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手紙vol.1
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続報は悲しいものだった。
千聖の診療所の駐車場で伊能の車が見つかった。夕方、面会に訪れて伊能は…。千聖と芝生の庭の先の手すりを乗り越えたらしい。
千聖の病室には書き置きが残されていた。
さようなら
さようなら
たった五文字の二行は、それぞれ別の人物の筆跡だった。
そのスキャンダルで男達は世間のバッシングに耐えきれず、櫛の歯が欠けたように第一線から姿を消していった。
自業自得な男達は、自分の欲望に忠実過ぎて全てを失った。犠牲を強いられてきた女達は、それぞれ別の道を力強く生きていった。
「鴨川さん。お久しぶりです」
見違えるような明るい顔をスタジオに覗かせたのは尚美と黒木だった。彼女たちはしばらく好奇の目に晒されていたが、それぞれ弁護士やサポートしてくれる人々に守られ、仕事に復帰していた。
「お元気そうで(笑)」
「元気です(笑)」
二人ともベテランのファッションモデルとして雑誌の表紙に起用されることが増えた。特集ページでも競うように出ている。
「お二人と仕事すると…あっという間に終わります(笑)」
「それはほめ言葉?」
「もちろん!こちらの要求へのレスポンスが良すぎて、枚数撮らなくてもいいのが撮れます」
「もっと沢山撮ってもいいんですけど(笑)」
モデルとしての仕事だけじゃない。犯罪の被害者で傷を負った女性達をサポートする側にも回っている。もう黙って耐える時代は終わらせたい!と精力的に活動している。
「鴨川さんは…。週刊誌、お辞めになったんですってね?」
「そう。禮ちゃんに言われた時、心が決まりました」
パパラッチなんて…お辞めになったらいかがですか?
あれは効いた。ものすごいボディブロー。じわじわと痛みが体を侵食するように、自分のやるべき仕事が明確になった。
…………………………………………………
ある日、芹の仕事部屋のマンションに一通の封書が届いた。差出人は…。某国で陸玖と一緒に取材していたアメリカ人ジャーナリストだった。
手紙には、届けるのに何年もかかって申し訳なかったというお詫びの言葉と、宛先の人物を特定するのに思いの外手間取ってしまったと書かれていた。まさか相手が男だとは、ゲイ大国のアメリカ人でも気付かなかったとジョークまで書いてあった。
そして、陸玖が亡くなった日のことも詳しく書いてあった。
よく晴れたあの日、俺達は一旦休戦協定が結ばれたと聞いて取材に訪れていた。しかしそれが罠で、外国人ジャーナリストに実情を知られては困る某国の軍人が待ち構えていた。
俺がマイクを村人に向けた瞬間、その様子を撮っていた陸玖の胸に一発、銃弾が撃ち込まれた。カメラを握ったまま倒れ込んだ陸玖は即死だった。多分、なにが起きたが分からなかっただろうと医者は言っていた、と。
陸玖はとてもいい男だった。優しくて勇敢で…。現地でもモテてた(笑)。俺もこいつになら抱かれてもいいって思ったよ(笑)。
俺は陸玖が大好きだった。尊敬してた。一緒に仕事が出来て、本当に幸せだった。この上ない幸運だと神様に感謝してたんだ。
そんな陸玖が愛した芹に、陸玖が残した手紙を送るために芹、あなたを探し続けていました。
どうか、これを読んで陸玖を忍んで下さい。でも、自分の人生の歩みを止めないで。
親愛なる芹へ ジェームズより
芹。俺は芹と出会って世界が広がった。
あの時、芹の手を離さなくて本当に良かった。
芹を好きだと認めた時、芹と一緒になった時、写真を沢山撮って見せ合った時。
全部の思い出に芹がいる。
俺は幸せだ。
愛する人がいて、好きな仕事をして。
神様に嫉妬されるんじゃないかって思うときがある。
芹。もし、俺に何かあったら、ちゃんと幸せになるんだよ。
俺のこと怒っていいから、忘れていいから。
芹は幸せになれ。
ちゃんと愛してくれる人が必ずいるから。
芹を置いて先に逝っちゃったら…。
縁起でもないこと言うけど、そんなことも平気で起きる場所だから、伝えたい言葉は怒られても残す。
愛してる、芹。
俺に何があっても、俺は幸せだった。
芹も幸せになれ。
怒っても泣いてもいい。忘れても怒らないから。
幸せになるんだよ。
俺の愛した人は、とても素晴らしい人だから。
千聖の診療所の駐車場で伊能の車が見つかった。夕方、面会に訪れて伊能は…。千聖と芝生の庭の先の手すりを乗り越えたらしい。
千聖の病室には書き置きが残されていた。
さようなら
さようなら
たった五文字の二行は、それぞれ別の人物の筆跡だった。
そのスキャンダルで男達は世間のバッシングに耐えきれず、櫛の歯が欠けたように第一線から姿を消していった。
自業自得な男達は、自分の欲望に忠実過ぎて全てを失った。犠牲を強いられてきた女達は、それぞれ別の道を力強く生きていった。
「鴨川さん。お久しぶりです」
見違えるような明るい顔をスタジオに覗かせたのは尚美と黒木だった。彼女たちはしばらく好奇の目に晒されていたが、それぞれ弁護士やサポートしてくれる人々に守られ、仕事に復帰していた。
「お元気そうで(笑)」
「元気です(笑)」
二人ともベテランのファッションモデルとして雑誌の表紙に起用されることが増えた。特集ページでも競うように出ている。
「お二人と仕事すると…あっという間に終わります(笑)」
「それはほめ言葉?」
「もちろん!こちらの要求へのレスポンスが良すぎて、枚数撮らなくてもいいのが撮れます」
「もっと沢山撮ってもいいんですけど(笑)」
モデルとしての仕事だけじゃない。犯罪の被害者で傷を負った女性達をサポートする側にも回っている。もう黙って耐える時代は終わらせたい!と精力的に活動している。
「鴨川さんは…。週刊誌、お辞めになったんですってね?」
「そう。禮ちゃんに言われた時、心が決まりました」
パパラッチなんて…お辞めになったらいかがですか?
あれは効いた。ものすごいボディブロー。じわじわと痛みが体を侵食するように、自分のやるべき仕事が明確になった。
…………………………………………………
ある日、芹の仕事部屋のマンションに一通の封書が届いた。差出人は…。某国で陸玖と一緒に取材していたアメリカ人ジャーナリストだった。
手紙には、届けるのに何年もかかって申し訳なかったというお詫びの言葉と、宛先の人物を特定するのに思いの外手間取ってしまったと書かれていた。まさか相手が男だとは、ゲイ大国のアメリカ人でも気付かなかったとジョークまで書いてあった。
そして、陸玖が亡くなった日のことも詳しく書いてあった。
よく晴れたあの日、俺達は一旦休戦協定が結ばれたと聞いて取材に訪れていた。しかしそれが罠で、外国人ジャーナリストに実情を知られては困る某国の軍人が待ち構えていた。
俺がマイクを村人に向けた瞬間、その様子を撮っていた陸玖の胸に一発、銃弾が撃ち込まれた。カメラを握ったまま倒れ込んだ陸玖は即死だった。多分、なにが起きたが分からなかっただろうと医者は言っていた、と。
陸玖はとてもいい男だった。優しくて勇敢で…。現地でもモテてた(笑)。俺もこいつになら抱かれてもいいって思ったよ(笑)。
俺は陸玖が大好きだった。尊敬してた。一緒に仕事が出来て、本当に幸せだった。この上ない幸運だと神様に感謝してたんだ。
そんな陸玖が愛した芹に、陸玖が残した手紙を送るために芹、あなたを探し続けていました。
どうか、これを読んで陸玖を忍んで下さい。でも、自分の人生の歩みを止めないで。
親愛なる芹へ ジェームズより
芹。俺は芹と出会って世界が広がった。
あの時、芹の手を離さなくて本当に良かった。
芹を好きだと認めた時、芹と一緒になった時、写真を沢山撮って見せ合った時。
全部の思い出に芹がいる。
俺は幸せだ。
愛する人がいて、好きな仕事をして。
神様に嫉妬されるんじゃないかって思うときがある。
芹。もし、俺に何かあったら、ちゃんと幸せになるんだよ。
俺のこと怒っていいから、忘れていいから。
芹は幸せになれ。
ちゃんと愛してくれる人が必ずいるから。
芹を置いて先に逝っちゃったら…。
縁起でもないこと言うけど、そんなことも平気で起きる場所だから、伝えたい言葉は怒られても残す。
愛してる、芹。
俺に何があっても、俺は幸せだった。
芹も幸せになれ。
怒っても泣いてもいい。忘れても怒らないから。
幸せになるんだよ。
俺の愛した人は、とても素晴らしい人だから。
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