ラストレター

ハジメユキノ

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手紙vol.2

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「いらっしゃい。また来てくれたんですね。待ってたんです」
弘樹の母の洋子が迎えてくれた。
「先に弘樹に会ってきました。良い天気だったもので」
「ありがとう。この前来てくれた時から、やっと弘樹の部屋の整理をしようと思えるようになったんです」
「それは、良かったです。この前お借りした手帳と仕事の資料。ずいぶん助かりました。ありがとうございました」
洋子に手渡すと、弘樹が帰ってきたみたいに大事そうに胸に抱き締めた。
「弘樹の時、私は何もしてあげられなかったんです。その事をずっと後悔していました。私はもう弘樹のような悲しい結末を誰にも迎えて欲しくない。相手を辞めさせる所まではいかなかったのですが、もう人を傷つけるような言動は控えるはずです」
「そうですか…」
「すみません…。弘樹の為に何も出来なかった上に、責任を取らせる事までにいかなくて…」
洋子さんは小さく首を振った。
「もう、いいんです。やっと気持ちの整理が出来てきた所ですから…」
居間に通されて、お茶を出してくれた。少し話をしていたとき、洋子さんが封筒を棚から取り出した。
「これね、本の間に挟まっていたの。」
封筒の宛名は俺だった。
「これ…?」
「ごめんなさい。中身を見てしまったわ。あの子が何を考えていたのか知りたくて…」
「いや、それはいいんです。これって、私に宛てた…」
「ええ。弘樹があなたに宛てた最後の手紙よ」
…………………………………………………
優作
俺、お前と一緒に過ごした時間、俺の一生で一番いい時間だった。
ありがとう。
もっと沢山やりたい事あったはずなのに、何でだろうな。もう決めちゃったんだ。
きっとお前がここにいたら殴ってでも止めてくれたろうな。
でも、ごめん。
ありがとう。
ごめんな。
     弘樹
……………………………………………
「バカヤロウ…」
小さく呟く優作の膝に、芹はそっと手を置いた。
「ほんとにね、我が子ながら…バカな子です」
こんなの弘樹がいなくなってすぐ読んでたら…。きっともっと自分を責めていただろう。このタイミングで手紙が自分の元に届いたのは、あいつの優しさなのかもしれない。
「すみません…。」
お前は本当に俺を解放するために夢に出てきたのか?あの時、弘樹が言ったように俺を愛してくれる人を見つけた。そのおかげで、逸れてしまった道から歩むべき道をまた見つけることが出来たよ。
「あいつ、弘樹がこの前私の夢に出てきたんです。俺が弘樹を助けられなかったから、俺は幸せにはならないんだと言ったら、お前を愛してくれる人が必ずいるから、幸せになれって。もう10年も経ったんだぞって」
「そうですか…。10年ですもんね」
この10年。間違った事ばかりしてきた。でも、それでもがむしゃらに前には進んできた。
「私も…前に進む時が来たのかな…」
弘樹の手紙は、俺と洋子さんの背中をそっと押してくれているようだった。

弘樹の家を離れるとき、洋子さんは言った。
「あの、お二人は…」
「パートナーです」
「やっぱりそうなんですね」
「驚かれましたか?」
俺の問いに洋子さんは笑った。
「いいえ。すごく素敵」
素敵?
「お互いが本当に信頼しあってて、良い関係だなって思います」
さすが弘樹のお母さんって感じだな。な、弘樹(笑)。
だろう?
弘樹の笑顔がふっと浮かんだ。
幸せになれそうだな。
ああ。おかげさまで(笑)。
相手が男ってのがびっくりだけどな(笑)。
俺もそう思う(笑)。
でも…こんなに綺麗なら…。
良いだろ?
だな(笑)。
弘樹は俺の心の中にいた。芹の心の中に陸玖がいるのも悪くないと思った。全部引っくるめての相手だ。そんな大切な人に妬いたところで敵いっこないんだから…。

弘樹の家から自分達の家に帰る車の中で、俺は隣にいる芹の手を握った。芹は指を絡めて俺の薬指の指輪をクルクルと回した。
「どう?自分のものだって印が付いてるのは?」
「これ?」
指輪をクルクルするのをやめない。
「証として…うれしいよ」
「証?」
「だっていくら指輪を付けたって、別れてしまう人達がいっぱいいるでしょ?裏切る人だって…」
「まぁそうだな」
「俺達はさ、紙の契約すらない関係だから、愛してるって証として俺にくれたり、付けさせてくれたことがうれしい(笑)」
証ね。良い言葉だな。
「じゃあ、これは愛の証ね(笑)」
「改めて言うと、気障だな(笑)」
「お前が言い出したんだろ?」
「そうです(笑)」
笑う芹を早く抱き締めたかった。俺はこの世で唯一の人に出会えたんだと伝えたかった。
「夜何食べる?」
こいつの頭の中は、食べ物のことなのかよ…。
「どっかで軽く食べて帰ろう?」
「あぁ、いいよ」
「…そしたら、うちに帰ったら」
「うん?」
「俺のこと食べていいよ(笑)」
あぁ、もう!
「そう…。覚悟しろよ(笑)」
「何するつもり?」
クスクス笑う芹をどうしてやろうかと、そんなことばかり考えてしまった。
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