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 帰りがけに病院に寄り、帰宅後に処方して貰った薬を飲んだ央樹は、医師に言われた通り、副作用の眠気に襲われて、ぐっすりと寝てしまっていた。ベッドから起き上がると、既に部屋の中は暗く、近くに置いていたスマホの画面には二十一時と表示されていた。
「……今日は寝てばかりだな……」
 央樹はすぐ傍のテーブルに置いていたリモコンを手に取り、明かりを点けた。それから立ち上がり、カーテンを閉める。すると、部屋にインターホンの音が響いた。
「……結城?」
 インターホンの画面に映っていた人物に驚いて、央樹は玄関に向かい、ドアを開けた。そこには優しい笑顔の暁翔が立っていた。
「良かった……顔色戻ってますね」
「あ、ああ……」
「まだ具合悪いといけないと思って、来てみたんですが……」
 暁翔が眉を下げる。必要ないかと伺うようなその目線に央樹は、ありがとう、と笑って体を斜めに開いた。
「良かったら、お茶でも飲んでいかないか?」
 央樹の言葉に暁翔が嬉しそうな顔をして、はい、と頷いた。それを見て、央樹は先に部屋へと入る。玄関ドアを閉めた暁翔はその後に続いて部屋に入った。
「うち、ソファないからベッドにでも座って」
 狭いキッチンで電気ケトルに水を入れながら央樹が言うと、暁翔はそれに、はい、と返事をして、素直にベッドの端に腰掛けた。
「薬……結構強いの処方されました?」
 暁翔がテーブルの上に置きっぱなしだった薬の袋に手を伸ばす。央樹はそれに、そうだな、と頷いた。
「あれは発作みたいなものだから」
「すみません……おれが中途半端にしたから」
 お湯が沸き、ティーバックを入れたカップに湯を注いだ央樹が、いや、と首を振る。
「プレイを途中で投げ出したのは僕の方だ。結城が謝る必要はない」
 言いながら央樹が暁翔の傍に寄る。カップを二つテーブルに置くとそのまま床に胡坐をかいた。
「主任……朝の続き、しませんか?」
「続き?」
 暁翔の真剣な目に央樹が首を傾げる。暁翔は大きく頷いた。
「でも、もう薬で体調は戻ったし、必要ない」
「今日は良くても明日はどうか分かりません。絶対、プレイの方が……パートナーのおれとケアした方がいいんです!」
 いつも柔らかく相手を尊重するような物言いをする暁翔が、今ははっきりと断言した。その様子の変化に央樹は首を傾げたが、暁翔にとってもプレイは健康維持のために必要なことだ。彼がしたいと言うのなら、それはこちらにとっても都合がいい。
「……分かった。結城がそう言うなら」
「はい!」
 央樹の言葉に暁翔が嬉しそうに笑う。そんなに喜ぶことかと央樹が小さく笑った。
「央樹」
 そんな央樹を暁翔が呼ぶ。プレイ開始の合図だ。央樹の心臓がドキリと跳ねた。
「おいで。足元に座れる?『kneel』だよ」
 央樹はそれに頷き、暁翔の足元に座り込む。普段はこんな座り方をしたら脚のどこかが悲鳴を上げるのに、プレイの時だけは体が素直になるのか、自然とぺたんと座れる。
「いい子だね、央樹」
 暁翔の手がこちらに伸び、髪を撫でる。温かなその手が心地いい。もっと撫でて欲しくて下を向いていると、『look』と言われ、央樹は顔を上げた。慈愛に溢れた表情の暁翔がいる。支配欲を満たされている時のDomの顔だ。
「央樹、今日もお風呂入らない? 央樹、髪洗ってもらうの、すごく気持ち良さそうだったし」
「で、でも……うちの風呂、そんなに広くない」
 一般的な1Kの単身用マンションだ。風呂だって一人入ればそれでいっぱいの広さしかない。先日のホテルのように二人でなんて無理だろう。
「狭い方がいいんだ。さあ、立って」

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