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しおりを挟む「今日もありがとうございました。もう、ホント、このところ調子が良くて、嬉しいです」
暁翔が本当に嬉しそうに央樹に付けていたカラーを優しく外す。ベッドの端に座り、大人しくしていた央樹は、良かった、と微笑んだ。隣に座る暁翔がそれに応えるように笑む。
あの日から、暁翔とのプレイは週に三回ほどに増えた。会社での接触も増えたのだが、以前のように央樹と暁翔の関係を怪しむ噂は聞こえない。きっと、暁翔と央樹が一緒に居ることが日常になったのだろう。央樹も、たまに『結城と仲いいんだな』と言われるが『話してみたら気が合った』と答えるようにしている。その答えは不思議と周りを納得させていた。きっと暁翔自身がそれだけ魅力ある人物だと知っているからだろう。やっと柏葉もその魅力に気づいたか、くらいにしか思われていないのかもしれない。
今日も会社から直接央樹の家へと来て、暁翔の作った夕飯を食べてから、いつものように風呂に入った。お互いに体に触り合うことにも随分慣れたし、暁翔の言うように央樹も毎日満たされ、調子がいい。
「僕も今の状態がずっと続けばいいと思ってる」
央樹は外して貰ったカラーを受け取りながら笑う。けれど暁翔はそれに同意はせず、苦い顔をした。
「おれは……もう少し、踏み込みたいです」
央樹の隣に座り込んだ暁翔が真剣な目を向ける。
「踏み込むって……」
「お試しでいいんです。やっぱり、おれと付き合ってもらえませんか? ちゃんと、主任を繋ぎ止めておきたいんです。もう誰にも触らせないように」
その言葉に暁翔の束縛したい気持ちが垣間見え、央樹は視線を揺らめかせた。その気持ちは正直央樹にとっては心地がいい。肉体的に縛られるのは得意ではないが、精神的なものなら央樹も嬉しいのだ。
ただ、恋人となると色々変わってきてしまいそうで怖い。
「お試しっていうのは……」
真剣な目に視線を戻し、央樹が呟くように返す。
「もし、主任がもう無理だ、おれのことは好きになれないって思ったらそこでおしまいでいいです。パートナーだけに戻りましょう。もっと傍で、おれのことを知って欲しいんです」
おれに有利すぎるでしょうか、と言われ、央樹は首を振った。それから、でも、と口を開く。
「どうして、急に?」
「……前に、おれと恋人にならないのは、おれの為って、主任言ってましたよね。だったら、主任が、恋人でいることが一番おれの為になるって思えばいいのかと……最近はプレイもすごく自然に出来てるし、恋人みたいなことも許してくれるようになったから」
暁翔の言うように、最近はプレイも自然だった。たとえば会話とか食事とか、日常の何気ない行為をプレイに変えることも増えている。もちろん、暁翔の言うように疑似恋愛のようなプレイも段々とするようになっている。プレイをしよう、と言われなくてもそれがプレイだと分かり、ちゃんと気持ちが落ち着くのは、きっと二人にとってとても良い状況なのだろう。
「そういうことか……分かった。結城の条件でいいなら、やってみてもいい」
央樹が頷くと暁翔が嬉しそうな顔をして央樹に抱きつく。
「大事にします!」
「お試しなんだろ? 大袈裟だな」
「そんなことないです! ただ……ちょっと重いかもしれないですが……それが少し不安です」
そっと央樹を離し暁翔が眉を下げる。それに央樹は笑った。
「重いのは、なんとなく分かる。一人で食事をさせてくれないとか、頭からつま先まで洗われるなんてプレイ、したことなかったからな」
これまでは、口を塞ぐとか、手を縛るとか、ずっと足元に座らせられるとか、そんな分かりやすいプレイをする人が多かった。もちろんケアとして頭を撫でたり、体に触れたりということはあるが、あそこまで甘やかされるのは初めてだったし、自分はそうされることが一番心地いいのだと改めて知った。
央樹が少し笑うと、暁翔が苦く笑う。それから、でも、と口を開いた。
「こんなに甘やかすことを許して貰えたのは初めてです。いつも途中で、ウザいとか面倒とか言われてさせてくれないんですよ」
確かに自分のペースで出来ない食事や、自由に入れない風呂にストレスを感じる人もいるだろう。央樹だって初めは戸惑ったのだ。
ただでも、暁翔も自分と同じように『こんなパートナーは初めてだ』と思っていることが、とても嬉しかった。
「僕は、そういうことが好きだから……まあ、多少不便は感じるが、プレイだと思えば、それもいい」
「……よかった。どうしても今日、主任……央樹さんと関係を進めたかったから」
受け入れて貰えて良かった、と小さく息を吐く暁翔に、央樹が首を傾げる。どうしても今日、というのはどういうことだろう。何かあるのかと思うと、央樹は少し不安になる。
「あ、たいしたことではないんですが、来週末は会えないんです。だから、会えなくても精神的にもっと繋がってれば、プレイできなくても大丈夫なんじゃないか、と思って」
「会えないって……?」
央樹が聞き返すと、暁翔がベッドを移動し、央樹の手を引く。そのまま抱き寄せられて、二人で布団の中に入り込む。落ち着いて話したい事なのだろう。央樹は特に抵抗もなくそれに従った。
「実家で法事があるんです。母の、七回忌です」
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