけてぇぇぇっ!!』と叫んで追ってくるオバケからは全力で走って逃げようとするケド、ボクが〈紅い魂あかいたましい〉を見つけたので速度を緩めるとメチャクチャ泣きそうに目元が赤らんだので、ボクの頬まで染まる。

「なんで止まる……ッ」
「え、だって〈紅い魂あかいたましい〉集めに来たし。ゆっくり歩いたらオバケも遅くなるから大丈夫だって」
「その分僕のメンタルが……っ、ひぃっ!も、其処に」
「はいはーい。すぐ終わらせるネ♪」
「っ、もう〈食霊〉はしなくてもっ!もし、もし……!〈食霊〉出来なかったら……!」
「そのときはホントのオバケだよネ♪会ってみたいからボク的には楽しい展開~」
「っっっっっ!?」

ボクの言ったことを信じられないと潤んだ瞳で見上げてくる。仕方が無いのでさっさと〈食霊〉しておばけから逃げた。そうするとバタンと扉が閉まってモニターがある部屋に隔離される。モニターには幽霊茸に関する事が流れ始めて左千夫クンはソレに釘付けだった。怖かったら見なかったら良いと思うんだケド、そういう訳には行かないようで混乱しているのをいい事にボクは彼の腰を抱き寄せて密着した。

「怖くなーいこわくなーい♪」
「ッ!貴方に言われても説得力がありません」
「え?でも絶対ボクが用意したやつのほうが怖いよネ?後はキノコみたいな幽霊にひたすら追いかけられるだけだって」
「その、〝追いかけられるだけ〟が無理なんです」
「へ?なんで?」
「理解が出来ないんです……何故自ら進んで怖い思いをするのか」
「あー…………」

なんとなーく、左千夫クンが〝なんで〟怖いのか分かった。この〝怖い事を自ら進んで体験する〟というコンセプトが理解できないのか。


▲▲ sachio side ▲▲

初めてお化け屋敷というものに関わったのは神功家に養子として迎えられてすぐの事であった。家族行事が不慣れな僕を慣らすという目的の為に義父と義兄に遊園地に連れて行かれた。今思い返すと父が僕と遊園地に行きたかっただけだったかもしれないが、あの時の僕は〝神功家の一員として振る舞う〟事に必至だった。そんな最中連れてこられた遊園地は特段楽しくも無かったし、絶叫マシンにしろ、急流滑りにしろなんの感慨も沸かなかった。それでも楽しそうに装っている僕の横で父が本当に楽しそうにしていたので少しずつ気が緩み始めていた。どのアトラクションよりも楽しそうに僕の手を引く父の姿を見る事にむず痒さを感じ始めていたそんな時。お化け屋敷というものに連れてこられた。
「左千夫はお化けは大丈夫かい?」
「お化け……ですか?ただの仮装した人ではなく?」
「流石左千夫だな!そう来たか。仮装した人がどんなものか見に行ってみるか」
「あ、父さんッ」
早足で僕の手を掴んでお化け屋敷の列に父は並んだ。こういう娯楽施設の情報は簡略にしか持っていない。確か怖い事体験するアトラクションであったはずだ。怖い事とはどういった類なのだろうか。
そんな事を考えている僕の肩を義兄さんが不安そうにポンと叩いて耳打ちしてきた。義父も不思議な人だけど義兄も不思議なタイプである。僕の事を全く恐れないし、本当の家族のように迎え入れてくれている。
慣れない家族の距離感に逃げそうになるが我慢して耳を傾けると兄は不安そうにとんでもない事を耳打ちしてきた。
「左千夫。どんなに怖くても殴り返したりしたら駄目だからね。オバケに触れるのは御法度だよ」
…………は?それはどういう仕組みなんだ。今から僕はただ脅かされるためにここに入るのか。なんでどうして、なんのために。オバケ屋敷の仕組みとはいったい。
そんな事を考えていたら順番が回ってきて暗い室内へと入った。暗闇は僕の識別能力が劣るのであまり好きではない。逆に気配に対しては敏感になるので無数の人の気配を感じる。ほら、今だってすぐ横に。
「ぐぁああああああっ!」
「どぁあああああああっ!!おっと、おばけさん。麗しい顔が台無しなくらいの怪我ッ、わぁああ!追いかけてきたな!|十輝央ときお!左千夫!逃げるぞ!」
「……えっ」
「わっ!父さんッ!走ったらっ!」
父が僕達の手を離して一目散に逃げる。するとゆっくり歩いていたオバケが僕達を追いかけてくるスピードが上がった。それはもうプレイベートゾーンを無視しているし、もしこのオバケが実力者だったら僕は致命傷を負ってしまうほど近くまでくる。これはマズイ、気絶させようと振り返ろうとしたら兄が肩を掴んだ。
「左千夫駄目だよ。さっきも言ったけど、ここは脅かされるのをただ我慢する場所なんだ」
そんな兄の言葉に僕の口角は引き攣った。どの拷問よりも理解が出来ない。どうしてこんな意味不明な場所が娯楽施設の一貫にあるのか。こんなにも身を危険に晒す場所が万人に受ける仕組みが理解できない。
そんな僕の目の前に目鼻口がないのっぺらぼうが飛び出してきた。わかってる。被り物をしてるだけあれを剥がせばただの人だと。だけど、そのただの人で有ることを確認する手段を兄の一言で僕は見失ってしまった。今からはただの我慢する時間なのだと言われたようなものだ。
「あと、左千夫。左後ろは振り返っちゃ駄目だよ。連れて帰っちゃうから」
そんな僕に兄が更に追い打ちをかける。左後ろになんてなんの気配もしない。いや、少し嫌な感じはあるか?でも見たらだめだと言っている。見たら……どうなるんだ。
「ホンモノもいるからあまり好きじゃないんだよね。こういう所」
義兄にい……さん?」
「あ。大丈夫だよ。後ろの人は目さえ合わさなければ追ってこないから」
後ろを振り返りたい。今現在もオバケ屋敷のオバケには追いかけられているから確認をしたい。だが其れをすると本当のオバケと出会う事になる。本当のおばけとはなんだ?化物は沢山見てきた。キメラも沢山見た。だが、僕は本当のおばけは見たことが無い。
そもそもオバケなんて非科学的なもの存在するのか?それなら兄の勘違いなのでは?
見てもいいのか、でも兄は見るなと言う。父は叫びながら逃げているが楽しそうだ。……カオスだ。整理ができない。怖い……恐ろしい、気味が悪い……!

それが僕の初体験であった。
それからも何度か体験したが、冷たい何かが降ってきたり、煙が充満していたり、勢い余ったオバケが触れてきたりと、楽しい事は一切無かった。寧ろ常に生命の危険を感じた。今現在も正にそうだ。
人の気配が近い。人ならざる気配も感じる。いや、僕の頭の中ではわかっているんだ。人の気配はオバケに仮装した人である。そして、人ならざるものは〈紅い魂あかいたましい〉だ。だが、本当の人間に関しては確かめる事が不可能だし、まだ分からない事が多い〈紅い魂あかいたましい〉は〈食霊しょくれい〉しなければならない。そして僕は全ての気配に敏感だし、視えてしまうので視線を外すと気配があり過ぎてなにがなんだか……わからなくなってしまうんだ。

だからこういった場所は嫌いだ。今だって九鬼が手を引いて歩いてくれているからどうにかなっているが本当は今すぐに走って逃げたい。
「あ♪また見っけ~」
僕とは反対に九鬼は順調に〈食霊しょくれい〉をしていた。先程教えたばかりとは思えない要領の良さで息を吸うようにエネルギーに変えていた。この辺りのセンスには本当に脱帽する。ただ、先程から僕の視界に余計なものがチラチラと映る。彼の股間が明らかに膨らんでいる。
前を見ていれば分からなかったのだが怖くて下を向いてしまってから気になって仕方がない。一体なにに興奮してるのかと問いたくて、九鬼の股間と顔を交互に見つめた。すると、九鬼気付いたようで自分の股間を見つめていた。
「わぉ。勃ってるネ♪」
「どのお化けに興奮したんですか?相変わらずストライクゾーンが広いですね」
「ンー……どの子でもイケルけど、オバケには興奮してないかな?それに──」
不意をつかれて腰を抱き寄せられた。暗いので周りからは見えにくし、オバケ屋敷の性質上くっついていても問題は無いと思うが耳に唇を寄せられて囁かれると僕まで腰の辺りが燻った。
「今、一番オイシそうなのは左千夫クンなんだケド……?」
「ッ……馬鹿な事を」
「今すぐに証明してほしいならここで美味しく……」
「結構……っです」
「あっ!左千夫クン~待って~」
九鬼の気配が本気だったので慌てて振りほどくようにして先に進んだ。ただ、怖くなくなったわけではない。
怖い。【恐怖の館~幽霊茸の生える場所にあるものとは?~】との題名どおり山の奥のような鬱蒼とした作りになっている。入口に入るときに階段を登ったことからわかるように下からキノコのようにニョキッと伸びてくるような仕掛けが多い。今だって所々に薄っすらと光るギンリョウソウもどきが目の前で大きく…………伸びた。しかもその下からゾンビを模した人が、出て……出て!?
「────ッッッ゙!?」
「わぉ♪血糊の再現度やっばーい♪」
「あの男女の話が本当になったんだ……」
「左千夫クン?」
「腐生植物とは本来は菌類から栄養をもらって生きるを引っ掛けているというのがブラフだったんだ。本当に死骸から分泌されるアンモニア菌を好むキノコだってある。そもそもオバケ屋敷のタイトルには幽霊茸としか書いてないじゃないか。それを勝手にギンリョウソウだと思い込んだのは僕だ。本当に、ただの、……ッユウレイキノコ。だとすると納得できる。と言うことはどうなるんだ?キノコそのものがユウレイなのか?なら、生える場所にあるものとは?の問いかけは何を意味するんだ?わからない……わからないが上のキノコも危ないし、土の下も危ないと考えるのが妥当だ。だから土の中からゾンビ……が?」
「ちょ、ちょっと待って左千夫クン!アレは人間だって。もー、そんなに速く行ったら〈紅い魂あかいたましい〉のがしちゃうデショ」
一気に歩みの速度を速めたのに九鬼に寄ってそれを邪魔されてしまう。特殊メイクを剥がして確認するとこもできないのに人間だと決めつける九鬼の気持ちが僕には理解できないし。〈紅い魂あかいたましい〉なんてここじゃなくても集める事ができる。
だが、そんな思いは言葉にはならなかった。
何故なら次の場所に入った瞬間、ガシャン!!と扉が閉まったからだ。そして四方のモニターに映像が映し出された。
嗚呼。今すぐにこのモニターをぶち破って外に出たい。それなのにそれすらも人間である為には許されないんだ。こんな理不尽な場所は他には存在しない。

「あ。すっごいオイシそうなのがアソコに居るネ♪」
「は?……ッ、あれは」
「あ。左千夫クン能力引っ込めたら可視化できないジャン。もー、仕方ないなぁ。近づいたらわかるかな」
「あっ、九鬼ッ」
「ダイジョーブ、ダイジョーブ。すぐ戻るから待っててネ♪」

僕にとっては〈紅い魂あかいたましい〉が視えることは普通なのだが九鬼は居ることは分かるようだが見えはしないようだ。いや、見えなくて正解かもしれない。そこのギンリョウソウをモチーフにした白い布を被ったようなオブジェに宿っているオバケ……いや、〈紅い魂あかいたましい〉だと思うものは、僕が視る限りは皮膚がまるで溶けたかのように下に垂れ下がり、両目も見えなければ、鼻と口部分にも皮膚が覆い被さっている。生前は何かの病気だったのだろう、色んな箇所にも腫瘍が存在し、皮膚の奥底にある瞳が僕のほうを向いている気がした。そして、微笑む事で上がった口角だけが皮膚の隙間から見えて背筋が凍った。
しかし、九鬼にはそんな事は見えてないようでその〈紅い魂あかいたましい〉に────触った。

「なっ!?不用意に」
「わ。ほら見て~この〈紅い魂あかいたましい〉あたりジャン♪超美人~」

おぞましい見た目の女性だった筈なのに九鬼が触れた瞬間、白髪のスレンダーな女性に化けた。いや、九鬼が外見を〝創造〟したのか?九鬼本人は気付いてないようだが九鬼の能力を使えば〈紅い魂あかいたましい〉を可視化出来るように創り上げる事ができるようだ。本来の見た目からはかなりかけ離れるが、これなら〈食霊しょくれい〉はしやすくなるだろう。

『美人?わ、私のこと?』
「そうそう、お姉さんの事~。細いのにおっぱい大きくていい感じだネ♪」
『う、嬉しい。生まれて初めてそんな事言われた……』
「そうなの?見る目ないやつばかりだったんだネ~。それじゃあもう、この世に未練はナイ?」

口調とは反対にブワッと九鬼の氣が騒いだ。僕の体にまで響くプレッシャーは心地よい。〈紅い魂あかいたましい〉は未練に引っ張られてこの世に留まっていたようで九鬼の言葉を聞くとコクコクと頷いていた。そんな彼女の手の甲に九鬼が口付ける。パンッと弾けるように水飛沫が舞い、モニターの光を反射する。
成程。どうやら〈食霊しょくれい〉を始める起点は人によって異なるようだ。僕は〈紅い魂あかいたましい〉が人の形をしている時は目元付近からエネルギーを取り出していくが、九鬼は彼女の手からエネルギー化して自分へと取り込んだ。……そして、更に股間のイチモツを大きくさせている事に訝しげに眉を寄せたときに、モニターからバンッッッと大きな音が鳴り……、オバケ……が、出て、来た……?

「~~~~~~~ッ゙ッッッッッッッッ!?」

忘れていた訳ではない。そう。ここはオバケ屋敷である。これは必然である現象で〈紅い魂あかいたましい〉の仕業でも何でも無く人間の所業。落ち着け左千夫。定番の手法じゃないか。モニターから出たと見せかけて地下から出ているんだ。モニターが壊れた訳ではなくそんな映像が映っている……だ、けっ!
そんなときポンッと僕の肩を後ろから叩く奴がいた。九鬼だ。ギギギッと音を立てそうなほどぎこちなく九鬼を見るとある一ヶ所のギンリョウソウを指差していた。

「ほら、ソロソロフィナーレなんじゃナイ?前からも後ろからもハサミうちかもヨ?」

すると部屋の各四方に散らばってさいているギンリョウソウの形が変わっていった。白い怪しげな花だけではなく、黒い玉が花の中に現れる。わかっている、あれはギンリョウソウの種だ。ギョロギョロと目玉のように動いているが、種だ。間違いなく種である。目玉の筈が無い。いや、オバケ屋敷の性質上を考えるとあり得るのか?
すぐに色んな悲鳴がスピーカーから響き渡り、床が揺れた。すると、ギンリョウソウが前に倒れるとコロコロと黒い種が二つ零れ落ちる。矢張り種である、種で間違いないと思考が回っている間に、ズズズッと地面が隆起して白骨が這い出て来る。いや、それだけではない、僕達を囲むようにギンリョウソウが爛れた皮膚になっているものもいるし、髪のようになっているもの、剰えは花のお化けのようなものまで居た。いや、居る。しかも種を、目に、目の位置だろう所に押し込んで、僕を見詰めた。

「みぃたなァァァアアアアアア───────ッッッ!!」



そこで僕の意識は途切れた。



▽▽ KUKI side ▽▽

左千夫クンと一緒に居るとホント飽きることが無い。こんな効率が悪そうなものをエネルギーに充てようとなんて思いもしないし、一度自分の中を通すというのもオモシロイ。
さて、オバケ屋敷もいよいよフィナーレだ。魑魅魍魎がそこら中から湧いて出て、おぞましい効果音と共に四方からのそりのそりとボクたちに向かってくるところで左千夫クンがボクにもたれ掛かってきた。怖がって引っ付いてくるなんて、かわいいところもあるジャン♪とか思ってたらそれを飛び越えて気を失っていた。うん……何というか、どうせならボクがもっと怖い目にあわせてあげたかったな。仕方なくしっかり抱き寄せて近付いてくるオバケたちを一瞥する。モニターの映像では下にある丸い輪っかから出るなといっていたのでじっとその場で待つとボク達へと触れそうな瞬間にバチンッと照明が落ちて、ギャァァァァァァと悲鳴が聞こえると同時に真っ暗になった。そして、最後にTHE ENDの字幕が宙に浮かんで、出口への道を示すようにギンリョウソウが一筋咲き誇った。
「さっきの〈紅魂あかたま〉も左千夫クンに似てきれいだったケド、ギンリョウソウもキミに似て美しいよネ~」
抱き寄せた相手の透き通るような白い肌はギンリョウソウの花弁を彷彿させる。余程怖かったのか、少し青褪めて血色が悪くなっている儚さが余計に白さを際立てている。そもそもギンリョウソウの何が怖いかもわからない。ボクの祖国ではこの透き通った白を水晶と見立てスイショウラン(水晶蘭)とも呼ばれているほど、貴重で美しい花だ。
さて、このままここで色々ヤりたいお年頃だけど人目をキニシナイと怒られるのは目に見えるので姫抱きして外へと出た。まぁ、左千夫クンを抱きかかえてるせいで結局色んな人目を引いたけど、シィ……と係員へと人差し指を立ててボクは自分のマンションへと戻った。





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