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虎の子

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「絶~っ対にダメ!」
夢の中で榊さんがオネエ言葉で喋ってる…。僕はがっついてしまった事後で、ほとんど気を失うように眠っていた。
『ずっと追いかけて調査してきて、やっと見つけた人材じゃないか!もったいない…』
「斎生は私の虎の子なのよ!絶対ダメです!」
『私が見つけた人材だよ?』
「いいえ。私が先に見つけたんです。あなたから聞いたときにはもう、私の虎の子だったんだから!」
今にも噛みつかんばかりの勢いで電話の相手に食ってかかっていた。
『美月…。代わってくれないか?』
美月が向こうでボスの代わりに出た。
『もしもし?玲児?上手くいったの?』
「当たり前でしょ?ずっと頑張ってきたんだから」
『でも井坂君ってノンケでしょ?ちゃんと出来たの?』
この娘は…。恥じらいってもんがないのかしら…。
「それは…。何であんたにそこまで言わなきゃなんないのよ!」
『だって…。あっちは初めてじゃないの(笑)』
「…。すごかった…。すごい優しかった…」
『あっそ。じゃあ話は簡単じゃない。玲児の恋人なんだから』
「だからよ!危ない事だってあるかもしれないじゃない!実際、あったんだから…」
危ない事…?実際あったって?ずいぶん物騒な夢だなぁ…。
『過保護ねぇ…。でも井坂君って案外強いでしょう?空手だっけ?柔道だっけ?』
「合気道よ!だからって…。イヤよ!そのためにたぶらかしたみたいじゃない!」
『でも、いつかはバレるわよ?その時まで隠し続けるつもりなの?その方が危ないんじゃない?…振られてもいいの?』
嫌な娘ねぇ…。痛いとこ突いてくるんだから。
『巻き込んじゃった方が目が届くから安心よ。そう思わない?』
物は言い様ね…。
「じゃあ、なんて言えばいいの?私はほんとに斎生に振り向いて欲しくて、仕事頑張ってきたんだからね」
『玲児も可愛いとこあるのね(笑)』
「そうよ!だからあたしは一途だって言ったでしょ!ハニトラだって自分のカラダは守ってきたのよ!」
『それ、あたしのおかげじゃん』
「うっ…」
『ね?』
この娘と言い合いになって勝ったためしがないのよね…。負けたわ…。確かに美月の催眠術のおかげで自分のカラダを使わなくて済んでたのよね…。
「斎生に何て言えば誤解されないかしら…」
「やってる最中にチョロッと言えば?」
はぁ?斎生が萎えちゃったらどうすんのよ!
「影山部長とはホントはやってないって?そしたらやっぱり私…。斎生を騙したみたいになるんじゃ…」
『わざと見せたんでしょ?井坂君が後付けてきたの分かってて』
「そうよ。だってもう…限界だったんだもの。ダメなら諦めようって賭けに出たの」
電話の向こうで美月が黙った。
「ねえ、どう思う?怒るかな…」
『…素直に全部言えば?あの子って誠実が服着て歩いてるような子でしょ?変に話作らない方がいいんじゃない?』
「そうかな…」
『交渉得意でしょ!どんな案件でも結果出してきたんでしょ?』
「…」
『玲児は井坂君のどこが良かったのよ。ずっと見てきたんでしょ?小細工のきく相手?あの子は本質を見抜くわよ』
「…。そうね。私、謝る所からやってみる。好きだって言ってくれた人には嘘はつきたくないから」

………………………………………………………………
僕が目を覚ますと、隣に寝ていたはずの榊さんはいなかった。僕は裸で寝てしまったのに、ちゃんとパジャマを着ていた。
「榊さん?」
寝室のドアが開いて榊さんが顔を出した。
「斎生、ちゃんと休めた?」
榊さんはTシャツにチノパンのラフな格好だけれど、しつこいようだが格好いい人は何着ても様になる…。ぽーっと見ている僕を見て、榊さんは幸せそうに笑った。
「まだ…寝ぼけてるの?(笑)」
「え…。そうじゃなくて、何着ても様になるなぁって思って…」
また赤くなった。
「斎生は恥ずかしいこと平気で言うよね(笑)」
「狙って言ってるわけじゃないですよ!」
「照れるから…。でも、嬉しい(笑)」
可愛いなぁ。
「こっち、来て下さい」
榊さんは素直にベッドに腰掛けた。
「パジャマ…着せてくれたんですか?」
「だって…。風邪引いちゃうかなって」
「心配?」
ふっと優しく笑った。
「私の大事な人だから…」
僕にとっても同じ、大事な人ですよ。
僕は榊さんを抱き寄せた。柔らかく体を預けてくれる榊さんはすごく嬉しそうに僕の背中に腕を回した。僕は榊さんの美味しい唇にキスしようとした。
「ね、斎生?」
「ん?何ですか?」
「…。私ね、斎生に言わなきゃいけないことがあるの」
榊さんは僕にわざと後をつけさせようとしたこと。影山部長との関係のこと。どうして影山部長に近づいたのかということ。
「ごめんなさい。騙すような真似をして…。でも、私はずっと斎生を見てきたの。あなたの仕事ぶり、周りの人に対する姿勢…。あなただって自分のことより周りの人のことばかりで。そんなに器用じゃないのに、人のことばっかり助けて…。その内、あなたの良さに気付いた女の子にとられちゃうんだろうなって思ってた…」
榊さんは不安そうに僕を見た。確かに僕ははめられたのかな?と思ったけれど、それよりも影山部長と付き合ってなかった事にホッとした。
「じゃあ…。影山部長とは何もないんですか?」
榊さんは頷いた。
「良かった…」
「あの…。斎生は怒ってないの?」
「えっ?何で?」
榊さんは僕の手を大事そうに自分の手の中に包み込んだ。
「部長と付き合ってるふりをして、斎生を追い込むような事を…」
「僕が勝手に心配したんですよ?」
「でも、私はそれを利用したの。これで何も起きなかったら、諦めようって思ってた。もう限界だったの。憧れられる上司って立場が」
僕は榊さんを自分の胸に抱き寄せた。
「あの夜、追いかけて良かったです。榊さんに追い込まれて、自分の気持ちに気付けて良かった…」
榊さんは綺麗な顔に綺麗な涙を零した。
「斎生を好きになって良かった。諦めなくて良かった…」
子供みたいにしゃくり上げる榊さんが愛おしかった。僕は榊さんをもっと知りたいと思った。この人の全てを確かめたい。
「あの…。榊さん」
「うん…」
言葉にならないけれど、この瞬間お互いを求めていることを感じていた。再び二人はお互いの躰に溺れていった。
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