4 / 19
1章
4
しおりを挟む
俺はスマホを弄りながら、ノートパソコンに向かっている瑠美子の後ろ姿をじっと眺めた。
出るとこが出ているのに、くびれもあって。これで一児の母だなんてとても思えない。ぽっちゃり体形の紀香とは大違いだ。
それに瑠美子は仕事へ行くときはもちろん、今日のように家の中にいるだけでも服装や髪型には手を抜かない。そんな美人妻に、俺も不満があるわけじゃないのだ。
夜の生活の方もうまくいってる。
五日前に抱いた時だって、瑠美子は自ら腰を振って「もっとシて」って甘い声でねだってきたくらいだ。それだから俺だって年甲斐もなく二回戦までもつれこんで……。
あぁそうだよ。それくらいに夫婦仲は良好で、だから浮気なんて疑われるはずがないんだ。
……それにしてもいい体してるよな。
瑠美子をじろじろ眺めているうちに、妙な気分になってきた。
こうやって小説に打ち込んでいるときに誘うと迷惑がられるのは知っているけど、今日は休日で時間もたっぷりあるわけだし、まぁ強引にいけばなんとかなるだろ。
あとは自分の部屋に籠っている息子が邪魔だな。あいつさえ確実に閉じ込めておけるなら、今すぐにでも瑠美子を寝室へ連れ込みたいところなんだが、はてさて……。
「ママー!」
そのお邪魔虫が不意に大きな声を上げた。生意気にも自分の部屋から瑠美子を呼びつける横着ぶりだが、あいつが母親を呼ぶなんて、どうせズボンが無いとか、学校からの配布プリントが見つからないとかそんな程度の用だろう。
「はいはーい」
それでも瑠美子は可愛い息子のため、パソコンをそのままにしてすぐ立ち上がった。
不意に無人になってしまったパソコンを見て気づく。これは願っても無いチャンスじゃないか?!
俺はいそいそと瑠美子のパソコンに近づくと、その画面を覗き込んだ。
青色の縁で囲われた画面には文章が横書きでびっしりとつづられている。画面の右上にはタイトルが小さく表示されていて、俺がその本文を読もうとしたところで、瑠美子が戻ってきた。
「やだ、何見てんのよ」
「いやぁ、どんなもんなのかなぁってちょっと気になってさ」
俺はまたソファに戻り、スマホを弄り始めた。
瑠美子も何事もなかったかのように再びノートパソコンに向かい始める。
その様子を横目でちらと確認しつつ、俺は『エブリグー』という小説投稿サイトを開いてみた。
『エブリグー』は登録すれば無料で誰でも小説を投稿できるサイトだ。
もちろん、自分では書かずに他の人の作品を読むだけでもいい。
そして、気に入った作品には一日一個、グー!といういいねマークみたいなのを贈れる。このグーの数が多いほど、その小説は人気があるという仕組み。
瑠美子がこのサイトを使って小説を書いていることは今までも知っていたけど、実際に中を見るのは初めての事だった。
俺は登録不要なゲスト待遇で入ってみたが、それでも何の不自由もなく中を閲覧できるようだ。
……ふむふむ、なるほどね。こういう感じなんだな。
トップページにはいろんなコンテストの募集が載っていて、昨日の23時59分で募集受付を終了したものも確かにあった。そのテーマは『現代人の抱える闇』。くだらない不倫ネタで悩んでいるかと思えば、ずいぶんと渋いテーマでも書くらしい。
俺は検索機能を使って、先ほど瑠美子のパソコンで見たタイトルを入力してみた。
『焼け木杭《ぼっくい》に火が付いた』
その題名の小説は一本しかなかったから、迷う必要も無くすぐにみつかる。
作者は『くるみ』。ペンネームと一緒に自分のアイコンを設定することができるようで、そこには胡桃を持った可愛いリスのイラストが使われていた。
俺は『くるみ』のマイページとやらを覗いてみることに。
するとこれまでに何十本も小説を投稿しているようで、作品がずらっと並んでいるのが分かった。
自己紹介欄には小説大好きアラフォー主婦、とだけ書いてあり、目立ちたがりの瑠美子ならもう少し解説をつけそうなものだと思ったが、誰が読んでいるか分からないネット小説だけにあまり個人情報を載せるのも良くないと自制したのかもしれない。
昨日書き終えたばかりの『現代人の抱える闇』をテーマにした短編小説も読んでみたいところだったが、まずは当初の目的通りに『焼け木杭に火が付いた』を読んでみようと思う。
出るとこが出ているのに、くびれもあって。これで一児の母だなんてとても思えない。ぽっちゃり体形の紀香とは大違いだ。
それに瑠美子は仕事へ行くときはもちろん、今日のように家の中にいるだけでも服装や髪型には手を抜かない。そんな美人妻に、俺も不満があるわけじゃないのだ。
夜の生活の方もうまくいってる。
五日前に抱いた時だって、瑠美子は自ら腰を振って「もっとシて」って甘い声でねだってきたくらいだ。それだから俺だって年甲斐もなく二回戦までもつれこんで……。
あぁそうだよ。それくらいに夫婦仲は良好で、だから浮気なんて疑われるはずがないんだ。
……それにしてもいい体してるよな。
瑠美子をじろじろ眺めているうちに、妙な気分になってきた。
こうやって小説に打ち込んでいるときに誘うと迷惑がられるのは知っているけど、今日は休日で時間もたっぷりあるわけだし、まぁ強引にいけばなんとかなるだろ。
あとは自分の部屋に籠っている息子が邪魔だな。あいつさえ確実に閉じ込めておけるなら、今すぐにでも瑠美子を寝室へ連れ込みたいところなんだが、はてさて……。
「ママー!」
そのお邪魔虫が不意に大きな声を上げた。生意気にも自分の部屋から瑠美子を呼びつける横着ぶりだが、あいつが母親を呼ぶなんて、どうせズボンが無いとか、学校からの配布プリントが見つからないとかそんな程度の用だろう。
「はいはーい」
それでも瑠美子は可愛い息子のため、パソコンをそのままにしてすぐ立ち上がった。
不意に無人になってしまったパソコンを見て気づく。これは願っても無いチャンスじゃないか?!
俺はいそいそと瑠美子のパソコンに近づくと、その画面を覗き込んだ。
青色の縁で囲われた画面には文章が横書きでびっしりとつづられている。画面の右上にはタイトルが小さく表示されていて、俺がその本文を読もうとしたところで、瑠美子が戻ってきた。
「やだ、何見てんのよ」
「いやぁ、どんなもんなのかなぁってちょっと気になってさ」
俺はまたソファに戻り、スマホを弄り始めた。
瑠美子も何事もなかったかのように再びノートパソコンに向かい始める。
その様子を横目でちらと確認しつつ、俺は『エブリグー』という小説投稿サイトを開いてみた。
『エブリグー』は登録すれば無料で誰でも小説を投稿できるサイトだ。
もちろん、自分では書かずに他の人の作品を読むだけでもいい。
そして、気に入った作品には一日一個、グー!といういいねマークみたいなのを贈れる。このグーの数が多いほど、その小説は人気があるという仕組み。
瑠美子がこのサイトを使って小説を書いていることは今までも知っていたけど、実際に中を見るのは初めての事だった。
俺は登録不要なゲスト待遇で入ってみたが、それでも何の不自由もなく中を閲覧できるようだ。
……ふむふむ、なるほどね。こういう感じなんだな。
トップページにはいろんなコンテストの募集が載っていて、昨日の23時59分で募集受付を終了したものも確かにあった。そのテーマは『現代人の抱える闇』。くだらない不倫ネタで悩んでいるかと思えば、ずいぶんと渋いテーマでも書くらしい。
俺は検索機能を使って、先ほど瑠美子のパソコンで見たタイトルを入力してみた。
『焼け木杭《ぼっくい》に火が付いた』
その題名の小説は一本しかなかったから、迷う必要も無くすぐにみつかる。
作者は『くるみ』。ペンネームと一緒に自分のアイコンを設定することができるようで、そこには胡桃を持った可愛いリスのイラストが使われていた。
俺は『くるみ』のマイページとやらを覗いてみることに。
するとこれまでに何十本も小説を投稿しているようで、作品がずらっと並んでいるのが分かった。
自己紹介欄には小説大好きアラフォー主婦、とだけ書いてあり、目立ちたがりの瑠美子ならもう少し解説をつけそうなものだと思ったが、誰が読んでいるか分からないネット小説だけにあまり個人情報を載せるのも良くないと自制したのかもしれない。
昨日書き終えたばかりの『現代人の抱える闇』をテーマにした短編小説も読んでみたいところだったが、まずは当初の目的通りに『焼け木杭に火が付いた』を読んでみようと思う。
0
お気に入りに追加
78
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
母からの電話
naomikoryo
ミステリー
東京の静かな夜、30歳の男性ヒロシは、突然亡き母からの電話を受け取る。
母は数年前に他界したはずなのに、その声ははっきりとスマートフォンから聞こえてきた。
最初は信じられないヒロシだが、母の声が語る言葉には深い意味があり、彼は次第にその真実に引き寄せられていく。
母が命を懸けて守ろうとしていた秘密、そしてヒロシが知らなかった母の仕事。
それを追い求める中で、彼は恐ろしい陰謀と向き合わなければならない。
彼の未来を決定づける「最後の電話」に込められた母の思いとは一体何なのか?
真実と向き合うため、ヒロシはどんな犠牲を払う覚悟を決めるのか。
最後の母の電話と、選択の連続が織り成すサスペンスフルな物語。
無限の迷路
葉羽
ミステリー
豪華なパーティーが開催された大邸宅で、一人の招待客が密室の中で死亡して発見される。部屋は内側から完全に施錠されており、窓も塞がれている。調査を進める中、次々と現れる証拠品や証言が事件をますます複雑にしていく。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
旧校舎のフーディーニ
澤田慎梧
ミステリー
【「死体の写った写真」から始まる、人の死なないミステリー】
時は1993年。神奈川県立「比企谷(ひきがやつ)高校」一年生の藤本は、担任教師からクラス内で起こった盗難事件の解決を命じられてしまう。
困り果てた彼が頼ったのは、知る人ぞ知る「名探偵」である、奇術部の真白部長だった。
けれども、奇術部部室を訪ねてみると、そこには美少女の死体が転がっていて――。
奇術師にして名探偵、真白部長が学校の些細な謎や心霊現象を鮮やかに解決。
「タネも仕掛けもございます」
★毎週月水金の12時くらいに更新予定
※本作品は連作短編です。出来るだけ話数通りにお読みいただけると幸いです。
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
※本作品の主な舞台は1993年(平成五年)ですが、当時の知識が無くてもお楽しみいただけます。
※本作品はカクヨム様にて連載していたものを加筆修正したものとなります。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
リモート刑事 笹本翔
雨垂 一滴
ミステリー
『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。
主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。
それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。
物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。
翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?
翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!
友よ、お前は何故死んだのか?
河内三比呂
ミステリー
「僕は、近いうちに死ぬかもしれない」
幼い頃からの悪友であり親友である久川洋壱(くがわよういち)から突如告げられた不穏な言葉に、私立探偵を営む進藤識(しんどうしき)は困惑し嫌な予感を覚えつつもつい流してしまう。
だが……しばらく経った頃、仕事終わりの識のもとへ連絡が入る。
それは洋壱の死の報せであった。
朝倉康平(あさくらこうへい)刑事から事情を訊かれた識はそこで洋壱の死が不可解である事、そして自分宛の手紙が発見された事を伝えられる。
悲しみの最中、朝倉から提案をされる。
──それは、捜査協力の要請。
ただの民間人である自分に何ができるのか?悩みながらも承諾した識は、朝倉とともに洋壱の死の真相を探る事になる。
──果たして、洋壱の死の真相とは一体……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる