黒ギャルとパパ活始めたら人生変わった

Hatton

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「精一杯努めさせていただきますので、明日より何卒よろしくお願いします!」

俺の挨拶に、店のスタッフたちは儀礼的な拍手で答えた。

俺よりも6歳下の女性社員である田淵さん。パートの主婦とフリーターの二十代前半の女の子が、それぞれ二人ずつの合計5人のスタッフがいた。

完全な女所帯だが、ブランド品や貴金属の買取店においては、そう珍しいことじゃない。

こうして、俺はようやくヒラ社員から店長に昇進し、駅近の商業ビルの一角にある店舗に配属されたのだ。

気概はそれなりにあった。自信もあった。

だから、このわずか一年後に、線路に飛び込みそうになるなど、当時は夢にも思っていなかった。

不穏な兆しを感じたのは、挨拶の翌日、つまり初日からだ。

朝早くから鳴った店の電話をとると

「お電話ありがとうございます。プラチナム・ステーションの岩城が承ります」

「体調不良なんで休みます」

「はい?えっと、田淵さんですか?」

「そうです」

「は、はあ、わかりました。どうぞお…」

お大事にと続けようとした俺の言葉を聞かず、彼女は電話を切った。

休むこと自体はいいが、あまりにぞんざいな態度に、なんとなくモヤモヤした。

そのあと、毎朝行われてるという店長ミーティングのため、パソコンをつけ、zoomを起動した。

周辺エリアの店長が、俺を含めて四人。加えて、AMエリアマネージャーの近藤さんによる5人でのミーティングだ。

新店長である俺の形式的な挨拶が終わり、AMによる吊し上げ会が始まった。

「おまえ先月も似たようなこと言ったよな!!なのになんだこの体たらくは!」

「すいません!」

「謝ればそれで済むと思ってんだろ!」

ミーティングとは、売上が落ちた店の店長をAMが散々こき下ろし、他の店長は神妙な顔でそれを眺めるだけのものだった。

やり玉に上げられた店長はひたすらに恐縮し、ときに目に涙を浮かべた。

他の店長は助け舟こそ出さないが、だからといって嘲るような雰囲気も出さない。

みな、明日は我が身であることを知ってるからだ。

俺がやり玉に挙げられたのは、この翌々日だった。

誰一人として例外なく、毎朝のように、誰かがAMのサンドバッグになっていた。

店に来る、軽く掃除や整理整頓をする、AMに怒鳴られる、そしてタイムカードを切って出勤する。

これが毎朝のルーティーンだった。

加えてもう一つ俺の頭を悩ませる存在がいた。社員の田淵さんだ。

入社当初からこの店にいて、若くて見栄えもそこそこいい彼女は、接客面においては申し分のない戦力だったのだが…

「おはようございまーす」

「おはようございます。何かあったんですか?」

「なにかって?」

「いや、ほら…」

俺は店の時計に視線を向けた。出勤時間を20分も過ぎている。

「あー、ちょっといろいろあってー」

彼女は悪びれることなく、言い訳すらろくにせず平然としていた。

「ま、まあ、そんな日もありますよね」

配属されて間もない俺は、つい日和ってしまう。

ところが、彼女はこの日以降も平然と遅刻してきた。というか時間通りにに来る方が珍しいくらいだった。

週に一度は当日欠勤し、店にいても常連客の相手以外は何もしないのだ。

さすがに業を煮やした俺は、ズバッと言ってやることにした。

「田淵さんの勤務態度はさすがに目にあまります。いちおう俺は田淵さんの勤務評価も仕事のうちなわけだけど…このままだと人事部に何も良い報告ができません」

「…はあ」

「なんとしても改めてください。そうしてもらわないと、お互いに困ったことなるので」

「わかりました…」

凹んでいるのか、不貞腐れているのか、いまひとつわからない反応だったが、これで多少はマシになるかと期待した。

だが実際には、もっともっと事態は悪い方に進んだ。

「部下を脅すなんて最低だろ!!店長失格だ!」

翌朝、なぜか彼女を叱責したことがAMに知られていて、ミーティングで怒声を浴びせられた。

「脅したわけでは…」

「言い訳してんじゃねえ!」

「すいません!」

そのあとは、まあいつものごとく、延々とお説教タイムが始まった。

しかもこの日以降、やたらと俺が吊し上げられる率が増えた。

つまるところ、俺は上司に嫌われたのだ。

同じエリアの店長が、俺に同情したのか、田淵さんがAMとこっそり付き合っていることを教えてくれた。

こっそりしているつもりでいるのは当人たちだけで、このエリアではバイトすら知っている事実らしい。

「悪い、もっと早く教えておけばよかった」

その店長は、本当に申し訳なさそうに言った。

「はは、なるほどねえ、そういうことか」

一周回って他人事のように思えた俺は、もう笑うしかなかった。

ちなみにだが、四十代後半のAMには奥さんと中学生の娘がいる。

兎にも角にも、俺は田淵さんに何も言えなくなった。

言ったところで、状況が悪くなるだけだからだ。

彼女はますます増長し、好き放題するようになる。

そんな不甲斐ない俺を見たからか、他のスタッフまで勤務態度が悪化した。

おかげで、休日にスタッフの欠勤の連絡を受け、大急ぎで出勤することもザラになり、丸一日休める日など、月に一回あるかないかのレベルになる。

客からのクレームもうなぎ上りに増え、最終的には俺が出張って平謝りし、土下座したことも何度か。クレームが入れば、その件についてAMにボロカスに言われ、こっちは確定で土下座しなければならない。

強制参加の飲み会では、パンツ一丁にさせられ、昔流行った芸人のモノマネをやらされ、そのとき撮られた画像や動画が、社内のグループチャットにて拡散された。

そんなこんなで、1年経過し、なんの前触れもなく「ピキッ」と折れたのである。
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