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しおりを挟む榎波が央樹のネクタイを解く。こんなところで脱がされるのは嫌だった。しかも榎波となんかプレイしたくない。央樹が我慢できなくて目をつぶった、その時だった。
「おれのSubに何してる!」
威圧感のあるその声に、央樹は目を開けた。榎波の体が小刻みに震えだしているのを見た央樹はゆっくりと視線を横へと向けた。
靴音を響かせながら、こちらに近づくのは暁翔だった。張りつめた空気を纏うその行為はDomの威嚇だ。自分のSubの危機に行うというそれを、央樹は初めて目の当たりにした。
「そこを退けろ、央樹から手を離せ」
蔑むように榎波に視線を送る暁翔の言葉を受け、榎波が転がる様に床を這い、央樹から離れる。暁翔の威嚇に逆らえないのだろう。
榎波が央樹の傍から離れたその瞬間、痺れるような空気が和らぎ、同時に暁翔が央樹を抱きしめた。
「遅くなってすみません……無事ですか?」
「あ、ああ……なんともない」
「よかった……榎波さんも、咄嗟の事でグレアなんて当ててすみませんでした。でも……もう二度と、主任にあんなことしないでください。主任のパートナーはおれです」
暁翔がはっきりと榎波に告げる。床から立ち上がった榎波が、自身のスーツの埃を叩きながら、いいのか、と口を開いた。
「柏葉がSubで、二人がパートナーだと知ったんだ。誰に言うか分からないぞ」
榎波が暁翔に勝ち誇った様に笑顔を向ける。暁翔はそれにぐっと唇を噛んだ。それから少し逡巡したように視線を揺らめかせてから、改めて榎波に視線を向けた。
「……おれと主任の噂が流れてから、ここ数日、主任とは距離を取っていました。主任からの提案です。でも……どんなに離れても、他に目を向けようと思っても、やっぱり主任がいい……あなたしかいないと、分かったんです」
最後は央樹の目を見つめ、暁翔がはっきりと言った。央樹の胸がきゅんと強く痛む。暁翔はそんな央樹に微笑んでから、再び榎波に視線を戻す。
「だから、もしどこかで榎波さんがこのことを喋ってくださるのなら、好都合というやつです。牽制できますからね」
笑顔を向けた暁翔に、榎波は苦い顔を残して、その場を離れていった。央樹がほっと息を吐く。
「あの位置情報アプリ、もっと精度上げて欲しいですね。社内に居ることは分かってても、どこにいるかまでは分からなくて時間掛かってしまいました。すみません、辛かったですよね」
暁翔が央樹をぎゅっと抱きしめる。その声が少し震えている。暁翔も自分が誰かに取られるかもと思って怖かったのだろうか。それとも他のDomに触られたことが悔しいのだろうか。どちらにせよ、央樹には少し嬉しくて、暁翔の背中に腕を廻した。
「悪かった。僕も、油断していた」
「ホントです……このままウチに来てくれますね? 主任」
ちゃんとケアしましょう、と言われ、央樹はそれに頷いた。
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