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 空港から車で一時間ほど走ると、ガイドブックなどで見た事のある大きな駅前にたどり着いた。
「今日はおれ、央樹さんとホテルに泊まるから、明日の朝、実家に行くよ」
 車のトランクから荷物を取り出して暁翔が運転席にいる和翔を窓から覗き込む。
「明日は迎えに来ない」
「うん、大丈夫。間に合うように行くから」
 暁翔はそれだけ言うと車から離れた。ゆっくりと車が走り出す。
「よかったのか? せっかくお兄さんが迎えに来てたのに」
「貴重な央樹さんとの旅行ですから、こっち優先です」
 行きましょう、と暁翔が央樹の手を引く。驚いて離そうとしてもそれは叶わなかった。
「ここには、央樹さんを知ってる人なんて、誰もいませんよ」
 暁翔がまっすぐ前を見ながら隣で小さく囁く。確かにその通りだ。恥ずかしいという自分の感情より、楽しそうな暁翔の笑顔を優先してもいいだろう。どうせ、自分たちのこと知って居る人などここにはいないはずだ。
「ホテルに着いたら離してくれ」
「はい……ありがとうございます、央樹さん」
 これはいつものプレイではない。DomもSubも関係なく、お試しの恋人として央樹が暁翔の手を受け入れた。暁翔はそれが嬉しかったのだろう。少し切ない顔をして、央樹の手をぎゅっと握り直した。


 駅と直結しているホテルの高層階へと央樹を連れてきた暁翔は、絶対ここに連れてこようって決めてたんです、と部屋のカーテンを開けた。
「夜景か……すごいな」
 央樹は部屋を突っ切り、窓辺に近づく。街の明かりがキラキラと輝いている。
「僕は北海道って空港出たら牧場、のイメージだった」
「そんなわけないじゃないですか。まあ、街中に牧場ありますけど」
「あるのか?」
 暁翔の言葉に驚いて央樹が隣を見やる。暁翔はそれに小さく笑ってから、ここからは見えませんけど、と口を開いた。
「大学の敷地内に牛はいますよ」
「大学の敷地内に牛……?」
「そういう学科がありますからね」
「……なるほど」
「明後日は羊見ながらジンギスカンでも食べますか?」
「なんだその、罪悪感いっぱいの所業は……」
 暁翔の提案に、自分はよほど嫌な顔をしたらしい。暁翔がくすくすと笑い出す。
「冗談です」
「なんだ、そうだよな」
「あ、そういう場所はありますけど」
「あるのか!」
 なんて罪深いんだ、と驚く央樹に笑いながら、暁翔は窓の傍を離れた。
「今日はもう遅いので、風呂に入って寝ましょうか。プレイ兼ねて、一緒に入りますか?」
「え、いや……それは、道中のもので十分だ」
 央樹が答えると、そうですか、と暁翔は微笑み、先にどうぞ、とベッドに座り込んだ。
 その顔が少し寂しそうだ。央樹は少し逡巡してから暁翔の前に立った。暁翔が顔を上げる。
「ゆ、結城が一緒にと言うなら……いい」
「……央樹さん……」
 暁翔が央樹の手を取る。恥ずかしさで暁翔の顔を見れず、視線を床に落としていると、暁翔が央樹の手を握りしめた。
「それは、プレイではなく、ということって、捉えてもいいですか?」
 お試しとはいえ、恋人として接していいのかと暁翔は聞いているのだろう。央樹はそれに小さく頷いた。
 すると暁翔がすぐに立ち上がり、央樹の手を引いて歩き出した。そのままバスルームへと向かう。
「結城、ちょっ……」
「央樹さんの気持ちが変わらない内に入りましょう!」
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