黒ギャルとパパ活始めたら人生変わった

Hatton

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「おはよー」

「…おはよう」

朝起きたら、セクシー系の美少女黒ギャルJKがエプロン姿でキッチンに立っていたので、俺は近々死ぬのかもしれない。

最近のラノベのタイトルみたいな文言が頭に浮かんだ。

「ちょいまっててねー、もうできるから」

「ありがと、でも無理しなくてもいいんだよ」

「ダメだよ、いそーろーさせてもらってるんだから」

窓の方を見ると、昨晩彼女が使った布団が畳まれておいてあった。客用のを用意しておいてよかったな。じゃなかったら「アタシはぜんぜん一緒のベッドでいいけどー?」とのたまう杏子の誘惑に、抗えなかったかもしれない。

俺は布団を敷くスペース確保のために立てかけておいた机を下ろして、リビングを食事ができる状態に戻す。

しばらくぼんやりしていると、杏子が皿を二枚持ってやってきた

「へいおまち」

「おお…」

俺の感嘆には二つ意味があった。

ひとつは単純にめっちゃ美味そうなこと。綺麗な焼き目がついたフレンチトーストの上に、トロッと溶けかけたバターがジワジワと染み込んでいるさまを見て、唾液腺がいっきに活性化した。

もう一つが…

「一人一皿ってことかい?」

「そりゃそうっしょ、あ、足りなきゃまだ焼けるけど?」

「いやいや十分だよ、ありがとう」

皿に盛られたフレンチトーストは、厚切り食パン二枚分はある。さらにその横にソーセージが三本とベーコンが四枚添えられている。ちなみに野菜の類はいっさい無し。エネルギーの塊って感じのラインナップだ。

「じゃ、いただきまーす」

「いただきます…」

上機嫌に手を合わせる杏子。俺は圧巻の物量に気圧されそうになっていたが、意を決してフライ級の胃袋でヘビー級に挑む。

満遍なく染みたまろやかな卵液と、濃厚なはちみつの甘さでお口が幸せだ。あいまあいまに塩気の強い肉類を食べて、口をリセットさせれば飽きもこない。

最初は食べきれるかどうか不安だったけど、ペロッといけちゃいそうだ。まあ、後々が辛そうではあるが。

「本当にお代わりいらない?」

「十分だよ」

「じゃあアタシが食べきっちゃって良き?」

「あ、ああ、もちろん」

早々に二枚分のトーストを平らげた杏子は、そそくさとキッチンに戻り、また食パンを焼き始めた。

JKの胃袋って怖ええ…



「ふぁーあ、お腹いっぱいになったからねむ…」

「俺も今日はデスクワークしながらウトウトしちゃいそうだよ」

朝食を食べ終え、支度を終え、俺たちはそろって家を出た。俺は仕事用のジャケパン、杏子は制服だ。立山駅までは同じ方向なので、必然的に一緒に行くことになった。

「おはようございますう」

マンションを出てすぐそばにあるゴミ捨て場から声が掛かる。ここの大家さんで、毎朝こうしてゴミの整理をしている60代と思しき女性だ。

彼女は俺の姿をみて挨拶したようだが、同時に隣にいる杏子に目が留まり、怪訝な表情になる。だが杏子はすかさず、彼女に近づいてにこやかにいう。

「はじめまして、いつも叔父がお世話になってまーす」

「あらあら、初めましてえ、岩城さんにこんなめんこい姪っ子さんがいたなんてねえ」

「パパとママが旅行行くっていうんで、しばらくここでお世話になりまーす」

「そうだったのお、仲の良いご両親でうらやましいわあ、飴ちゃん食べる?」

「あざまーす」

出会って5秒で打ち解ける女ふたり。ギャルのコミュ力ってすごいよなあ。

大家さんと別れて、駅に向かう道すがら、俺はふと尋ねた。

「なあ、うちにいるのは全然構わないんだけどさ、その、おうちの人とか大丈夫なのかい?」

杏子の家庭事情は謎だ。正直、誰と暮らしているのかさえわからない。

「へーきだよ」

杏子はプラスチックのように軽く、薄くて、硬い声で答えた。

「お家の人、なんていないからさ」

「一人暮らしってこと?」

「そ」

それ以上は聞けなかった。前からそうだが、杏子は家庭関係の話になると、途端に口数が減り、バリアが厚くなる。

彼女にこういう姿勢を取られると、俺は口をつぐむしかなく、そしてどうしようもなく寂しさを覚えた。

「ふあーあ」

杏子はまた大きな欠伸を一つした。



「今日は買取が多かったですねー」

「ああ、ありがたい話だよ」

並木さんは肩を回しながら、店のシャッターを閉めにいった。今日は特にこれといった残業もなく、無事20時半までには出られそうだ。

二人で一通りの締め作業をこなし、タイムカードを切った直後。

「あ、あの!このあとお忙しいですか?」

「え?」

「ほら、このあいだ良い店連れてっていただいたんで、今度は私のオススメの店にご案内、し、しようかなって!」

あれは俺が無理言って付き合わせたみたいなもんなのに、本当に律儀な子だな。

でもまあせっかくのお誘いだし、無下にするのもなんだから、ちょっとくらい…と思ったところでポケットのスマホが震える。

「ちょっとまって」

もしかしたら業務連絡かもしれないので、念の為開くと杏子からだった。

「写真を送信しました」って、え?まさかまたなのか?

部下の目の前で開くようなものじゃないかもしれないが、いちおう大事な用件かも知れないので、ちらっと見るだけのつもりでアプリを開いた。

「…ごめん、今日はちょっと」

「予定あるんですか?だ、誰かと?」

「ははは、姪っ子がうちにきててね、まだ未成年だからあんまり遅くまで留守にしとくのはちょっとな」

「あ、姪っ子さん…よかったあ」

「よかった?」

「いえ!なんでもないです!とにかく、それなら仕方ないですね!」

「ほんとにごめんよ。またの機会でいいかな?」

「もちろんです!次の機会に!絶対にですからね!」

「お、おお」

やけに鼻息の荒い並木さんと店の前で別れ、俺はあらためて杏子からのメッセージを読んだ。

あんず「めっちゃうまくできた」

岩城「ダッシュで帰るよ」

チャット欄には、なんとも美味しそうなキーマカレーの画像が送信されている。腹のなかがぐるぐると反応した。しっかり胃袋捕まれてんな。

やけに早る気持ちを押し殺しつつ、電車に乗り、最寄りで降り、自宅までせかせかと足を進める。

薄暗い公園の角を曲がると、ようやく自分のマンションが見えた。

何の気なしに二階の角にある自分の部屋のベランダに目をやると、人影があった。俺が自販機前の街灯の光に照らされると、その人影が手をおおきく振る。

「おかえりー」

杏子がベランダからかけてくれた、そのたった一言で、なぜか俺は涙ぐみそうになった。

本当に、冗談抜きで、幸せすぎて死ぬかもしれない。
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