1 / 3
プロローグ
しおりを挟む
「ぁ……」
魔術大国アナシアの東のほうにある村。
そこで今一人の命が誕生した。
弱弱しくなく彼女を愛おしく彼女の母親が抱きしめる。
「よかった……、本当によかった……」
「うん、本当に……ぅぅ」
死産ーーーそう最初に聞いていた命だった。
だが、彼女は奇跡的にも生きた状態で生まれ、健康状態も良好。
最悪を想定していた二人にとっては、神様がこの赤ちゃんを安全に生ませてくれたと思えるほどにうれしかったのだ。
赤ちゃんには、恩恵を受けた子として「アンナ」という名前を授けた。
時折だが、父ーーーヘルゼンは思う。
この子は本当に赤ん坊なのかと。
決して赤ん坊らしからぬ動きをしているわけではない。
しかし、常に周りをきょろきょろとみており、自分たちの会話に入ろうとするかのように声を上げることがあるのだ。
だがヘルゼンは残念なほどの子煩悩。
『もしやうちの子は天才ではないのだろうか』
そう考えた彼は、母ーーーーマヤに相談し、簡単な絵本から難しい本までとにかく読み聞かせをすることにした。
それから彼女は何事もなくすくすくと成長し、今年6歳になる。
自我がだんだんと形成されていく彼女だったが、どこかかけているような感じだった。
アンナ自身もそれを自覚しており、いつも何かを探すように家やその周辺を歩き回っていた。
そんなある日、彼女に変化が起こる。
いつものように寝ていると、今まで見たことなかったけどなぜか懐かしくーーーそれでもって思い出したくない姿を見る。
ぼんやりとシルエットのようになっていたそれは、だんだんと輪郭を鮮明にし、徐々に記憶もよみがえる。
(そうだーーーー、そうだっ、私は!!)
ーーーー「目覚め」ーーーーー
長い夢を見ているような気分だった。
だが、今ではちゃんとわかる。
そうか、私は転生したのか。
実感はないものの、これが現実であるということは自分の触覚、嗅覚、視覚、聴覚が確かめている。
「……ふぅ」
袋に知らずのうちに空いた穴から空気が漏れるように、ため息をつく。
思い出したくもない前世の記憶。
だけど、あの記憶を思い出さなければ、現世でも私は他人の言われるがままに動き、自分のやりたいことをあきらめ抑制していただろう。
今は違う。
前のつらい記憶を思い出したおかげで、自分自身に強く誓ったこともしっかりと思い出した。
「もうあきらめてやるもんかーーーー、か」
言葉に出すと不思議とやる気が湧いてくる。
そうだ。
もうあきらめてやるもんか。
私がこの世界で命を落とした時に、もう満足だといえるように生きる。
「じゃあ早速動かなきゃ、私!」
頬をはたき、気合を入れる。
前までの落胆した気持ちで何となく生きる毎日ではない。
これからは私が私であるために生きるのだ。
魔術大国アナシアの東のほうにある村。
そこで今一人の命が誕生した。
弱弱しくなく彼女を愛おしく彼女の母親が抱きしめる。
「よかった……、本当によかった……」
「うん、本当に……ぅぅ」
死産ーーーそう最初に聞いていた命だった。
だが、彼女は奇跡的にも生きた状態で生まれ、健康状態も良好。
最悪を想定していた二人にとっては、神様がこの赤ちゃんを安全に生ませてくれたと思えるほどにうれしかったのだ。
赤ちゃんには、恩恵を受けた子として「アンナ」という名前を授けた。
時折だが、父ーーーヘルゼンは思う。
この子は本当に赤ん坊なのかと。
決して赤ん坊らしからぬ動きをしているわけではない。
しかし、常に周りをきょろきょろとみており、自分たちの会話に入ろうとするかのように声を上げることがあるのだ。
だがヘルゼンは残念なほどの子煩悩。
『もしやうちの子は天才ではないのだろうか』
そう考えた彼は、母ーーーーマヤに相談し、簡単な絵本から難しい本までとにかく読み聞かせをすることにした。
それから彼女は何事もなくすくすくと成長し、今年6歳になる。
自我がだんだんと形成されていく彼女だったが、どこかかけているような感じだった。
アンナ自身もそれを自覚しており、いつも何かを探すように家やその周辺を歩き回っていた。
そんなある日、彼女に変化が起こる。
いつものように寝ていると、今まで見たことなかったけどなぜか懐かしくーーーそれでもって思い出したくない姿を見る。
ぼんやりとシルエットのようになっていたそれは、だんだんと輪郭を鮮明にし、徐々に記憶もよみがえる。
(そうだーーーー、そうだっ、私は!!)
ーーーー「目覚め」ーーーーー
長い夢を見ているような気分だった。
だが、今ではちゃんとわかる。
そうか、私は転生したのか。
実感はないものの、これが現実であるということは自分の触覚、嗅覚、視覚、聴覚が確かめている。
「……ふぅ」
袋に知らずのうちに空いた穴から空気が漏れるように、ため息をつく。
思い出したくもない前世の記憶。
だけど、あの記憶を思い出さなければ、現世でも私は他人の言われるがままに動き、自分のやりたいことをあきらめ抑制していただろう。
今は違う。
前のつらい記憶を思い出したおかげで、自分自身に強く誓ったこともしっかりと思い出した。
「もうあきらめてやるもんかーーーー、か」
言葉に出すと不思議とやる気が湧いてくる。
そうだ。
もうあきらめてやるもんか。
私がこの世界で命を落とした時に、もう満足だといえるように生きる。
「じゃあ早速動かなきゃ、私!」
頬をはたき、気合を入れる。
前までの落胆した気持ちで何となく生きる毎日ではない。
これからは私が私であるために生きるのだ。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる