黒ギャルとパパ活始めたら人生変わった

Hatton

文字の大きさ
上 下
47 / 51

43

しおりを挟む
店を出て、タクシーに乗る並木さんが、振り向きざまに言った。

「じゃあ…おやすみなさい」

「また明日ね」

「…はい」

彼女の目がわずかに潤んでいるのは、きっと飲みすぎたせいだろう。お互いのために、そういうことにしとこう。

お互いのため…か、この言葉は大人がよく使う、責任転嫁の常套句だよな。

ドアが閉まり、数秒おいてタクシーが発進した。

後部座席に座る彼女の後頭部のシルエットが、わずかに動く。

ただ窓の外を見ているだけか、それとも振り向いて俺を見ているのか、どちらかわからなかった。

「ふう」

苦々しいため息と共に、体の力が抜ける。無性に杏子に会いたかった。

スマホを開いて、家で待つ杏子に「いまから帰る」とメッセージを送ったところで、バッテリーが切れかかってることに気づく。もう帰るだけだし問題ないだろ。

飲屋街を歩き、駅まで向かう途中、店の前で飲み会終わりと思しきスーツ姿のグループがたむろしていた。「これって何の時間?」と全員が思いながらも、なんとなく解散できず、無意味にだべってしまうアレをやっている。

空気って本当に厄介だし、不思議だ。その場の誰ひとりとして望んじゃいないことを、全員が強制されることすらある。

そんなことをぼんやりと考えつつ歩き、駅に到着した。俺が乗る電車は10分後くらいに来る。こういうとき、煙草というアイテムは実は便利だ。

ロータリーの階段裏にある喫煙スペースのパーテーションの中に入り、タバコを取り出したところで、思わぬ人物が目に留まる。

「お?」

「あれ?」

相澤と俺はお互いの顔を見て、すっ飛んきょな声を上げる。彼は俺の手の中にある煙草のボックスを、俺は彼が指で挟んでいる火のついた煙草を見た。

「たしか、やめたんじゃなかったか?」と俺は苦笑まじりに告げる。

「お前こそ」と相澤も似たような笑いを漏らしながら言った。

そういえば、お互いに同じ時期に、同じような理由でーつまりは当時付き合っていた彼女に叱られて、煙草を辞め、そのことで意気投合して、親しくなったような気がする。

俺は煙草を口にくわえた。ライターを探すのに手間取っていると、年季の入ったジッポライターが差し出される。

「さんきゅ」

ジポッと軽快な音を立て、相澤のライターに火が灯る。

「てっきりあのままお泊まりコースかと思ったよ」

「やめろっての」

「逆にあの子の何が不満なんだ?」

「べつに不満なんてないさ、上司と部下の節度を守っただだけだお」

「そうか、お前らしいな」

「ヘタレって言われてるようにしか聞こえないな」

「ははwたしかにそうかもなw」

「うっせえよ」

「でもな…」

相澤は新しい煙草に火をつけ、深く、深く、煙を吸い込んだ。そして大きく口を開けて一気に紫煙を吐き出す。

「なんだかんだ、お前は正しいんだよな」

「はあ?」

「結局はお前みたいなやつが、最後には勝つんだろうなって思うんだ。真面目にな」

自分が正しいことをしてきた実感なんて、一ミリもない。むしろ間違いを犯した数の方を自慢したいくらいだ。だが、あえて言及はしないことにした。

他人がやたらと正しく見えることもある。例えば、なにか大失敗をしでかした後とかは特に。

「最後っていつなんだろうな、老後か?」

「さあな、わからん」

俺たちは数分沈黙したのちに、お互い同じタイミングで煙草を灰皿に捨てた。

「どっかで飲み直すか?」

「…この近くに静かに飲めるショットバーがあるから、そこでどうだ?」

「ごちそうになりまーす、社長」

「ったく、こんなときばっかり持ち上げやがってよお…」

こうして俺たちはまた夜の街に繰り出した。結局帰りはタクシーになりそうだが、まあいいか。

いい歳して、やめた煙草に手を伸ばした二人。わりかし前向きなニュアンスで再開した俺はかなり稀なケースだ。相澤はきっと、典型的な方のケースなんだろう。

やめたはずの煙草は、大概はとてつもなく嫌なことがあったときに、ふと思い出し、吸いたくなるものだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

将棋部の眼鏡美少女を抱いた

junk
青春
将棋部の青春恋愛ストーリーです

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...