黒ギャルとパパ活始めたら人生変わった

Hatton

文字の大きさ
上 下
40 / 51

36

しおりを挟む
東海道新幹線の窓から見える景色は、夕焼けに広大な田園が染められ、なかなかに壮観だった。

「こんな目的じゃなければな…」

景色を素直に楽しめない道中に、ため息混じりの独り言が漏れる。

「ん…なに?」

「なんでもないよ、まだ着かないから寝てな」

「うん」

隣の席で寝ている杏子を起こしてしまった。

とはいっても、俺が黙っていようがいまいが、彼女はずっとこの調子だった。

10~15分程度寝ては覚醒し、また寝るを繰り返しているのだ。

体は疲れ切っているのに、緊張感が抜けず、睡眠を維持できないんだろう。

前の会社にいたときの俺もそうだった。そんなしんどさは、杏子には生涯経験して欲しくなかったのにな。

俺はふたたび窓の外に目をやる。頬杖をつく拳にギュッと力が入った。

「おお」

今度は声を出さず、ほとんど吐息だけで驚嘆した。

富士山だ。

オレンジというより赤に近い空の下に聳える、ほとんどシルエットだけの日本の宝。

かのお山の頭上を、まるで巨大な絨毯のようなうろこ雲が覆っている。

美しいが、どこか不気味だ。そういえば、今くらいの時間のことを、逢魔が時っていうんだっけか。

赤い空の下にある黒くて巨大な山は、いかにも怪物の棲家って感じもする。

くわえて今日は10月末だ。なるほど、静岡は絶好のハロウィン日和ってわけか。


ようやく到着した浜松駅周辺は、想像以上に近代的だった。

商業ビルやオフィスビルが立ち並び、巨大なバスターミナルがあるためか、ひっきりなしにバスが出たり入ったりしていた。

何よりも驚かされたのは、この人ごみである。

「ハロウィンって静岡でも流行ってんだねー」

「まさかここまでとはな…」

行き交う人々は、若者を中心に様々な仮装をまとっていた。

テンプレなモンスターから、映画やアニメのキャラまでいる。

てっきり東京の、それも都心の繁華街だけで流行しているものだと思っていたが、ここまで国民的なイベントになっているとは。

杏子は俺に手を差し出す。

「いこっか」

俺は彼女の手をとって頷いた。

はぐれたら大変だからな。そう、これはあくまではぐれないためだ。

駅から少し歩き、繁華街から外れたところに、その店はあった。

時代劇に出てきそうな年季の入った木造りの門には、小さな看板で「営業中」とだけ書かれ、その上のライトに楷書体で店名が記されている。

門をくぐった先に石畳がのひていて、それに沿って進むと、大きな日本家屋が見えた。入り口は老舗の旅館のようでかる。

「うわあ、いかにも政治家が悪いことすんのにつかいそー」

杏子はその敷居の高い佇まいに、率直な感想をもらす。

俺もこの手の店に抱く感想は、似たようなもんだ。

入り口の引き戸を開けると、和服を着た四十代くらいの女性が出迎え、丁寧ににお辞儀した。

「いらっしゃいませ」

「えっと、地田で予約してあると思うんですが…」

「お待ちしておりました。ご案内いたします。お連れ様はもうお見えになっておりますので」

品格漂う女将さんに連れられ、俺たちは店内に通された。

こぢんまりとしたカウンターを素通りし、奥の座敷に案内される。

障子の戸の前に女将さんはひざまずき、中に声をかける。

「失礼いたします。お連れ様がお見えになりました」

「どうぞ」

微かに聞こえた返事に、杏子がピクッとなる。

女将の手によって開けられた戸の向こうは、ザ・料亭といった内装だった。

清潔な畳の上に重厚な木のテーブル、座椅子の上にある座布団は見るからにフカフカそうだ。

大きな窓から見える景観は、松の木や桜の木などが計算された配置で佇んでいて、品のある色味のライトで照らされていた。

そして、入り口から向かって左側の列の席に、三人の先客が。

いちばん戸に近い席にいる男が、俺と、そして少し後ろにいる杏子に声をかける。

「杏子ちゃん、ひ、久しぶり、ささ入って入って」

正確には俺には目もくれず、杏子に声をかけた。こいつが地田か。

俺は彼女と地田を遮るように前に出て、地田と他の二人に挨拶した。

「初めまして、彼女の親戚の岩城と言います…まあ、ご存知でしょうが」

最後の一言は皮肉を込めて、地田だけに向けた。だが彼はニコニコと上機嫌なままだ。

「いやあ初めまして、今日は親御さんの代理だそうで、遠いなかご足労ありがとうございます」

皮肉にも気づかず、実に愛想よく地田は挨拶を返す。

思っていたよりも、ずっと普通の男だった。

スクエアタイプの眼鏡と、七三でオールバック風に撫でつけられた髪に、体にピッタリと馴染んだ紺のスーツは、もはや誠実そうですらある。

体つきと顔はいたって普通。とくだん見栄えが良いわけでもないが、かといって悪いわけでもない。

これで年収2000万なら、女に不自由するとも思えないんだけどな。

とりあえず俺は、戸の近くで跪いている女将に言う。

「すいません、話し合いたいことがあるので、料理は少し待っててもらえますか?」

「かしこまりました。ではお話しが済みましたら、お声がけいただければと思います」

女将は慇懃にお辞儀し、立ち去った。

杏子を先に入らせ、彼女は奥側の席に座る。ちょうど、地田の連れの一人である、和服を着た六十代くらいの女性と、対面する位置だ。

俺はその隣にいる黒いスーツを着た壮年の男性と向かい合って座る。

二人は口をあんぐりと開けて、杏子を凝視していた。

まあ、そうなるだろうな。なにせ今日の杏子は制服姿なのだ。

女性の方が杏子に声をかける。

「えっと…杏子さんだったかしら?あなたは、その…」

ひどく言いにくそうに、というか目の前の現実を直視できなさそうに、彼女は言葉を濁した。

杏子はしっかりと彼女を見据え、現実を叩きつける。

「17歳になったばかりの高校2年生でっす」

女性は口元を抑え、俺の目の前の男性は目をさらに見開き、肩を大きく膨らませて息を呑んだ。

「息子さんから聞いてませんか?」

俺の問いに、女性は、地田の母親は目を泳がせながら答える。

「が、学生さんとは聞いてだけど…まさか、ねえ?」

妻からキラーパスを受けた男性、地田の父親は顔をしかめ、渋々といった感じで口を開く。

「本当に高校生なのかい?」

杏子はこくりと頷く。すると地田が、隣にいる父親の肩に手を置いた。

「大丈夫だよ父さん」

本当に、なんてことない感じの声だった。

「もちろん卒業まで待つつもりだし、真剣な付き合いなんだから年の差なんて関係ないって」

目を爛々と輝かせながらのたまう息子を見て、二人はさらに動揺の色を濃くした。

仕方ないだろう。息子の婚約者に会うためにやってきて、その相手が選挙権すら持たない未成年だったのだから。

良かった。少なくとも両親はまっとうな倫理観を持っているようだ。これなら話を進めやすい。

俺は意を決して、鞄から書類を取り出し、両親に手渡した。

「騙したようで申し訳ありませんが、今日は結婚の挨拶に来たのではありません」

二人が視線を書類に落とすのを待ってから、俺は本題を切り出す。

「息子さんのストーカー行為について、お二人に相談させていただきたく思い、ご足労願いました」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

将棋部の眼鏡美少女を抱いた

junk
青春
将棋部の青春恋愛ストーリーです

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...