うちの鬼上司が僕だけに甘い理由(わけ)

みづき(藤吉めぐみ)

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 克彦におやすみ、とキスをしようとした時だった。部屋のドアを開けた克彦が、え、と小さく声にする。匠もその部屋を覗いて、あ、と声を上げた。
 昨夜匠は酔っ払って克彦のベッドで眠ってしまって、もちろん今朝もそのままにして出かけてしまったのだ。当然だが、ベッドはぐちゃぐちゃだ。
「匠……昨日、ここで寝たの?」
「あの、俺、すごい酔っ払ってて、間違ったのかな、はは……」
 ごまかそうと笑う匠の肩を、克彦が優しく抱き寄せる。耳元で克彦が、ごめん、と囁いた。
「寂しい思いさせてごめん」
 克彦の言葉に、匠の涙腺が緩む。本当は寂しくて、克彦が遠くに行くような気がして怖くてたまらなかった。匠は克彦の胸に顔を埋め、口を開いた。
「……そうだよ……寂しかった。俺じゃない人抱いてるのかもとか思ったら、悔しくて悲しくて……」
 匠が克彦の背中に腕を廻して、シャツを握り締める。すると、体が不意に宙に浮いた。克彦が抱き上げたようだ。
「すまない。あんなことの後で、匠は怖がるだろうと思って今日は手を出さないつもりでいたが、もう無理だ。匠がこんな可愛いことをしていたなんて……今日は泣いても止められないと思う」
 どさりとベッドに下ろされ、克彦が馬乗りになる。東屋とは違い、恐怖なんて微塵も感じなかった。ただ愛しくて、早くその体温を感じたいと思うばかりだ。
「怖くないよ――克彦が好きだから」
 克彦になら泣かされたって構わない――そんな匠の気持ちが伝わったのか、いつもなら丁寧な始まりも、今日は乱暴にパジャマのボタンを開かれ、貪られるようにすぐに肌に克彦の唇が吸い付いた。唇と舌先で愛情を注がれれば、胸の粒はすぐにふっくらと色づく。もう一つも指先でくすぐられるだけで、更に刺激を求めるように立ち上がる。もう片方の手で下着の中の中心を撫でられれば、もう匠の体温も息も上がってしまっていた。
「待って……克彦っ……んっ……」
 喘ぎの間から匠が訴えるが、克彦の手は止まらない。
「ごめん、待てない。匠、気づいてる? 初めて私に好きと言ってくれたんだよ。止められるはずないだろう」
 克彦は嬉しそうに答えると器用に匠の下着とパジャマを脱がせた。深く唇を繋いで後ろに長い指をしのばせる。いつもならじれったいほどにゆっくり解し始めるのに、今日は性急で匠は翻弄されっぱなしだ。息をして、克彦に合わせることしかできなかった。
「待っ……それ、言ったら克彦だって……初めてっ……愛し、てるって……」
 匠が息を切らしながら言うと、克彦が、え、と聞き返した。
「私は……初めて匠を抱いた時に伝えたはずだが……」
 克彦がそう言って匠の頬を撫でる。
 初めての時というのは、酔ってそのまま抱かれた時だろうか。
「……覚えてない……」
「そうか……ちゃんと伝わってなかったんだな――愛してるよ、匠」
 克彦はそう言うと匠にキスを落とし、再び手を動かし始めた。
「匠、ごめん、少し痛いかもしれない」
 いつの間にか増えていた指を抜かれ、匠の体をぞくぞくと快感が走っていく。けれどすぐにそれは新しい波に打ち消され、匠は思わず声を上げた。
「――やっ……! いきなり、深くしないで」
 指の代わりに克彦の熱が押し込まれ、匠は甘く克彦を睨みあげた。さっきからいつもなら出ないような変な声もたくさん出てるし、何より思考が廻らなくて克彦にも気持ちよくなってくれているのかもわからない。こちらからは何もさせてくれないセックスなんて初めてだ。
「匠自身も触れたことないところまで、私のものにしたいんだ」
 克彦は匠にキスをして、腰を高く抱き上げた。一層深く繋がる体が苦しくて、でもありえないくらい心地よくて、匠は受け止めきれない熱を逃すように背中をしならせた。すると、突き出された胸を克彦の指先が愛撫する。そんなにあちこち刺激されて、匠の頭の中は白く霞んでくる。絶頂は近かった。
「……も、やぁ……克、ひっ……」
 揺らされるたび感じたこともない快感が匠の中を抜けていく。もう何も考えられなかった。
「匠、いけるか?」
 耳元で低い声が響く。匠はただこくこくと頷いた。次の瞬間、匠の最奥に熱が放たれる。それを感じた匠も自らを解放するように白濁を吐き出した。
「愛してるよ、匠」
 そんな言葉を聞きながら、匠はそのまま意識を手放した。
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