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大学生編(受けの高校時代の記憶がありません。受け攻め共に他キャラと結ばれます)

【4-2】忘れた懐かしさ①

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Ξharuki sideΞ

《idea─イデア─》 化が終わり部屋に戻った瞬間に風呂に入った。
柄にもなくかなり長風呂してしまったため体全体がめちゃくちゃ熱く、喉を潤すためにミネラルウォーターを流し込む。
自分の部屋のソファーに腰掛けると今日は仕事をする気分にならず深く背中を黒の革に凭れ掛からせた。

神功の野郎は確かに好きではない。
寧ろ嫌いだ。
だが、別に傷付けたいわけでは無い。
それに、《idea─イデア─》 化するときにエネルギーで他者を傷付けると言った形で使ってしまうと、折角イデアさんの為に集めたエネルギーを消費してしまう事になる。
通常は体内から出して、圧縮させるだけと言うのが、一番効率良くエネルギー化できる方法だ。
ドライヤーで乾かした頭をガシガシと音を立てながら掻く。
どうしても、神功と視線があった時の自分が侵食されていく感覚に嫌悪感を感じる。
全ての数値を狂わされ、翻弄されるような感覚に陥るのだ。

メキメキメキ…と、飲み干したペットボトルを凹ますとゴミ箱へと投げ込む。
一ミリの誤差もなく気持ちいいほどにゴミ箱の中央を通って入るが、全く俺の心はスカッとしない。

もう今日は寝てしまおうかと思った瞬間に、俺の部屋と隣の部屋を繋ぐ扉からノック音が響いた。

「晴生ー。まだ、起きてるかー?」

「千星さん!
待ってください、今開けますね。」

俺と千星さんの部屋は隣同士だ。
玄関を回らずとも部屋に備えられているスライドドアを開くと相手の部屋に行ける。
自分の部屋側の鍵を開けスライドさせると、既に千星さんの方の扉は開いていた。
風呂上がりの千星さんの頬は俺と同じで、少し上気していた。

「あれ、晴生。
なんか、顔赤くねぇ?」

「あー…、お恥ずかしい話ですが、長風呂し過ぎました。
千星さん、どうかされましたか?」

「俺も、なんか色々考えてたら長風呂しちまってさ…」

「そっち、行ってもいいですか?」

「おー、いいぞ」

普段ならお招きするのが礼儀だと思うのだが、どうしても今日はこちら側に入れるという行為が憚られ、千星さんの部屋に入っていいかと尋ねる。
彼は二つ返事でオッケー出してくれると通路を開けてくれたので俺は彼の部屋へとお邪魔することにする。
後ろ手で扉を二枚締め、千星さんの部屋へと入った。

青で統一された落ち着いた色合い、家具はシンプルなものが多く、据え置き型のゲーム機など、趣味の物が見受けられる彼らしい部屋に俺は小さく口元を緩めた。
いつもの癖でポケットの電子煙草に手が伸びたが、流石に彼の部屋で吸うのは憚られ取り出すことなく、立ったままでゆっくりと辺りを一瞥する。

「突っ立ってないで座れよな…」

「いや、なんか、千星さんの持ち物に座るのは恐れ多い気がして…」

千星さんは意味が分からないと言うかのように呆れた視線をこっちに送っている。
仕方がないので促されるままにソファーへと腰を下ろす。

「今日もおつかれさまっス。
考え事って今日の《食霊─しょくれい─》 のことっスか?
分からないことが出てきたんなら、俺が分かる範囲でお答えしますよ。」

「あー…それもあんだけど、マスターの《食霊》が頭から消えなくて、アレめっちゃホラーじゃねぇ? 」

千星さんが困ったように笑っている。
たしかに神功の《食霊》は気持ちのいいものではないが、ホラーかと言われれば自分にとってはそうでもなく。
ちゃんと理に適った《食霊》をしていると思う。

ンーと、難しい顔をしていると千星さんが俺の隣に座った。

「後、《霊ヤラレ─れいやられ─》 だっけ?
あれってなったら、どんな感じなんだ?」

隣に座った千星さんはなんだか少し気怠そうで俺は数度瞬いたあと自分の能力を解放して、千星さんの体温を数値化した。
俺の想像通り、いつもより高い数値が並んだ。
前の明智のようだ。
そこまで考えてしまうと俺も一気に熱が上がってしまう。
それは《霊ヤラレ》ではなく明智との行為を思い出してしまったからだ。
長く息を吐くことで冷静を装い、千星さんの様子をうかがう。

「千星さん、…非常に言いにくいんですが、今の千星さんの状態が、《霊ヤラレ》…です。 」

「え!……確かにムラムラしなくも…ない」

お互いの顔が紅潮する。
いや、赤くなってどうする。
ちゃんと、ムラムラを発散しねぇとならねぇ。
放置しておくとどうなるかは一番自分が知っている。

「千星さん、彼女とか…居ませんか?」

「え!なんだよ急に!?いる訳ないだろ……」

「俺も居ないんで、一緒ですね。
彼女が居ないなら、取り敢えず手っ取り早いのは自慰、…マスターベーションなんですが、途中で意識を失ったらヤバイので俺、ここに居てもいいですかね…」

気まずい、非常に気まずい。
人様の自慰を見届けるなんてどんなプレイだと思ったが、《霊ヤラレ》が強くなって途中で飛ぶ危険性もある。
ただでさえ千星さんとは高校時代に色々あったんだ。
彼がその時のことを全く覚えてないのも知っている。
出来ればこのまま記憶が無い方がいいとも思っている。
色んなことがあり、セックス恐怖症になっていた彼を自分が抱いていたという事実は消えないが、今、その恐怖症諸共消えているなら思い出さない方がいい。

ただ、それとこれとは別でこのまま千星さんを一人で放置していくことはできなかった。

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