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東屋と他愛もない話をしながら食事を終えた匠は、まだ電車があるからと東屋が送るというのを辞退して、家へと帰ってきた。十二時を少し過ぎたところだったが、まだ克彦は起きている様でリビングに明かりが見える。
「ただいま……」
そっとリビングのドアを開け、匠が顔を出すと、ソファに沈んでいた克彦がこちらを見やった。おかえり、という彼の手元にはデッサンが散らばっている。克彦はそれをかき集めると、食事は? といつものように聞いた。
「……仕事してたの?」
「いや……これは暇つぶしのようなものだ」
そういいながらキッチンに向かう克彦に、匠は、ごめん、と口を開いた。
「ご飯、食べてきたから……」
「……一人で?」
「いや……東屋さんと……」
始まった、と思った。絶対に聞かれるとは思っていたがやはり憂鬱だ。
「どこに行った?」
「……東屋さんが知ってるイタリアンの店に」
「何食べたんだ?」
「なんでもいいじゃん。忘れた」
克彦にとって何を食べたかなんてどうでもいいことのはずだ。そんなことまで聞くのかと思うとうんざりする。
「そうか……東屋くんとはどんな話を?」
「別に。仕事のこととか、それ以外とか」
「帰りは一人で帰ってきたのか?」
「一人で帰ったよ。電車まだあったから」
克彦はお湯を沸かす準備をしながら、そうか、と幾分安心した表情を見せた。
「そういう時は私を呼びなさい。あとは、どこにも行ってないな?」
「ないよ。大体、8時過ぎに会社出て、この時間だよ、他にどこに行くって言うの?」
質問の多さにため息をつきながら、匠はソファに座り込んだ。そうして、克彦が書いていたデッサンを手に取ろうとすると、すぐに克彦がそれを横から掠め取った。
「ただのいたずら書きだ。見られるものじゃない」
そう言うと克彦はその紙をゴミ箱に捨ててから、キッチンへと戻った。それから、コーヒーでいい? と聞く。
「……いらない。なんなんだよ、別にいたずら書きなら見てもいいだろ。俺がここからアイデア盗むとでも思ったわけ?」
「そうは思っていない。ただ、あんないたずら書きでも、見れば仕事の話になるだろう?」
それが嫌だったんだ、と克彦が眉を下げる。けれど先の詰問でイライラが溜まっていた匠は、考えることなく言葉を発した。
「克彦がそうやって規制すんなら、俺も克彦に規制していいよな? 金輪際、俺を質問責めにするな。正直、疲れるんだよ」
匠はそう言うと大きくため息を吐いてから立ち上がった。キッチンに立ち尽くしている克彦をじっと見つめると、その顔が少し寂しそうに歪んだ。匠の心もちくりと痛む。
けれど、自分の全てを知りたがる克彦と、会社では冷たい態度の克彦、その温度差に翻弄されるのは、正直疲れたのだ。
克彦が全然わからない。
「質問責めって……いつ?」
「今! 今しただろ? 誰とどこに行っただの、何してただの、そういうのやめてって言ってんの! もう寝る!」
全然わかってないじゃん、と文句を言いながら匠はリビングを後にした。自分の部屋へ入り、ベッドの上にキレイに畳まれているスウェットに着替えるとそのままベッドに潜り込んだ。
すると、ドアの向こうから、ごめん、と声が響いた。匠は頭から布団を被る。
「明日、朝早く出るから……朝飯、テーブルに置いておくから食べてから出て――おやすみ」
克彦はドアの前でそれだけ言うと部屋の前を離れた。おそらくリビングであろうドアが閉まる音がかすかに響く。
少し、言い過ぎたかも知れない――そう思いながらも謝ることもできなくて、匠はぎゅっと瞼を閉じた。
「ただいま……」
そっとリビングのドアを開け、匠が顔を出すと、ソファに沈んでいた克彦がこちらを見やった。おかえり、という彼の手元にはデッサンが散らばっている。克彦はそれをかき集めると、食事は? といつものように聞いた。
「……仕事してたの?」
「いや……これは暇つぶしのようなものだ」
そういいながらキッチンに向かう克彦に、匠は、ごめん、と口を開いた。
「ご飯、食べてきたから……」
「……一人で?」
「いや……東屋さんと……」
始まった、と思った。絶対に聞かれるとは思っていたがやはり憂鬱だ。
「どこに行った?」
「……東屋さんが知ってるイタリアンの店に」
「何食べたんだ?」
「なんでもいいじゃん。忘れた」
克彦にとって何を食べたかなんてどうでもいいことのはずだ。そんなことまで聞くのかと思うとうんざりする。
「そうか……東屋くんとはどんな話を?」
「別に。仕事のこととか、それ以外とか」
「帰りは一人で帰ってきたのか?」
「一人で帰ったよ。電車まだあったから」
克彦はお湯を沸かす準備をしながら、そうか、と幾分安心した表情を見せた。
「そういう時は私を呼びなさい。あとは、どこにも行ってないな?」
「ないよ。大体、8時過ぎに会社出て、この時間だよ、他にどこに行くって言うの?」
質問の多さにため息をつきながら、匠はソファに座り込んだ。そうして、克彦が書いていたデッサンを手に取ろうとすると、すぐに克彦がそれを横から掠め取った。
「ただのいたずら書きだ。見られるものじゃない」
そう言うと克彦はその紙をゴミ箱に捨ててから、キッチンへと戻った。それから、コーヒーでいい? と聞く。
「……いらない。なんなんだよ、別にいたずら書きなら見てもいいだろ。俺がここからアイデア盗むとでも思ったわけ?」
「そうは思っていない。ただ、あんないたずら書きでも、見れば仕事の話になるだろう?」
それが嫌だったんだ、と克彦が眉を下げる。けれど先の詰問でイライラが溜まっていた匠は、考えることなく言葉を発した。
「克彦がそうやって規制すんなら、俺も克彦に規制していいよな? 金輪際、俺を質問責めにするな。正直、疲れるんだよ」
匠はそう言うと大きくため息を吐いてから立ち上がった。キッチンに立ち尽くしている克彦をじっと見つめると、その顔が少し寂しそうに歪んだ。匠の心もちくりと痛む。
けれど、自分の全てを知りたがる克彦と、会社では冷たい態度の克彦、その温度差に翻弄されるのは、正直疲れたのだ。
克彦が全然わからない。
「質問責めって……いつ?」
「今! 今しただろ? 誰とどこに行っただの、何してただの、そういうのやめてって言ってんの! もう寝る!」
全然わかってないじゃん、と文句を言いながら匠はリビングを後にした。自分の部屋へ入り、ベッドの上にキレイに畳まれているスウェットに着替えるとそのままベッドに潜り込んだ。
すると、ドアの向こうから、ごめん、と声が響いた。匠は頭から布団を被る。
「明日、朝早く出るから……朝飯、テーブルに置いておくから食べてから出て――おやすみ」
克彦はドアの前でそれだけ言うと部屋の前を離れた。おそらくリビングであろうドアが閉まる音がかすかに響く。
少し、言い過ぎたかも知れない――そう思いながらも謝ることもできなくて、匠はぎゅっと瞼を閉じた。
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