黒ギャルとパパ活始めたら人生変わった

Hatton

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「ねえ、いれるとこ違うってば」

「ご、ごめん」

「へたっぴ」

「あんまりやったことなくて…」

「ああ、そこそこ、いいとこに当たってる」

しかし、無情にもクレーンは何も掴むことなく上昇し、戻ってきた。

「全然ダメジャーン」

「ははは、難しいもんだな」

今日は珍しく杏子の方から行きたいところがあると言い、ゲーセンやらボーリングやらその他スポーツもろもろを楽しめる、複合アミューズメントパークにやってきたのだ。

「どきな、アタシが仕留める」

俺のクレームゲームの腕前に痺れを切らし、強キャラよろしく操作盤の前に立った杏子だったが…

「あの…杏子さん?」

「うっさい、話しかけんな」

「流石にそろそろ諦めたほうが…」

「はあ!?ここまで注ぎ込んどいてやめるとかないっしょ!?」

杏子は憤慨しながら、コインをさらに投入する。こういうのって確かコンコルド効果っていうんだっけ。

「ああ!もう!」

また失敗し、憤慨した。

だが初めの方より箱はだいぶ動いていて、あともう少しというところで、焦らしに焦らしている感じだ。

杏子は迷うことなく二十何枚めかのコインを投入した。よくできたシステムである。

「ピッコロさーん、そろそろ諦めてアタシのとこにおいでー」

ちなみに彼女が躍起になって取ろうとしているのは、国民的バトル漫画における、ターバンとマントがトレードマークのキャラクターのフィギュアだ。

若い女の子が好きそうな可愛いキャラや、歌手グループのグッズなどが山ほどある中、杏子はそれらに目もくれず、まっすぐここにやってきたので、そもそもこれが目当てだったのかもしれない。

お母さんの影響なのか、漫画に関しては意外とアラサーの元男の子みたいな趣味だよなあ。

「…あともうちょい…なのに…くそ」

食い入るようにガラスケースを見つめる横顔は真剣そのもの。

どちらかというと、いつも澄まし顔なイメージなので、レアな部類の表情だ。

「ちゃんと子供っぽいとこもあるんだなあ」

「なに?なんか言った?」

「飲み物でもどうかなって」

「コーラで!」

「はいよ」

俺はついニヤケそうになる表情を引き締め、自動販売機に足を運んだ。

コーラとコーヒーを手に持って、彼女の元に戻ると、ちょうどクレーンが箱を掴んで持ち上げていた。

「よしよし、そのまま行け!」

杏子は手をグーにして、クレーンを応援している。

やや危なげにグラつきながらも、クレーンは無事そのままゴールに辿り着き、ドサっと箱を落とした。

「おお!」

苦節二十分、金額にしておよそ三千円の成果を目の当たりにし、思わず大きな声をあげた俺。

杏子は振り返り、花の咲くような顔を向けた。

「みてみて!とれたよ!」

「う、うん、見てたよ、良かったね」

「あ…」

俺の顔をみた瞬間、杏子の表情は固まり、目の表面がわずかに揺れた気がした。

わりかし薄暗い店内なので、たぶん気のせいだろうけど。

でも、どうしてか、俺たちの間に気まずい沈黙が降りた。

彼女は背を向け、取り出し口からフィギュアの箱を引っ張り出しながら言った。

「ごめんごめん、こんなとこでパパとか言われたら困るよね」

「ま、まあね、ははは」

どうにも違和感があった。

さっき、子供のような無邪気な顔から発せられた「パパ」は、パパ活相手のソレとは別物のように思えたのだ。

そういえば、お母さんは亡くなったと言っていたけど、つまりお父さんと二人暮らしということなんだろうか?

これを機に聞いてみたかったけど、できなかった。

彼女の強張った背中が、何も聞いてくれるなと語っているように見えたから。


そんなことがありつつも、なんだかんだで楽しく過ごした俺たちは、同じ敷地内のファミレスで夕食を取ることに。

夕食どきとはいっても、平日だからか、人はまばらだ。

メニューを開いていた俺は、ふと視線を感じ、斜め右に目を向けると、壁際のソファ席に座る女性と目があった。

彼女は気まずげに目を逸らし、向かいに座る夫にヒソヒソと語りかける。両方とも俺と同世代くらいに見えた。

彼女の左隣には、三歳くらいの女の子が座っていて、熱心にメニューを眺めている。

奥さんの話を聞いた夫もちらりと俺を見て、やはり気まずげに目を逸らす。

俺はメニューで自分の視界を遮り、ひっそりと苦笑を漏らした。

「どうかした?」

「いーや、なんでもないよ」

制服姿の女の子と一緒にいると、ときどきああいう視線にぶつかる。杏子はとにかく目立つから、なおさらだ。

遺伝子レベルが違いすぎて、本物の親子にも見えないだろうから、必然的に眉を顰めたくなる関係性に見えてしまうんだろう。

もちろん愉快な気分にはならないし、完全な誤解とも言い切れない関係でもあるため、後ろめたさは拭えない。

「あ!栗フェアやってる!食後に頼んでいい?」

「好きなだけどうぞ」

杏子はメニューを見ながら、顔を綻ばせる。

彼女の笑顔を真正面から眺められる特権に比べれば、世間の冷たい視線に刺され、じわりと滲む程度の自尊心の血なんて安いもんだ。

大真面目にこんな風に思うからこそ、後ろめたいんだろうけどな。

テレビの特集で見た情報によると、世の中のたちは、若い子とデートするだけでも諭吉が複数人飛んでいくらしい。

もちろん別途で食べ放題じゃない焼肉や、回らない寿司を奢らなければならない。

俺はというと、レジャー施設の料金と、ファミレスのディナーを奢るだけだ。

二人合わせても、一万に届かないくらい。

もしかしたらとんでもなく恵まれたパパ活をしているのかもな。

杏子は何が楽しくて、こんな安上がりなデートを、俺みたいな冴えないおっさんとしてるんだろうか?

ただの気まぐれなら、いつかは飽きられる。飽きられたら、潔く身を引かなければならない。

「ほいよ」

「ありがとう」

杏子がドリンクバーから戻ってきて、俺の分のコーヒーを手渡してくれた。

一口啜れば、甘味料の甘さは感じず、ミルクのまろやかさだけが舌を包む。

もう言わなくても、俺好みのコーヒーを持って来てくれるようになった。

もしも、杏子に飽きられ、切り捨てられるとき、「捨てないでくれえ」と情けなく縋り付かずにいられる自信が、俺には無い。
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