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28. 未知なるもの

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 真夜中を過ぎてもまだ、二人の情熱が途絶えることはなかった。
 室温は低いのに、擦れ合う素肌は熱く、じっとり汗がにじんでいる。
 時折交差する、熱い視線。
 ハッ、ハッ、という細切れの息遣い。
 なにかを堪えるような、くぐもった声。
 硬く引き締まった巨躯に両腕を回し、組み敷かれながらミレーユは、泣きたくなるほどの幸福を感じていた。
 初めてかもしれない。誰かのぬくもりに包まれ、寂しさも虚無感も消え失せ、こんなに安堵できるのは。母のジャンヌは早くに亡くなったし、こんな風に抱いてくれる人は誰もいなかったから。
 憧れていたエドガールの肉体は、肌触りも匂いもなにもかもが好ましく、好きな気持ちがますます高まった。
 殿方のカラダって硬くて、筋肉がいっぱいついてて、カッコイイな……
 ぼんやりそんなことを考えながら、エドガールの腰が打ち刻む律動に、うっとりと身を任せる。
 さっきミレーユの中で一度果てた彼は、みるみるうちに力を取り戻し、猛々しく勃ち上がらせたそれを、ふたたび蜜壺に突き入れていた。
 すでに破瓜の痛みは完全に雲散霧消し、たっぷり蜜を湛えた蜜壺を、生の雄杭が力強く滑り抜けるたび、とろけるような刺激が下肢を襲う。
「ミレーユ……。ああ、ミレーユ……」
 腰をうねらせながら、彼はうわごとのように何度も名を呼ぶ。
 こんなに深く繋がっているのに、まだそれ以上に自分を求めてくる彼の貪欲さが堪らなく心地よかった。
 これほどまで彼を飢えさせ、狂わせているのが自分なのかと思うと、女として罪深い悦びを感じる。
 ああ、エドガール……。好き……
 覆い被さってきた彼が、ミレーユの喉元に唇を寄せる。
 れろり、と熱い舌が首筋を這った。
 ぞわりと背筋が粟立ち、声が漏れてしまう。
「あぅっ……」
「ミレーユ、綺麗だ……。君の美しい首を見るたび、こうしたかった……」
 湿った息を吐きかけながら、彼はそう告白する。
 まるでヴァンパイアが噛みどころを探すみたいに、熱い舌がじわじわと首筋を探った。
「あ……やっ……。嫌ぁ……」
 くすぐったさに鳥肌が止まらず、なのにそれが淫らな刺激となって下腹部に流れ、媚肉から蜜がふんだんに染み出す。
 ブチャッ、グチュッ、と矢じりが突き込むたび、派手に音が散って、羞恥で頬が熱くなった。
 あ……。お、音が……。こんなに、恥ずかしい……
 なるべく鳴らないよう抑えようとするのに、むしろ彼はより大きく音を立てながら、勢いよく雄杭を突き入れてくる。
 あぅん、あぁっ、だっ、だけどっ、深くて、すごく、いい……
 チュゥッと首を吸われるたび、チリッとそこに火花が弾ける。
 弱く甘噛みされ、かゆいような刺激に恍惚となった。
 噛みかたも吸いかたも、たとえようもないくらい優しく、彼の恋心がまっすぐ伝わってきて……
 そうしている間も、鍛え抜かれた腰はまるで別の生き物のようにヘコヘコと運動を続け、甘やかな摩擦を起こしている。
 小さな快感が次第に積み上がっていき、お腹の奥で急速になにかが張りつめていく……
 すごく気持ちいいんだけど、とんでもないことが起こりそうで、わけもわからず恐怖に駆られた。
「あっ、あっ、な、なにっ? なにか、くるっ、あっ、こっ、怖いっ……」
「大丈夫だ。大丈夫だよ、ミレーユ。そ、そのまま逝くんだ。僕を信じて、僕に委ねて……」
 荒い息の合間に、彼がささやく。
 畳みかけるように、腰の速度が上がりはじめた。
 剥き出しの雄杭が勢いよく前後に行き来し、媚肉を引きずっては快感の火花が弾ける。
 ズチュッ、グチャッ、と飛び散る蜜の飛沫。
「あっ、あっ、あぅっ、あぁっ、いっ、いっちゃうっ……」
 屈強な腰はしゃくるように繰り返し突き上げてきて、もうのっぴきならないほど張り詰める。
 ズンッ、と最奥を垂直に抉られ、そこに未知なるものがもたらされた。
 もう堪えきれなくなり、ギュッとまぶたを閉じ、ググッと股関節に力が入る。
「ミレーユ、大丈夫だから。さあ……」
 あっ、も、もう、ダメッ……!
 腰の内側で、張り詰めたものが一気に弾けた。
「……んんっ!!」
 その衝撃が腰から背骨へ、さらに全身へと響き渡り、頭が真っ白になる。
 あああ……。な、なにこれ……気持ちいぃ……
 強すぎる快感にわなわなと腰が震え、ひくひくと肉筒が痙攣する。
 それはどう形容してよいかわからない、甘美な刹那だった。
 股関節が徐々に弛緩していくとともに、そこから甘やかな余韻がゆるゆると広がっていく……
 すごく淫らだけど、途方もなく心地よくて、未知なる快感の大波にうっとりした。
「ああ、ミレーユ。可愛い……」
 堪りかねたように彼は言い、唇が下りてくる。
「あ……。んん……」
 朦朧とした意識で、口づけを受け入れていた。
 舌先で口腔をくすぐられながら、絶頂の余韻に浸るのはすごくいい。
 とろんとして、気持ちよくて、愛されている感じがする。
 しばらくそうして、うっとりするような白い波間を漂っていた。
 蜜壺深く潜り込んだ雄杭は、まだ大きく膨らみ、硬度を保ったままでいる。
 少し腹筋に力を込め、媚肉でそれをきゅっと締めつけると、彼の喉奥から「うぅっ」とうめき声が聞こえる。
「……まだ、あなたが……?」
 二人の唇が離れたとき、彼の頬を撫でて問うと、彼は小さくうなずく。
 このとき、ああ大人になったなとしみじみ思った。一人前の、成熟した、大人の女性に。
 初めての口づけを知り、初めての愛撫を知り、初めての情交を知り、初めての絶頂を知った。
「その……君は人狼だけど、人間と同じなんだね?」
 性交の仕方や、快感の感じかたが、という意味だろうか。
「うん。ほとんど同じだと思います。体の仕組みもそうだし、あの……赤ちゃんもできます」
 そう言うと、彼は照れくさそうに頬を赤らめ、それを見たこちらも頬が熱くなった。
「そうなんだ。なにも変わらないのなら、よかった……」
「はい。その、過去に一族の人狼が人間と結婚した例がありますから」
「けど、その人たちはどうなったの? 一族の掟とかその、慣わし的に……」
「一族からは離れ、人間として生きていくことになります。一族の庇護はなくなるけど、後悔はなかったと思う。私が同じ立場でも、そうするだろうし……」
「そうか……」
 彼は少しまぶたを伏せ、穏やかな眼差しで、額から生え際を撫でてくれる。
「エドガール」
 呼びかけると、彼は目を「ん?」と見開いた。
「今は……今だけは、未来のことも過去のことも忘れて、私だけを見てくれますか? この夜だけ、一晩だけ、私のわがままを聞いて欲しいんです……」
 そう乞うと、彼は愛娘にでもそうするみたく、頬に柔らかくキスしてくれた。
 そのあと彼は、唇を耳に寄せてささやく。
「言われなくても、もう君のことしか見てないよ。ここへ来てからずっと、君のことで頭がいっぱいなんだ」
 熱い息が耳たぶをかすめ、ゾクリとうなじの産毛が逆立つ。
「少し激しくするけど……いいかな?」
 返事を待つことはなく、やにわに腰の抽送が再開される。
 そこからの情交は荒々しいものになった。
 最初のときは壊れ物のように扱われ、もどかしいぐらいだったのに。
 だんだん彼は己の獣性を解き放ち、生の粘膜と粘膜が濃厚にもつれ合い、ものすごく猥褻な性交に変わっていく……
 膝立ちになった彼は、腰の筋肉に力を込め、強く小刻みに突いてくる。
 前後する雄杭に四肢を揺さぶられ、ぷるんぷるんと弾んでいた乳房を、ぐっと掴まれた。
 二つの乳房をいやらしく揉まれながら、ズンズンズン……とリズミカルに貫かれ、ふたたび快感がせり上がってくる。
「あっ、あっ、あぁっ、んっ、ま、またっ……」
 淫らな律動に合わせ、嬌声は細切れになった。
 時折、射精を堪えるかのように、彼の喉奥から小さなうめきが漏れる。
「んっ、くっ、んくっ、はっ、はっ、はぁっ……あっ……」
 腰の筋肉が隆起し、汗を飛ばしながら、速度はどんどん増していく。
 ずるりっ、と雄杭が引いていくと、ブチュッ、と白い飛沫が散る。
「あぅっ……」
 寄せては返し、深部を穿たれるたび、甘い快感が胎内に響き渡った。
 生のままの雄杭に、とろけた媚肉が絡みつき、えもいわれぬ甘美な一体感が生まれてくる。
 あっ、あっ、んっ、もっ、もうっ、と、とろけちゃいそうっ……
「ミ、ミレーユ、好きだっ……」
 彼は息を弾ませながら、悲鳴に近い声で言った。
 剥き出しの雄杭が、ずるずるっ、と奥へ滑り込んでくる。
 矢じりが内蔵を押し上げ、その圧迫感に息が止まった。
 その刹那、視界に映ったのは、まぶたを閉じ、苦しげに歪んだ彼の美貌。
 ググッ、と腹筋が縦横に深く割れ、ふるふるっと屈強な腰がわななく。
 次の瞬間、ビューッとお腹の奥で熱いものが広がった。
「……あっ……」
 出てる……
 時を同じくして、ミレーユも静かに絶頂を迎える。
「んくっ、あぁ……」
 抑えきれぬ声を漏らし、息を荒げながら、彼は勢いよく精を放ち続けた。
 ああぁ……。あったかくて、すごく気持ちいい……
「ミレーユ、好きだ……」
 お腹の奥に熱い精を注がれながら、そのままぼんやりと白い意識の海に溺れた……
 呼吸するみたいに射精は繰り返され、苦しそうに上下する丸い胸筋の間を、熱い汗の雫が滑り落ちていくのが見えた。
「エドガール、大好き……」
 お腹の中にたっぷりと彼の熱を湛えながら、そう告げる。
 彼は最後まで精を吐き尽くすと、脱力したように倒れ込んできた。
 汗で濡れた熱い巨躯を抱きしめながら、しばしの甘い余韻に浸る。
「……ミレーユ、好きだ。好きだよ……」
 轟いていた彼の鼓動が徐々に鎮まっていくとともに、蜜壺に孕んだ彼のものも力を失っていくのを感じた。
 まぶたを閉じてゆったり安らいでいると、ややあって彼がささやく。
「……本当に、君の命を僕が預かってもいいのか? 後悔はないのか?」
 目を開けると、静かな眼差しがじっとのぞき込んでいた。
 それを綺麗だなと思いながら、コクンとうなずく。
「はい。後悔はありません。本当はあなたに殺してもらうつもりだったのに。その、結局、こんなことになってしまったけど……」
 けど、ある意味、殺されたと同義なのかもしれない。
 一族の言いなりに掟を守り、無知な少女だったこれまでのミレーユはもう、どこにもいないのだから。
 すると、彼は決意したようにこう告げた。
「ミレーユ。このまま二人で逃げよう」
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