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3章
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大体、俺もあの三人は安全だと思ったから明かしていたのだ。
しかしあの三人を除くと、あと知っているのは紀香だけになる。でも彼女は当事者だから、ありえないだろう。
その他でこんな余計なことをしそうな奴っていうのは……。
俺は必死で考えた。
仕事上の同僚とかでも無くはないか? 俺だけ出世しているから妬まれたとか。でも俺の不倫を暴いて陥れたところで、そいつが代わりに出世するとは思えないけどな。
あとは歩関係で知り合ったママ友が偶然俺の遊んでいるところを見かけて、瑠美子に告げ口したとか……。
考えれば考えるほど、誰もが怪しく思えてきたが、どれも決め手に欠ける人物ばかりだ。
いっそ、俺の知らない奴なんだろうか? 例えば……あぁそうか、紀香のダンナとかの線もあるか?
俺は思わず手を打ってしまった。
確かに、彼なら瑠美子に告げ口はありえそうだ。妻の不貞行為を直接咎めるのではなく、不倫相手の男の妻に訴える……まぁ、その結果生じる俺へのダメージを考えれば、ある意味効果的な手段かもしれない。
問題は藤原氏がどうやって瑠美子との接点を得るかになってくるが、もしも紀香の情報管理が甘くて、いつのまにやら浮気相手の素性を調べ上げられていたとしたら……。
……そうか。それならあるかもしれない。
仮定形ばかりの推理だが、動機だけで考えれば、顔も知らない藤原氏が一番怪しく思えてきた。
そうだな、何も自分で全てを探らなくてもいいのだ。探偵事務所にでも相談すれば俺のことを調べるのも可能だと思う。
そして調べるだけ調べ上げて、最終的に莫大な慰謝料を請求する気なんだ、きっと。
『お宅の旦那さん、こんな浮気をしてますよ。証拠をしっかり集めてお互いに慰謝料を請求しあうためにも、私たちは協力しませんか?』
藤原氏のささやき声が瑠美子の耳朶を揺らす光景を想像してしまって、俺は頬を引きつらせてしまった。
俺は正直、瑠美子を甘く見ていた。最悪、俺の浮気がバレたところで、今の平穏な生活を壊したくない彼女は許してくれると踏んでいたのだ。
瑠美子はプライドの高いお嬢様だ。他所の女に亭主を寝取られて離婚だなんて、周囲にはとても言えないだろう。
それに俺自身が瑠美子にとって理想の亭主だという自負がある。
高身長高学歴高収入の3Kが揃っているイケメン。夫としての見栄えは完璧だろう。
瑠美子は賢い女だ。俺の学生時代の浮気だってうすうす気づいていた可能性は高い。それでも一時の感情に流されることなく、将棋ができることも、一流企業に就職したことも、俺自身が親と疎遠で自分が姑や舅の世話をしなくていいことも、夜には女としての自分を満足させてくれることも、すべて計算した上で俺を結婚相手として選んだ。
名前が高橋瑠美子になっちゃうことも「すでに高橋勝典な人だっているんだから、まぁいっか」と、最終的に笑い飛ばしてくれて。
あぁ、だからつまらない火遊びに目くじらを立てるより、俺が家にきっちり金を入れて、瑠美子や歩にとっての良き夫、良き父であることの方を重視するはずだと思い込んでいた。
でも藤原氏にとっては、そんなことどうでもいい話だ。
『あなたがどういう考えだろうと、私はとにかく旦那さんに慰謝料をたっぷり請求しますよ。そんな一文無しになった旦那さんと、あなたがこの先もわざわざ付き合う価値なんてあるんですかね?』
これはまずい展開だ。
金を搾り取られた俺のことを、瑠美子が大切にするはず無い。これは瑠美子ががめついと言っているわけじゃなく、息子にはまだまだ金がかかるからだ。
愛する息子のためにならないと瑠美子が判断すれば、自分だって紀香と俺に慰謝料を請求して、とっとと別れた方がいいという結論になるかもしれない。
……この『焼け木杭に火が付いた』は、瑠美子の憂さ晴らしじゃないのかもしれない……。
俺はふと気づいてしまった。
瑠美子が藤原氏から得た情報に自分の持っている知識を混ぜ込み、不倫の状況をまとめておくために書いている、という可能性。
しかしあの三人を除くと、あと知っているのは紀香だけになる。でも彼女は当事者だから、ありえないだろう。
その他でこんな余計なことをしそうな奴っていうのは……。
俺は必死で考えた。
仕事上の同僚とかでも無くはないか? 俺だけ出世しているから妬まれたとか。でも俺の不倫を暴いて陥れたところで、そいつが代わりに出世するとは思えないけどな。
あとは歩関係で知り合ったママ友が偶然俺の遊んでいるところを見かけて、瑠美子に告げ口したとか……。
考えれば考えるほど、誰もが怪しく思えてきたが、どれも決め手に欠ける人物ばかりだ。
いっそ、俺の知らない奴なんだろうか? 例えば……あぁそうか、紀香のダンナとかの線もあるか?
俺は思わず手を打ってしまった。
確かに、彼なら瑠美子に告げ口はありえそうだ。妻の不貞行為を直接咎めるのではなく、不倫相手の男の妻に訴える……まぁ、その結果生じる俺へのダメージを考えれば、ある意味効果的な手段かもしれない。
問題は藤原氏がどうやって瑠美子との接点を得るかになってくるが、もしも紀香の情報管理が甘くて、いつのまにやら浮気相手の素性を調べ上げられていたとしたら……。
……そうか。それならあるかもしれない。
仮定形ばかりの推理だが、動機だけで考えれば、顔も知らない藤原氏が一番怪しく思えてきた。
そうだな、何も自分で全てを探らなくてもいいのだ。探偵事務所にでも相談すれば俺のことを調べるのも可能だと思う。
そして調べるだけ調べ上げて、最終的に莫大な慰謝料を請求する気なんだ、きっと。
『お宅の旦那さん、こんな浮気をしてますよ。証拠をしっかり集めてお互いに慰謝料を請求しあうためにも、私たちは協力しませんか?』
藤原氏のささやき声が瑠美子の耳朶を揺らす光景を想像してしまって、俺は頬を引きつらせてしまった。
俺は正直、瑠美子を甘く見ていた。最悪、俺の浮気がバレたところで、今の平穏な生活を壊したくない彼女は許してくれると踏んでいたのだ。
瑠美子はプライドの高いお嬢様だ。他所の女に亭主を寝取られて離婚だなんて、周囲にはとても言えないだろう。
それに俺自身が瑠美子にとって理想の亭主だという自負がある。
高身長高学歴高収入の3Kが揃っているイケメン。夫としての見栄えは完璧だろう。
瑠美子は賢い女だ。俺の学生時代の浮気だってうすうす気づいていた可能性は高い。それでも一時の感情に流されることなく、将棋ができることも、一流企業に就職したことも、俺自身が親と疎遠で自分が姑や舅の世話をしなくていいことも、夜には女としての自分を満足させてくれることも、すべて計算した上で俺を結婚相手として選んだ。
名前が高橋瑠美子になっちゃうことも「すでに高橋勝典な人だっているんだから、まぁいっか」と、最終的に笑い飛ばしてくれて。
あぁ、だからつまらない火遊びに目くじらを立てるより、俺が家にきっちり金を入れて、瑠美子や歩にとっての良き夫、良き父であることの方を重視するはずだと思い込んでいた。
でも藤原氏にとっては、そんなことどうでもいい話だ。
『あなたがどういう考えだろうと、私はとにかく旦那さんに慰謝料をたっぷり請求しますよ。そんな一文無しになった旦那さんと、あなたがこの先もわざわざ付き合う価値なんてあるんですかね?』
これはまずい展開だ。
金を搾り取られた俺のことを、瑠美子が大切にするはず無い。これは瑠美子ががめついと言っているわけじゃなく、息子にはまだまだ金がかかるからだ。
愛する息子のためにならないと瑠美子が判断すれば、自分だって紀香と俺に慰謝料を請求して、とっとと別れた方がいいという結論になるかもしれない。
……この『焼け木杭に火が付いた』は、瑠美子の憂さ晴らしじゃないのかもしれない……。
俺はふと気づいてしまった。
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