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番外編

バレンタイン

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はるなゆ

共同スペースに上がると奥の掘りごたつで珍しく晴生が机に突っ伏していた。
こんなとこで寝るのは見た事が無いので、体調が悪いのかと晴生に歩み寄り静かに揺らす。

「おい、晴生、大丈夫か?眠いなら横になるか?部屋に連れてってやるよ」
「ん……あ……千星さん……?」
「……ん?どうした、……晴……?……!!??」

いつもと違ったボンヤリした表情の晴生が俺を見つめてくる。
心なしか耳が赤い気がしてそっちに視線を奪われていると、晴生が俺の制服のチョーカーを引っ張るようにして突然唇を重ねてきた。
俺の全身が総毛立つ。
思考が停止していると、晴生は唇を放していつもよりもあどけなく首を傾げる。

「やっぱり《idea─イデア─》 化しませんね……なんで天夜だけ……いや、舌を入れたらもしかして俺でも…」
「ぅえ!?晴……あ、ちょ、おい!……んっ…!!」

身を乗り出すようにして下から俺の唇に晴生が吸い付いてくる。
チュッチュッと何度も吸い付いてから、口を開けることを促されるように俺の歯列を行ったり来たりと舌でなぞる。
でもここは……!!
俺は晴生の肩をガシっと掴んで引き剥がした。

「晴生、その…この前のは勘違いで、……!?は、はるき!?」
「ぜん゙ぼじざんはお゙れ゙のごどぎら゙い゙なんでずね………ッ!!!」
「いや、そうじゃなくて」
「じゃあ、いいッスよねッ!」
「晴ッ…き、ちょ、お、いってぇ!!ぶっ!!……んー!!!!んッ!」

しかしその表情が一気に歪む。
ウルウルと目元に涙を溜められると、もうどうしたらいいか分からなかった。
そんなこんなしているとガバッと飛びつかれるようにして押し倒される。
少し高くなっているところから飛んできたので、俺はフローリングに思いっきり倒れた。
そのまま唇を塞がれ呻いた隙間から舌を差し込まれて、無遠慮に舌を俺の口から引っ張るように吸い付かれる。
その時に甘い味と一緒に独特のリキュールのような味わいがした。

「んー!!んー!!ッ……っ、ん、は、る…ふはっ……ん、ん…」
「千星さぁ……ん、ぁっ、ふ、……ん、ッ」

もう頭がゴチャゴチャしてわからなかったが、人にキスされてるというよりは犬にでも舐められているのでは無いかと思うほど咥内を蹂躙された後、唇が離されていく。
どこか気だるそうな視線と俺の視線が交差して、その後はらはらと大粒の涙が降ってくる、

「は、はる……!!」
「やっぱり……俺では……無理みたい……です、ぅう……くそぉ!天夜のやつ!覚えておけよぉっ!!」

掠れた声でそう告げたかと思えば次は急に怒り始めて立ち上がると何処かに走っていってしまった。
捕まえる間もなく部屋から出ていってしまったあとの扉を見つめてから、手の甲でベチャベチャの口許を拭う。
やられてしまったことは仕方ないので、でかい犬にでも襲われたと思う事にした。
体を起こし掘りごたつに視線を向けるとチョコを食べたあとの包装紙と、沢山のチョコが箱に入って置いてあった。
沢山入ってる中から晴生と同じ包装紙のものを開けて口に放り込み歯を立てると中からドロっとした液体のようなものが出てくる。
そしてその味わいが洋酒を含んだ味わいだったので、納得したように視線を眇めるが何か俺も熱い…。

「アイツに水飲ませねーと。」

パタパタと顔を仰ぎながら俺は晴生の後を追うように部屋を後にした。

happy valentine's day





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