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15. それはもう強大なもの
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「私はあなたの敵じゃない。敵なんだけど、敵じゃないの。うまく説明できないけど……」
ミレーユが言ったことの意味がわからない。
視線を落としたまま、彼女はポツリと続けた。
「私は、あなたに情報を提供できる。どうか、ダスブリア子爵を助けて欲しいの」
「子爵を助ける……? どういう意味だ? 君たちは子爵を殺すつもりじゃないのか?」
彼女は力なく首を横に振る。
「私は……私個人の気持ちとしては子爵を助けたい。けど、一族には逆らえない。一族の力はそれはもう強大なものなの。私みたいな無力な女一人では、到底太刀打ちできない」
「つまり君は、人狼でありながら、黒煙騎士団に協力したいと言ってるのか……?」
彼女は頭痛でもするみたく額を押さえ、ふたたび首を横に振った。
「……わからない。一族とその対抗勢力の全貌とか、思想とか理念とか信条とか、そういう難しいことはわからないの。黒煙騎士団も人狼もどうでもいい。ただ、目の前の命を救いたい。それだけなの……」
彼女の言について考えていると、弱々しい声は続く。
「私は父と祖父に愛され、一族に育てられてきたから、一族を裏切りたいわけじゃないの。だから、人狼を全滅させようとする、黒煙騎士団の味方にはなれない。けど、今この瞬間、子爵が殺されるのを見過ごすわけにはいかない。だから、せめて警告しにきたの。混乱してて、ごめんなさい。私自身どうしたらいいか、ずっとわからなくて……」
「……なるほどね」
一族の方針と彼女個人の感情が対立してるってわけか……
そういうことは誰しも往々にしてある。僕だって個人的には原稿だけ書いて生きていきたいが、社会的な要請でそうもいかない。人狼を探しに出たり、領地を治めたりしなければならない。
社会と個人は対立しがちで、誰もが嫌々ながら社会の要請に従うしかない。
「今夜、ここへ襲撃があると踏んで、迎え撃とうと待ち伏せしていたんだが……」
そう言うと、彼女は顔を上げ、こちらをまっすぐ見て言った。
「いいえ。今夜はたぶん中止になります」
「へ? 中止になる……?」
なぜだ? 一族たちになにか働きかけたんだろうか?
「それにエドガール。たった一人で迎え撃とうなんて絶対無理。逆に殺されちゃう」
「丸腰で迎え撃とうってわけじゃないよ。ちゃんと備えはしてあるさ……」
すると、彼女はこちらへ一歩踏み出し、エドガールのシャツの胸の辺りをぎゅっと掴んだ。
「そんなの、絶対ダメ! あなたが思ってる以上に人狼ってすごく強い。本当に恐ろしいものなの」
すがるような瞳を見下ろし、ドキッとした。
暖炉の明るい炎が、彼女の体を照らし出している。
ネグリジェはとても薄い生地で織られ、透け透けでその中がよく見えた。
ほっそりした肩と、艶めかしくくびれた腰のライン、小さなお臍の穴まではっきりと。
はちきれんばかりの豊満な膨らみは、うっとりするような曲線を描き、窮屈そうに薄布を押し上げていた。
その頂きにある、薔薇の蕾のような小さな突起に、目が釘付けになる。
薄布越しに、そこが綺麗な淡い紅に色づいているのが見えた。
それはすごく可愛らしいのに、ひどくいやらしくて堪らなくて……
すぐそこに若い女性の生々しい肢体を感じ、体中の血がカアッと瞬間沸騰する。
強すぎる視線を感じたのか、彼女は「ん?」と自らの体を見下ろした。
「あっ……」
明るすぎる炎が、自分の裸体を浮かび上がらせているのに気づき、彼女は小さく声を上げた。
しかし、彼女は乳房を隠さない。少しまぶたを伏せ、視線を逸らしただけだった。
その恥ずかしそうな瞳に、嫌悪の感情はないのがわかる。
みるみるうちに彼女の頬は紅潮し、肌も上気したようにほんのり朱色に染まった。
ミ、ミレーユ……。なんてことだ……
彼女が少し悦んでいるのが見て取れる。情欲を露わにした男の視線に晒されることに。
その反応は男からすると堪らないもので、理性の糸がブチッと切れた。
体中の血が沸き立つようになり、股間のものにググッと力がみなぎる。
息つく間もなく彼女の腰を腕で捕らえ、気づいたら、しっかりと彼女を抱きしめていた。
「ミ、ミレーユ。そんな格好でうろついたら、危険すぎる……」
息が荒くなるのも抑えきれず、わけのわからないことをつぶやいてしまう。
この場合、どう考えても危険な狼は自分のほうだと思った。
彼女は抵抗せず、なすがままにじっとしている。
彼女の吐く息が、胸の辺りを温かく湿らせた。
薄い布地をとおし、得もいわれぬ柔らかさと、小さな蕾の硬さを感じ、恍惚となる。
股間にますます力がたぎり、目まいに襲われたみたく、頭がクラクラした。
遠く、理性が警鐘を鳴らす。エドガール・ドラポルトよ。今、そんなことをしている場合じゃないぞと。
しかし、この腕の中の柔らかい肢体を前に、警鐘など無力だった。
「エドガール……」
すぐそこで桃色の唇が、甘くささやく。
サファイアのような紺青色の瞳は上目遣いでこちらを見て、口づけをねだっていた。
体が燃えるようになり、制御が効かず、もう頭は真っ白だ。
「ミレーユ……」
ぷるんとした艶やかな唇に、吸い寄せられるように顔を近づける……
ミレーユ……
二人の唇が重なりそうになった、その瞬間。
冷気を切り裂く悲鳴が、城内に響き渡った。
「っ!?」
二人は動きを止め、はっと顔を上げた。
ミレーユが言ったことの意味がわからない。
視線を落としたまま、彼女はポツリと続けた。
「私は、あなたに情報を提供できる。どうか、ダスブリア子爵を助けて欲しいの」
「子爵を助ける……? どういう意味だ? 君たちは子爵を殺すつもりじゃないのか?」
彼女は力なく首を横に振る。
「私は……私個人の気持ちとしては子爵を助けたい。けど、一族には逆らえない。一族の力はそれはもう強大なものなの。私みたいな無力な女一人では、到底太刀打ちできない」
「つまり君は、人狼でありながら、黒煙騎士団に協力したいと言ってるのか……?」
彼女は頭痛でもするみたく額を押さえ、ふたたび首を横に振った。
「……わからない。一族とその対抗勢力の全貌とか、思想とか理念とか信条とか、そういう難しいことはわからないの。黒煙騎士団も人狼もどうでもいい。ただ、目の前の命を救いたい。それだけなの……」
彼女の言について考えていると、弱々しい声は続く。
「私は父と祖父に愛され、一族に育てられてきたから、一族を裏切りたいわけじゃないの。だから、人狼を全滅させようとする、黒煙騎士団の味方にはなれない。けど、今この瞬間、子爵が殺されるのを見過ごすわけにはいかない。だから、せめて警告しにきたの。混乱してて、ごめんなさい。私自身どうしたらいいか、ずっとわからなくて……」
「……なるほどね」
一族の方針と彼女個人の感情が対立してるってわけか……
そういうことは誰しも往々にしてある。僕だって個人的には原稿だけ書いて生きていきたいが、社会的な要請でそうもいかない。人狼を探しに出たり、領地を治めたりしなければならない。
社会と個人は対立しがちで、誰もが嫌々ながら社会の要請に従うしかない。
「今夜、ここへ襲撃があると踏んで、迎え撃とうと待ち伏せしていたんだが……」
そう言うと、彼女は顔を上げ、こちらをまっすぐ見て言った。
「いいえ。今夜はたぶん中止になります」
「へ? 中止になる……?」
なぜだ? 一族たちになにか働きかけたんだろうか?
「それにエドガール。たった一人で迎え撃とうなんて絶対無理。逆に殺されちゃう」
「丸腰で迎え撃とうってわけじゃないよ。ちゃんと備えはしてあるさ……」
すると、彼女はこちらへ一歩踏み出し、エドガールのシャツの胸の辺りをぎゅっと掴んだ。
「そんなの、絶対ダメ! あなたが思ってる以上に人狼ってすごく強い。本当に恐ろしいものなの」
すがるような瞳を見下ろし、ドキッとした。
暖炉の明るい炎が、彼女の体を照らし出している。
ネグリジェはとても薄い生地で織られ、透け透けでその中がよく見えた。
ほっそりした肩と、艶めかしくくびれた腰のライン、小さなお臍の穴まではっきりと。
はちきれんばかりの豊満な膨らみは、うっとりするような曲線を描き、窮屈そうに薄布を押し上げていた。
その頂きにある、薔薇の蕾のような小さな突起に、目が釘付けになる。
薄布越しに、そこが綺麗な淡い紅に色づいているのが見えた。
それはすごく可愛らしいのに、ひどくいやらしくて堪らなくて……
すぐそこに若い女性の生々しい肢体を感じ、体中の血がカアッと瞬間沸騰する。
強すぎる視線を感じたのか、彼女は「ん?」と自らの体を見下ろした。
「あっ……」
明るすぎる炎が、自分の裸体を浮かび上がらせているのに気づき、彼女は小さく声を上げた。
しかし、彼女は乳房を隠さない。少しまぶたを伏せ、視線を逸らしただけだった。
その恥ずかしそうな瞳に、嫌悪の感情はないのがわかる。
みるみるうちに彼女の頬は紅潮し、肌も上気したようにほんのり朱色に染まった。
ミ、ミレーユ……。なんてことだ……
彼女が少し悦んでいるのが見て取れる。情欲を露わにした男の視線に晒されることに。
その反応は男からすると堪らないもので、理性の糸がブチッと切れた。
体中の血が沸き立つようになり、股間のものにググッと力がみなぎる。
息つく間もなく彼女の腰を腕で捕らえ、気づいたら、しっかりと彼女を抱きしめていた。
「ミ、ミレーユ。そんな格好でうろついたら、危険すぎる……」
息が荒くなるのも抑えきれず、わけのわからないことをつぶやいてしまう。
この場合、どう考えても危険な狼は自分のほうだと思った。
彼女は抵抗せず、なすがままにじっとしている。
彼女の吐く息が、胸の辺りを温かく湿らせた。
薄い布地をとおし、得もいわれぬ柔らかさと、小さな蕾の硬さを感じ、恍惚となる。
股間にますます力がたぎり、目まいに襲われたみたく、頭がクラクラした。
遠く、理性が警鐘を鳴らす。エドガール・ドラポルトよ。今、そんなことをしている場合じゃないぞと。
しかし、この腕の中の柔らかい肢体を前に、警鐘など無力だった。
「エドガール……」
すぐそこで桃色の唇が、甘くささやく。
サファイアのような紺青色の瞳は上目遣いでこちらを見て、口づけをねだっていた。
体が燃えるようになり、制御が効かず、もう頭は真っ白だ。
「ミレーユ……」
ぷるんとした艶やかな唇に、吸い寄せられるように顔を近づける……
ミレーユ……
二人の唇が重なりそうになった、その瞬間。
冷気を切り裂く悲鳴が、城内に響き渡った。
「っ!?」
二人は動きを止め、はっと顔を上げた。
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