うちの鬼上司が僕だけに甘い理由(わけ)

みづき(藤吉めぐみ)

文字の大きさ
上 下
35 / 47

35

しおりを挟む

 それから五分ほどで、目的のマンションに辿り着いた。東屋の案内でエレベーターに乗り、最上階へと辿り着く。エレベーターホールからこの階まるごと改装しているようで、既に床にもブルーシートが貼られている。
「この階、部屋数が8あったんだけど、それを4にして、売り出す予定なんだ。比較的工事が進んでる部屋なら見せてもいいって聞いたから」
 東屋はそう言うと部屋の鍵を取り出してドアを開けた。土足でいいよ、と言って先に入ると、部屋の明かりを点けてくれる。
「床も全部張替えるんだ。大掛かりだね」
「防音素材にするためにね」
「防音素材?」
「そう。見る?」
 東屋の言葉に匠は頷いた。
 会社でいくつかサンプルは見たし、資料も集めたがやはり実際に見てみたい。価格も考えて、一番コスパがいいものを選びたいと考えていたから願ってもないことだ。多分、東屋もこれを見せたかったのだろう。
「たしかね、奥の部屋を資材置き場にしてたはずなんだ」
 廊下を抜けた先のリビングからさらに奥に厚いドアの付いた部屋があった。その部屋のドアを開けて、東屋が明かりを点ける。
 工事用の灯りに照らされた部屋は六畳ほどで、窓もない部屋だった。
「ここは?」
「防音室。シアタールームにしてもいいし、楽器や音楽の部屋にしてもいい。今回のリノベーションのウリだよ」
 匠は部屋に入り、ドアを閉めた。その瞬間、耳の奥に蓋をされたような感覚になる。確かに高い防音性があるようだ。
「ここの素材は?」
「ここのはね、結構いいもの使ってるはずだよ。えっと、確かね……」
 東屋がそう言ってカバンからカタログを取り出した、その時だった。
 カタカタ、と何かが小さく音を立てたと思ったら、すぐに足元が揺れ、匠は思わず座り込んだ。灯りが揺れ、その影が床で動く。このまま大きくなったらどうしようと思ったが、外で何かが倒れる音がしただけで、揺れはすぐに収まった。
「地震かな? 短くてよかったね」
「結構揺れたね」
「ここ、十五階だからな」
 免震じゃないし、と言いながら東屋はカタログを出してくれた。それを匠に渡すと、外大丈夫かな、とドアに向かった。
 匠は座り込んだままカタログに目を落す。しっかりとした防音効果の割にコストは低い。これならば予算内で使えるかもしれない。その防音壁のメーカーは大手のものではなくて、職場にもこの資料はなく、匠も初めて見るものだったので、連れてきてもらって正解だったと思う。
「……あれ?」
 匠がスマホにメモをしていると、東屋のそんな声が響いた。匠が顔を挙げ、どうかした? と聞く。
「ドア、開かないっぽい」
 薄くしか開かないドアに東屋は首を傾げてもう一度体ごとドアを押す。が、それ以上開く様子はなかった。
「開かない?」
「ああ……なんだろ、多分今の揺れで外にあった建材が倒れてドアのストッパーになってるっぽい」
 東屋はドアの隙間から外を窺ってため息を吐いた。もう一度ドアを開けようとしてみるが、ガン、と何かに当たる音が響くだけでそれ以上開く気配はなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

しっかり者で、泣き虫で、甘えん坊のユメ。

西友
BL
 こぼれ話し、完結です。  ありがとうございました!  母子家庭で育った璃空(りく)は、年の離れた弟の面倒も見る、しっかり者。  でも、恋人の優斗(ゆうと)の前では、甘えん坊になってしまう。でも、いつまでもこんな幸せな日は続かないと、いつか終わる日が来ると、いつも心の片隅で覚悟はしていた。  だがいざ失ってみると、その辛さ、哀しみは想像を絶するもので……

王様お許しください

nano ひにゃ
BL
魔王様に気に入られる弱小魔物。 気ままに暮らしていた所に突然魔王が城と共に現れ抱かれるようになる。 性描写は予告なく入ります、冒頭からですのでご注意ください。

何故か男の僕が王子の閨係に選ばれました

まんまる
BL
貧乏男爵家の次男カナルは、ある日父親から呼ばれ、王太子の閨係に選ばれたと言われる。 どうして男の自分が?と戸惑いながらも、覚悟を決めて殿下の元へいく。 しかし、殿下は自分に触れることはなく、何か思いがあるようだった。 優しい二人の恋のお話です。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき(藤吉めぐみ)
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

処理中です...