黒ギャルとパパ活始めたら人生変わった

Hatton

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「お、ここいいじゃーん」

日が完全に落ち、すっかり暗くなった道すがら、ポツンと立っているラーメン屋を指差し、杏子は言った。

年季の入った店構え、色あせたのれん、ガラス製のドアから見える感じでは、夕食どきだというのにちらほらとしか客がいない、混んでないのはいいのだが…

「ラーメンにしても、もう少し良さげなところがあるんじゃないか?」

「いやいや、これで激ウマだったら超穴場発見ってことっしょ?行くしかないって」

ものは考えようだ。彼女のこういうところは大いに見習うべきだと、かなり真面目に思う。

「じゃあ冒険してみるか」

「決まりね、でもその前にトイレ行くから先入ってて」

と杏子は店の向かいにあるコンビニの中に入っていった。

俺は店に入ろうとしたが、出入り口のすぐ隣に、数脚のパイプ椅子と円筒状の灰皿があるのを見つけた。

少し逡巡したのちに、俺もコンビニに入った。

まっすぐにレジに向かい、店員の背後にある煙草コーナに目を凝らした。

「えっと…ああ、あれだ、205番をください」

ついでにレジ横に備えているライターも買う。

手渡された青いパッケージには、馴染みがあるようで、微妙に何かが違う気がした。

ああそうか、俺が吸ってたころとは名称が変わっているのか。なんだかんだで、やめてから10年近く経つんだもんな。

俺は店を出て、ラーメン屋のパイプ椅子に腰を下ろした。ギシっと音がし、段差があるわけでもないのにカクカクと揺れた。

パッケージのセロハンを剥がすのに苦労する。久々だからなのか、若い頃より指先が乾いてるからなのか。たぶん後者なんだろう。

悪戦苦闘の末ようやく剥がれ、一本取り出し口にくわえ、ライターで火をつけた。

ずっしりと重い煙が喉をとおり、肺に落ち、染み込む感覚がした。多少はむせるかとも思ったが、体はちゃんと覚えていたようで、スムーズに煙を吐き出しせた。

横のドアが開き、作業着を着たおじさん二人組が出てくる、双方ともが満足げな顔を浮かべているあたり、本当に穴場なのかもしれないな。

正面を向きなおすと、コンビニの出入り口付近に、杏子が立っているのが見えた。照明からの逆光で表情はわからないが、こっちをジッと観ているような気がした。

「杏子?」

俺が呼びかけると、彼女はピクリと体を揺らし、ゆっくりと近づいてきた。

「イケてるおじさんがいるなーと思ったら、岩城さんだったわ」

ようやく顔がみえたときは、いつもの彼女だった。なんか変な感じがしたのは気のせいか。

「お世辞言われてもラーメン奢るくらいしかできないよ」

「やったね。ああ、いいよ、最後まで吸って」

まだ残っているタバコを灰皿に投げようとしたところを、杏子は手で制して、俺の隣に腰を下ろした。

「タバコ吸う人だったんだ?」

「いやついさっきまでやめてたよ、かれこれ10年」

「当時の彼女にやめるよう言われたとか?」

「なんでわかった!?」

「うっそw適当に言ったのにまさかのアタリ!?」

「大学卒業したての頃、『ガキっぽいからやめて』てきなことを言われちゃってね」

「大人しか吸っちゃダメなやつなのに?」

たしかに、考えてみればおかしな話だ。なんなら杏子の世代からすれば、完全におっさん専用のアイテムだろう。

「そんで、なんでまた吸い始めたの?」

「なんでかなあ…いま吸ったら美味い気がしたから…かな」

「じっさいのところどう?」

横目で杏子の顔を見た。肺に満ちた煙が、
ほんのりと甘みを帯びた気がした。

「美味いよ」

「よかったじゃん」

目の前を、ベビーカーを押しながら歩く女性が通り過ぎる。彼女はちらりとこちらに視線をよこし、それがトゲを含んだ一瞥へと変わった。

なんとなく視線でその女性を追いかけると、ベビーカーのポケットからスマホを取り出し、歩きながらぽちぽちと操作し始めたのが見えた。

「たぶんいま、アタシらのことつぶやいてるよ」

「つぶやく?」

「SNSにあげてるってこと。『いい大人が女子高生の隣でタバコ吸ってる!日本どうなってんの!?』てきなやつをさ」

そうか、いまは未成年の前で酒やタバコに興じることもダメなんだっけか。世知辛い世の中になったもんだ。

「自分はベビーカー押しながら歩きスマホしてんのにね」

杏子が嘲笑交じりに言い捨てた。

また一人ラーメン屋から客が出てきた。会社員風の男は、チラリと杏子のスカートからのびる生足に視線を落とし、その目はカーディガンの上からでも主張する双丘に吸い寄せられる。気持ちはわかる。彼は隣にいる俺をみやり、すこし顔をしかめた気がした。また、つぶやかれてしまうかもな。

開いたドアから流れ込んできた、重厚な豚骨の匂いがかすめるように鼻腔を通る。お腹がグルグルと「煙じゃ足しになんねえよ」と主張し始めた。

そういえば、いつの間にか、俺はちゃんと腹が減って、飯を食うようになっているな。そんなの当たり前のことなのに、妙な感動を覚えてしまった。

最後の一口を深く吸い込み、吐き出したところで、パシャりと音がなった。

杏子はまたスマホのカメラを俺に向けている。こんなおっさん撮って、なにが楽しいんだか。
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