君のナカのあたたかさ【BL集】

ケンジ(結婚前の兄)×アキヒロ(弟) ※成人してます

「俺、結婚を前提に付き合ってる人がいる。」
ケンジが言った。
「へぇ～…。どんな人？」
スマホを構いながらアキヒロは聞き返す。内心すごく動揺している。いつも自分に優しい兄が、自分以外の人に優しくしていただなんて、考えられなかったからだ。
「お前も見たことあるぞ？…俺の職場で一緒に働いてる、マエダ サトコさんだよ。」
ケンジが言った瞬間、アキヒロはスマホをかまう手を止めた。
“マエダさんなら…兄貴を幸せにしてくれるな…”
「へー。そうなんだ…。よかったな！兄貴！」
アキヒロが精一杯の作り笑顔を向けると、ケンジは幸せそうに本物の笑顔を向けた。

  胸が苦しくなる。あんなに好きだった兄貴が、俺以外の人のものになるなんて耐えられない。
  「兄貴…。俺さ、好きな人いたんだ。…でも、その人が最近他の人と付き合いだして…。俺、どうしたらいいかな？」
“何言ってんだ…俺！”
俺が自分で言ったことに驚いていると、
「…諦めるかどうかってことか？」
と、兄貴が聞き返す。俺は戸惑いつつ頷く。
「なら、諦めるな。もしかしたら、お前にチャンスが来るかもしれない。その時まで、少しの間待てばいい。」
兄貴の言葉を聞いて、俺は泣き出した。今まで溜め込んだ想いが涙とともに流れ落ちる。そんな俺を見た兄貴が、優しく俺の肩を叩く。
「大丈夫。…お前の良さは、きっとそいつだってわかってるはずだ。だから、あとは待て。…その時まで。」




   1年後、ケンジの結婚式が開かれた。
白いタキシードに包まれ、マエダさんの手に指輪をはめる。ケンジの顔は優しく微笑んでいた。
そして、アキヒロの顔も優しかった。だがその顔には涙が一雫、伝っていた。

“兄貴。…俺はあんたを諦めない。ずっと、待ってるから…”