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しおりを挟む翌日、央樹は重くだるい体を引きずって、会社へとたどり着いていた。今朝の目覚ましは強烈な頭痛で、明らかに昨日涼成と会ったダメージだと分かった。せっかく調子が良かったのに一日でダメになるなんて思ってもみなかった。
オフィスに入り、自分のパソコンを開くと、いつものようにメールがたくさん届いている。上からの書類作成指示、後輩からの書類チェックの依頼、社内報、と分けていると、おはようございます、と後ろから声が掛かる。
振り返ると部下の一人である上田が緊張した面持ちで立っていた。
「……昨日、メールで資料を送ったんですが……」
「これから確認する。いつ使うものだ?」
メールボックスをスクロールしながら目当てのメールを探す。
「……今日の午前中です」
その言葉を聞いて央樹は大きくため息を吐いた。どうして今日の午前中に使うもののチェックを昨日の、それも自分が退社した後に送るのか。そこまで作業が終わらなかったなんてことはよくあるから、そこまでは仕方ないとして、自分が退社する前に、明日の朝イチでチェックして欲しいと言えなかったのか。
「今日、僕が直行する日だったらどうするつもりだった? 課長や部長まで持っていくつもりだったのか? それとも誰のチェックも受けないまま取引先に送るつもりだったのか?」
「いえ、そんなことはないんですが……」
央樹は彼からのメールを開き、添付されていた資料に目を通す。大分、分かりやすいものになってはいるが、直したいところも多々ある。央樹は自身の時計をちらりと見てから、うーん、と画面を睨みつけた。自分も十時にはここを出なくてはいけない。九時半少し前の今から彼に託して果たしてそれだけの時間で戻ってくるだろうか――それを考えると、ズキズキと頭が痛んだ。
「これは今回は僕が……」
「おはようございます、主任。上田くんもおはよう」
元気よく割って入って来たその声は暁翔だった。こちらに寄ると、トラブルですか? と聞く。
「いや、上田が作った資料のチェックをしていただけだ」
央樹の言葉に、暁翔が画面を覗く。しばらく真剣な目でそれを見てから、なるほど、と小さく囁いた。
「あー、上田くん、これ、少し直した方がいいかも。おれ、今日午前中デスクワークだから、一緒にやろうか」
「はい、おねがいします!」
暁翔が笑顔で上田を振り返ると、上田は心底ほっとしたような顔で大きく頷いた。
「それでチェックなしで持っていかせても構わないですか?」
こちらに聞く暁翔に央樹が頷く。
「結城がチェックするなら構わない」
「じゃあ、資料、おれのパソコンに送っておいて」
「はい、わかりました」
上田が頭を下げて、その場から急いで立ち去る。暁翔はそれを見送ってから、主任、と声を掛けた。もう用はないと思い、上田からのメールを削除していた央樹が顔を上げる。その瞬間央樹の心臓がドキリと跳ねた。暁翔の顔が余りにもキレイな笑顔だったからだ。キレイすぎて、目が笑っていないことがすぐにわかる。
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