孤高のCEOと子作りすることになりました!

吉桜美貴

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1巻

1-3

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 やっぱりこの人はあなどれないな、と思った。人の心を掴むのがうまい。そして、パートナーをその気にさせるのも。
 少しだけ、気分が軽くなったような気がする。
 いつの間にか緑が増え、東北自動車道に入っていた。蕭々しょうしょうと降りしきる雨の中、山あいの高速道路をスポーツカーは突き抜けていく。
 車は日光宇都宮道路の清滝きよたきインターチェンジで降り、ヘアピンカーブだらけのいろは坂を上り、中禅寺湖ちゅうぜんじこを左に見てさらに北上する。雄大な男体山なんたいさんをのぞみ、戦場せんじょうヶ原がはらをとおり抜けたところで、まだ奥へ行くのかなと茜音が思いはじめた頃、龍之介は小さな側道へハンドルを切った。
 別荘は、湯ノ湖ゆのこを見下ろす静かな高台にあった。
 色がまだらのレンガが積み上げられた建物で、ゴシック建築をしたものらしい。鬱蒼うっそうとした木々の間から現れたそれは、ヨーロッパの古城を思わせた。
 砂利の敷かれたアプローチで車を降り、茜音は大きな建物を見上げ、心から絶賛した。

「うわああ……。すっごく素敵な別荘ですね。雰囲気があって……」

 ニューヨーク州スリーピー・ホロウの画家が所有していた保養所を買い取り、リノベーションしたのだと、龍之介は語った。その画家は茜音も知る人物で、アメリカ合衆国の名門一族、ロックウェル家の第四代当主であり、親日家として知られている。

「菱橋様、お疲れ様でございました。お食事の準備はできております」

 かっちりしたウェイトレスの制服を着た、年配の女性が出迎えた。
 五十代後半ぐらいだろうか。ひっつめた髪には白髪が混じり、目尻のしわが温厚そうだ。

「ここの管理をしてくださっている中森なかもりさん。ここに滞在中は中森さんのお世話になるから」

 龍之介に紹介された中森は、深々と頭を下げた。

「よろしくお願いいたします。なんなりとお申しつけくださいませ」
「こちらこそよろしくお願いします」

 茜音も慌てて礼を返す。
 すると、龍之介と中森はひそひそとやり取りしはじめた。

「大丈夫だった?」

 龍之介が問うと、中森は緊張した面持ちで言う。

「はい、問題ありません。現れなかったようです」

 耳をそばだてていた茜音に、しっかりと聞こえた。
 んん? 現れなかった? ……誰が?

「じゃ、先に邸内を案内するから」

 中へ入るよううながされ、なにも聞こえなかったフリをし、彼のあとに続いた。

「中森さんは夜にはいなくなるから」

 さりげなく耳打ちされた艶っぽい響きに、どうしようもなくドキドキする。
 邸内はため息が出てしまうほど、ぜいの凝らされた空間だった。
 まずは、広々としたリビング。目にまぶしい真っ白なカバーが掛けられたソファが、爽やかなチークのテーブルをぐるりと囲み、何十人もくつろげそうだ。
 西側の壁はすべて取り払われ、湖に向かってリゾート風のウッドテラスが繋がっている。
 軽く十人は座れるダイニングには、薔薇ばらつぼみのようなシャンデリアが、用意された二人分の銀食器を照らしていた。

「一階に屋内のヒノキ風呂、二階に露天風呂があるんだ。どちらも、源泉掛け流し」

 龍之介の説明に、茜音は内心大喜びだ。しかも、立派なサウナと水風呂にジャグジーも付いているし!
 ベッドルームは数えきれないほどあった。露天風呂付きのものと和室も含めると、六つか七つか。
 キッチンは、シェフが調理の真っ最中ということで立ち入り禁止だったが、古今東西ここんとうざいのワインで埋め尽くされたワインセラー、ビリヤードが楽しめるプレイルームにシアタールーム、さらにリビングの一角を低くし、暖炉だんろを備えたシガースペース、地下にはトレーニングマシンのあるジムとスカッシュコートがあった。
 一部屋ずつ案内されるたび、感嘆かんたんせずにはいられない。豪邸を紹介する住宅情報番組の、インタビュアーになった気分だった。

「そんなにめずらしくもないだろ。リアクションが大げさすぎないか?」

 冷ややかに言う龍之介に、茜音はぶんぶん手を振ってみせる。

「とんでもない! 私は庶民派ですから、これほどまでゴージャスな別荘はさすがに経験ないです」

 ダイニングに戻り、腕のいいシェフがこしらえたという、フレンチのコース料理を食べた。
 見た目の美しさも、味の繊細さも、かつてないほど素晴らしく、すっかり感動してしまう。龍之介クラスになると、神様みたいな腕を持ったレジェンド・シェフが、世界中どこにでもついてくるらしい。
 それから数時間後、茜音は独り二階の露天風呂から、湯ノ湖をはるかに眺めていた。
 別荘は高台の斜面に建っているため、視界をさえぎるものはなにもなく、湯ノ湖の全貌をじっくり観賞できる。男体山や温泉ヶ岳ゆせんがたけ金精山こんせいざんといった山々に抱きかかえられるように湯ノ湖がある。
 それは、胸に迫ってくる絶景だった。
 きりが出てきたのか、山頂は白くおおわれ、深い緑とも群青ぐんじょうともつかない湖面には、サァーッと小雨が降り注いでいる。深い静寂に包まれ、時折、鳥の鳴き声と葉擦はずれの音がかすかに響いた。
 空気は澄み渡り、湖の精霊が降臨したかのような、幽玄ゆうげんの世界がそこにある。
 ここの標高は千四百メートルを超え、気温はぐっと下がって秋の終わりぐらいの気候だ。冷たい空気が火照ほてった肌に心地よい。おおいや遮蔽壁しゃへいへきがうまく設計されており、全裸で立っていても誰かに見られる心配はなかった。呼吸するたび、体の隅々まで浄化されていく気がする。
 ゆっくり緑を眺めるのはひさしぶりだった。日々がせわしなく頭がビジネスモードになっていると、四季の移り変わりや自然の恵みに無頓着むとんちゃくになる。感覚は鈍くなり、今の季節ってなんだっけ? と思うことも少なくない。
 それにしても、昼間のアレは……
 別荘に着いたときの、龍之介と中森のやり取りが気になる。
 ――はい、問題ありません。現れなかったようです。
 このときの、二人の緊張した面持ち。「現れなかった」と聞き、龍之介はホッとしているように見えた。ということは、つまり……
 誰かが現れるのを、恐れていた? やっぱり、芸能記者とか?
 ――別に、マスコミを警戒してるわけじゃない。
 ここへ来る道中、そう言ったのは龍之介だ。なら、マスコミ関係者ではない、別の誰か……?

「やっぱり、某国のスパイ説がガチ? うぅ……寒っ!」

 体が冷えてきたので、数歩下がってふたたび温泉につかった。
 乳白色のお湯は少し硫黄いおうの匂いがし、体の芯から温まっていく。心地よさのあまり、腹の底から深いため息が出た。

「あああああああったかぁ~い! もおおお、最高……」

 独り言は、しっとりした空気に溶けていく。
 まあ、考えてもしょうがないか。彼が言うとおり、私には関係ないみたいだし……
 雨の湯ノ湖はいつまで見ていても、飽きることはなかった。温泉につかったり、浴槽の傍にあるカウチに寝そべったりを繰り返しているうちに、時間はまたたく間に過ぎていく。
 ランチが終わったあと、龍之介は書斎で残った仕事を片づけると言った。夕方まで自由時間で、例の〝夜の予定〟はディナーのあとだ。
 覚悟が決まったわけじゃない。この段階にきてもまだ、心に迷いは渦巻いていた。
 龍之介はこの不安に気づいたんだろうか? ランチのあとに距離を置いたのは、彼なりの気遣いに思える。
 ――深く考えずにアホになろうか。
 この言葉を思い出すと、心が少し軽くなった。


   ◇ ◇ ◇


 ベッドルームのドアを閉めた音がやけに響き、茜音ははっと顔を上げた。

「さて、このあとどうしようか?」

 龍之介の声は少し硬く、茜音のほうを見向きもしない。
 ヘッドボードにつけられた間接照明が、彼の高い鼻梁びりょうから唇のラインを淡く縁取ふちどっていた。
 ……お。めずらしく、神経質になってる?
 茜音はそう見て取った。どんなことにも感情を動かさない氷の男が、緊張して動揺している。
 逆に茜音は、自分でも驚くほど落ち着いていた。
 ベッドルームは和風インテリアの広い間取りで、キングサイズのベッドがドドンと鎮座ちんざしている。掃き出し窓から、先ほど茜音が入っていた露天風呂のカウチが見えた。ここから歩いて行ける造りになっているらしい。
 茜音はガウンを羽織り、秘密兵器を隠していた。このエスニック柄のロングガウンは、前のボタンを留めればロングワンピースにもなり、ディナーや外歩きに行ける便利なデザインだ。吸水性と速乾性に優れ、温泉やプールなどのリゾート地で重宝ちょうほうする、ボニーズスタイルの人気商品だった。

「そうですねぇ。もう私はシャワーも浴びたし、特にこれ以上やることは……」
「俺もさっき浴びた」
「なら、準備万端かな。さっとやって、パッと終わらせちゃいましょうか?」

 冗談めかして言うと、龍之介は眉をひそめ、冷ややかな一瞥いちべつをくれる。

「随分な言い草だな。そっちは慣れてるかもしれないけど、俺はこういうのは初めてなんだ」

 トゲのある言いかたに、肩をすくめるしかない。

「別に慣れてるわけじゃないけど……。ここでいきなり感情的になるのはなしですよ。これは契約なんだし、極めてドライな展開になることは、最初からわかっていたでしょう?」
「それはそうだが、もう少し言いようがあるだろう?」
「イライラされても困ります。私に八つ当たりしたってむだだし。お互いのせいにしないように協力しましょうって、約束したじゃないですか」
「それはそうだが……」

 龍之介は頭をくしゃくしゃと掻きむしった。あきらかに動揺している。

「そんなに難しいことじゃないんだし、とっとと終わらせて自由になりましょうよ。苦手なものは先に終わらせるべし」
「とっとと終わらせてって……簡単に言うなよ。歯の治療じゃないんだぞ」

 龍之介が動揺すればするほど、茜音は落ち着いていった。
 あれ。なんか、意外と頼りない? さっきまでの俺様キャラ、崩壊してない?
 完全無欠のCEOが垣間見せる、頼りない一面。ちょっと可愛いと思ってしまったかも……

「なら、どうします? 今日はやめておきますか? イライラされても嫌ですし、こういうのは男性がダメなら成し得ない行為ですし……」

 龍之介は、さっと頬を紅潮こうちょうさせた。

「ダメだなんて言ってないだろ。慣れないから少し緊張しているだけだ」
「なら、頑張りましょっか」

 さあ、ここで秘密兵器の御開帳ごかいちょうだ!
 えいやっ、とロングガウンを脱ぎ去る。なにかBGMでも流したいところだけど、設備がないからしょうがない。
 龍之介がこちらを振り返り、石像のように固まった。
 そこで、ピタッと時間が止まる。仁王立ちをする茜音と、それを見つめたまま動かない龍之介。
 なにを隠そう、秘密兵器とはこのシースルー・ベビードールのことである。我がボニーズスタイルの主力商品で、値段は都内で働くOLの月収約一か月分と、かなりお高めだ。
 ゴージャスな総レース仕立てで、ボディ全体にリボンを結ぶようなデザインになっている。胸のつぼみをかろうじておおう、細いレースがバストを斜めに走り、みぞおちに小さなリボンがあり、そこから腰骨に向かってレース生地が垂れ下がり、ぐるりとお尻を囲んでいる。
 囲んでいるといってもけだし、みぞおちからへその辺りは丸見え、背中はばっくり開いているので、全裸とほぼ変わらない。同じデザインのGストリング、いわゆるひも状ショーツもセットで販売されており、それも着けていた。
 我が社が自信を持ってオススメする、エロス・オブ・エロスの勝負下着。バストに絡みついたレースを、胸のつぼみが押し上げているのがなまめかしさの極み。あばらが露出しているから、ウェストがくびれて見えるし、レースの割れ目からのぞくおへそが、さらにエロスを演出してくれる……はず。

「それ、どういうつもり?」

 龍之介の氷のような声が、地獄の底から響いた。ように聞こえた。
 ん? もしかして、お気に召しませんでした……?

「あのー、サポートしようと思いまして。アシストというか」

 一応説明すると、龍之介はぴくりと片眉を動かした。

「……アシスト? 俺のことを?」
「すべてを龍之介さんにお任せするのもアレですし、私もなにかできることはないかな~と考えまして……。少しでも龍之介さんがナイスゴールを決めるための、アシストになればと」

 サッカーにたとえるとは、我ながらうますぎると思っていると、龍之介は眉間にしわを寄せた。
 あれ。もしかして、あきれられちゃった……? ちょっとこのベビードールじゃ、セクシーが過ぎたかな?
 おもむろに、龍之介は着ている服を脱ぎはじめた。ヤケクソになったように、脱いだ服を一枚ずつ床に叩きつけている。
 あっという間に、彼はボクサーショーツだけになり、茜音は思わず息を呑んだ。
 惚れ惚れするような肉体美がそこにあった。予想よりはるかに引き締まった体つきで、上腕筋がしなやかに隆起りゅうきし、丸く膨らんだ胸筋を薄い体毛がおおっている。肩幅はがっしりと広く、腹筋も見るからに硬そうで、むだなぜい肉はいっさいない。マッチョ過ぎるしつこさはなく、女性なら誰もがひと目見て「素敵!」とテンションが上がるぐらいの、理想的な鍛えかただった。
 これほどまで均整の取れた、筋肉美を誇る男性を見たことがない。ぶしつけとは知りつつ、じろじろ眺めていると、龍之介は酷薄こくはくな笑みを浮かべた。

「……慣れてるんだろ? こういうの」

 言いながら、龍之介は大股おおまたで近づいてくる。
 ……な、なんで彼は急に怒っているわけ?
 なすすべもなく棒立ちになっていると、目の前まで来た龍之介に、素早く手首を掴まれた。
 その握力の強さに、ドキリとする。
 握られた手首が、ひどく熱い。

「なら、さっとやって、パッと終わらせようか。君の言ったとおりさ」

 低い声は残忍ざんにんに響く。
 こちらを見下ろし、口角を上げる妖艶ようえんな美貌。
 そのとき襲われた感情が、恐怖か興奮かわからないまま、背筋せすじがゾクッと粟立あわだった。


   ◇ ◇ ◇


 焼けるような素肌の熱さに、茜音は呼吸を止めた。
 ……うあっ……。熱いっ……
 頬が、弾力ある胸板に当たり、ふわふわした体毛にくすぐられる。すぐそこで、龍之介の鼓動がとどろいていた。
 それ以上に、自分の心臓のほうが爆発しそうだ。
 うっとりするような香りに包まれ、まぶたの裏側がくらりとする。
 上品なオードトワレに、野性的な匂いが混じったようないい香り。鼻いっぱい吸い込むと、下腹部の芯に小さな火が灯る心地がした。
 背中に置かれた龍之介の手がするりと下がり、ちょうど腰の中心にきたと思ったら、ぐっと力が込められ、彼の股間が密着する。
 思わず、茜音は目を見開いた。
 ……あっ。こ、これは、もしや……?
 きゃーっ、と声を上げそうになるのを、すんでのところで耐える。
 彼のものは硬く大きく膨らみ、下腹部をぐいぐい押してきた。さらに腰を抱く手は力を入れ、容赦ようしゃなくそれを押しつけてくる。
 わわわ、わかった、わかったってば! こんなにガチガチなら、心配することなさそう。あとはさくっと終わらせてくれれば……
 冷静でいようとしても、ドキドキしすぎて目が回りそうだった。
 硬く怒張どちょうしたものと、あまりに高すぎる体温が、彼の感じている興奮を生々しく伝えてくる。震えるほどの興奮に感染し、こちらもとんでもないテンションになっていた。
 いったいなにが彼をこんなに興奮させているのかわからない。自分がなぜ、こんなにドキドキしているのかも。
 嫌悪感はまったくない。堪らなくセクシーないい香りと、たくましい筋肉の熱に包まれ、失神しそうなほど心地よかった。
 うん。なんか想像していたより、はるかに素敵かも。この感じなら、そんなにひどい事態にはならなそう……
 おずおずと彼の背中に両腕を回すと、がっしりした体躯たいくはかなり厚みがあり、男らしくて好感度が上がる。
 心なしか彼の呼吸が、荒い。

「……慣れてるんだろ? こういうの」

 声は挑発するように、意地悪く響く。彼はすでに、礼儀正しい男の仮面を取り去っていた。
 いや、慣れていないどころか、まったく経験もないっていうか、なんというか……
 どう答えようかぐるぐる考えていると、龍之介はどんどん大胆になってきた。腰にあった彼の手がさらにくだり、ベビードールのすその内側に入ってきて、さわさわとお尻を撫で回す。
 ……ん? んんっ? ちょ、ちょっと……?
 大きな手のひらは、曲線をたしかめるように、お尻の表面をじわじわと這っていく……
 触れかたがひどくいやらしく、さながら痴漢でもされているみたいで、くすぐったさに四肢ししがふるふる震えた。
 けど、嫌じゃなくて。すごくいやらしいんだけど、背徳感混じりの妙な快感があって……
 彼の触れたところから、産毛うぶげが逆立つような刺激が生まれる。もっとしっかり触れて欲しくて、もどかしさがつのった。
 手のひらはゆっくり円を描きながら、舐めるように肌の表面を滑っていく……
 指先はやがてお尻の谷間に侵入し、後孔をやんわりかすめたあと、秘裂の割れ目に到達した。花びらの内側をまさぐられ、腰がピクンッ、と跳ねてしまう。

「……あれ。ここ、まだまだじゃない? そっちも準備できてるのかと思ったけど」

 冷淡な声とは裏腹に、指先は花びらを一枚ずつめくり、割れ目をそろそろと愛撫しはじめた。
 感じやすいところに触れられ、背筋せすじに震えが走り、変な声が漏れそうになる。
 くちゅくちゅ、ぴちゅっと、かすかな水音が響き出す。
 ん、ちょ、ちょっと、くすぐったっ……ていうか、あぁ……
 ソフトなタッチが、気持ちよすぎて腰が抜けそう……
 だんだん水音は大きくなり、ももの内側をぬるい液が伝い落ちた。
 未経験の刺激に翻弄ほんろうされ、ひざはガクガクと笑い、倒れないよう必死で彼にしがみつく。
 彼は屈強な片腕で茜音を悠々ゆうゆうと支えながら、信じられないほどいやらしい責め苦を与え続けた。

「ちょ、ちょっと待っ……わたしっ……」

 体に力が入らない上に、がっしり抱きかかえられ、簡単に逃げられない!
 そうこうするうちに、指先は奥にある小さな花芽を探し当て、そろりと撫でた。
 うわっ。うわわわっ……!
 じんじんする刺激に耐えきれず、反射的に背筋せすじが、ビッと伸びた。
 しかし、彼の指はそこから撤退せず、花芽をしっかり捕らえている。

「……足、もっと開けよ」

 色っぽい声でそう命じられ、なぜか逆らえない。
 従順なロボットみたいに、ひざを震わせながらどうにか足を開いた。
 すると、指先は卑猥ひわいうごめき、小さな花芽をクリクリと押し回しはじめる……

「もっと、力抜けよ」
「あ、んっ、だ、だって……あ……」

 柔らかいタッチで花芽を擦られ、いやがおうでも、うねりがせり上がってくる。
 こんなところ、自分で触ったこともない。ひりつくような快感に間断かんだんなく襲われ、なにがどうなっているのか、自分でもわからなかった。
 怖いんだけど超気持ちよくて、やめて欲しくないけど恥ずかしくて、ただ彼にすがりつくしかできない。
 そのとき、別の指が蜜口から中へ、ぬるりと滑り込んできた。
 冷えた指が膣内の粘膜に触れ、んんっ、と息を呑む。
 蜜口は粘りけのある蜜にまみれており、長い指は難なく奥まで、ずぶずぶと挿し入った。
 指のゴツゴツと骨ばった形が、クリアに感じとれる。
 指はまるで男根がそうするように、奥のほうの媚肉をにゅるにゅる擦りはじめた。

「……っ!」

 なっ、なにこれっ……。き、気持ちよすぎて、ヤバイッ……
 指は巧みに花芽をもてあそび、同時に別の指が媚肉を揺さぶり、蜜が掻き出される。
 どの指がどうなっているか、さっぱりわからないけど、現状を分析している余裕はなかった。
 熱をびた媚肉が、ひんやりした指を少しずつ温めていく……
 媚肉を掻いている指が、だんだん同じ温度になっていくのが、無性にドキドキした。

「とろとろのぐちゃぐちゃだ。ほら……」

 彼はわざと指を激しく出し入れし、ぶちゃっ、ぐちゃっ、と音を立ててみせる。
 ちょ、ちょっと、やめて……
 恥ずかしいのに、「あっ」とか「うぅ」しか声が出ない。次々に迫りくる快感の波に、意識までさらわれてしまいそうだ。
 のけぞった姿勢で体に力が入らず、左足だけツタのように彼のももに絡ませ、まるでタンゴでも踊っている状態だ。彼に抱えられながら、大きく開いた秘裂をいいように蹂躙じゅうりんされ、ひたすら蜜を溢れさせた。

「威勢がよかったわりには、追い込まれるのが早くないか? まだまだこんなもんじゃないだろ?」

 冷笑しながら快感を送り込んでくる彼が、もう悪魔にしか見えない。
 ……た、体勢がキツイんだけど、き、気持ち……よくて……イッちゃう……
 奥までもぐり込んだ指の腹が、ずるりっ、と敏感なポイントをえぐる。同時に、硬くなった花芽をつままれ、きゅっと押し潰された。
 すぐそこまで迫った大きなうねりが、腰の内側で白くはじける。

「……あくっ。……あぁぅっ……!」

 ビクビクッ、と我知らず腰が痙攣けいれんし、絶頂に達した。
 ……な、なにこれ。……死んじゃいそう……ああ……
 あまりの気持ちのよさに、媚肉で彼の指を締めつけ、意識がぼんやり遠のいていく……
 どろり、と恥ずかしいほど大量の蜜が溢れ、足首まで流れ落ちた。
 糸の切れた人形のようにくたっとした体を、片腕で楽々と抱え上げる彼が憎らしい。
 モヤがかかった視界に、こちらをじっと見下ろす龍之介の美貌が映った。

「……大丈夫?」

 心配そうにのぞき込まれても、肩で息をすることしかできない。

「じゃあ、ベッドに行こうか?」

 先ほどまでとは打って変わって、いたわるような眼差しと声音こわね
 初めて見せられた優しさに、なぜか胸がきゅんと切なくなった。
 龍之介は軽々と茜音をお姫様抱っこし、ベッドにそっと横たえさせる。
 仰向けになり、両膝りょうひざを立てた茜音は、龍之介を見上げた。
 彼は膝立ひざだちで片腕をマットにつき、茜音の体を眺めている。その、じっと身をひそめているようなさまが、これから獲物を仕留めようとする、ネコ科の肉食獣を思い起こさせた。ヒョウとかライオンとか、そういうやつ……
 彼の上腕筋は滑らかに盛り上がっていた。肘から先の筋肉に続いている稜線りょうせんを、つい目でなぞってしまう。
 メガネの奥にある目元は、相変わらず涼しげだった。まぶたを少し伏せ、じっと見入る灰色の瞳に、くらい熱がこもっていて、それが茜音を黙らせる。茶化したり挑発したりするのは、許されない気がした。
 龍之介さん、なんか……いつもと全然違う。別人みたい……
 こんなにも激しく、これほどまで劣情れつじょうあらわにした視線にさらされた経験は、ない。不思議と気分は高揚し、自分がすごく魅力的な女性に変身したような錯覚におちいった。
 舐めるような熱視線が肌を照射し、そこが火傷やけどしたみたいにひりひりする。
 絶頂の余韻はまだ、体にまとわりついていた。頭はボーッとし、秘裂のひりつく感じは抜けず、肌のあちこちが鋭敏になっている。
 ひんやりしたシーツが火照ほてった肌に心地よかった。上質な柔軟剤を使っているのか、アロマのようないい香りがする。

「……ここ、すごい勃ってる」

 胸のつぼみが石のように硬くなり、ベビードールの薄いレースを押し上げていた。
 両方の胸のつぼみをきゅっとつままれ、「うぅっ」と声が漏れてしまう。大きな手がレースの生地ごと乳房をわしづかみ、いやらしく揉みはじめた。
 ……あ。ちょ、ちょっと……そこは……


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