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うちの鬼上司と可愛い後輩の関係について
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*会社の先輩真田視点の後日談です。
うちの職場は人数が少ない分、仲がいい。
一緒に食事に行くことは日常だし、家族込みでテーマパークに遊びに行く社内行事があり、ほぼ全員がそれに参加するような仲の良さだ。
だから、出かけた先で同僚を見つけると、嬉しくて声を掛けてしまう。真田もその一人だった。
「辻本?」
「え? あ、真田さん!」
その日も、大きな水族館の水槽前に立っていた可愛い後輩を見つけ、真田は思わず声を掛けてしまった。
「こんなとこで会うと思わなかったよ」
「ですね。あ、マコちゃん、こんにちは!」
辻本は真田の左手を握っている娘のマコに視線を向けると優しい笑顔で声を掛けた。
以前社内行事にマコを連れて行って以来、マコはこの『優しいお兄ちゃん』をとても気に入っている。辻本の方もマコを可愛がっていて、真田は思わず歳の差二十二歳か……なんて考えたりしてしまった。
「ご家族で水族館、いいですね」
辻本が真田に視線を移し微笑む。真田はそれに頷いてから、辻本は? と聞いた。
「デートとか?」
「はい……じゃなかった。違います、一人です」
真田の質問に辻本がぎこちなく答える。デートで来たけれど自分にそれは知られたくないのだな、と感じた真田は、そうか、と納得したふりをして頷く。
よほどの魚好きでない限り、こんな休日のデートスポットに成人男性が一人で来る方が珍しい。ごまかしきれない、そんなところも辻本を可愛いと思う所以でもあった。
「なら、一緒に昼どうだ?」
「あ、えっと……」
真田は少し意地悪な気持ちで聞いてみた。あからさまに動揺する辻本に真田は吹き出しそうになるのを必死で抑える。
辻本のデートの相手はどんな人なのだろう。こう隠されると、俄然興味が湧いてきた。
「何か予定ある?」
「えっと、予定というか……」
辻本がどう答えようか考えているその時だった。メッセージの着信音が響いて、辻本が慌ててスマホを取り出す。
「あ……真田さん、俺呼び出されたから、もう行かなきゃ。また月曜日に」
メッセージに目を落とした辻本がそう言ってから、幾分ほっとしたような顔で真田を見やった。
「そうか、残念。じゃあまた、会社で」
「はい。マコちゃんもまたね」
辻本がマコに手を振る。マコが、またね、と返すと、辻本は笑顔を残して歩き出した。
そのタイミングでトイレに行っていた妻が戻ってくる。マコがいち早くそれを見つけ、真田の手を離し、妻に駆け寄った。
「ごめんね、混んでて遅くなっちゃった」
戻って来た妻の言葉に真田が首を振る。
「いや、知り合いに会って話してたから」
「知り合い?」
妻に聞き返され、真田は振り返った。もしかしたらまだ後ろ姿くらい見えるかもしれないと思ったのだ。辻本のことは妻も知っている。
けれど、真田の視界に飛び込んできたのは、理解しがたい状況だった。
確かにまだ辻本の後ろ姿は見えていた。けれどその隣に寄り添い歩いていたのは、うちの鬼上司――市原主任だった。
しかも職場では見た事のない笑顔で辻本を見ている。それを受け止める辻本も笑顔だ。
「誰?」
隣から妻のそんな声が届いて、真田は、いや、と妻に向き直った。
「もう見えなくなったみたい。行こうか、マコ」
真田はマコにそう言って辻本とは反対の方へ歩き出した。
辻本はデートかと聞かれて慌ててごまかした。そして自分と別れた後、市原主任と笑顔で会っていた。
「……辻本のデートの相手って……まさか、な」
真田はぽつりと呟いてから、いやいや、と首を振った。
「――て、ことがあったんだけど、オレの勘違いだよね、水谷さん」
週が明けた月曜日、辻本と仲のいい水谷をランチに誘い、真田はそう聞いた。
テーブルを挟んで向かい側に座る水谷は、少し驚いた顔をしてから口を開いた。
「……知らなかったの? 真田くん」
「……え?」
真田が驚いた顔をすると、水谷は少し笑ってから、これで全員周知かしら、と口を開いた。
「あの二人、デートする仲よ」
水谷が何でもないように言う。真田にはそれがすぐには理解できなくて、言葉を返せなかった。そんな真田を見て、水谷が更に言葉を繋ぐ。
「前に派手に口論してたでしょ、あの二人。あれから気になっていつもより気にして見てたら、分かっちゃったのよね。事務の子の話だと、同棲もしてるんじゃないかって……デスクに置いてた辻本くんのスマホに主任からメッセージ来てるの見たらしいの。差出人が『克彦』で、『今日は先に寝てていいよ』って見えたって」
そんなこと一緒に暮してなければ言わないことよね、と水谷が微笑む。
「そう、なんだ……意外過ぎて、正直現実味ないよ」
「そうかなあ? 市原さん、辻本くんのことは初めから気に入ってたと思うよ。私っていう教育係が居るのに、直接指導してるところ何度も見たし……あの人が感情的になるのは全部辻本くん絡みだし」
言われてみればその通りかもしれない。派手に怒るのもイライラしているのも辻本が絡んでいる時だけかもしれない。
「確かに意外だし、男同士だし、驚きはあるよ。でも、なんかいいなって思うんだよね、私」
「……ああ、それはなんとなく分かるよ」
水谷の言葉に真田は頷いた。
水族館で見た二人は、本当に穏やかで楽しそうだった。幸せを絵にしたら、あんな感じになるのかもしれないと、今ならそう思える。
「でしょ? それに、あの鬼上司にもあんな可愛い恋人ができるんだから、私だっていつか王子様みたいな旦那が出来るはずって思えて!」
水谷がそう言いながら両手で拳を握る。真田はそれを見て大きく笑った。
「二人は水谷さんに勇気を与えてるんだ。それは二人の事認めざるを得ないよね」
マコにはもっと歳の近い王子様が現れてくれるはずだし、と真田が返す。
「え? 何、真田くんマコちゃんと辻本くん、とか考えてたの?」
「考えてたっていうか、マコが懐いてるし、辻本、今年一級受けるって勉強してるし将来性あるかな、とか……」
「ばっかねー。女の子は幸せなんて自分の力でつかみ取るのよ。パパの力なんか一ミリも借りないんだから」
そう言われるとなんだか寂しい。ため息を吐いて、店の外を眺めると、向かい側の道を市原と辻本が歩いていて、真田は思わず、水谷さん、と呼びながら窓の外を指さした。
「あら、噂をすれば。今日は二人でランチなんだ」
いいなあ、と声にする水谷の言葉を聞きながら真田は外の二人を見つめた。
時々笑いあい、歩調を合わせて歩いている。不意に市原の手が伸びて、辻本の頭を撫でて離れていく。二人の関係が分かると、その仕草すべてから気持ちが溢れているように思えた。
確かにこれではみんな気づくはずだ。
「あ、でもね、真田くん」
水谷に呼ばれ、真田が目の前に視線を戻す。
「本人たちは職場公認って知らないから、知らないふりしててあげてね」
水谷がそう言って微笑む。真田はそれに一瞬呆気にとられ、それから笑い出した。
「了解。うちの職場はホント、いい職場だよ」
「ホントよね」
水谷と頷き合ってから再び窓の外を見やる。仲睦まじく歩いていく二人の後ろ姿を見ながら、真田は鬼上司と可愛い後輩が紡いていく恋をいつまでも見守りたいと思った。
うちの職場は人数が少ない分、仲がいい。
一緒に食事に行くことは日常だし、家族込みでテーマパークに遊びに行く社内行事があり、ほぼ全員がそれに参加するような仲の良さだ。
だから、出かけた先で同僚を見つけると、嬉しくて声を掛けてしまう。真田もその一人だった。
「辻本?」
「え? あ、真田さん!」
その日も、大きな水族館の水槽前に立っていた可愛い後輩を見つけ、真田は思わず声を掛けてしまった。
「こんなとこで会うと思わなかったよ」
「ですね。あ、マコちゃん、こんにちは!」
辻本は真田の左手を握っている娘のマコに視線を向けると優しい笑顔で声を掛けた。
以前社内行事にマコを連れて行って以来、マコはこの『優しいお兄ちゃん』をとても気に入っている。辻本の方もマコを可愛がっていて、真田は思わず歳の差二十二歳か……なんて考えたりしてしまった。
「ご家族で水族館、いいですね」
辻本が真田に視線を移し微笑む。真田はそれに頷いてから、辻本は? と聞いた。
「デートとか?」
「はい……じゃなかった。違います、一人です」
真田の質問に辻本がぎこちなく答える。デートで来たけれど自分にそれは知られたくないのだな、と感じた真田は、そうか、と納得したふりをして頷く。
よほどの魚好きでない限り、こんな休日のデートスポットに成人男性が一人で来る方が珍しい。ごまかしきれない、そんなところも辻本を可愛いと思う所以でもあった。
「なら、一緒に昼どうだ?」
「あ、えっと……」
真田は少し意地悪な気持ちで聞いてみた。あからさまに動揺する辻本に真田は吹き出しそうになるのを必死で抑える。
辻本のデートの相手はどんな人なのだろう。こう隠されると、俄然興味が湧いてきた。
「何か予定ある?」
「えっと、予定というか……」
辻本がどう答えようか考えているその時だった。メッセージの着信音が響いて、辻本が慌ててスマホを取り出す。
「あ……真田さん、俺呼び出されたから、もう行かなきゃ。また月曜日に」
メッセージに目を落とした辻本がそう言ってから、幾分ほっとしたような顔で真田を見やった。
「そうか、残念。じゃあまた、会社で」
「はい。マコちゃんもまたね」
辻本がマコに手を振る。マコが、またね、と返すと、辻本は笑顔を残して歩き出した。
そのタイミングでトイレに行っていた妻が戻ってくる。マコがいち早くそれを見つけ、真田の手を離し、妻に駆け寄った。
「ごめんね、混んでて遅くなっちゃった」
戻って来た妻の言葉に真田が首を振る。
「いや、知り合いに会って話してたから」
「知り合い?」
妻に聞き返され、真田は振り返った。もしかしたらまだ後ろ姿くらい見えるかもしれないと思ったのだ。辻本のことは妻も知っている。
けれど、真田の視界に飛び込んできたのは、理解しがたい状況だった。
確かにまだ辻本の後ろ姿は見えていた。けれどその隣に寄り添い歩いていたのは、うちの鬼上司――市原主任だった。
しかも職場では見た事のない笑顔で辻本を見ている。それを受け止める辻本も笑顔だ。
「誰?」
隣から妻のそんな声が届いて、真田は、いや、と妻に向き直った。
「もう見えなくなったみたい。行こうか、マコ」
真田はマコにそう言って辻本とは反対の方へ歩き出した。
辻本はデートかと聞かれて慌ててごまかした。そして自分と別れた後、市原主任と笑顔で会っていた。
「……辻本のデートの相手って……まさか、な」
真田はぽつりと呟いてから、いやいや、と首を振った。
「――て、ことがあったんだけど、オレの勘違いだよね、水谷さん」
週が明けた月曜日、辻本と仲のいい水谷をランチに誘い、真田はそう聞いた。
テーブルを挟んで向かい側に座る水谷は、少し驚いた顔をしてから口を開いた。
「……知らなかったの? 真田くん」
「……え?」
真田が驚いた顔をすると、水谷は少し笑ってから、これで全員周知かしら、と口を開いた。
「あの二人、デートする仲よ」
水谷が何でもないように言う。真田にはそれがすぐには理解できなくて、言葉を返せなかった。そんな真田を見て、水谷が更に言葉を繋ぐ。
「前に派手に口論してたでしょ、あの二人。あれから気になっていつもより気にして見てたら、分かっちゃったのよね。事務の子の話だと、同棲もしてるんじゃないかって……デスクに置いてた辻本くんのスマホに主任からメッセージ来てるの見たらしいの。差出人が『克彦』で、『今日は先に寝てていいよ』って見えたって」
そんなこと一緒に暮してなければ言わないことよね、と水谷が微笑む。
「そう、なんだ……意外過ぎて、正直現実味ないよ」
「そうかなあ? 市原さん、辻本くんのことは初めから気に入ってたと思うよ。私っていう教育係が居るのに、直接指導してるところ何度も見たし……あの人が感情的になるのは全部辻本くん絡みだし」
言われてみればその通りかもしれない。派手に怒るのもイライラしているのも辻本が絡んでいる時だけかもしれない。
「確かに意外だし、男同士だし、驚きはあるよ。でも、なんかいいなって思うんだよね、私」
「……ああ、それはなんとなく分かるよ」
水谷の言葉に真田は頷いた。
水族館で見た二人は、本当に穏やかで楽しそうだった。幸せを絵にしたら、あんな感じになるのかもしれないと、今ならそう思える。
「でしょ? それに、あの鬼上司にもあんな可愛い恋人ができるんだから、私だっていつか王子様みたいな旦那が出来るはずって思えて!」
水谷がそう言いながら両手で拳を握る。真田はそれを見て大きく笑った。
「二人は水谷さんに勇気を与えてるんだ。それは二人の事認めざるを得ないよね」
マコにはもっと歳の近い王子様が現れてくれるはずだし、と真田が返す。
「え? 何、真田くんマコちゃんと辻本くん、とか考えてたの?」
「考えてたっていうか、マコが懐いてるし、辻本、今年一級受けるって勉強してるし将来性あるかな、とか……」
「ばっかねー。女の子は幸せなんて自分の力でつかみ取るのよ。パパの力なんか一ミリも借りないんだから」
そう言われるとなんだか寂しい。ため息を吐いて、店の外を眺めると、向かい側の道を市原と辻本が歩いていて、真田は思わず、水谷さん、と呼びながら窓の外を指さした。
「あら、噂をすれば。今日は二人でランチなんだ」
いいなあ、と声にする水谷の言葉を聞きながら真田は外の二人を見つめた。
時々笑いあい、歩調を合わせて歩いている。不意に市原の手が伸びて、辻本の頭を撫でて離れていく。二人の関係が分かると、その仕草すべてから気持ちが溢れているように思えた。
確かにこれではみんな気づくはずだ。
「あ、でもね、真田くん」
水谷に呼ばれ、真田が目の前に視線を戻す。
「本人たちは職場公認って知らないから、知らないふりしててあげてね」
水谷がそう言って微笑む。真田はそれに一瞬呆気にとられ、それから笑い出した。
「了解。うちの職場はホント、いい職場だよ」
「ホントよね」
水谷と頷き合ってから再び窓の外を見やる。仲睦まじく歩いていく二人の後ろ姿を見ながら、真田は鬼上司と可愛い後輩が紡いていく恋をいつまでも見守りたいと思った。
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