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強がりな口内に…②

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【明智剣成】

今日の分の筋トレも終わったし、風呂も入った、後は寝るだけ!と、就寝の用意をしていたら椅子にかけていたエプロンのポケットから何かが転がった。

日当瀬の電子タバコだ。

そう言えば、キャッチはしたけど、返してなかった。
そそくさと彼との共有スペースのベランダを覗けば案の定まだ、日当瀬は起きていた。
起きてるなら早く渡すにこしたことはない、遅くなればなるほど文句の数が増えていくからだ。
針金と安全ピンを片手にベランダから飛び出す。

ここの建物は外からのセキュリティは高度なものだけど中に入ってしまうと案外脆い。
窓の隙間に針金を忍ばせ慣れた手つきで解錠する。
後は日当瀬に目的のブツを返してさっさと帰るだけ、と、思ったのだが。

「あれ?日当瀬寝てんの?」

煌々と部屋の電気はついてるのだが、肝心の日当瀬はすぐに見つからなかった。
部屋に入り、中二階の寝室へと足を進めると、ベッドに転がった躰を起き上がらせようとした彼がいた。
視線は睨みつけるように此方に向き、不法侵入したため不機嫌さはMAXだが、その欲情した瞳には俺の喉はヒュっと小さく音を立てた。

「テメー、何度言ったらわかんだよ、ベランダから入ってくんなって!てか、鍵壊してねぇだろう……………なッ…──────オイ‥‥」

日当瀬の手は、俺の持っていた電子煙草に目掛けて一直線に伸びてくる。
煙草を持ったままその手を掴み、ぐいっと引き寄せると同時に自分の体をベッドから乗り出している日当瀬へと寄せる。
空いた左手で、日当瀬のスボンの上から股間を弄るとそこは既に熱を持っていて、自分の考えを肯定付ける相手の反応に自然と視線は細くなり、口角が上がる。


「日当瀬、《霊ヤラレ》になってんじゃん。
いつ?あ、もしかして、ミクちゃんがそうだった?」

俺の冴えた勘に直ぐ目の前の表情が、わかってたなら言えよ、と、言わんばかり歪む。
俺も元から分かっていたわけではない、違和感を覚えたことと今の日当瀬の状況でピンっと来ただけだ。
風呂上がりに加え、俺が電子タバコを取ってしまっていたからだろう、いつも香るシトラスメンソールの香りよりもシャンプーの香りのほうが強い。
流れのまま自分の体と一緒に相手の体をベッドへと押し戻すと、スウェットのウエストから相手の股間に手を潜り込ませ、既に芯を持つ性器をグッと、強めに握りこむ。



「わかってんなら‥‥‥ッ、て、オイ、なに、すん‥‥」


「どーせなら、手伝ってやるよ。
フワフワして、頭、馬鹿になってんだろ?」


日当瀬は、《霊ヤラレ》に陥りやすい。
少し前に結構酷い状態にもかかわらず、部屋でひとりでいた事もある。
なんせこの風貌で女性嫌いと来たもんだから本当に勿体無いと思う。
俺は昔から日当瀬に気がある、色々あって一時期離れちまってたけどここに来て久々にコイツを抱いた。
忘れられなかった記憶に一気に彩〈いろ〉が付いてますます手放せ無くなったが正面切って落とせる相手ではない。

相変わらずキツイ視線はこちらに向いているが目の前の欲には逆らえないようで、俺が掴んでいた手から力が抜け、体を後ろへ倒すようにしてベッドへと沈めていった。

「‥‥‥ッ、さっさと、終わらせろよッ」

完全なる強がりを吐き捨てるときには、頬は紅潮し、目眩を覚えそうな色香が、彼全身から立ち籠める。
ブロンドの前髪から見え隠れする瞳の艶が増し、俺は態とらしく喉を鳴らした。

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