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「どーする帰る?それともあそこで休憩してく?」
もうすぐ駅に着きそうなところで、寂れたラブホを指さして、アタシはまた岩城さんを誘ってみた。
冗談っぽくしてるけど、別に本気にされてもいい。
「か、帰るよ、もちろん」
わかってはいたけど、やっぱり彼はのってこない。
グラついてるくせに。アタシの胸とかケツとか、しょっちゅうエロい目で見てんの知ってんだから。
わからせてほしいのに、これまでのパパとおんなじだって。
良い子だって褒めるのも、優しい目で見つめるのも、ぜんぶ、体目当てだって思いたかった。
少し似てるだけで、やっぱりあの人とは違うんだってわかれば、アタシは安心して岩城さんに幻滅できる。
それでも、頑なに、彼は一線を超えてこない。
アタシはそれを、どっかでガッカリしてて、どっかでホッとしていた。
じゃれあってるうちに、駅についた。
使う路線が違うから、改札を抜けたところでお別れだ。
「じゃ、次は日曜ね」
「うん、おやすみ」
人の気も知らないで、のんきに手を振っている岩城さんに、ちょっとだけムカツいた。
だから、お返し
「!?」
アタシの唇が彼のほっぺたを離れるとき、「チュッ」と音をたてた。
「おやすみ、パーパ」
「お、お、おじさんをからかうんじやないって!」
一生懸命強気にでようとしてるけど、顔は真っ赤だし、声はガタガタだ。
めっちゃ動揺してるから、ほっぺたにアタシのリップの色がついてるのにも、しばらく気づかないんだろうな。
家に帰って、鏡を見たとき、「この顔で電車に乗ってたのか…」ってもだえる岩城さんの姿が、かんたんに想像できた。
ざまあみろ。
そんなに混んでない電車の座席で、アタシは今日撮った写真を見返した。
髪切ってメイクまでして、まんざらでもない顔してる岩城さん。
一ミリも似合わない服着て、死んだ魚の目をしてる岩城さん。
彼のことばっか撮ってるな。ほんとに見てて飽きない人なんだよな。
タバコをふかす岩城さんの写真が画面に出てきたとこで、スクロールする指が止まった。
パイプ椅子に座って一服してる彼を見たとき、心臓が止まるかと思ったな。
あまりにも、あの人とそっくりだったから。
少しだけ、ほんとに一瞬だけ、実はぜんぶ嘘で、あの人は今も、アタシのそばにいる、そんな妄想が膨らんだ。
画面の中の岩城さんは、紺のジャケットに、チクチクと硬そうな短髪、モクモクと揺れるタバコの煙で、顔がぼやけてる。
ほんとによく似てる……
ーーガッツリいってベリショくらいでオネシャス
ううん、違う、そうじゃない。
ーーこのジャケットに合わせて、いい感じにフルコーデしてくれます?
アタシが似せたんだ。
あたま痛くなってきた。なんか寒気もする。
彼を、岩城さんを、助けるフリして、無意識にこんなことしてたんだ。
キモすぎんだろ、アタシ。
なんだ、アタシって、パパたちと同じだったんだ。
もう名前も顔も思い出せないおじさん達。さんざんバカにしたし、けーべつもしてきたけど、やってること変わらんじゃん。
こういうの類友っていうんだっけ?
岩城さん、やっぱアタシってちっとも良い子じゃないよ。
スマホの画面を指で意味なくなぞってみたら、気のせいだろうけど、ボンヤリと暖かかった。
そしたら、岩城さんの姿が、真っ黒に塗りつぶされるみたいに、着信画面があらわれた。
「もう!」
隣に座ってたスーツ姿の女の人がビクッとなる。
「すいません」
「い、いえ」
やべえ女だって思われちゃったかな?事実、やべえ女か。
スマホはまだ震えてる。
赤いアイコンを押して拒否するのも、あいつの存在を認識してる証拠みたいに思えて、フルシカトすることにしている。
なのに、スマホは延々と震えて、まるであいつが叫んでるみたいだ。
僕を見て、僕を見て、僕だけを見て、って感じで。
あいつとアタシも類友なのかな?
もうすぐ駅に着きそうなところで、寂れたラブホを指さして、アタシはまた岩城さんを誘ってみた。
冗談っぽくしてるけど、別に本気にされてもいい。
「か、帰るよ、もちろん」
わかってはいたけど、やっぱり彼はのってこない。
グラついてるくせに。アタシの胸とかケツとか、しょっちゅうエロい目で見てんの知ってんだから。
わからせてほしいのに、これまでのパパとおんなじだって。
良い子だって褒めるのも、優しい目で見つめるのも、ぜんぶ、体目当てだって思いたかった。
少し似てるだけで、やっぱりあの人とは違うんだってわかれば、アタシは安心して岩城さんに幻滅できる。
それでも、頑なに、彼は一線を超えてこない。
アタシはそれを、どっかでガッカリしてて、どっかでホッとしていた。
じゃれあってるうちに、駅についた。
使う路線が違うから、改札を抜けたところでお別れだ。
「じゃ、次は日曜ね」
「うん、おやすみ」
人の気も知らないで、のんきに手を振っている岩城さんに、ちょっとだけムカツいた。
だから、お返し
「!?」
アタシの唇が彼のほっぺたを離れるとき、「チュッ」と音をたてた。
「おやすみ、パーパ」
「お、お、おじさんをからかうんじやないって!」
一生懸命強気にでようとしてるけど、顔は真っ赤だし、声はガタガタだ。
めっちゃ動揺してるから、ほっぺたにアタシのリップの色がついてるのにも、しばらく気づかないんだろうな。
家に帰って、鏡を見たとき、「この顔で電車に乗ってたのか…」ってもだえる岩城さんの姿が、かんたんに想像できた。
ざまあみろ。
そんなに混んでない電車の座席で、アタシは今日撮った写真を見返した。
髪切ってメイクまでして、まんざらでもない顔してる岩城さん。
一ミリも似合わない服着て、死んだ魚の目をしてる岩城さん。
彼のことばっか撮ってるな。ほんとに見てて飽きない人なんだよな。
タバコをふかす岩城さんの写真が画面に出てきたとこで、スクロールする指が止まった。
パイプ椅子に座って一服してる彼を見たとき、心臓が止まるかと思ったな。
あまりにも、あの人とそっくりだったから。
少しだけ、ほんとに一瞬だけ、実はぜんぶ嘘で、あの人は今も、アタシのそばにいる、そんな妄想が膨らんだ。
画面の中の岩城さんは、紺のジャケットに、チクチクと硬そうな短髪、モクモクと揺れるタバコの煙で、顔がぼやけてる。
ほんとによく似てる……
ーーガッツリいってベリショくらいでオネシャス
ううん、違う、そうじゃない。
ーーこのジャケットに合わせて、いい感じにフルコーデしてくれます?
アタシが似せたんだ。
あたま痛くなってきた。なんか寒気もする。
彼を、岩城さんを、助けるフリして、無意識にこんなことしてたんだ。
キモすぎんだろ、アタシ。
なんだ、アタシって、パパたちと同じだったんだ。
もう名前も顔も思い出せないおじさん達。さんざんバカにしたし、けーべつもしてきたけど、やってること変わらんじゃん。
こういうの類友っていうんだっけ?
岩城さん、やっぱアタシってちっとも良い子じゃないよ。
スマホの画面を指で意味なくなぞってみたら、気のせいだろうけど、ボンヤリと暖かかった。
そしたら、岩城さんの姿が、真っ黒に塗りつぶされるみたいに、着信画面があらわれた。
「もう!」
隣に座ってたスーツ姿の女の人がビクッとなる。
「すいません」
「い、いえ」
やべえ女だって思われちゃったかな?事実、やべえ女か。
スマホはまだ震えてる。
赤いアイコンを押して拒否するのも、あいつの存在を認識してる証拠みたいに思えて、フルシカトすることにしている。
なのに、スマホは延々と震えて、まるであいつが叫んでるみたいだ。
僕を見て、僕を見て、僕だけを見て、って感じで。
あいつとアタシも類友なのかな?
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