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断ち切る想い

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遠くの街の光が流れていくのがうつろな目に映る。どこに向かっているのか自分でも分からなかった。さっきまで流れていた涙で頬に乾いた膜が出来ていて、触ると変にツルツルしてつっぱる。准が乗った車輌には誰もいなかった。泣いていても誰かに見とがめられることもない。窓辺に寄りかかり、冷たい窓に顔を押し当てた。航のぬくもりが恋しかった。昨日の朝まで幸せの中にいたはずなのに。
「航…。ごめんなさい」
自分から手放した。よく考えたら、欲しいものを欲しいと手を伸ばしたことが今まであっただろうか。それが出来てたら良かったのかな?
列車は南へ向かってどこまでも進んでいた。准は無意識の内に海のある方へと進んでいた。

「自分がお店を開くとしたらどこがいい?」
店のみんなで箱根に旅行に行ったとき、お風呂上がりにロビーでビールを飲みながらだべっていた。そんな時、さやかが准に聞いてきた。
「僕?そうだなぁ…。これでも僕、水泳部だったのね。だから山よりは海の方が好きだから…。海が見える丘の上に持てたら最高かも…」
「あ~いい!それいいね!あたしは寂しいのダメだから町中のごちゃごちゃしたところがいいな!近所のお店の人とかと仲良くなって、仕事終わりにごはん食べに行ったり、商店街の旅行に参加しちゃったり…」
「…らしいね。想像つく(笑)」
さやかがビールを美味しそうに飲んでいる。陽気なお酒のさやかは、少し頬を赤くして気持ち良さそうに喋っていた。
「准のお店はどんな風にしたい?外観とか内装とか」
「ヨーロッパの田舎の小さいお家みたいな外観にする!中は漆喰で壁塗って、梁がむき出しで…」
「可愛い!准らしい!そこで白いシャツ着てさ、黒の腰までのエプロンして…」
「それじゃレストランのウエイターだよ(笑)」
さやかがムッとして、僕の頬をつねった。
「痛いよ…」
「准は白いシャツが似合うの!エプロンは黒なの!」
ダメだ…。出来上がってる。
「はいはい(笑)白シャツが似合うの?他には?」
「シンプル白Tシャツにジーンズ…」
「どうでもいいんでしょ!」
「バレた?」
「自分が言いだしたのに💢」
ムッとすると、さやかは急に泣きそうになった。
「准が怒ってる(泣)」
「あ~怒ってない!ごめんごめん!」
店長が笑っていた。
「あ~、准が泣かせた~(笑)」
「え~…。どっちかって言うと僕が泣きたい…」
さやかの泣き上戸に困ってる僕を見て、店長が他人事みたいに大笑いしていた。

「静岡…。海、綺麗だったな」
とりあえずの行き先を海辺の街にして、東京駅に降り立った准は路線図を見上げていた。

…………………………………………………………………
「やっぱりあんただったのね!准に何を吹き込んだのよ!」
さやかは祐貴の店に来ていた。祐貴は駅まで行ってはみたものの、いるはずのない准をどう探していいのか分からずとぼとぼと帰ってきた。そして仕事場に着くと、店の前に仁王立ちになったさやかがこちらを睨んでいたのだ。
「あ、准と一緒に働いてた…」
「今は違う所だけど。あんたでしょ!昨日の夜、店に行った?」
「…」
「何とか言いなさいよ!とぼけるつもり?」
「いや、俺は…」
「見たって言う人がいたんだからね!准になんて言ったの」
「…。そのまんまの事実だよ。お見合いの話があるって。お偉いさんとのいい話で、出世出来る…」
「ねぇ。わざわざ何でそんなこと言いに行かなくちゃなんないのよ!嫌がらせ?」
「いや、そんな風には…」
「じゃあよりでも戻してもらおうと思ったってわけ?」
祐貴は黙って頷いた。次の瞬間、頬に痺れる痛みが走り、泣いているさやかがいた。無意識に自分の頬に手を当てて呆然と立ち尽くす祐貴にさやかは叫んだ。
「ふざけんな!あんたのおかげで准がどれだけ泣いたと思ってんの!」
怒りで体を震わせながら、祐貴に向かって吐き捨てるように言った。
「ほんとにくそくだらない!自分の事しか考えてない!あんたはサイテーの男だよ!」
「あっ…」
「なによ!言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ!」
「ごめん…」
さやかは呆れたように祐貴を見つめた。
「バカなの?あたしに謝って何になるっていうのよ!…。ここに来ても何にもならないのは分かってた。ただむかつくだけだって」
さやかは息を飲むと静かに言った。
「でも、悔しかった。准が自分から愛してる人を手放した事。なんてバカな子なんだって…。もうあんたには用はない。これ以上関わらないで」
さやかはそれだけ言うと祐貴に背を向けた。祐貴が頭を抱えて座り込んでいたが、そんなことどうでもよかった。祐貴に思いっきり文句を言って、思いっきり殴ってやっても、やっぱり何にも変わらない…。むなしいだけだった。
「准。准は間違ってる。ちゃんと増田さんと話していれば…。たった三日だって、その前からお互い好きだったんだよ?指環まで用意してたんだよ?そんなの諦められるわけないでしょ?」
さやかは悔しくて涙が止まらなかった。さやかにとっても、准は特別なかけがえのない友達だった。
「准に励まされてどれだけ嬉しかったか…。あたしだって会いたいよ。帰ってきてよ…」
でも、きっとすぐには見つからない気がしていた。人を大事にする准が連絡を絶った。増田さんは自ら命を絶つ事はないって言ってたけど、さやかにはちょっと信じられなかった。
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