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 素肌を合わせると安心しませんか、と聞かれ、央樹は赤くなって俯いた。
 暁翔の部屋へ着くと、暁翔は央樹に服を脱ぐことを命じた。央樹がそれに応じ、下着だけになると、すぐにベッドへと運ばれ、今は横になって、後ろから抱きしめられている。
「そりゃまあ、そうだけど……」
 自分も上半身だけ裸になった暁翔が央樹の背中に胸を付ける。暁翔の優しい体温が伝わってきて、央樹は確かに安心していた。自分が暁翔をパートナーと認めているからだろう。
「……寒くない? 央樹」
「今は、あったかい、から……」
 突然口調を変えられ、央樹は驚きながらもそれを受け入れる。暁翔は、良かった、と廻した手を央樹のそれに重ね、包み込むように指を繋いだ。それだけでドキドキとする。
「今日はごめんね……でも、おれと距離を取るなんて言った央樹も悪いんだよ」
 暁翔が少し怒った口調で言いながら、手を動かす。指の股を撫でられ、そこが性感帯でもないのに、なんだかぞくぞくとしてしまう。
「僕も……悪かった。でも……」
 央樹が振り返ると、暁翔は央樹の額にキスを落として、微笑む。
「お仕置きが必要だと思わない?」
「お仕置き……」
「そう。たとえば、今夜はおれに抱きしめられたまま眠るとか」
 するりと暁翔の手が動き、央樹の手のひらを撫で、そのまま腕をたどって胸に触れる。その艶めかしい動きだけで下半身には刺激となってしまう。下着の中で形を変え始めている中心に気づかれたくなくて、央樹は、ふるふると首を振った。
「お仕置きなら、もっと違うのが……」
「うーん……央樹がちょっと嫌って思うものじゃないと、お仕置きにならないよね? 壁を向かせて放置とか、よくあるけど、そんなの央樹にはお仕置きじゃないでしょう?」
 コマンドの中に『corner』というものがある。反省を促すお仕置きに使われるものだが、確かに央樹にそれを使ってもちょっとほっとするだけかもしれない。暁翔の顔が見られないのは寂しいが、少しくらいなら心臓が休まっていいだろう。キラキラは見続けているとちょっとした毒だ。
「だったら、逆にずっとおれの傍に居る方が、央樹にとってはお仕置きになるんじゃない? しかもその後はすぐにケア出来るし」
 一石二鳥、と笑う暁翔に、そんなわけあるか、と突っ込みたいところだが、実際暁翔の言う事は正しい。
 暁翔の傍に居ると、ドキドキして緊張すると同時に安らぐのだ。とはいえ、今は一度離して欲しい。
「でも、今は……」
「勃ちそうだから、嫌?」
 図星を突かれて、央樹が赤くなる。そんな央樹を見て暁翔は笑った。
「ここから見えてるんだよね。一生懸命隠そうとしてる央樹、可愛いけど……今はおれに触らせて? お仕置き、これにしよう」
「これって、どういう……」
「央樹、『stay』だよ。上手くイケたらご褒美だ」
 暁翔はそう言いながら、央樹の下着の中に手を入れた。すでに半分勃ち上がっている中心に手を絡め、扱いていく。
「まっ、て、暁翔……」
 暁翔の目を見上げ訴えると、優しい顔の暁翔がこちらを見下ろす。何? と聞かれているような目に、央樹は言葉を繋げた。
「暁翔も一緒、が、いい……」
「……一緒がいいって、央樹が言っちゃったら、お仕置きにならないよ……だから、最初は央樹だけ。おれにキスしながら、いって。一人でいくんだ、恥ずかしいね」
 暁翔は央樹の耳元で囁くように言ってから、央樹の耳朶を甘く噛む。央樹の肌がわなないた。
 冷静な暁翔の前で自分だけ興奮して達するなんて恥ずかしすぎる。でも、嫌ではなかった。我慢する自分を見ていて欲しい。
 央樹は体を暁翔に向けると、腕をその肩に絡ませ、暁翔の顔を見つめた。その顔が微笑む。
「キスだよ、央樹」
「わ、分かってる……」
 そっと暁翔に近づき、唇を合わせる。緩く開いた唇の隙間に舌を差し出すと、暁翔のそれが優しく出向迎えてくれる。柔らかくて熱いそれが艶めかしく動いて、心地よかった。
「んっ」
 キスに心地良さを感じていると、不意に暁翔の手が動き、央樹の中心を再び扱き始めた。
「央樹、自分でもやって見せて」
 キスをやめた暁翔が囁いて、央樹の腕を取った。そのまま央樹の中心を握らせる。
「ひ、とり、で……?」
「まさか。おれも触らせてよ。央樹は、おれ以外でイっちゃダメだ」
 これはDomの独占欲なのか、暁翔の欲望なのか分からないけれど、今はそんな言葉にも嬉しくなる。心地良く束縛してくれる、こんな人には二度と会えないかもしれない。
「うん……言う通りにする、から……」
「いい子だね、央樹。じゃあ、キスの続きを」
 暁翔が央樹の唇に指先で触れる。央樹はそれに頷いて、暁翔の唇を自分のそれで塞いだ。
 

 一通りのプレイが終わったのに、風呂から出た央樹に暁翔はバスローブだけを渡した。
「……確か、部屋着を用意してくれていなかったか?」
 互いの部屋に泊まることも多くなっていたので、暁翔は央樹のために部屋着を買ってくれていた。前回はそれを着て、用意してもらった布団で寝たのに、今日はどちらもない。
「一緒に眠るって言いましたよ?」
「だが……」
 バスローブを脱いだら全裸だ。やっぱり少し恥ずかしい。
「あんなふうにパートナーに手を出されて、おれにだって相当のダメージがあったんです。今夜は、もう少しだけ、おれのワガママに付き合ってもらえませんか?」
 それを言われてしまっては、自分にも責任があるような気がして逆らえない。仕方なく央樹はそのままベッドへと向かった。その後を嬉しそうに暁翔が付いてくる。
 二人で寝るには少し狭いのでさっきのように暁翔が央樹を後ろから抱きしめるようにベッドに入った。
「……好きです」
「……今、言うなよ……」
 央樹の髪にキスをしながら言う暁翔に央樹はドキドキしながら返す。小さく、すみません、と返ってきてから、でも、と言葉が続く。
「本気なんです……おれのことを受け入れるのは、いつかで構いません。せめて、もう他の人にあんなこと許さないでください。誰かのものにならないでください」
「……分かったよ」
 絆されてしまいそうだった。こんなに安らぎをくれる優しいパートナーなら、恋人になってもきっといい関係のままずっと一緒に居られるだろう。けれど、自分はこの最高のパートナーのプレイが好きなのか、暁翔という人物に惹かれているのかは分からないし、暁翔の気持ちもまだ全てを信じられない。
 涼成だって、初めは優しくて、ちゃんと最高のパートナーでいたのだ。どこでどんなスイッチが入るか分からない。央樹は、そのスイッチを押す原因のひとつが関係をパートナーから恋人に変えたからだと思っている。涼成が変わり始めたのは、多分そこからだ。
 だから、怖いのだ。
 央樹は自分を抱きしめる暁翔の腕の温もりを感じながら、少し辛い思いで目を閉じた。
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