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過去編(高校生)

痕①

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【千星 那由多】


今日も厳しい特訓を終えた。
この日、巽は先輩達との別訓練があったため、先に晴生と一緒に戻ることになった。 

休憩室に戻ると、ご飯の準備に時間がかかっていたので、手伝おうかと声をかけると、
夢原さんに「疲れてるんだから先に入ってきなさい!」と笑顔で怒られてしまった。 

そのため俺は、晴生と一緒に先に風呂へ行くこととなる。 


風呂は大浴場で、広い。
どうやら地下から温泉も引き上げているらしく、白く濁ったお湯は傷や疲労回復の効能もあるらしかった。 

本当にこの訓練施設は誰がどうやって作ったのかをイデアに問いただしたいくらいに、かなりしっかりとした施設だ。
造りはめちゃくちゃキレイってわけではないが、色々と揃っているので小さな旅館とあまり大差がない気がする。
お金はどこから出てるのか。


脱衣所へ入ると、棚へと着替えを置く。

「あーっ今日も疲れたー早く寝たいー」

そんなことを呟きながらシャツを脱いだ。


そこで気づいた。
晴生と二人っきりだと言うことに。

バッとシャツを脱ぐのをやめてしまう。
いやいや、何を今更。
今まで散々みんなで風呂入ってきたじゃないか。
…でも、なんか二人っきりで風呂に入るのはやけに緊張してしまうというか、なんというか。
別の意味でも色々見られてるし見てる、のに。 

考えていると顔が真っ赤になってくるのがわかった。 

チラリと晴生の方へ目をやると、アイツも服を脱ぐ途中で止まっているのが見えた。
このままでは俺達は一生風呂へ入れない気がする。
そう感じた俺は服を一気に脱ぎ、洗濯籠へと汚れた服を突っ込む。 


「じ、じゃ、俺先入ってるから!!」

そう言って晴生を見ないままにそそくさと浴場内へと入っていった。 


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【日当瀬 晴生】


特に何も考えず風呂まで来てしまってから気づいた。 


―――――千星さんと二人!!!!!? 


今まで、天夜を交えては何回も風呂に入った。
そろそろ、千星さんの裸も見慣れてきたはずだ。
そう思って俺は千星さんを見た。
千星さんも顔が真っ赤なことに気付き俺は変に意識してしまい、耳まで真っ赤に染まる。 

落ち着け、俺!!

あー、駄目だ、やっぱ直視出来ねぇ。 


生徒会室で無様な姿を晒してからは忙しくて、千星さんと二人きりになることは無かった。
いや、二人きりになったからと言ってそういう行為を必ずするわけでは無い。

千星さんは俺が色々迷走している間に先に入ってしまったようだ。 

大丈夫だ。
ここは風呂だろ!
と、言い聞かせて俺も後を追った。 

離れて座るのも変だったので千星さんの横に腰をおろし、体を洗う。
何を話しかけたらいいか分からなく結局無言で頭も体も洗ってしまった。 


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【千星 那由多】


晴生が横に座ったのはいいけど、何も会話もないまま頭も体も洗い終わり、先に湯船につかってしまった。
俺も少し遅れて洗い終わると、そろそろと湯船へと入る。 

正面に晴生がくるのが嫌だったので、少し離れて横へと浸った。
水の流れる音しか聞こえない沈黙…。
別に俺は沈黙なのは構わないんだが、二人きりだということを意識すると、どうしても会話が欲しくなった。
晴生はこういう時喋らないタイプだし、それどころかこちらを見向きもしない。
どうしようかと悶々と考えているうちに頭がパンクしそうになってしまった俺は、突拍子もない行動に出た。 


「えいっ」 


俺は手で水鉄砲を作り、それを晴生の顔面へと飛ばした。 


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【日当瀬 晴生】


「ぶ…………ハッ!!!!」


変な声が出た。
俺は千星さんが放った湯をまともにくらってしまった。 

千星さんはどういうつもりなんだろう。
ま、まさか、俺と湯の掛けあいがしたいのか?
千星さんのしたいことは何でもかなえてやりたいが失礼すぎないか?
くそ、これが天夜の野郎なら、問答無用で100倍返しなんだが。

色々な考えがコンマ一秒の間に頭を過る。
きっと、俺はとんでも無い顔で千星さんを見つめていたに違いない。 

「すいません、俺には無理ッす。
千星さんに、湯を掛け返すなんて。」

両手を顔の前で合わせ。
結局俺の口から出た言葉はそんな言葉だった。 


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【千星 那由多】


晴生が驚いた顔でこっちを見ている。
いつもと違って崩れた表情がちょっと…おもしろい。 
その後すぐに謝られて俺はつい声をあげて笑ってしまった。 

「はーあーノリわるいなーお前ー」 

笑ったせいで自分の中の緊張が解けたのか、お湯に顎までつかりながら晴生の前まで移動する。
正面から晴生の水が滴る顔を上目使いでじっと見つめた。

「やっと喋ってくれたな」

そう言って口までつかると、ぶくぶくと泡を立てる。
そのままお湯の中の晴生の手を絡め取った。
白く綺麗な指を水上にあげて、じっと見つめる。 

「こうやって二人になるの…久々だな」

言った側から照れてしまい、再び口まで浸かって晴生の指をじっと見つめた。


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【日当瀬 晴生】


ノリが悪いと言われてしまった。
やっぱり、ここは無理にでも掛け返しておくべきだったか。 

俺が一人で勝手にテンパっている間に千星さんは前に移動してきた。
そして落とされた言葉に俺は納得してしまう。
確かに緊張で一言も喋って無かったと。 

「そうですね。やっぱり、俺、あなたと二人だと緊張してしまいます。」 

絡められる指を握り返し、水面上に上がったそれを引き寄せるようにして、口まで潜っている相手の額に自分の額をかるくぶつける。 
多分、今、俺は満面の笑みを浮かべていただろう。 


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【千星 那由多】


軽くぶつかった額。
近づいた晴生の表情は見とれてしまうほど綺麗な笑顔だった。 

同じ気持ちなのはどこかこそばゆく、嬉しい。
心が満たされる気持ちで、心臓が小さく高鳴った。 

俺はそのまま顔を湯船から出し、片方の手で少し落ちてきた長い前髪を耳へとかけてあげる。
普段は髪がかかってほぼ見えない左の翠の瞳、そこには俺が映っていた。
動く度に水の音が浴室に響き渡り、心地いい。

元々誰かが一定の距離まで来るのは不快というか緊張してしまう俺だったが、今は晴生の近くにいても別の意味での胸の高鳴りが存在するだけだった。
触れたい、確かめたい……好き、ただそれだけ。

「俺も緊張するんだよ…でも…こんだけ晴生が近くにいたら、なんかもうどうでもよくなる」 

そう言って翠色の瞳を見つめながら照れたように笑った。 


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【日当瀬 晴生】


千星さんの手が俺の落ちていた前髪を掻きあげてくれる。
普段は前髪越しに見つめる彼が今日は両目にはっきりと映っていた。
俺は目が悪いので裸眼でこんなにはっきりと千星さんを見たのは今日が初めてかもしれない。 

可愛らしい言葉と表情に俺は思わず、そのまま唇を重ねる。
特に抵抗をされなかった俺は気を良くしてそのまま何度かついばんでいく。 
ちゃぷんと音を立て、頬に空いている手を添え。
握っている手は手の甲をゆっくり撫でた。

風呂で上気した頬が色っぽい。
濡れている唇がより一層欲を誘う。

俺は、千星さんの唇が開いた瞬間を見計らって少し、強引に舌を差しこむ。
ゆっくりと舌を絡めている間に下半身に熱が宿る、夢中だったため気付かないまま千星さんに体を密着させてしまった。 


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