黒ギャルとパパ活始めたら人生変わった

Hatton

文字の大きさ
上 下
46 / 51

42

しおりを挟む
「それじゃあまあ、オープン初月の予算達成を祝して、乾杯!」

上機嫌な上司の掛け声に合わせ、俺と並木さんも「かんぱーい」と声をあげ、中ジョッキをぶつけた。

タイミングよく、黒シャツにサテンという洒落た制服をまとった女性店員が、とりあえずで頼んでおいた料理を運んでくる。

シーザーサラダや、厚揚げの煮浸し、チリビーンズなど、多国籍なラインナップでテーブルが彩られた。

どの皿もやたらと凝った盛り付けがされており、値段もたぶん普通の居酒屋よりも一~二割お高めなんだろう。

「お前ら、でかした!」

早速ビールのジョッキを空けた社長もとい、俺の元同僚である相澤は、快活に言い放った。

高校から大学までラグビー部という生粋の体育会系のためか、騒がしい店内でも彼の声はよく通る。

「今日は好きなだけ飲んで食ってくれ!」

「だってさ並木さん」と俺は長椅子の左隣に座る彼女に水を向けた

「じゃあこの刺盛九点盛りと広島県産の生牡蠣と…あ、岩城さんみてください黒毛和牛のサイコロステーキありますよ!」

「やっぱりちょっとは遠慮してくんか…」

「いやいや言質はとったからな」

「そうですよ!もう頼んじゃいましたし!」

と彼女は備え付けのタブレットの注文ボタンを押した。

「勘弁してくれよお」と泣き真似をする相澤を、二人で笑った。

かまえの無い、気軽な祝賀会だ。他のバイトスタッフにもいちおう声はかけたが、結果的には俺と並木さんと社長の三人になった。

まあいまどき、上司を交えた飲み会に来たがる若者もそういないからな。

「それにしても、本当に予想以上の売上だったよ、お前に任せて正解だったな」

「俺は大したことしてないって、並木さんを筆頭にスタッフが頑張った成果だよ」

「違います!店長のアイディアがことごとくハマったからですよ」

「ほら、ちゃんと上司をたてることもできる、優秀だろ?」

「本気なのに…もう」

と彼女は俺の肩を小突いた。意外と酒に弱いみたいで、もうほんのりと赤くなっている。

「え?もしかして、そういう感じ?」

「は?」

「あー!悪い悪い!俺が邪魔だったな!適当なところで消えるから、上手くやれよ!」

「やめろっての」

まったくこの男は、それがれっきとしたセクハラだってわかってるのか?

だが浅黒い肌をした精悍な顔立ちの、爽やか系イケメンであるためか、その手の話しをしてもいやらしさがなかった。

いろいろ得な男だよな。身長も俺より20センチも高いらしいし…くそ。

「ごめんね並木さん、こんな奴の言うこと気にしないでいいから」

「いえ…ふふふ」

彼女は数秒前よりも顔を赤くして、うっとりと微笑んだ。

「え?まじで?」

そんな彼女を見た相澤が、聞こえるか聞こえないかぐらいのボリュームで呟いた。

こうして夜は更け、空の皿がテーブル端に積まれ、ピーク時より気持ち店内が静かになり、会話も途切れ途切れになったころ。

相澤は俺を見て、ニヤつきながら言う。

「冗談のつもりだったんだけどなあ。本当に俺はいない方が良かったか?」

「しつこいぞ。そんなんじゃないって言ってるだろーが」

「説得力皆無な自覚あるか?」

酒が進むにつれ、なぜか並木さんは距離を詰めてきて、いまは俺の肩を枕にスヤスヤと寝ている。

まあ視覚的には確かにそういう雰囲気に見えるかもな。

「まあとにかく、今日はお開きだな。お前はちゃんと彼女を送ってやれよ」

「ああ」

相澤はスーツのジャケットを羽織り、伝票を持って立ち上がった。

俺は席に座ったまま、スマホでタクシーを呼んだ。

帰り際に相澤がまたニヤケ面を見せ

「うちは節度を守れば社内恋愛自由だからな」

と捨て台詞を残し、俺が言い返す前に退散した。

「はあ…」

呆れとか、疲れとか、なんか色々なものが含まれたため息が漏れる。

「ん店長店長…」

「あ、起きた?いまタクシー呼んだからもう少し待ってな」

「ありがとうございましゅ、その、てんち…岩城さんは、どうするんですかあ?」

「俺はまだギリ終電があるからね。ああ、並木さんのタクシー代は社長からもらってるから心配しないで」

意識が戻ったのに、なぜか俺に寄りかかったままの彼女は、わずかに首を上げて俺を見つめた。

「一緒に帰らないんですかあ?」

「俺の家はちょっと遠いからさ、社長は俺の足代も出すって言ったけど辞退したんだ」

「じゃあ…私の家に帰ればいいじゃないんですかあ?」

俺は酔い覚ましに飲んでいた水を吹き出しそうになった。

「並木さん、ちょっと酔いすぎだよ」

「酔ってないれすよお」

「酔っ払いはみんなそう言うんだよ」

「ほんとに、実はそんなに酔ってないんですよ?」

先ほどまでの怪し呂律の口調とは打って変わって、ハキハキとしたいつもの彼女の口調に切り替わる。

俺はギョッとなって思わず、並木さんの顔を見た。

「いいじゃないですか、うちで飲み直しましょ」

ほんのりと頬と目は赤く染まりながらも、悪戯っぽい笑みを浮かべるその顔は、「してやったり」と語っていた。

女ってこええ。

まあとにかく、つまりは、そういうことなんだろう。

まさか俺の人生にこんな美味しいシチュエーションが訪れるなんてな。

でも、なんでかな、ちっとも食指が動かないんだよな。

同じ職場の上司と部下でそういう関係になるのは、あまり良くない。良くはないが、そこまで悪いことでもない。さっき、社長からも公認もらったみたいなもんだし。

少なくとも、定期的に女子高生とデートするより、遥かに健全で、まともだ。年の差だっていたって常識的だし。

彼女の誘いを断る理由なんて、あるようで実は無い。

それなのに、俺の口から出てきたのは、いたってつまらない解答だった。

「いいや、俺は電車で帰るよ」

タイミングよくスマホが鳴った。タクシーの到着を知らせる着信だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

優等生の裏の顔クラスの優等生がヤンデレオタク女子だった件

石原唯人
ライト文芸
「秘密にしてくれるならいい思い、させてあげるよ?」 隣の席の優等生・出宮紗英が“オタク女子”だと偶然知ってしまった岡田康平は、彼女に口封じをされる形で推し活に付き合うことになる。 紗英と過ごす秘密の放課後。初めは推し活に付き合うだけだったのに、気づけば二人は一緒に帰るようになり、休日も一緒に出掛けるようになっていた。 「ねえ、もっと凄いことしようよ」 そうして積み重ねた時間が徐々に紗英の裏側を知るきっかけとなり、不純な秘密を守るための関係が、いつしか淡く甘い恋へと発展する。 表と裏。二つのカオを持つ彼女との刺激的な秘密のラブコメディ。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

将棋部の眼鏡美少女を抱いた

junk
青春
将棋部の青春恋愛ストーリーです

処理中です...