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その次の週も、匠は戸建のデザインに没頭した。深夜まで会社で作業し、家に戻っても克彦に構うことなく、ずっと自分の部屋で仕事をしていた。克彦はそれに怒ることもせず、匠のために風呂やご飯の用意をし、普段は分担している洗濯や掃除も全部自分でこなしてくれる。克彦だって、暇ではないはずなのにだ。
「……克彦、これ、そのままでいい?」
提出期限の前日、深夜に戻ってきた匠は、いつものように克彦が作った夕飯を食べた。食卓の椅子から立ち上がった匠は、その食器の片付けをする時間も惜しくて、リビングで資料を読んでいた克彦に言うと、いいよ、という言葉が返る。
「片づけなら私がするから……頑張れよ」
「うん。大体いいと思うんだ……見る?」
デザインはほとんど完成している。あとは、細かなミスがないかをチェックすればいいだけになっている。だから、できれば克彦に見てもらいたかった。せっかく一緒に住んでいるのだし、克彦から見て、どこか直すべきところがあれば教えてもらいたいと思ったのだ。けれど、克彦はゆっくりと首を振った。
「いいや。明日の楽しみにしておくよ」
「そう……わかった。じゃあ……おやすみ」
「うん、ゆっくり休みなさい」
優しい言葉に見送られ、匠はリビングを後にする。本当は、少し期待していた。初めての大きな仕事だ、克彦がくれた仕事でもあるし、ちょっとは気にしてくれていると思っていたのだ。けれど、やっぱり家では仕事の話をしてくれないようだ。
一緒に暮らし始めてから、そのことはすぐにわかった。克彦自身からも、家では恋人でいたいという言葉を聞いていたのでそんなものかと思っていた。けれど、それがあまりに徹底しているので、時々匠は寂しさを感じていた。もちろん、ずるい気持ちもあって、有名デザイナーである克彦が家に居るのに、アドバイスくらいしてくれてもいいのではないかなんて思ったりもしたのだが、克彦は一切そんなことを許さなかった。
「……ホントに好きなのかな、俺のこと……」
大事にされているのはわかるが、クールに仕事とプライベートを分けて対処されると、そんなことも思いたくなる。やっぱり愛情なんかなくて、責任感から匠を傍においているのではないか――そんな思いが強くなってしまう。
匠は小さくため息をついてから、自分の力でやるしかないのだと思い、部屋へと戻った。
「……克彦、これ、そのままでいい?」
提出期限の前日、深夜に戻ってきた匠は、いつものように克彦が作った夕飯を食べた。食卓の椅子から立ち上がった匠は、その食器の片付けをする時間も惜しくて、リビングで資料を読んでいた克彦に言うと、いいよ、という言葉が返る。
「片づけなら私がするから……頑張れよ」
「うん。大体いいと思うんだ……見る?」
デザインはほとんど完成している。あとは、細かなミスがないかをチェックすればいいだけになっている。だから、できれば克彦に見てもらいたかった。せっかく一緒に住んでいるのだし、克彦から見て、どこか直すべきところがあれば教えてもらいたいと思ったのだ。けれど、克彦はゆっくりと首を振った。
「いいや。明日の楽しみにしておくよ」
「そう……わかった。じゃあ……おやすみ」
「うん、ゆっくり休みなさい」
優しい言葉に見送られ、匠はリビングを後にする。本当は、少し期待していた。初めての大きな仕事だ、克彦がくれた仕事でもあるし、ちょっとは気にしてくれていると思っていたのだ。けれど、やっぱり家では仕事の話をしてくれないようだ。
一緒に暮らし始めてから、そのことはすぐにわかった。克彦自身からも、家では恋人でいたいという言葉を聞いていたのでそんなものかと思っていた。けれど、それがあまりに徹底しているので、時々匠は寂しさを感じていた。もちろん、ずるい気持ちもあって、有名デザイナーである克彦が家に居るのに、アドバイスくらいしてくれてもいいのではないかなんて思ったりもしたのだが、克彦は一切そんなことを許さなかった。
「……ホントに好きなのかな、俺のこと……」
大事にされているのはわかるが、クールに仕事とプライベートを分けて対処されると、そんなことも思いたくなる。やっぱり愛情なんかなくて、責任感から匠を傍においているのではないか――そんな思いが強くなってしまう。
匠は小さくため息をついてから、自分の力でやるしかないのだと思い、部屋へと戻った。
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