黒ギャルとパパ活始めたら人生変わった

Hatton

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少しは不安がっておくべきだったかもしれない…まあ、そうしたところでどうにかなったわけでもないか。

白を基調とした店内は清潔感とスタイリッシュ感が交わり、忙しなく動いているスタッフも、実に華のあるスタイルの人ばかりだ。

俺は彼女に連れられてこの美容室にやってきた。いや、もはやサロンと呼ぶべきか。

とにかく、社会に出てからは職場近くの1000円カットで散髪を済ませていた俺には、縁遠い場所というわけだ。

あまりの場違いさに、摘み出されるんじゃないかとビクビクしてしまうほど、いたたまれなかった。

杏子は慣れた様子で店内に入り、受付付近にいた女性に声をかける。

「あ、麗香さーん、おひさー」

「杏子ちゃん、いらっしゃーい」

麗香さんと呼ばれたジャケットとホワイトパンツをビシッと着こなしたモデル体型の女性は、杏子を見とめると親しげに口を綻ばせた。

どうやら杏子の行きつけの店らしい。

俺は店の角に置いてある座り心地の良さげなソファを見つけ、雑談に興じる彼女たちに声をかけた。

「じゃあ俺は、そこで待ってるから」

「は?なんで?」

「髪の毛を切りに来たんじゃないのかい?」

「はあ」

杏子は大きなため息をつく。

俺はそんな彼女に肘を掴まれ引っ張られ、麗香さんに差し出されるように背中を押された。

「今日はこの人を改造しちゃってくださーい」

「へ!?」

「オーケー、任せてちょうだい」

「ちょっと!?」

「長さが中途半端なんでー、ガッツリいってベリショくらいでオネシャス」

「そうね、髪質が固めだからそれに合わせて…」

キョどる俺を無視し、彼女たちはズケズケと話を進めた。

こうして、俺はアレよアレよと流されるまま、シャンプー台に連れられ、新人と思しき若い女性スタッフに「今日はお休みですか?」「え、ええ、そんなところです」という気まずい会話を交わしながら頭を洗われ、カット台の前に鎮座したのだった。

しばらくすると、麗香さんがやってきた。

「それじゃ、改めてよろしくお願いしますね」

「はあ」

鏡越しに語りかけてきた麗香さんに、俺は生返事を返す。

キリッとした目元から漂う雰囲気に、宝塚の男役スターのような印象を受けた。

なんとなく、任せておいて間違いないだろうという安心感がある。きっと仕事ができる人なんだろうな。

「あの、予約とかしてないと思うんですが、大丈夫でした?」

「いえ?今日の昼間に姪っ子さんが予約してくれてましたよ?」

「姪っ子?」

「えっと…杏子ちゃんの叔父様だと伺っていますが?」

そうか!そういう風に説明しておいてくれてたのか!

せっかくの気遣いを台無しにしかけた俺は慌てて弁解した。

「そ、そうですそうです!僕は叔父で杏子は姪です!ははは!」

へ、下手すぎる…劇団四季のオーディションを受けるのはやめた方が良さそうだ。

「すいません、こういう店に慣れてないせいか、つい緊張しちゃって」

「そうだったんですね、どうぞリラックスしてください」

彼女はやっと納得がいったようで、笑みをこぼした。

慣れてないのも、緊張しているのも事実なので、説得力があったんだろう。

「逆に杏子の方はよく来るんですか?」

「ええ、贔屓にしてもらってます」

俺は鏡越しに店の奥側に視線をおくり、ソファに座ってスマホを弄る杏子を見とめた。

ただ座っているだけなのに、まるでファッション誌の見開きページのようだ。

「あの子なら、きっとさぞやり甲斐があるんでしょうね」

「そうなんですよねえ、どんなヘアもメイクもキマッちゃうから、つい色々試したくなって」

「すいません、今日はこんな冴えないおじさんの相手で、ははは」

俺の予防線の混じった自虐を受け、麗香さんの瞳の奥がギラリと燃えた気がした。

「何をおっしゃいますか!?」

と俺の肩に手を置く。ポンというよりボスッという効果音がしそうな強さだった。

「むしろ、腕がなりますよ!」

冴えないおじさんであることを、暗に、しかしはっきりと認められてしまったが、全然不快じゃなかった。

この清々しいズケスゲ感は、どこか杏子に似ている気がする。彼女が大人になったらこんな風になるのかもしれん。

スタイリスト魂に火がついた麗香さんは、ジャケットの袖を少しまくり、ハサミを手に臨戦体制に入る。

「はじめますね、さっき杏子ちゃんと話してた感じにしちゃって大丈夫ですか?」

「すべてお任せします」

俺は姿勢を正し、鏡越しに彼女をまっすぐ見据えた。
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